第25話 カウンター攻撃(自動)
学校でクラスメイト達から一通り話を聞いたものの、大した話を得る事が出来なかった。
残念ではあるものの、だからと言って今日はこれで帰る……という訳にもいかず、授業をしっかり受ける。
(えーっと、次は……体育の授業だから着替えなきゃ)
『リディア。運動着に着替えるっていう事は、アクセサリーの類――精霊石を身につけないって事だよね?』
(あ、確かにそうなるね。でも、貴族や王族が通う学校の中だし、大丈夫じゃないかなー?)
『まぁ傍にウチが居るから大丈夫とは思うけど、突発的な対応が弱いんだよねー』
エミリーは精霊を呼び出したり、もしくは自身の力を使って私を助けてくれるけど、あくまで私からお願いをしないと力を行使出来ない。
だから、その力を石に込める事で、私がお願いをしなくても力が発動されている状態にしている。
例えばクロード様とおそろいのブレスレットは、石の効果もおそろいで、光の精霊オーちゃんの癒しの力――状態異常回復効果を付与しているので、突然何らかの異常に陥ったとしても自動で治ってしまう。
……まぁクロード様は騎士なので、魔物と戦う事もあるから有用だけど、普通に暮らす私が毒状態とか呪い状態になったりする事なんてないんだけどさ。
それはさておき、他にも怪我が勝手に治ったりする効果とか、大怪我をしても一度だけ無かった事に出来る効果とか、精霊さんたちの相性を加味した、いろんな効果を持つ石を持っている。
とはいえ、学校の中だからねー。これらの石を身につけていなくても、何も無いと思うんだけど。
『けど、今日は護身術をするって言ってなかったっけ?』
(そうなの?)
『そうだよっ! この前、先生が言ってたじゃない』
(そ、そうだっけ?)
『そうだよ。だから、この護身術の時間だけで良いから、何かしら石の代わりとなる力を発動させておいてよ』
精霊の力は、石に込めれば一週間から数か月持つけれど、込めずに発動させると数時間から一日くらいで効果が失われてしまう。
だから、昨日のエミリーの力で張った結界も、今は既に効力を失っている。
また同じ事が起こらないように、早く代替えの手段を講じたいんだけど……なかなか難しいよね。
『リディアー、早くー。……そうだ。護身術の授業だし、受けたダメージを全て反射する力とかは?』
(ダメだよ。授業の一環で護身術を実践……なんて事になったら、私と組んだ子が可哀そうだよ。ただ、真面目に取り組んでいるだけなのに)
『むー……だったら、受けたダメージをすぐ治す治癒系の力で。これなら、普段から身につけているし、良いでしょ?』
(うーん。普通の学校生活じゃなくて、護身術の授業だよねー。攻撃された場所に出来た擦り傷とかが、すぐに治っていったら怪しまれちゃうよ)
『それなら……じゃあ、悪意のある攻撃を反射するとかは? それなら、真面目に授業を受けているだけの生徒には影響ないでしょ!』
(んー、それでいこっか。いくらなんでも、入学してきて数日でそこまで嫌われていないと思うし、何も起こらないでしょ)
『決まりだね。シェイド! よろしくっ!』
エミリーの言葉で、イドちゃんが私の周りに黒い膜みたいな物を生み出した。
エミリー曰く、悪意がない訓練や事故と言える攻撃はすり抜けるが、悪意や敵意を持った攻撃は反射するらしい。
使い道が殆ど無さそうな力だけど、エミリーが納得してくれたので移動すると、先生から棒を使った護身術の説明が一通り終わり、実践訓練をする事になった。
「リディアさん。実践訓練……私と組みましょう」
「はい。えーっと……」
「アーシェよ。アーシェ=ガルシア」
「ご、ごめんなさい。よろしくお願いいたします」
「いいのよ。お手柔らかにね」
随分と綺麗な人が、私と組もうと声を掛けてきてくれた。
良かったー。こういう好きな人とペアを組む……って、入学したばかりの私にはハードルが高いのよね。
「では、最初に説明した、頭上から棒を振り下ろされた時の対応の実践をしてみましょう。攻撃側の人は、棒をゆっくりとペアの頭の上に振り下ろしてください。いいですか、ゆっくりですよ」
「じゃあ、リディアさん。参りますね」
そう言って、アーシェさんが棒を上段に構える。
こういう授業は良いね。私は体力には自信があるけど、技術は全然だから、非常にありがたい。
アーシェさんが私の頭に棒を振り下ろし……
「……なっ!?」
あれ? 何もしていないのに、アーシェさんが突然頭を押さえて蹲った。
「あの、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですのっ! そ、それより構えなさいっ! 次は、こうはいきませんわよっ!」
大丈夫かな? 次は胴を狙った横凪の攻撃なんだけど、
「……ぐふっ! な、中々やりますわね」
何がっ!? 一体何の話なのっ!?
それから、アーシェさんは何度も棒を構えるんだけど、すぐさま倒れてしまう。
「きょ、今日の所はこれくらいにしておいてあげますのっ!」
な、何だか分からないけれど、アーシェさんがフラフラしながら教室へ戻って行った。
本当に、大丈夫なのかな?




