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イコンな二人 1

 日曜日。清人は鎌倉駅の改札前で待機していた。時計は午前10時40分を指していたが、すでに鎌倉駅前は観光客でごった返していた。


 さすが鎌倉、と清人は思った。自らも一応鎌倉市民ではあるのだが、やはり大船駅と鎌倉駅では観光客の数が比ではなかった。


 真子からすれば徒歩十五分程度で来られる距離なのだから、もう少し早い時間に待ち合わせでも良かったかなと清人は考えた。


 だが、女性の場合化粧だとか支度に時間がかかることを考えると、11時ぐらいがちょうど良いのだろうかと思い、今日は『11時鎌倉駅集合』になった。


(そういえば春川さんは徒歩で来るから、『この時間の電車に乗ってるだろう』とか分からないんだよな……)


 そんなことを清人は考えていた。すると


「賀野君」すぐ耳元で声がした。


「うわ!」


「ふふ、驚いた」


「……ああ、おはよう、春川さん」


「ごめんなさいね。何か難しい顔して考えていたから、ちょっと悪戯したくなっちゃった」


(……やっぱり『妖艶』だ)そう、清人は思った。


 今日の真子はボーイッシュなパンツスタイルで、長身でスタイルの良い真子によく似合っていた。


(前から思ってたけど、春川さんって男装とかしたら物凄く似合うんだろうな)そんなことを清人は考えた。


「じゃあまず、お店に入って何か食べようか?」


「そうね、私が案内してあげるわ。美味しいお店を知っているから」


「ああ、ありがとう」


 清人は真子の後ろをついて歩いていった。今日のデートは「私にまかせて」と事前に真子から言われていた。清人にとっても地元民である真子にお任せした方がおそらく良いのだろうと考え、今日のプランは真子に委ねていた。


「それにしても凄い人だね」


「これでもまだマシな方よ。ゴールデンウィークとか大型連休の時が一番大変ね」


 そんなことを話しながら、駅前のカフェ『エスペラント』に入店した。店内も結構な混み具合だったが、幸いにも待たずにすぐ席へと案内された。


「ふう、今日は少し涼しいね」


「さすがに10月に入ると暑さも和らいだ感じね」


「そうだね」


 二人は窓際の席でそんな会話をしていた。しかし外では、そんな二人の様子を遠巻きに観察している集団がいた。


「……うーむ、カフェに入っていったな」


「どんな会話してるんだろ?」


 そこには健次郎と善幸、一花の姿があった。


「……なあ、やっぱ止めねえか。二人に迷惑だよ」


 健次郎は観察に集中している二人に向かって言った。


「大丈夫、二人を邪魔する気は毛頭無い!」


「いやそりゃ大前提だけどさ、やっぱどうも……」


「いやいや、以前『二人の様子を観察しよう』と誓ったではないか!」


「だってあれは本気だと思わなかったしよ」


「ごめんね徳井君、こんなことに付き合わせちゃって」


「……まあ蘇我さんが良いなら良いけど」


 結局、健次郎が諦めたような感じになった。一花と善幸はすでに観察に夢中になっていた。


「……ここからじゃ会話も聞こえないし、意味あんのか?」


「大丈夫、俺は読唇術が使える予定だ!」


「……つまり今は?」


「使えない!」


「何だこの二度手間」


 一花はクスッとした。正直この二人の会話を聞いているだけでも一花は楽しかった。


 善幸は店内の二人を観察し続けた。そしてしみじみと


「それにしても、良い雰囲気ですな」と言った。


「そうだね~」


「なんだかんだ言って、やっぱお似合いだよな。俺は前からあの二人はお似合いだと思ってたよ」健次郎は少しドヤ顔で言った。


「なんせ『聖人』と『天使』のカップルですからな! 二人の雰囲気はさしずめイコン(聖画像)のような……」


「遺恨?」


「とにかく聖なる雰囲気に満ちているってことよ!」


「そうだね、本当に見ていて清らかな感じがする」一花も同意した。


「でもあの二人ってまだ付き合ってはいないんでしょ?」


「ああ、多分……詳しくは聞いてないけど」


「ところでなぜ蘇我さんは二人のデートの件を知っていたので?」善幸は尋ねた。


「いや私も偶然なんだけどね。春川さんの方から教えてくれたの」


「へえ、春川さんから」


「春川さんからわざわざ教えてくれるってことは……蘇我さんに応援してもらいたいということでは?」


「もちろん私も『応援する』って言ったよ!」一花は少しテンションが上がっていた。


「正直嬉しかったんだ。春川さん、あまりプライベートなこととか話してくれないから、まさか恋愛相談をしてくれるなんて……」


「恋愛に関していえば清人もかなり疎い方では?」


「まあ清人に限らず俺らはその話は疎いだろ」


「確かに!」


 三人は笑った。そんな会話をしていたら、二人が店に入ってから一時間以上が経過していた。


「お! 動くぞ!」


 店内では動きがあった。二人は席を立ち、会計を済ませて店の外へ出ていった。二人はそのまま鎌倉駅の方へと戻っていった。


「確か二人は極楽寺に行くんだよな?」


「そうだね、そう言ってた」


「極楽寺ということは……江ノ電に乗って極楽寺駅へと向かうという訳か!」善幸はスマホで調べながら言った。


「よし! 俺たちも極楽寺駅に向かおう!」そう健次郎は言い出した。


 一花は健次郎が大分乗り気になり始めたのを見て、またクスッとした。


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