挿話10 家の中を漁る元王女ユフィ
「じゃあ、ユフィさん。学校に行ってきますねー!」
「私の名前はユフィじゃなくて、ソフィよっ!」
「ふふっ。行ってきまーす!」
人の名前も覚えられないバカ女が、学校へ出掛けて行った。
ふっふっふ……あの毒だか何だか分からない謎の腹痛も治ったし、バカ女は夕方まで家に帰ってこないし、今からこの家は私の家よっ!
アメーニア王国の王宮と比べればもちろん小さいし、私の部屋とは比べ物にならないくらいに貧相だわ。
だけど、この家全体を私の家と考えたら、少なくとも王女時代の部屋よりは広いわね。
そもそも、一国の王女だというのに、一部屋しか無かった事がおかしいんだけど。
「さて、過去の話は置いておいて、あのバカ女の秘密を探らないとね。これまでは薬を探すくらいしか出来なかったけど、絶対に尻尾を掴んでやるんだから」
先ずは一階の一番玄関に近い所にあるバカ女の部屋……は流石に鍵が掛かっているわね。
この部屋は後に回して、他の部屋よ。
リビングは薬探しの時に十分探したから、こっちの部屋は……あら、クローゼットかしら?
「へぇ。中々良い趣味をしてるじゃない。この、如何にも貴族って感じのドレスなんか、私にピッタリじゃない。……あのバカ女は、いつも同じ服ばかり着ていて宝の持ち腐れだし、きっと私が着てあげる方がドレスも幸せよね」
スカートの丈が短く、膝上までしかない真っ赤なパーティドレスに身を包み、姿見の前でクルリと回ってみる。
ふふ……うん。このドレスは私が貰っておきましょう。
沢山あるから一着くらい……あら、こっちの黄色いドレスも良いじゃない。こっちのオレンジのも。
……気付けば、クローゼットの中にあるドレスの半分近くを、出してしまっていたけれど、まぁ大丈夫でしょ。
あのバカ女はドレスなんて着ないから、絶対に気付かないわよ。
手にしたドレスを全て二階へ運び、私の部屋にあるメイド服しか入っていないクローゼットへ。
「さて、思わぬ戦利品を獲た所で、続きね」
私好みの赤いドレスに身を包み、上機嫌で一階の部屋を漁っていると、バタンと扉を開ける大きな音が響き渡る。
あら? 誰か来たのかしら?
前に私のお尻を見た商人だったら、一発殴ってやらないと。そんな事を思いながら部屋から出て、玄関の様子を見に行こうとした所で、
「なっ!? どうして聖女が居るんだっ!? この時間は学校じゃないのか!?」
聞いた事のない叫び声が届く。
聖女……あぁ、この男も、あのバカ女に騙されている口らしい。
でも、私を見ながら聖女って言ったし……私の内から溢れる気品と美しさで、つい私の事を聖女だって思ってしまったのね?
まぁでも、それは仕方がない事よね。だって、私は綺麗で美しいもの。
「いや、まぁ良い。逆に手間が省けた」
そう言って、男が一直線に私に向かって来る。
どこの商人かは知らないけれど、用件くらい言いなさいよね。
まぁ今日は気分が良いから、許してあげなくもないけど。
「悪く思うな」
「えっ!? あ……な、何を!?」
「他所で聖女と呼ばれていたみたいだが、アンタはやり過ぎたんだよ。調子に乗り過ぎたな」
突然、お腹に鈍い痛みが走り、思わず床に倒れ込む。
いきなり殴られた!? どうして!? 私は元王女で聖女なのに!
止めて……せっかくお腹が治ったのに。あぁぁ……何か出ちゃいそう。
「お嬢の方が無駄になってしまったが、こっちの方が人目に付かないから、結果としては良かったか。まぁ安心しな。命までは取らないさ。ただ、目が見えなくなるだけだ」
「何を言って……」
「はっはっは。この毒を目に垂らすだけで、一時間後には失明する」
「や、やだっ! やめてっ! やめなさいっ!」
「アンタの力じゃ、俺には勝てない。あぁ、そうだ。主様が、アンタのアクセサリーは良かったと仰っていたぞ。まぁ、それでアンタが本物だって分かったんだがな」
男から意味不明な事を言われた直後、目に何かの液体がかかる。
それから、私を押さえ付けていた男が離れたけれど、
「な、何これ」
私の視界から、色が失われていた。




