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不老のクズポーション

二級指定要注意人物、鍛冶師オラクルのお話から始まります。




「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい!おじぃちゃん!頑張ってね!後おみやげ待ってるから!」

「こーら、イスズ。行ってらっしゃい。お義父さん」

「…親父、帰ったら_」

「わぁっとるわ。こんな時くらいその事忘れて笑顔で見送れってんだ」


息子の辛気臭い顔には本当にうんざりする。


「…ごめん、行ってらっしゃい。父さんの剣だったら王様も認めてくれるって信じてる」

「あったりまえだ、俺が居ない間頼んだぞ」

「ああ」

「行ってらっしゃい!!」

「おう!土産楽しみにしとけ!イスズ!」

「うん!」


バカ息子に良くできた息子の嫁さん、そして目に入れても痛くねぇだろう最愛の孫娘。

3人に見送られ、俺は王都に出かけた。




「……ははっ流石に賑わってんなぁ」


王都は俺の予想以上に賑わっている。いい匂いもあちこちから漂ってくるし美人も多い。


 いいねぇ。若けりゃ家を出て王都に住むんだが。


がしかし、今はでっけぇ店を構えて孫もいる身、そんな勝手はできねぇ。



一泊して次の日に遣いに案内されて王城の敷地内まで来た。


でけぇ庭に何人もの商人が待機している。

みな、俺と同じように軍のお偉いさんに呼ばれて、その腕を披露しに来てんだろう。


一人、また一人と各々自分の自慢の一品を披露していく。


 剣やら魔道具やら弓やら小道具やら、どいつもおもしれぇもん披露しやがる。

 だが、逸品としてのできなら俺のが数段上だ。


そんな自信が身についているが、そんな中馴染みの男がチラと視界に写った。

アズリー。エスメアの弟子、最近はいつも胡散臭い笑顔を浮かべやがっている調合師。


 およそ人としての感性は持っちゃいなかったが、ガキっぽい昔の性格の方がおらぁ良かったな。


そうこうしている内に俺の出番が来た。

披露するのは俺が1から鍛え上げた極限の(つるぎ)、一切混じりもんがない藍色の刀身から俺はコイツを『天蓋』と名付けた。

俺の名前もいれんなら『天蓋=オラクル』だ。継承した名ではあるがちと気恥ずかしい気もするな。


んな事を考えながら鞘から剣を抜き、一切力を入れずに手首の動きだけで用意された鎧を両断する。


『おぉ…!!』


審査員達から感嘆の声が上がる。


「どうだ?魔力強化やらなんやらを疑ってんなら使ってみてくんな。その代わり、俺の剣以外使えない体になっちまうだろうかな」

「ほう?なら、試させてもらおうか」


そう言って、出てきた審査員がさっきよりも明らかに魔力が感じられる鎧にむかい水平に剣を振るう。


「これは……すまんが、もう数日王都にとどまっることは可能かね?」

「勿論だ。ただあんまり待たせてくれんなよ、可愛い孫が土産を楽しみにしてんだ」

「約束しよう。もう一度呼び出した時にこの剣も持ってきてくれ。後、その時には王も(まみ)えるだろうから、正装できてくれ」

「剣の方は了解したが、俺の正装つったらこれだ。わりぃがこれ以上のもんはねぇよ」

「そうか。ならばそれでもいい」



 さて、本番はまた今度ってことらしいんで、帰るとき買ってく土産でも見繕おうかね。


そう思い、王城から出た俺は商店街の方へ足を勧めた。

しかし実際にゃ、出店の品ん中の面白そうな品の話をあちこちの店の店員に聞いてたら日が暮れちまって、結局決まらずに飯を食いに行くことにした。


冒険者のにぃちゃん達の話聞きながら美味い飯たらふく食って腹が膨れたところで、いい気分になり店を出た。

空を仰げば月が真上にありやがる。


 酒は飲んでいねぇが、長居しすぎたかね?


ちょいと反省しつつ宿へ向かう。

その途中、怪しい男に声をかけられた。


「お前、鍛冶師オラクルだな」

「ああん?確かに俺はオラクルっつうが、お前さんは何もんだい?」


いい気分に水を指してきやがる。

なんて呑気に考えていたら、とんでもねぇ事を言い出してきた。


「お前の孫は預かった。みっ_」


スパッ_

男が言葉を言い終える前に右腕を切り飛ばす。

片腕を無くした男はその場に倒れ込んだ。


「お前…!今なんつった…!?」


怒りを必死に抑えて声を出す。

手が先に出ちまったがそういう性格だからしょうがねぇ。


「おい…!もう一度_」

「息してませんよ?」


意表を突いてきた声にバッと顔をあげる。


「なっ!?アズリー、てめぇ…ここで何していやがる…!」


 まさかコイツが関わっていやがんのか!?だが何故だ?まさか俺の剣に興味ができたってわけでもねぇだろう。


「王城で束縛されてたんですが、やっと開放されまして。その帰りですよ。ほら、オラクルさん俺が教えた宿使ってるでしょう?」

「コイツとは関わりねぇんだろうな」

「勿論。流石に貴方を敵に回したくはありませんよ」


顔に若干の焦りが見える。が、嘘では無さそうだ。

いや、そんな事より。


「ちっ!腕切り飛ばされたくらいで自決してんじゃねぇよ」

「まだ死んで間も無いですし、蘇生できるか試してみます?」


その言葉に何も言わずに頷く。

アズリーは腰から数本ポーションを出して男にかける。

すると直ぐに男は目を開いた。しかし目の焦点は合っていないようだ。


「がっ!かはっ!!……あ、れ…俺…」


 (!!)本当に生き返りやがったのか!?おいおい、マジでエスメアを超したのか!?


「どうも、貴方オラクルさんに何したんですか?」

「オラ、クル。あぁ、ああはは。アイツの、家族は…さらった……!朽ちた遺跡で…三日後に、全員、死ぬぅ。ははは、我が国に、栄光、あ”れ!くはははぁ…」

「ああ、また死んじゃいました。完全な蘇生には少々ポーションが足りませんでしたね」

「……三日後、つったか?」

「ええ。ついでに我が国と言っていましたが、この国の人じゃ無いんでしょうか?」


 三日だと?ここからだとどれだけ急いでバーガン走らせても間に合うかどうか…。

 いや、意地でも間に合わせるが、確実に間に合わせんなら…。


「アズリー。ポーションを売ってくれ」

「……やめたほうがいいですよ。俺が今持ってる物でお眼鏡に叶う物と言ったら、不完全な不老のポーションだけです。これ、飲んだら死ぬまで永遠に苦痛と一緒に生活することになりますよ?」

「構わない。他に手がないんだろう?」

「一時の_」

「いいから!!俺にそいつを売ってくれ…」


まどろっこしいアズリーの言葉に焦りから声を上げちまう。

俺の身をあんじているのは分かるが、俺の体より大切なもんがあるんだから今それを考えてる暇はねぇ。


「どうぞ、お代は結構です。ただ一つ、今のオラクルさんの外見は相当若返っています。それを念頭に置いて行動してください」

「わかった」

「では、お気を確かに」

「ありがとよ」


渡されたポーションを一気に飲み干す。

すると直ぐに、全身が味わったことの無いような苦痛に満たされる。


声を上げそうになるのを必死に堪え………気が遠くなるような時が経った頃。漸く痛みから開放された。

体の調子は好調。年々痛みを感じてきた足腰や肩も全く違和感がない。


 肉体だけじゃねぇ。細かい魔力操作技術にゃ長けてきたが、対照に魔力出力は落ちてきた…だがこりゃ、技量はそのままに若い時のように魔力を扱えるな。


それはもう、生まれ変わったようだった。

確かに、この体なら死ぬ気で走れば確実に間に合うだろう。


「すぅぅぅ……ふぅぅぅ……」


短い深呼吸の後、体内の魔力かき集め循環させ身体能力を大幅に向上させる。


「後これもどうぞ、王都の壁くらいは飛び越えられるようになりますよ」

「おう」


渡された赤いポーションを飲み干し駆け出す。

まだ月は高くそれ程時間も経っていないはず。間に合うかどうかはアイツ次第だが…


「信じるしかねぇ…!」


アイツのポーションの力を。




野原を駆け抜け緑地を突き進み、山を飛び越え丸一日走り続けた。途中、また壮絶な痛みに苛まれたが歯を食いしばりいてぇ体に鞭打って走り続けた。

そして出発から一日と少し、朽ちた遺跡に到着した。


魔力毒すら無力化されて廃棄された古い遺跡。

荒野に一つポツンと佇むそれの前に立ち、大声でクズどもを呼ぶ。


「鍛冶師オラクルが来たぞ!!俺の家族は無事なんだろうな!!!」


殺気とともに放たれた俺の言葉の後、一刻程置いて黒いフード付きのマントと白い下面を身に纏った男が遺跡から出てきた。


「そんな嘘に騙されるとでも?貴方、誰ですか?」

「二級指定要注意人物、調合師アズリーのポーションで姿は変わっているが、確かに俺がオラクルだ」

「……ならばその証明をして見せてください」


 証明……?いいぜ?脅しも兼ねてあれをやってやろうじゃねぇの。


右手を親指が下になるなる様に振り上げる。


「『神託は下った』」


右手に柄頭の先から徐々に剣が創造されていく


「『我 オラクルの名を継ぐ者』」


握り、そして鍔


「『天上に座する神の命により』」


最後に剣身


「『ここに新たな神話を創造す』」  


現れたのは純白の神剣(・・)

俺の魔法で創られた正真正銘の神話。


それを上から下へ軽く振り下ろし、音も無く大地に亀裂をつくる。


「っ!?」

「これでどうだ?」

「……確かに、その圧倒される様な魔力、それにこの現状。聖剣であることは違いなさそうですね」

「そうかい。なら要件を言いな、そして俺の家族を解放しろ」

「いやいや、今解放したら我々が殺されてしまうでは無いですか。解放はまだ少し待っていただきたい」

「なら見せるだけでいい、今ちゃんと無事な証拠を見せろ。それと、孫は国境超えができねぇ。孫だけでも返してくれ。…先に言っとくが、無事に帰って来なかったら…殺すぞ」


殺気全開で脅しをかける。

しかし、目の前の男は一切動揺した様子も無く口調を変えずにケロッと言葉を返してくる。


「ええ勿論。ですがまずその剣をしまってください」


言われるがまま神剣を魔力に戻す。


「お前達!人質を連れてこい!」


その言葉を聞き、数人の男が俺の家族を連れてきた。

皆布で喋れなくされているが外傷はないように見える。が、イスズの目は充血している。


「話をさせろ」

「お断りします。おい、娘だけを解放ろ」

「てめぇ…!」

「そんな殺気を当てないでください。部下が勝手に貴方の息子さんを殺してしまいますよ?」

「ちっ…!!」「おじぃちゃん!!」


トンッと、俺に抱きついてきたイスズの頭を撫でてやる。


「ごわがっだよぉぉぉ!!!」


そう言って泣き出すイスズの頭を、俺はただただ撫でることしかできなかった。


「ではこちらの要件を言いましょう。要件としては簡単なことです。一ヶ月に一度、使者を送りますのでその者に貴方の至高の逸品を渡してください。それが12回完遂された後、この国の何処かにお二人を解放しますので、13度目にどこに開放したのかの情報と交換しましょう」

「俺に一年待てと?」

「ええ。ですがそれでお二人の命が救われるのです。悪くないでしょう?」


 悪いに決まってんだろう!!

 だが…ちくしょう!あいつらに呪いがかけられている可能性がある以上下手に手を出せねぇ…!!!


「それでは」

「おい待て!」


そう叫んだが、次の瞬間には奴等の姿が消えていた。魔力の気配もない。

恐らく、空間魔法の類だろう。


「おじぃちゃん…。とぅさんとかぁさんは?」


イスズが不安そうに、涙でグチャグチャになった顔で聞いてくる。


 俺のせいであいつ等は……。

 俺が、俺が王都になんざ行かなければ…まだ……。


「ごめん……ごめんな…」



………

一年後、息子達が解放されることはなく。息子と娘の髪だけが送られて来た。


「殺す…!アイツら絶対に!」


右手に魔力を集中さ神剣を創造し、勢いに任せ家を出たところで'俺の意識は現実に戻された。'


飛び起き自分の部屋を認識したところでハッとなる。


「………はぁぁ……。夢ってのは、起きるまで気づけないから質が悪い。……こんな夢を見た日にゃ、厄介な客がやってきそうだな」


片手で目を覆い、そっと言葉を発した。






王都滞在最終日。

今日はいつもの用に遊びに行ったり宿でゆったりしたり、またポーションの勉強をするとこもせず、東第4地区に居る二級指定要注意人物に会いに来た。


ついた先は『天の焔』。鍛冶師オラクルの店だ。

以前は凄くでかい工房付きの店だったけど、とある事件がきっかけで王都に引っ越し、俺の店の様にあまり大きくない店で商売をしている。


「いらっしゃい」

「「こんにちは」」


店に入ると明るい橙の髪をポニーテールにした吊り目の女の子に出迎えられた。この子はオラクルの孫娘…のはず。


顔の特徴は知っているとおりなのだが、身長はエイノアより目に見えて高くスタイルもよく、なんと言っても落ち着いている感じがする。

俺の知ってるやんちゃな女の子とは大分印象が違って見えた。

最後にあったのは確か4年くらい前だったと思うが…数年の内に変わったというより、あの事件がきっかけなんだろうな。


少しの動揺を隠し、俺とエイノアも挨拶を返し用を伝える。


「久しぶり、イスズさん…だよね?オラクルさんは居るかな?」

「久しぶり、アズリーにぃさん。おじぃちゃんは鍛冶場にこもってるけど……結婚の報告でもしに来たの?」

「ははは、違うよ。この子はエイノア、俺の弟子さ」

「始めまして、エイノアです。その、先程師匠を兄さんと呼びましたが、どういうことですか?」

「別に、子供の頃遊んでもらってた時にそう呼んでた名残だけど」

「そう、ですか」


少し素っ気ないイスズの感じに、エイノアは少し萎縮してしまった。


 初対面の人と話す時に素っ気なくなっちゃうのは相変わらずなんだなぁ。


以前と変わらないイスズの性格に何故か少しホッとした。


「おじぃちゃん呼んでくるね」

「うん。お願い」


イスズがカウンターの奥の部屋に行った事で二人きりの空間になる。


「師匠。私がイスズさんに話しかけた時、イスズさんの魔力が凄い乱れて、返事や声色的にもあまり良いではなかったと思うんですが…。怒らせてしまったのでしょうか?」

「違うよ。あの子は昔から初対面の人と喋るのが苦手なんだ。俺も、初めてあった時は声をかけても喋って貰えなかったよ」

「なる程。そういう人もいるんですね」

「うん。十人十色って言葉があるらしいからね。この世界には本当に色んな人がいるよ」

「十人十色…面白い言葉ですね」

「はは。そうだね。色に例える所が、ポーションを思い浮かべちゃうよ」

「ええ、私もです…!」


エイノアに笑顔が戻ったのを見て自然と顔が綻ぶ。

とそこへ、お目当ての人がきた。

上裸にダボダボのズボン。髪色はイスズと同じで、吊り目なのも同じ。身長は俺より高くて、たくましい筋肉に頼もしさを感じる。

しかし、顔や肉体を見るにいっていても40歳といったところ。一見すると、成人した孫を持つには少々早すぎるように見える。


「ようアズリー、久しぶりだな。今日は何の用だ?」

「お久しぶりですオラクルさん。用は2つで、俺の頭の装備を新しく作って欲しいのと、弟子ができたのでこの子用にもう一つこれと同じナイフを作ってもらおうかと」


そう言って腰についた赤と黒のナイフをとりオラクルに見せる。

人の骨でさえ力を入れずに容易く断絶するナイフ。そんな物を作ることができるのは俺が知っている以上この人しかいない。


「…………」

「あ、あの。始めまして、エイノアといいます」


俺の言葉に返事をせずじっとエイノアを見つめたオラクルに、意図が読めず咄嗟に挨拶するエイノア。


「…お前さん。過去に囚われんのは褒められた事じゃねぇぞ」

「ははは。なんの事でしょう」

「…はぁ……まぁいい、俺も人に説教できる立場じゃねぇしな。そのナイフより良いもんあるからそれ買ってけ。お代はそれと同じで良い。装備の方はそのうち取りに来い」

「分かりました、そうさせていてだきます」

「……後悔はすんじゃねぇぞ」

「ええ。オラクルさんはどうですか?」

「してねぇししねぇよ」

「そうですか」


オラクルはそれだけ言ってまた鍛冶場に向かってしまった。


 エイノアの事は一切話していなかったと思うけど…見る人が見れば一目でわかってしまうものなのかぁ…。


「それって何?アレのこと?」


イスズは心当たりがあるようだ。

あの人を知っている者であれば意外とすぐに気づく程の変化とは言えど、いきなりお爺さんが若返ったんだ。一応そこら辺の事情も聞いてるんだろう。


「はは、どうだろうね。オラクルさんはイスズさんに甘いから、しつこく聞けば話してくれるんじゃない?」

「アズリーにぃさんの方も?」

「どうかな?でも、あまり聞いてほしくないかな」

「ふぅーん…」


ふとエイノアを見る。

口には出していないが、先程の会話の事を凄く考えているようだった。

そんなエイノアから視線を移しイスズにお金を渡す。


「はいこれ、おだいね」

「まいど。……ねぇ、相談があるんだけど、聞いてくれる?」


ナイフを渡される時に少し声を抑えてそっと聞いてきた。


「どうしたんだい?」

「私、そろそろ結婚したいんだけどどうすればいいかな?」

「えっ…?」


 結婚…!?早くないか?いや、成人しているんだし早いということはないのかもしれないけど……俺に聞かれても…。


「は、早くないかな?どうしてそう思うんだい?」

「ぃやぁーさ。私前まであんなんだったし、男性経験っていうの?そういうの全く無いんだよね。それでこのままだと、一生彼氏も作れずに死んじゃいそうだなって思ってさ」

「…嘘、ですよね。少なくとも、本心では無いですよね?ごめんなさい。私、空見の魔眼保有者なのでそういうの分かっちゃうんです」


エイノアの言葉を受けイスズが固まってしまった。

でも、嘘なら一体どんな理由が他にあるんだろうか。


「そっか、分かっちゃうんだ…。うん、さっきのは嘘。ほんとはさ……おじぃちゃんが苦しんでるところ見ると私まで辛くなるんだよね。だから、私は大丈夫だよって安心させて、もうポーションの効果とは決別してほしいんだ…。……そうすれば、きっと前みたいに笑ってくれると思うから…」

「ポーション…?」


イスズが辛そうな顔をする。

その下にはもっと様々な感情がひしめき合っているのだろう。


 確かに、身内の人からしたらそういう姿を見るのは辛いのかも知れないな。


「師匠、どういうことですか?」

「安心して、領主の娘さんと同じ系統のポーションってわけじゃないよ」

「ではどうゆう?」

「…エイノア、あまり踏み入っていい話では無いよ」

「にぃさん。…別に話してもいいよ」


 えっ…俺があの話をするのかい?正直あまり知らないのだけれど…。


「…オラクルさんが二級指定要注意人物に指定された時の出来事なんだけどね。イスズさん一家が誘拐されちゃったんだ。それで、誘拐犯に『来い』って指定された場所が指定された時間につくかどうか微妙な距離だったから、オラクルさんにポーションを売ってくれと頼まれてね。不完全な物だったし売りたくは無かったんだけど、押し負けて売ってしまったんだよ。それの副作用みたいなもので、定期的に再誕のポーションの服用時と似た症状がでるんだ。今の俺のポーションであればその症状を打ち消すこともできるんだけど、オラクルさんはそれを拒否するんだよね」


きっと、死なずにイスズを見守りたいのだろう。


「ま、とぉさんとかぁさんは死んじゃったけどね」

「えっ……でも」

「そう、助かったのは私だけ。あの日、国境超えができなかった私だけ返されて、とぉさん達は後日解放されることになったんだけど、結局とぉさん達の髪の毛だけが送られてきたの。この意味、分かる?」

「……分かります」

「そ…」


……

重たい空気の中、無音なの時間が続く。


「昔はさ。漠然とアズリーにぃさんと結婚すればいいかなって思ってたんだよ?」

「……俺じゃあオラクルの名前は継承できないし、君を幸せにすることもできないよ」

「ま、私が居たら邪魔だよね」

「イスズ…!自暴自棄になるのはいけないよ。よく考えて、よく__」

「ふふっ、わかってるよ。にしても、やっと前みたいに呼び捨てで呼んでくれたね」


その言葉に言い返せなくなり口を閉じてしまう。

そこへエイノアが声を上げた。


「あの、オラクルさんの苦痛を消して、イスズさんのご両親がいた時のように心から笑って欲しいということですよね?」

「そう、だけど。ほら、私が結婚すればあの時の状況が再現されるでしょう?」

「それではきっと笑ってくれませんよ。イスズさんの本当の幸せがそこに無いときっと笑ってくれません。ですので、イスズさんのご両親を見つけるのはどうでしょう?」

「……は?」


エイノアは至極真面目にそれを口にする。

何故だかその言葉には僅かながら怒りが感じられるような気がする。


「オラクルさん程ではないとはいえお父さんは素晴らしい武器を作れたのでしょう?二級に指定される程の人の息子さんです、殺してしまうのはあまりに惜しいはずですし、お母さんを殺してしまえばお父さんは剣を作らなくなるでしょうから、お母さんも殺されていないと思います」

「……そうかもしれないけど…!こっちだって漸く踏ん切りつけられたんだ。あんまり勝手なこと言わないでよ…!!」

「イスズさんはご両親が嫌いだったんですか?」

「そんなわけ無いじゃん!」

「なら助けようよ!!」


エイノアが声を荒らげた事に俺とイスズが驚き呆気にとられる。


「私は、幼い頃に親に奴隷として捨てられました。だから顔も名前も覚えてませんが私は親が大っ嫌いです。だからこそ言わせてもらいますが、幸せな家庭を諦めるのなんて、私は絶対許せません…!」


顔を赤くしイスズを説得するエイノアの言葉には、真っ直ぐな強い感情が込められていて…どこか、心を響かせるような力を感じられた。


「でも、手がかりなんてなにもないし……無理だよ…!」


泣きそうな声で諦めを口にする。


「そこは安心してください!なんせ、うちの師匠は一級指定要注意人物の超危険人物の超凄い人です。人探しくらいぱぱっとやってくれますよ」


 ……えっ…?エイノア?得手不得手って言葉知らないのかい?


「……師匠。できますよね?」

「アズリーにぃさん…」


いつの間にか二人に上目遣いで見上げられている。


「で…」


『できるはずが無い』そう口にするはずだった。


「できるよ……。うん、任せてくれ」

「流石師匠!!ほらイスズさん!師匠もこう言ってますし、ここは師匠に託してみませんか!?」

「……うん……うん!お願い…!にぃさん!」


今にも泣きそうなイスズの気持ちを裏切れずできもしない事を口にしてしまう。正直、こういう事はちゃんと本当の事を言った方がいい、そうわかっているのだが…。


 ま、まずい事になった…。これで出来なければ俺はきっと…いや、どうなってしまうんだ?


少なくとも、弟子と妹の様に接して来た女の子に失望される事になるだろう。

ならば…言ってしまったのなら全力でやってみるしかない。


「それじゃあ私達は帰ります。仮初(かりそめ)の幸せなんて考えないで良い報告待っててくださいね!」

「うん…!そうする」


そういって笑い合う二人。


「にぃさん」

「ん、なんだい?」

「その、ありがとう。私ここで待ってるから。とぉさんとかぁさんをよろしくね?」

「……うん。必ず見つけ出す_よっ?」


突然抱き着かれて少し変な声を出してしまった。


「……大好き」


 雰囲気が以前のイスズに似ている気がする…。


ご両親がいなくなり、オラクルに心配をかけまいと一人で苦しんだこともあったのだろう。

そんな事を考えると、今まで感じることの無かった変な感情が湧き出て来て、無意識に彼女の頭を撫でていた。


「じゃあね。オラクルさんによろしく言っておいて」

「うん。またのご来店を心よりお待ち申しあげております…!」


笑顔の彼女に見送られ、俺達は店を出た。

そして扉を締めいざあるき出そうとした時に声をかけられる。


「師匠。出来もしない事を引き受けるのは良くないと思いますよ?」

「えっ!?」


その言葉に思わず足を止めてしまう。


「でも安心してください。イスズさんのご両親が見つかるまで、私がちゃんと支えてあげますから」

「…ははは。エイノア、なんだか最近意地悪になってきた?」

「意地悪したくなる師匠が悪いんですよ」

「横暴だなぁ……」


それ以上言い返す気もおきず歩き出そうとするのと同時に「でも」とエイノアが口を開き俺の腕を抱いた。


「動機は純粋にイスズさんに幸せになって欲しかったのと、師匠のカッコイイ所が見たかっただけなんですよ?」

「…そっか。まぁ、頑張るよ」

「ええ。私がついているんです、大丈夫ですよ」

「エイノアがさっさと一級のポーションを作れるようになれば、人探しに集中できるんだけどなぁ」

「あっ、そういうこと言っちゃうんですか。この前3級の治癒のポーションをやっと…!安定して作れるようになった私に」

「ははは。まぁ、俺がついているんだ、エイノアもすぐに一級を作れるようになるよ」

「どーですかね」

「そこは同調しとこうよ…」



まだ日は高い。さて、午後は何をしようか。





数日前。王城、謁見の間にて、黄金の髪をもつ巫女が王へ新たな神託を告げた。


「神託が下りました」

「内容を申せ」

「『人域 超えし 者 アズリー 勇者 敵意 崩壊 近い 注意 せよ』と」


その言葉を聞いて、その場にいる者全てがざわつき始める。


「騒々しいぞ!静かにせよ!!」


王の一声に皆静まりはしたが皆、内心は気が気でない様子だ。


「ラコロンド、どういうことだ?」

「私には検討も付きません。奴の勇者に対する印象は悪いものではなかったはずですが…」

「ではユキハル。何かあったのか?」


勇者は少し考えた後、口を開く。


「このまえ、アズリーとあいました。その時にレティシエとアズリーの弟子の間に少しいざこざがありました。でも、あの時アズリーは怒ってませんでしたし、多分違う事だと思います」


その言葉にまた周囲の者がざわめきをあげる。

その中で一人、軍の上層に位置する者が王に声をかける。


「王よ、ここは一つ、手遅れになる前に勇者の実力を世に知らしめるというのはいかがでしょう」


その言葉に待ったをかける者もいた。


「お待ち下さい!!」

「ラコロンドか、申してみよ」

「奴はあのマルブの作った化け物を短期間で5体撃破しております。流石に時期尚早ではないでしょうか?」


その言葉に先程の貴族が反応する。


「何をいう。一級と言えど所詮人。不意をついて首を切り落とせばそれで終わりだろう」

「それをやった者がいなかったと?」

「ああ。少なくとも報告は上がっていないな。あの騎士共はどうせ、正々堂々決闘でも申し込んだのだろう?」


馬鹿にしたような口調で喋る貴族の言葉に、元騎士団の副長である女は唇を噛んだ。


「鍛冶師オラクルの装備を使用した特殊部隊はどれ程まで完成した?」

「もう、実戦投入可能でございます」

「そうか。ならばその者達と…協会からもご助力いただけるかな?」

「ええ。ですが今出れるものといえば異端審問官のイーディンしかおりません」

「あの者が来てくれるのであれば心強い。後数人、できるだけ強者を見繕え、そしてこの国から不安の種を一つ消そうではないか」

『おおぉ!!!!』


一級を殺すことができる。総発言した王に貴族達が感嘆の声を上げる。


「ユキハル!やってくれるな?」

「えっ…あの…」

「ユキハルよ。そなたは『民の為に戦うと』そう誓っただろう?」


王がその言葉を口にした瞬間、勇者に大量の魔力が密集した。


「ならば。民の為に、この世界を滅ぼさんとする者を討伐してくれるな?」

「…はい。任せてください」


王の前での誓い。それ即ち、この世界に対する宣言であり、自分を束縛する枷でもある。

この国の勇者は、随分も前に、ただの道具に成り果てていた。


皆の者(みなのもの)よく聞け!ここに!一級指定危険人物、調合師アズリーの討伐を宣言する!!」


わっと上がる歓声に、ただ一人汗を流す貴族がいた。


(どうする!?……王め…!きっとすぐにでも事を起こすつもりだろう。まずいな…アズリー本人への攻撃はどうでもいいがエイノアへ攻撃なぞしようものなら…本格的に『崩壊』へ足を踏み入れる事になる!!今から進言しようにも最早軍部の傀儡と化した王が聞き耳を持つとは思えない。ならば勇者とその他の者にエイノアへの攻撃だけはやらないよう言うしかない。が、下手をすればその言葉が密告されアズリーの肩を持ったとして反逆者になる可能性もある…)


「いっそ…」


(いっそ奴が死ぬ事にかけてみるか……?


 …って、何を馬鹿なことを考えているんだ俺は!奴を殺す!?それを果たすにはどう考えても5年は遅い…!如何に勇者であろうと、きっとアレは殺せない…!ならば…ラフィリアだけでも逃して、逆賊となるのを覚悟するしかない。いや、いっそアズリーにこの事を言うのもありかもしれない)


「ラコロンド。お主は一応館にこもっておれ、そしてあの逆賊共も追い出すのだ。よいな?」

「……了解しました」


(あぁ…こんな神託さえなければ……クソ!これでは…!神託こそが崩壊への火種ではないか!)



エジィリィ

「最後まで読んでいただきありがとうございます」

エイノア

「良かったら感想、ブックマーク、評価等よろしくおねがいします!」

エジィリィ・エイノア

「それでは、またのご来店を心よりお待ち申し上げております!」


エイノア

「イスズさんが言っていた『国境越えができない』って、どういうことですか?」

エジィリィ

「あぁ。稀に大人にもある事なんだけど、特に子供に多い事でね。場所によって自然の魔力の特色とかが異なるこの大陸では、保有魔力が少なかったり弱かったりする者が長い距離移動した時に魔力環境の変化に耐えられず発熱し出して、無理をすると様々な症状が出るんだけど、最悪の場合死に至るから子供のうちはあまり遠出しちゃいけないんだ。

この長い距離の移動を『国境を越える』と言い換えてできた言葉だと思うよ」

エイノア

「なる程、師匠はどうでした?」

エジィリィ

「……俺も、子供の頃は国境超えができなかったよ」


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