プロローグ
幼馴染はいいゾ〜
「大きくなったら、結婚しようね」
「うんっ」
お祭りで買った指輪を、文香の右の薬指に嵌める。
「僕の親みたいに、左の指に嵌めるのは、本当の指輪の時まで、待ってて」
「私、待ってるね」
そしてこれは、いつの日の約束だったか。
懐かしい夢。
小さかった頃、幼馴染の文香と約束した、忘れたくない──忘れられない約束。
幼馴染は、小さい時に結婚の約束をする。それは、俺たちも例に過ぎない。
そしてこの日から、文香と俺との距離が変わるターニングポイント。
☆☆☆☆
海外へ出張したり、会社で寝泊まりなどが多い私こと、皇正宗は、今日も今日とて在宅勤務に明け暮れている。
休日ではあるのだが、仕事が終わらないために仕方なくやっているわけだが、これも妻の妊娠で、気を利かせてくれた上司のおかげだ。
文句は言えない。
そんな時、家のインターホンが鳴った。
「隣に引っ越した湊と申しますー」
「これはこれはどうも。皇と申します」
玄関を開けると、そこには妻くらいの若い女性が立っていた。
「つい先日、こちらに引っ越したばかりで──」
会話を弾ませていると、妻の芳子がやってきた。
「お客さん?」
「ああ。お隣に引っ越して来られた湊さんだ」
「初めまして」
女同士で会話を始め出したので、こちらはやっておかないことをすることに。
そういえば、湊さんのお腹が膨れていたが、妊娠しているんだろうか?
☆☆☆☆
妻の陣痛が始まったと聞いて、仕事を抜けて産婦人科へ。
「ヒィ、ヒィ、ふぅー」
妻のラマーズ法が聞こえる。
看護師に連れられて来たのは、分娩室。
悲痛な叫びが、自分の耳と心を痛めた。
でも、何より辛いのは妻の芳子だ。
「がんばれ……」
ただこんなことしか言えない自分がもどかしい。
「オギャー、オギャー」
何時間経ったのか。
新しい命が産まれた瞬間に立ち会えた。
そして、隣にいる湊さんの家にも、同じ日にお子さんが産まれた。
そしてこの誕生が、新たな物語を紡ぐことになる。
☆☆☆☆
「隣に住む文香ちゃんだ。仲良くするんだぞ」
「うん!」
息子の月兎に言えば、元気な返事が返ってくる。
そして、うちの息子は文香ちゃんの目の前まで近づく。
「こんにちは!」
「あ、あぅ……。こ、こんにち……」
恥ずかしがり屋か、はたまた人見知りなのか。
文香ちゃんは小さな声で何かを喋ろうとしているが、その声が小さすぎて月兎の耳には届かない。
「ねぇパパ、外に出ていい?」
「んー? あー……」
お隣の湊さんからは『コミュニケーション力が低いので、良ければ、月兎くんと遊ばせてもらえませんか?』と言ってたし、大丈夫だろう。
外出についてまでは言ってなかったけど。
「いいよ。行ってらっしゃい」
「うん!」
返事と同時に、月兎は文香ちゃんの手を握った。
「行こ!」
「わ、わわっ……」
困りながらも、文香ちゃんは月兎に引っ張って行かれた。
ただ、困っていただけで、嫌そうな顔はしてなかった。
それに、うちの息子もバカじゃない。
嫌がることはしないだろう。
「……さて、仕事の続きでもするか」
自室に戻り、残りの業務に手を掛けた。
「ただいまー!」
気づけば、空は夕日が沈み、人々の影を伸ばし始めた頃、月兎の声が聞こえてきた。
随分と業務に熱中していたようで、思っていた以上に作業も進んだ。
気分転換も兼ねて、一度切り上げることに。
「おかえり。楽しかったかい?」
「うんっ。」
「そうかい。それは良かった」
うちの息子は誰とでも平等に接するタイプの子だ。
文香ちゃんのような子にも、分け隔てなく接してくれるだろう。
そして、月兎にはそんな大人になってほしい。
「手を洗うんだよ」
「はーい」
洗面所まで歩いて行く息子を見送り、リビングに戻れば、ソファでうたた寝をしている芳子を発見。
テレビの画面が光っているのを見るに、テレビを見ていたら寝てしまったのだろう。
女性は、テレビを見ながら寝るのが得意らしい。
「あれ? ママ、寝てるね」
「そうだね。今からご飯を作るのも大変だし、今日は何かご飯を頼もうか?」
「本当!? なら、僕はハンバーグが食べたい!」
「ハンバーグかぁ。流石に出前でハンバーグは無理じゃないかなぁ」
息子の我儘なので、とりあえず頼んでみることに。
普通に届けてくれるとのことなので、月兎も大いに喜んでくれた。
息子と妻に囲まれたこの生活は、何よりも変え難い日常だ。
ただ、来週から海外に出張しないといけない。
家族サービスができる今のうちに、やっていこうと思う、
その日の夜、月兎に話しかける。
「今日、隣の文香ちゃんと何をして遊んだんだい?」
「最初はね、鬼ごっことかしたんだけど、文香ちゃんって、運動が好きじゃないんだって。だから、あまり動かないかくれんぼとかしてた」
「そうかいそうかい。それはよかった」
自分の得意分野で遊ばず、相手に合わせて遊びを変える。
そんな気遣いができる息子に少し慄きをするが、大事なのはそこじゃない。
「文香ちゃんが困ったり、泣いてたりしたら、助けてあげられるかい?」
無理な強要はしない。
ただ、あくまでうちの子には優しい子に育ってほしい。
これから先、小学生に上がったら、クラスの男の子たちに囃され、文香ちゃんをぞんざいに扱う時が来るだろう。
だから、それはそれでいい。自然の摂理だ。
そんな日が来るまで、大切に接して欲しい。
「うん、助けるよ。何があっても必ず」
「……パパは、来週から遠いところに行ってしまう」
いつ帰って来れるかは分からない。
向こうのトラブル対処に、そこから財政を安定させないといけない。
「いつ帰ってくるの?」
寂しそうに聞いてくる息子を見て、仕事なんか放り投げてしまいそうになるが、心を鬼にしないといけない。
「それは分からないんだ。だから、ここからはパパとの約束をしよう」
「約束?」
「ああ。約束だ」
小指を月兎の間に持ってくる。
「文香ちゃんをこれから先、ちゃんと守る約束だ」
「もちろん、ずっと守っていくから、そんな約束簡単だよ」
そう言いながらも、小指を足せしてくれる息子。
小指と小指を絡ませて、例の言葉を口にする。
「指切りゲンマン」
「嘘ついたら」
「針千本飲ます」
「「指切った!」」
小指同士を離す僕たち。
「安心してよパパ。パパが帰ってくるまで良い子もするし、文香ちゃんも大切にする。寂しいけど、それも我慢するから、パパも頑張って」
笑顔で言う息子。
そんな息子を見て、思わず目頭が熱くなる。
「子供の成長は、早いものだね」
これで、憂いなく海外に行ける。
そうして僕は、愛する妻と息子を残して、海外に飛び立った。
ずっと書きたかった恋愛ジャンル。
始めていきます




