挿話7 ソフィと名乗る元第四王女ユフィ
「じゃあ、ソフィを任せて良いかしら?」
「えぇ、よろしくお願いします」
ふっふっふ……あのバカ女。ソフィという名前でメイドの振りをしている私が、実はアメーニア王国第四王女のユフィ=アメーニアだなんて微塵も気付いていないみたいね。
まぁ、私の演技力があってこそ成せる事だけど。
……思い返せば、この女を追放したが故に、王女という地位を失い、何でも買い放題だったお金を失い、三食メイド付きだった家を追われ、着る服すら失った。
全ては、あのバカ女のせいで、今思い出しても腹が立つ。
……
あの日、イーサリム公国から来たっていう覆面姿の変な人が、偶然助けてくれなければ、一体私はどうなっていた事か。
よく分からないけど、取引とか言われて聖女の話を聞かれて答えていたら、偽名の身分証明をくれて、このエスドレア王国に連れてきてくれた。
ファッションセンスは無いけれど、凄く良い人に助けてもらえたのは、私の徳があってこそだろう。
そして、手っ取り早く玉の輿に乗るため、メイドとして王宮に雇ってもらったら……
「はーい、みんなー。ちょっと聞いてぇ。ここに、最近良く来ている可愛らしい女の子――リディアちゃんが来ているのは知っているわよね」
「――ブッ! り、リディア!?」
「新入りのソフィちゃんも、ちゃんと聞いててねぇ。あのリディアちゃんが、専任のメイドさんを募集しているみたいなの。誰か、そっちに行っても良いっていう人は居ないかしらん?」
「あの……リディアって、小柄で、ダークブラウンの髪の女――いえ、女性ですか?」
「そうよ。……って、ソフィちゃんはリディアちゃんに会った事があったかしら?」
突然妙にデカくて野太い声の女が凄い事を言ってきた。
リディア……って、きっとあのバカ女の事よね?
なるほど。偶然だけど、あの女もこの国へ来ていたのね。
今、お兄様たちが必死になって、あの女を探しているでしょうけど、私も追放された身だし、まぁ知った事では無いわね。
それより、今言っているリディアが本当にあのバカ女だとしたら……復讐のチャンスね!
高貴な生まれの私を追放させ、メイドなどという平民の仕事をする振りをさせられた……絶対に許せない!
「あのっ! 私がやりますっ! やらせてくださいっ!」
「ソフィちゃんが? けど、貴方は今日雇ったばかりで、研修中だと聞いているけれど」
「ですが、皆さんは王宮でのお仕事に慣れているはずです。一方、私はまだ仕事に慣れるには程遠い状態ですので、働く場所が変わっても大きな影響がありません。先輩方に迷惑を掛けない為にも、私がバ……こほん。リディアさんの専属メイドになります!」
「ふむ……確かに、その考え方は一理あるけど、でも研修中というのはねぇ。ちなみに、他に立候補する子は居るかしら?」
やる気をアピールするため、最前列まで移動していたけれど、デカ女の呼びかけに合わせて、私もクルリと振り向く。
近くに居た、私と同い年くらいに見える気弱そうな女が手を挙げかけたので、
「…………」
「――ひっ!」
思いっきり睨みつけたら、あっさり手を下げた。
そのまま睨みを効かせていると、
「あら……思ったより立候補が出なかったわね。リディアちゃんは性格が良いから、沢山立候補者が出ると思ったんだけど……分かったわ。じゃあ、ソフィちゃん。リディアちゃんが来たら、専任にしてもらえるかどうか、聞いてみましょう」
「はい。お願いいたします」
私があのバカ女の専任メイド候補になれた。
ふっふっふ。あのバカ女の弱みを握り、偽物聖女だという事も証明してみせるんだからっ!
そして、私の人生を壊した、あのバカ女を無茶苦茶にしてやるっ!
2020/11/21 誤字を修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。




