夏休み
夏休み。それは、課題との闘いである。
まだ始まって5日と経ってはいないが、油断はしていられない。
プール、祭り、遊園地などの予定が入ってしまえば、一瞬で夏は過ぎる。終業式で配られたプリントは、依然として机の上から動く気がないようだ。
さて、早速勉強を邪魔する要因が降ってきた。ピココココココン!LINEの件数が凄い勢いで増えていく。ユミから届いたものが大半だった。
『プールいかない?暇で暇でしょうがなくて』
この一文以外は全てスタンプだった。私は勉強で忙しいのだ。思わずブロックに手が伸びそうになってしまうが、なんとか堪える。
ピコン。
エリからも届いた。
『最近暑いわね、プールにでも行きません?』
2時間後
「「「海だ!!!」」」
来てしまった。何も手をつけていないプリント群は、もちろんのことお留守番だ。水着とラッシュガードを装備し、いざ砂浜へと飛び出そう。
「「「アアアアアアアア!!」」」
灼熱の砂粒が足裏を焦がそうとしてくる。走り幅跳びの要領で飛んでしまったためか、後戻りは許されない。ひたすら海に向かって疾走するしか道は残されていないのだ。
このまま終われば何事も無く済んだであろう。しかし、彼女ら3人には運がなかった。
「そこの、お姉さぁぁぁん???」
ナンパ野郎である。こんな状況でも、奴らは遠慮と言うものを知らない。
「あなたは神様を信じますか。私たちと共に牛乳を含んだ雑巾に祈りを捧げましょう。」
宗教勧誘のおばさんまで寄ってきた。
本来、この手の人々は敵に回すと面倒なはずなのだ。変に刺激して、逆上させたらロクな事にならないことは明白だ。
だが、今の3人に常識は通用しない。エリが最初に取った行動は、ナンパ野郎へのドロップキックだった。
続いて私は、倒れた奴の足を掴み、振り回して宗教勧誘のおばさんに直撃させる。悲鳴の三重奏を背に、今一度走り出す2人。陸部の脚力は伊達ではなく、数秒で水飛沫が上がる。
「「ぷはぁ、冷たくて気持ちいい!!」」
散々な目に遭ったが、そんな事がどうでも良くなるほどの爽快感であった。
逆上した宗教おばさんが、1時間近くユミを追いかけ回し続けたことは今の2人には知る由もなかった。