挿話6 何かを企む令嬢アーシェ
「もしも、この国にも聖女がいたらなーって思って」
何故? この転校生は、どうして突然こんな事を聞いて回るの?
この娘は本当に意味が分からない。
算術は凄く出来るのに、肝心の法律の事はまるで知らないとか、貴族として最も不要だと言える家事が、無駄に凄いとか。
もちろん、妻の家事を好む男性が居るのも知っているけれど、それよりも先ずは法律でしょ?
貴族の娘なんだから、嫁ぎ先も貴族か王族。
先ずは身を守る為の法律を身に付け、次に社交性と気品を身に付けて、位の高い男性に見染められる。
そして、余力があれば算術や家事……っていうのが、令嬢に生まれた者の定めでしょ!?
「あの、ちょっと良いですか?」
うわ……さっき聞こえてきた話を私にもする気なのね。
「話す事なんて何もないわ」
「……あの、ちょっとだけで良いんです。ほんと、ちょっとだけ」
パタパタと忙しなく手を動かして、少しだけ……という事を強調したいみたいだけど、何なの?
一体何が目的……あら?
「リディアさん……だったかしら。貴女、そのブレスレットは一体何処で買われたのかしら」
「あ、これですか? えへへ……可愛いですよね。実は自分で作ったんですよー。だから、今はまだどこにも売ってなくて」
この女、結構痛いわね。
誰もそんな安っぽいブレスレットを欲しいだなんて言ってないわよ!
ただ、その安っぽさ故に覚えていたわ。
まさか……同じクラスにクロード様にプレゼントを贈っていた女が居たなんてね。
……どうしてくれようかしら。
この学校に居る時点で、貴族なのは間違いないけれど、家名が分からない。
もしも、我がガルシア家よりも爵位が上だったら……って、あんな品の無いブレスレットをプレゼントするくらいだから、大した家ではないはずよ。
そうよ、下級貴族に違いないわ。
きっと、娘をこの学校に入れて学費を払う事が精いっぱい。絶対そうよ。
この転校生に興味があったのは最初だけだけど、確か転校初日も同じ靴を履いていたわ。
おそらく、靴を二足や三足くらいしか娘に買ってやれないような、貧乏下級貴族ね!
ふふ。私のクロード様に近づく邪魔な女は排除してやるんだから。
「……一先ず話を戻すと、私はそもそも魔物っていう存在がこの世から消えれば良いと思うわ」
「なるほど。まぁそうなんですけど、それは中々難しいというか、大変だったので……」
とりあえず話を終わらせる為に、適当な事を答えたんだけど、何を言っているのかしら。
大変だった? まるで魔物を消そうと試みたみたいじゃない。
まぁ、どうでも良いけど。
……ふふ。あの女は、相変わらず法律や歴史の授業では、意味不明な事を言っていたわね。
けど、それよりも次の授業よ。
体力作りを目的とした体育の授業……今日は棒を使った模擬戦だったはず。
あの女は、体力だけは化物みたいにあるけれど、それだけよね。
周囲から運動神経は人並だっていう話を聞いたし、顔をボッコボコにして、クロード様に会えなくしてやる!
私は、王族の子息を射止めるため、勉強はもちろん、社交性や気品に加えて、算術に家事、それから護身術まで学んでいるんだから!
あはは……あははははっ! 覚悟しておく事ねっ!




