第56話 不安
「ただいま戻りました」
「クロード! 無事で良かった!」
クロードが一人で例の場所へ行き、無事に帰って来てくれた。
ずっと変な胸騒ぎがしていたので、こうして帰って来てくれたのが本当に嬉しい。
だから、私からクロードの胸に飛び込むくらい、許してくれても良いと思う。
クロードの胸に飛び込みながら、頭を撫でられ、暫く温もりに包まれていると、
「リディア。一旦、宿を変えましょう。つけられているとは思いませんが、念の為」
突然クロードが立ち上がり、宿を出る。
クロードは例の場所の中へ入った後の事は教えてくれないけれど、追っ手が来るかもしれないからと、宿の場所を変えるなんて……やっぱり相当危険な場所なのだろう。
一区画離れた場所にある宿を見つけ、そこで一晩を過ごすと、
「では、行ってまいります」
「き、気を付けてね」
「もちろん。では、暫し待っていてください」
翌朝にはクロードが例の場所へと足を運ぶ。
宿の部屋に一人でポツンと取り残され、居ても立っても居られない気持ちになってしまう。
(エミリー。やっぱり、私も行っちゃダメかな?)
『ダメだってば。何の為にクロードがリディアを残して行っているのかを、ちゃんと考えて』
(うぅ……。でも、きっと夕方までクロードは帰って来ないし、心配だよ)
『……そうだ。こういう時こそ、アクセサリー作りじゃない? アクセサリーを作っている間に、クロードが帰って来るよ』
(こんな気持ちでアクセサリーを作るのは難しいと思う……)
『リディア! しっかりしなよ! クロードを信じるんでしょ!? 心配だからこそ、クロードが無事で居るようにって、気持ちを込めてアクセサリーを作ってみようよ!』
(……う、うん。分かった)
エミリーに言われるがままに、アクセサリー作りを始めようとして……今回はクロードに無事で居て欲しいと想いながら作る事にした。
集中して、集中して、一心不乱にアクセサリーを作り、概ね完成した所で、
「た……ただいま戻りました」
「クロード! 無事で良かっ……だ、大丈夫!? その血は……ちょっと待っていて」
エミリーにお願いして、水の精霊ディーネちゃんを呼びだしてもらい、怪我を癒す水をクロードに飲んでもらう。
「あ、ありがとうございます。リディア、急いで場所を変えましょう」
昨日と同じ様に宿を変え、
「ねぇ、クロード。お願い、今日は一緒に寝よう? 何だか凄く嫌な気がするの」
「一緒に……」
「ち、違うのっ! そういう事じゃなくて、その……クロードの温もりを感じながら、安心して眠りたいっていうだけで、変な意味ではなくて……」
「……わかりました。リディアが安心出来るなら、一緒に眠りましょう」
初めて同じ部屋で、同じベッドで夜を過ごす。
「では、行ってまいります」
「本当に気を付けてね……そうだ。これ、クロードの無事を願いながら作ったの」
「ありがとうございます。リディアが作ってくれたネックレス……早速付けさせてもらいますね」
「うん。あの場所の中でどれくらい効力が発揮できるかは分からないけれど、身を守る効力がある精霊の力を沢山込めているから。どうか無事に帰ってきてね」
金剛石――ダイヤモンドを使って作った、悪い事から身を守る力を持つアクセサリーを身に付けたクロードが出て行く。
不安に思いながらも、昨日と同様にアクセサリーを作ろうとした所で、大きな音と共に鍵を掛けていた部屋の扉が開かれた。




