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物足りない人たち  作者: スーザン
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誰の憧れにさまよう

 序盤のやる気は何処に行ってしまったのだろうか。全く予定通りに進まなかった課題とは対照的に、当分の間破り忘れていた日めくりカレンダーは今日が8月1日だと主張している。


『今日は夏祭り!』


 実際には、これは30日ほど前の予定なのであった。8月も今日が最終日。物理のワークと数学のプリントが5枚ほど残っている。気分転換に、お茶でも淹れてこようかな。


 湯呑みが3度ほど空になり、数学の方はなんとか終わらせる事が出来た。少し仮眠を取ったら、一気にかたをつけよう。そう思っていると、エリからLINEが来た。


『ねぇ、ちょっと公園で会わない?ユミも来るんだ。』


 時計は17時を回っていたものの、外の空気が吸いたい私には嬉しい誘いだった。どうせなので、花火も持っていこう。これは、夏休み中に使おうと取っておいたものだ。


 自転車で向かうと、砂浜の上に1つの人影が見えた。思わず、ペダルを踏む力も強くなる。しかし、数日ぶりのエミの顔に笑みはなかった。さらに、ユミの姿もなかった。


「ねぇ、学校を壊そうよ。あんな場所、無くなってしまえばいいんだよ。キミもそう思わない?」


 一瞬の間、思考が止まった。一体どうしたの。そう尋ねることしかできなかった。


「宿題がね、終わらないんだ。それだけじゃない。私のクラスの物理担当、長嶋なんだ。」


 長嶋とは、学校で最も厳しく、恐ろしい教師の名前だ。1学期中間の時、ワークを忘れた生徒が20分もの間怒号を浴びせられ続けているのが記憶に新しい。10年以上前はこの程度では無かったというのは、母の証言である。


 そんな先生の課題が終わりそうもないのだから、絶望するのも当然である。もっと早くやっておけば……などと言う台詞は心の中にしまっておこう。


「だからさ、学校を壊せば全て解決でしょ?そのための道具はあらかた集めてあるよ。」


 道具なんて、一体どこにあるのだろう。その疑問に答えるかのように、凄まじい音と共に戦闘機が現れた。中からパイロットスーツに身を包んだユミが出てきた。


「仕方なく、ですよ。エリは親友ですから。」


 だからお前も協力しろ。とばかりに圧をかけてくるユミ。いつの間にか、戦車に乗って再び現れたエリ。これはもう、後に引けない状況だ。


 私に与えられた武器は、魔導書だった。本気で言っているのか。別に、ごっこ遊びをしようとしている雰囲気でもない。至って真面目に、アンティークなバイブルサイズの本を手渡してきた。


 試しに呪文を唱えてみる。

『上位魔法、ヨガチックファイアー!』


あたり一面が炎に包まれ、持ってきた花火玉に火がつき、爆発し、気づいた。これは夢だと。


 朝4時半の暗がりの中。全く手のつけられていないワークを凝視した格好のまま、夏休み最後の夜が明けていった。

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