城に来た
だだだだだだたん
ぷぁーぱぱぱー
ぷぁーぱぱぱー
ぱぱぱぱーーーーー
どんどんどん
何とうるさいことか。
城へと続く道で、ずーっとこんな音楽隊を配置しおって。しかも、クェスは随分と人望があるらしい。通りの両端にクェスを見ようとする者で埋め尽くされておる。
「神の使徒勇者様万歳!」
「世界の救世主様!」
そんな声が聞こえる。クェスも恥ずかしいのか、顔を伏せている。お前が顔を伏せると、息が耳の裏にかかってくすぐったいのだが。
「なぁ、わんこ。俺世界の救世主様だってさ。魔物の世界を破壊したのにな。」
分かっておるではないか。そうだ。魔物たちから見れば、お前は救世主ではなく、破壊者だ。だが、吾輩は敗者。とやかく言うまい。残った魔物達も守ってくれた様であるし、今は吾輩を討ち倒した英雄として、胸を張るが良い。
「ほらわんこ。着いたぞ。これがニルヴァ王城だ。」
でかい。そして白い。所々に金の装飾で彩られておる。そう言えば、吾輩の城は魔物達が作ってくれたものだ。魔王様なのだからお城に住んで欲しいと。
魔物達が頑張っての手作りだから、装飾などはなかったが、吾輩の誇りであった。
城を見るに、このニルヴァ王も、きっと民に愛される王なのであろう。
クェスよ。ニルヴァ王とはどう言う王なのだ?
「どうした?わんこ。くぅんくぅんって。そっか。大きい城だからな…。怖くなったか?
心配するな。俺が抱っこしててやる。」
何と。王がどの様な者か聞いただけなのに、吾輩の声はくぅんくぅんなのか。
むう。こうなると言葉が通じないのも不便なものだな。いや、まぁ良いであろう。言葉が通じれば、恨みの一つも溢しそうである。わんことなった身を受け入れるしかあるまい。
おお。門を潜ったな。
……何じゃこの豪奢な内装は。天井には絵が一面に描かれておる。あの中央に描かれているのは、創造神か。その周りに天使か?羽の生えた幼子達が笑顔で舞っておるわ。随分と美化されておるものだ。信心とはこの様なものなのであろうな。本質が見えなくなり、盲目的に狂信しておる様なものだ。
まぁ、創造神と同じく、吾輩を悪者とした王だ。察して然るべきであろうな。クェスに聞かずとも、何となく分かったわ。
「偉大な勇者、クェス様御来場ーーー!」
じゃーん!
じゃじゃじゃじゃー
ぷっぷぷぷっぷぷーーーーー
どんどどん
うるさいのである。
吾輩はまだ子犬なのである。
耳が聞こえなくなったらどうするのだ。
「あーあ。わんこが怖がっちゃってるじゃん。こんな派手にやられても迷惑なんだよなー」
クェスも不機嫌な顔をしておる。それはそうだろう。こんな、まるで王がどこぞから帰還したかの様な……、あ、クェスは魔王を倒した勇者であったな。ならばこの歓迎もやむ終えまい。諦めよ。ただ、この音だけ、どうにかしてくれぬか?
おお、クェス。吾輩の言葉が分かったのか?
服の胸の中に入れてくれたが、これはなかなか。服と胸当てのお陰で、音が僅かだが遮られる。これなら我慢できそうだ。
「わんこ。これから王様に会うから、ちょっとだけ我慢してくれよ。」
何と…吾輩をこの不快な音楽から守るためではなかったか。まぁ良い。音は我慢できる程度だが、ちと暖かすぎるのである。
どどん
む。クェス。膝をついたな。王が来たか。だがクェス…お前が屈むと、吾輩が狭い。
「魔王を打ち払いし勇者クェスよ。よくぞ無事に戻ってきた。勇者のおかげで、世界は闇の脅威から解放されたのだ。良くやってくれたな。クレア姫よ。お前からも労いを。」
「ええお父様。クェス。本当にご苦労様でした。創造神に選ばれた伝説の勇者なら、きっと魔王を倒してくれると信じていました。魔王の恐怖を人々から永遠に消し去り、貴方は誠の勇者となられたのです。」
「何が闇だよ。」
ん?クェス。何か言ったか?王とその姫から労われておるぞ。伝説の勇者とやらは何と返事をするのかのう?
「王よ。この様なかくも盛大なお出迎え、感謝の言葉もございません。」
クェスもちゃんとした言葉遣いができるのだな。傍観しているのも中々楽しいやも知れぬ。吾輩に構わず、王と姫と歓談するが良い。
「クェス。お前は創造神に導かれ、この大地を救った英雄。どうか、このクレアを妻として、この世界の王となり、これからも人々を導いてやってくれ。」
吾輩を討ち、世界の王となるか。クェス。誠に世界を手に入れるということか。ん?ルーと言ったか?宿の娘と良い仲かと思っていたが。
「ニルヴァ王よ!」(ひゃん!)
わぁびっくりした。クェス。いきなり大声を出すと驚くではないか。吾輩が胸の中に居るのを忘れるでない。
「どうした?救世主よ。話すが良い。(なんか甲高い声も聞こえたが…今のは?)」
いかんいかん。驚いて声が出てしまった。まぁ、漏らすよりはマシであろう。
「王よ。姫を頂戴し、王の跡を継ぐ。何と素晴らしい褒美かと。しかし、私はその言葉を受けるわけには参りません。まだ終わってはおりませぬ。」
「…というと?」
「魔王はまだ生きています。唯一創造神に脅威を与えるあの魔王は、まだ存在するのです。」
「何だと!!?」
何だと!?
吾輩、やられて死んだ上に魔導の力も無くなって、しかも今やわんこであるぞ。もう諦めがつくほど死んでおるが…。クェス、もしかして吾輩を買い被っておるか?
「魔王の体は打ち消しました。しかし、その魂はあの地に留まっています。今は封印を施していますが、恐らくこのままでは、その封印も魔王の力で10年ともたないでしょう。」
「な…何ということじゃ。魔王を討ち倒したのではなかったのか…。」
王、めちゃめちゃ声震えておるな。吾輩、そんなに怖がらせるほどお主ら人間に何かしたか?
「王よ。手段はまだ残っています。」
「おお…クェスよ。教えてくれ。その手段とは…。」
ふむ。吾輩も知りたい。吾輩、10年もすれば元に戻るのか?