幻想種
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※別段戻さなかったからといって話に影響がある訳ではありません。ですので、各自の判断で行ってください。
唐突に発せられる幻想種の殺気。
今までになく純粋で全力の殺気。当てられた者は本能的かつ反射的に体をピタリと静止させ、瞬きや呼吸、そして心拍でさえも意識して気を使ってしまう。
気絶も失禁も絶叫も許されるはずが無い。
今この場に立つのは、正真正銘世界最高の生物、幻想種そのものなのだから。
「姿を表せよ異端審問官。悪いが、ポーションの作用も相まって手厚くもてなす余裕はないぞ」
先程とは打って変わって鋭い口調で放たれたその言葉を聞き、一人の神官が姿を表す。
身長は男と同じくらいだろう。金色の髪を短く切りそろえており、目の堀が深く体つきのたくましい20代後半程の男。
右手にはメイスが握られており、感じられる魔力は勇者と比べると見劣りはするものの、相当なものである。
「おぉ怖い怖い。そう怒るなよ、俺とアンタの中だろう?」
「……その目、やはりエイノアの物だろう?何故お前が保持している?」
周囲に放射されていたありえない程の量の魔力が、徐々に神官へと収束していく。
'化け物'の眉間にはシワがより、憤慨を明らかにしたその声はいつものモノとは全く異なっている様に思える。
「う”っ……く、苦しいんだけど…」
「質問に答えろ。人の子、お主は何故なにゆえその目を保持する。まさか、エイノアをその身で虐げていたとは言うまいな…!?」
魔力による圧が一層強くなる。
苦しさ故にか神官の頭は赤く染まり、呼吸も『ひゅー…ひゅー…』と苦しそうなものになっている。
「おち……つぇ”………こ…たえ…るかあ”……!!」
言うことを聞かない体を必死に動かし発した神官の説得に応え、魔力圧が一気に解ける。
「がはぁ”っ……あ”っ!!……し、死ぬかと思ったわ……」
「拘束は解いた。はよう答えるが良い」
「…あんたそれ、元の意識はあんのか?」
「死にたくばそう言え」
化け物はふっと尾を神官に向ける。
「まったまった!わぁーった、答えるから!
はぁ……まったく。俺はアンタに感謝はされどこんな仕打ち受ける覚えは無いんだぜ?
この目はな。1'2ヶ月前くらいに法王からの命令でとある山に赴いた時に拾ったんだ。
知ってるか?そん時にな、自分のテリトリーから出てこないはずの幻想種が動いたんだよ。ありゃあ龍だったな。いやはや恐ろしかったよ。
って、そう怖い顔しなさんな、ちゃんと話すから。な?」
殺されかけてもなを態度を崩さない神官に、化け物は思わず顔をこわばらせた。
「んでよ、異例の事態にパニックを起こしたのかは知らねぇけど、そん時には俺以外にもやべぇ神官がいっぱいいてよぉ。俺も幻想種が動いたなんて面白い事見逃せねえからちゃんと龍の進行方向で待機してたんだけどな。
ソイツ、とある山で止まったんだよ。何処だったかは知らねぇ。俺地理苦手だからな。
まぁそりゃ置いといて、いきなりピタッと止まった龍はその山にいる生物を根絶やしにしたんだよ。
人も動物も魔物も、逃げる奴も必要に狙って殺していたよ。
そんで満足したのかふと攻撃をやめて、突然地面に噛み付いたと思ったら、どっか飛んで行ったんだよ。
山に入ったら殺されそうだったんで、遠くから見ただけだから確実じゃあねぇかも知れねぇけどな。
龍の報告は誰かがすんだろうって思って俺は山の調査をし始めたんだが、そこでたった一人生き残りを見つけた。
びびったよ、外傷は酷かったけど龍の攻撃を耐えて生き残りやがったんだからな。
貴重な情報源だし殺すわけにゃいかないからすぐに治療したんだが……何とそいつ、結構前にやべぇ奴が探していた女に似ていたんだよ。
最初は気の所為だと思ったがどうも胸騒ぎがしやがる、だから一応ソイツの存在を隠匿して奴隷商に流したんだが…。
ちゃんと受け取ったみたいだな。
あぁそうそう。右目はそん時にお土産としてもらっといた。
因みにアンタが気づいているから言っておくが、この話の一部には嘘が含まれている。まぁでも、アンタに不利になるようなことじゃねぇし、やましい事を隠しているわけでもない。教会に身を置く者として、隠さなきゃいけない事で嘘をついただけだ」
男は少し考えた後また柔らかい口調で言葉を紡ぐ。
「奴隷商は、『以前の持ち主が白銀の髪を持っていたと証言した』と言っていたが?」
「髪は殆ど再生できなかったけど、治癒した感じだと髪の毛の色はアンタの言っていた白銀に近いなって思ったからテキトーに奴隷商に言っただけだよ」
「…お前がそんな事までわかるとは思えないが…」
「いやいや、腐ってもこれを専門にした魔法使いだからな?俺」
男は暫く新刊の事をじっと見つめた後、「はぁぁ…」と溜息をつき口を開いた。
「……そっか、わかった。じゃあ、当時のエイノアの持ち主について知っていることはあるかい?」
「無い。因みにその山の持ち主は死んだよ。龍に殺された。人が出入りした形跡等全て教会が調べていたけど、鉱石の発掘や運搬等も一人の貴族が主導でやっていたみたいで、災害に巻き込まれなかった奴を調べてみても誰一人発見できなかったらしいから、全員龍に殺されたんだと思うぞ」
「その貴族の名は?」
「覚えてねぇよそんな事」
男はまた何かを考え込む。
程なくして、突然'神官の顔の一部が消し飛び'、少なくとも右目が完全に消失した。
「エイノアを助けてくれてありがとう。ごめんね、手荒い事をしてしまって。エイノアの目は3つも要らないからさ」
「いってぇじゃねぇか……!」
そう声を荒らげつつ顔を魔力を集中させ、その言葉の終わりには顔が完全に修復されていた。
顔を治しても目を奪われたことに憤慨し、神官は眉にシワを寄せ魔力を高め、すぐにでも戦闘に移りそうな雰囲気を漂わせる。
「お礼とお詫びはするよ。……ブライドさんの居場所でどうかな?」
それを聞いた神官は、みるみるうちに顔色が良くなり、
「マジ!?いいねぇ!全然許すよそれなら!」
情緒を疑いたくなるほど簡単に男を許した。
「そうかい?良かった。じゃあ今度うちの店によっておくれ、その時に所在を書いた紙を渡してあげよう」
「今じゃ駄目なのか?」
「紙に書くのは面倒だし、口に出すのは気が引けるからね」
「そうか…まぁ、いいか。そのかわりちゃんと教えてくれよ」
「ああ、勿論。それと」
男は神官に近づき耳打ちをする。
「おいおい、また人探しかよ」
「エイノア探しよりは簡単そうだろう?」
「いやいや、それこそ専門の奴にやらせろよ」
「でも、神官ならどこに行っても怪しまれる事が無いし、割とどこにでも簡単に潜入できるだろう?」
「……仕方ねぇなぁ。積極的に探しはしねぇけど、偶然見つかったら報告の一つはしてやるよ」
神官は溜息を付きながらも承諾する。
だが、それを見た男の顔には依然として笑顔が戻ることがない。
「そっか。ありがとう。…あ、それと。すぐにうちの店に来るのはいいけど、ブライドさんの所にすぐに行くのはオススメしないよ」
「なんで?」
「マルブさんがどっか行ったでしょう?あの二人が接触してたら、ろくなことにならないと思わないかい?」
「確かに。分かった、考えとくよ。…それでなんだが、お前さんの馬車をぶっ壊しちまったからな。こっちに来な、俺達が使ってる物をくれてやるよ」
「おや?良いのかい?」
「ああ、どうせろくなもん乗せてなかったしな。その代わり、眠らせた騎士達を起こしてくれないか?」
男はその言葉にすぐに返事せず、目を閉じ、深く思考をする。
「…悪いけど、それは断らせてもらうよ。最初殺しはしなかったけど、やっぱり彼等には見せしめに死んでもらう。ほら、彼等は勇者でも無ければ作られた英雄でも無いだろう?そこらに転がる有象無象なら、死んだところでそう深刻な問題にならなさそうだからね」
神官はその言葉を聞いてハッとし、ようやく気づく。男の変化は、体だけではない事に。
「お前…!……俺はそれなりに人体に関わる魔法を使う、それに巫女達から色んな情報を貰っているからわかるが…お前のその体はポーションによって作り変えられたものだろう?」
「ははは。まぁ流石に気づくよね」
「……アンタの精神状態はその嬢ちゃんのお陰でそれなりに人に近づいたと聞いていたが……体を作り変えるポーション、それが事前に設定していたモノへと変貌する物であれば…アンタ、嬢ちゃんのお陰で手に入れた感性も失ってんじゃねぇのか?」
神官は警戒心を明らかにし魔力を再度極限まで高め認識を改める。
先程までは'エイノアの師匠'を相手している気だったが、今目の前にいる男は正真正銘、'調合師アズリー'である。と。
「でもそれだと、俺がエイノアを買った時の事を言えないはずだろう?」
「ああ、普通ならな。でもアンタはさっき、服用量がすくねぇから体の再構成が不完全だったと言っていただろう?なら記憶があってもおかしくねぇ。だが、アンタが新しく手にした感性は別だ。こっちは誰と戦う時も確実に邪魔になる。だからこそポーションが優先的に消した可能性もあるだろ」
「じゃあ君に怒った理由は?」
「そりゃ嬢ちゃんの目を俺が持っていたからキレたんだろう?長い間探していたみたいだし、思い入れは以前からあったはずだ。最近手にした感性じゃねぇだろ」
「…………」
男は何も言い返すことができずに黙り込む。
やがて、愉快そうに声を上げた。
「ははっ……っはははははは。感がいいねぇ。でもだからどうしたと言うんだい?君を殺すつもりはないんだし、君が俺を警戒する理由もない筈だろう?」
「あるんだよ…!アンタの精神状態の事は教会でも大きく取り上げられ、議論されていた。その結果、俺が与えられた任務は'アンタの積極的な討伐'じゃなく、俺の独断と偏見で、戦闘時のアンタの思考が以前のものと変わらない、もしくはアンタの思考に人類の排泄が含まれていると判断した場合のみの討伐だ。
勇者に何故か優しさを見せたから騙されちまったが…アンタの考え方が元に戻っちまったって言うんなら、人類存続の為にここでアンタを討伐する…!!」
「君が、俺を?」
愉快そうに神官に問いかける。
「無理だろうな。だが、装備をつけておらず奥の手すら不完全な状態の今が、アンタを倒すまたとない好機であるのも事実だろう?」
「そうかもね。まぁでも、一応言っておこうか。思考を元に戻す事なんて造作もないし、元からそうするつもりだよ?」
「…………」
先程とは対照的に、今度は神官が黙り込み、また考える。
(教会への連絡は済ませてある。ならば他の神官が到着するまで時間稼ぎをするべきなんだろう…。だが、そもそも戦闘となれば俺が生き残れる可能性なんてあるかどうかも分からない微かなもの。嫁も子供もいるんだ、正直、ここはコイツの言葉を信じて見逃してぇ)
そう思考する神官を気にも止めず、'数人の騎士が男に斬りかかった'。
「なっ?!」
神官が声を出し止めようとするが、そんな暇はなく突撃した騎士が吹き飛ばされる。
「何をしている!一時停戦だ!」
『このまま戦闘になっては堪らない』と神官は必死に騎士に呼びかけるが全く返事をしない。
「狼狽えるな!対アズリー陣形第3を崩さず冷静に対処しろ!…神官!勇者様はどうなった!」
「んなこたぁいいからとっととコイツ等を止めろ!!」
「何を言う!我等が命はヤツの討伐!貴方もそう魔力を高めているのだ!魔法は使えないだろうができる限り支援してくれ!」
「いや_」
「いくぞ化け物!!」
神官の言葉は届かず、指揮権を持っていそうな騎士までも男に突撃していった。
「流石に、オラクルさんの装備は硬いなぁ……」
「応用だ!ヤツの手数は6!それ以上で取りかかれ!火葬隊は念の為奴の馬車に火をつけろ!ポーションを使われては厄介だ!」
『はっ!』
「荷物を燃やすのはよして……っ?!さっきは簡単に通った装甲の隙間も魔力でコーティングされてるから針が通らないのか…!」
馬車に近づく者を尾で襲うが針が通らず、力も受け流されるため吹き飛ばすことすらできない。
ならば絞め殺そうともう一度火葬隊と呼ばれた者達へ尾を伸ばそうとするが、今度は他の騎士達に阻止される。
尾の一本を二人でマークして、更に本体を3人で攻撃する。
後も密集すれば動きにくい筈だが、そんな素振り一切見せず見事な連携をする騎士に、男は徐々に対応が追いつかなくなる。
「くたばれ化け物が!!!」
「っ!良い連携だね」
一つ、また一つと男に微かな傷がつけられていき、騎士団は統率の取れた見事な陣形で男を追い詰めていく。
勇者との一戦では殆ど動くことの無かった男が、積極的に移動して応戦している。
純粋な身体能力では大人と子供程度の差では無いものの、ポーションの服用が不完全且つ最高峰の武具を纏った最優の騎士達相手には分が悪そうだ。
四方八方上下左右、ありとあらゆる角度から精密な連携のもと繰り出される攻撃を、尾で叩き、巻き取り、吹き飛ばした者をぶつけ応戦していたが……
腕に抱えた女を庇いながらでは直ぐにがたが来た。
スパッ……!!
遂に右手の手首、そして左腕の二の腕を半ばから切断される。
右手首の切断の巻き添えで女の胸の辺りが中指程の深さ切られ、支えをなくした女はその場に落ちた。
(これは…もしかしていけるのか!?アイツを倒せるのか!?)
「手は切断した!!これで魔法が使えるぞ!!!」
その言葉に反応する暇もなく騎士達は一斉に補助魔法、攻撃魔法、妨害魔法を発動し男に畳み掛ける。
まず最初に10を超える妨害魔法が男を襲った。もはや男には、人としての感覚すら残されていない。
その一瞬後、爆発魔法で吹き飛ばされ姿勢を崩す。
すぐに対応しようとするも、続く質量増加魔法で地面に叩きつけられ身動きが取れなくなった。
苦しみから漏れる声を上げる男を地面より形成された剣にて心臓を貫ぬき、騎士達は勝ちを確信する。
抵抗が無いなと見るやいなや四人の騎士が一斉に切りかかり四肢を切断し……そして、遂に首が再度切り離された。
「火葬隊!魔法の準備は!」
『完了しています!』
「ならばくれてやれ!今まで人々を虐げてきた逆賊に、聖なる炎の鉄槌を!!!」
『はっ!!!』
(何だこの魔力量!!これが爺さんが言っていた対アズリー用の魔法なのか??!!)
人域を超えたポーションを作り出す化け物。
そのポーションによって苦しめられた者の数は数え切れない程となっている。
一時は名を轟かせていた騎士でさえも奴に殺され、民は不安や悼みや憎悪を抱き。復讐に駆られた者達の尽くを返り討ちにしてきた最悪の化け物。
被害と不満は募る一方。されどもその不死性故に殺すことができなかった絶対的な人類の上位種。
それが漸く…漸く討伐される。
「放てぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
________!!!!!
物凄い爆音と共に辺りに炎が広がる。
全てを飲み込んだ炎は男とその所持品だけを燃やし尽くす。
そしてここに漸く、
人類史における最大の異物の一つが討伐される__
筈だった。
しかし'轟音があたりに響くことがなく'、この場にいたものが考えていた音とは違う音があたりに響いた。
ガシャンッ!!!
複数の金属が落下し、ぶつかり合う様な金属音が辺りに透き通り、神官は驚きつつ音の方を向く。
「……は?」
理解ができなかった。先程まで男と戦ってていた者達が、今さっきまで魔力を練り上げ神々しい炎を作り上げていた者達が、'装備だけを残して一斉に消え去った'のだから。
『なっ??!!』
そう、残された複数名の騎士が一斉に声を上げる。
「狼狽えるな!!今一度奴を__」
混乱した部下達の統率を戻そうと声を上げた指揮官の声が耳をつんざく金属音を堺に途中で途切れた。
そして指揮官の方を見て状況を理解する必要もなくなる言葉が、この場にいる全員に届く。
「うぅん。やっぱり、武器の扱いは下手だな…。一人殺したのはいいけど、同時に武器も駄目になってしまった」
奪った騎士の剣を眺めながら発せられた気の抜けた声から状況を理解する。
「なん、で…」
一人の騎士からポツリと出た純粋な疑問。
惚けるよりも前に戦況を立て直せと言ってくれる者は居らず、この場に居る全員、いや、一級を除いた全員が立ち尽くし行動できずにいた。
「この状況になった原因への問かい?それなら簡単だよ、君達が油断をしたからさ。
俺が苦戦しているように見えたからか、戦況が良い方向に進んでいったからか、'手袋'と俺を切り離したからか、とどめを刺せると確信したからか、理由は何でもいいけどね。君達は油断して装備に回す魔力を疎かにした。
まぁ、単純に装備に回す魔力が追いつかなかったのかもしれないけどね。
何にせよ、装甲の隙間が容易に貫けるようになってくれたおかげで火葬隊って呼ばれてた人達を簡単に殺せたよ。あの人達のせいで……いや、これ以上は口に出さないほうがいいか…」
「…お前が言ったとおり、俺達は手を切断した。なら何故…!また魔法が使えなくなっている?」
その言葉に男は「っははは!」と愉快そうに声を上げた。
「俺は元々君達の魔法を使えないようになんてして無いよ?なのに、手袋を切断したら魔法が使える様になるって、君達が勝手に思い込んだんじゃないか。
あぁいや、そんなことはどうでもいいか。魔法が使えなくなった理由だったね……ま、教えないけど」
「っ!何なんだお前は!!顔色一つ変えず人々を苦しめて!そのくせ自分は何ともないように幸せに暮らして!!お前を討伐しようとした者を尽く殺して!!あまつさえその勇姿を笑うのか!!!『お前等の努力などなんの意味もなかったな』と!!!」
ふざけた男の態度に憤慨し一人の騎士が声を荒げる。
その怒りは尤もなものだったが、その感情を汲み取れるほど、男は人らしい感性を持ち合わせていなかった。
「それを俺に言われても困るよ。確かに俺のポーションで人が苦しんでいるかもしれないけれど、そのポーションを使っているのは君達正常な人類だろう?俺に攻撃してきた人を嘲笑った覚えはないけど、襲われたら自衛するのは普通だし、そもそも努力は君達が評価するものじゃないくて__」
「黙れ!!!」
とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、一人の騎士が無策で突撃する。
それを止めることもなく、また加勢することもなく、周りの者達はただ立ち尽くす。
「感情に身を任せるだなんてね……」
魔法も使えず生身で突っ込んでくる騎士に呆れつつ尾を上げた男を見て、この場に居る誰もが『また一人』と薄情な事を頭に浮かべた。
しかし男は、いきなりハッとした表情を浮かべ、先程上げた尾を殺さない程度の威力を持って振るい騎士を吹き飛ばす。
「罪の無い人を殺すのは良くない…か。今残るのは記憶と言うより記録でしかないものなのに……。良くもまぁ、ここまで毒されたものだね」
誰に言うでもなくポツリと呟きをこぼし、男は再度女を抱き上げる。
一度自らの尾に女を預け、ポケットから取り出したハンカチで女の顔に付いた土を拭う。
少しの間、複雑そうな顔で女の顔を見つめた男は、
「はぁぁ……」と大きな溜息をつき、魔力と殺気を周囲に撒き散らす。
騎士と神官へ、そして、神官の報告を受け駆けつけた茂みに隠れている数人の神官へも向けた殺気。
当てられた者は再度、此処が死地で有ることを自覚する。
「殺しはしない。しかして夢々忘れるな。主等の魔力は既に刻んだ。次は無い。もしその時が来れば…主等の望み通り人類を滅ぼしてくれよう。良いか?言の葉の解釈を間違えるでないぞ?」
返事が許されていないため誰も声を上げることはなく、次の瞬間、生き残った騎士の全員が眠りについた。
殺気をおさめた男は先程の戦闘の余波で更に破壊され燃やされ、黒焦げになった馬車を一瞥し、目の前の神官に言葉をかける。
「馬車にあった荷物、殆ど燃されちゃったから一度王都に帰ろうと思うんだけど……ちゃんとお金払ってくれるよね?」
「お、おお」
唐突に声をかけられた神官は、顔を伝う大量の汗を拭きながらかろうじてそう答えた。
❛
「_____。俺からの報告は以上です」
事の顛末、俺から見たアズリーの内心面の報告をし終え、目の前で椅子に腰掛けてている御老体の反応を伺う。
はぁ…俺この爺さん苦手なんだよなぁ。
帰りてぇ〜。そもそもこの任務を受けたのが間違いだったな。テキトーな理由つけてパスすりゃ良かった……危うく死にかけたわ。
……いやでも、ここらで奴等の内一人でも消して実績を積まないと、そろそろ本当に人類の居場所が無くなりそうなのも事実か。
「はぁぁ……」
御老体が思い溜息をつく。
悩んだ結果出たのが溜息となると、正直こちらが不安になる。
不可抗力とはいえ、こんな結果任務の放棄と見られてもおかしくはないため、最悪、重い処罰がくだされる可能性もある。
「お前は幻想種をその目で見た事があったな。それと比較してどうであった?」
「そう、ですね…。力のスケールが大きすぎて測れないと言う事を前提にした見解ですが……少なくとも、あの幻想種程の力を有している様には見えませんでした。本人も身体の再構成が不完全だったと言っていましたし」
「そうか」
「だからこそ。奴のポーションを殆ど破壊できていて、奥の手が不完全な状態の今こそが、奴を打ち取る最大の好機なのではないでしょうか」
こんな事を言えば討伐隊にまた選ばれそうだが……やっぱり、アイツは存在しないほうが良い。息子が大きくなる前に、アイツという不安の種は潰しておくべきだ。
「いや、やめた方が良いだろう。この後すぐに奴を殺しに行ったところで鍛冶師オラクルと接触されては分が悪くなる、あの鍛冶師は自分のテリトリーから出ようとしないからな。事前に動かしておく事も無理だろう」
「では奴が王都の外に出てからはどうです?先程は失敗しましたが、次こそは、総戦力を投入して戦いに臨めば勝利する事もできるのでは?」
「魔力吸収の謎すら解明できていないのにか?それに、忘れたのか?一級に指定される本当の理由を」
教会の外には出ない本当の理由、本当の神託。
「忘れる筈がありません」
「そうか。…感情的になるな。我等にそれは許されない」
「申し訳ございませんでした」
「よい。そしてもう下がるが良い。暫くは休暇としてやる、家族に顔を合わせると良い」
「はい。では、失礼します」
最大限の礼を尽くし部屋から退席する。
はぁぁ……。随分と弱腰じゃねぇの。アンタ等が化け物達相手にそんなんだと、こっちが不安になってくるよ。
俺等人類は、所詮奴等に生かされているだけなんだってな。
「はぁぁ……」
って、何考えてんだ俺らしくも無い。
そんなつまんねぇ事より、今はガキどもの笑顔と家に帰って嫁のおっぱいにダイブすることだけを考えよう。
❜
イーディン(神官)
「はぁあ、ガキどもに何か土産でも買ってってやるかな?……ん?何だこの紙、えー何々?『この言葉を復唱すれば子供がすくすく育ちます』?…バッカみてぇ、って言いてぇけど、あんなことがあった後だとなぁ…。
ん”んぅ…。
最後まで読んでいただきありがとうございます(棒)
良かったら感想、ブックマーク、評価等よろしくおねがいします(棒)
それでは、またのご来店を心よりお待ち申し上げております(棒)
…はぁぁ……。何やってんだ俺」
【小話】
イーディン(神官)
「……なぁ」
エジィリィ
「なんだい?」
イーディン
「アンタが目の事でキレてた時とか、口調が明らかに変わってたけど、あん時にお前の自我はあったのか?」
エジィリィ
「あるよ。ただ、どうして口調がかわったのかはわからないかな。検討は付いてるけどね」
イーディン
「何だよ、教えてくんねぇのかよ」
エジィリィ
「ほら、憶測でモノを語るのは褒められた事じゃないだろう?」
イーディン
「あーはいはい。まぁどうせ、教会のジジババ共が考察すんだろ。俺はそれを聞かせてもらって満足するよ」




