第8話 エスドレア王国
おぉー。シャルロットちゃんは、年齢の割に随分と気品があると思っていたけど、まさか王女様だったとは。
それにクロードさんも騎士隊長なのね。
なるほど。二人でラブラブお忍び旅!? 世間に言えない関係だから夜に帰ろうとしていたの!?
『いや、それはないでしょ。年の差と立場を考えなよ』
(でも、愛があれば年の差も、立場も関係なんて……)
『そういう訳にはいかないでしょ。というか、クロードさんが昨日呪いがどうこうって言ってたじゃん。おそらく、王女が対立派閥から呪いをかけられたから、魔導具が優れているこの国へ秘密裏に来たって感じじゃないの?』
(あ、そういえば、そんな事も言ってたね)
一先ずクロードさんの話を聞くと、正にエミリーが推測した通りの話だった。
昨日、魔導具でシャルロットちゃんの声が出るようにしてもらいに来たけれど、結果としては治らず。
国へ帰って別の手を考えようと、夜中に馬車を走らせた所で、運悪く野盗に襲われてしまったと。
シャルロットちゃんを守る事を最優先として、一先ず逃げた所に、ムーちゃんに作ってもらった小屋があったという話だった。
「えっと、そういう訳で、私は王女ではありますが、まだ幼いですし、これまで通り普通に接して貰えるとありがたいです」
「うん、分かった。じゃあ、これまで通りシャルロットちゃんって呼ぶね」
「はいっ!」
どうやらシャルロットちゃんは、ユフィ様みたいなタイプの王女ではないみたいで良かった。
ユフィ様は殆ど話した事がなかったけど、良くない噂話をいっぱい聞いたからね。
ちなみに、エスドレア王国は山を挟んで北側に隣接する国だ。
山越えではあるけれど、馬車が通れる程の道はあるし、警護の冒険者さんたちも国内でトップクラスの強さを誇るAランクの人たちなので、野盗も出てこないし、野獣が出て来たら即座に倒して、逆に食料にしてしまう程だった。
という訳で、大きな鹿の肉と、街で買っておいたお弁当を皆んなで食べ、全くトラブルなくエスドレア王国へと到着した。
「世話になった」
「いやいや、俺たちも割りの良い仕事が出来て良かったよ」
クロードさんと冒険者さんたちや、御者の人と話をして、それぞれ何処かへ姿を消して行く。
「さて、リディア様。この度は、エスドレア王国へお越しいただき、誠にありがとうございます」
「一先ずリディアさんを王宮へお連れしましょう」
クロードさんにエスコートしてもらい、エスドレア王国の王宮へ。
馬車の中で見ていた時も思ったんだけど、街の作りが全然違ったり、歩いている人達の種族がバラバラだったり。
王宮の中へ入ると、右を見ればメイドさんたちが楽しそうに仕事をしているし、左を見ても何やら女性……いや、男性かな? いずれにせよ楽しそうに談笑している。
きっと、あの国で聖女を続けていたら、楽しく仕事をするなんて場面を見る事は無かっただろうし、街で見た色んな種族が交わる文化がある事も、知らずに過ごしていたんだろうな。
そんな事を思いながらキョロキョロと王宮内を見渡しているとメイドさんと楽しそうに談笑していた女性……みたいな男性が私に気付いた。
「あらぁ? 新しいメイドちゃんなのかしらん? ようこそ王宮へ。可愛い子猫ちゃん」
「え、えーっと、私は……」
「ロビンさん、お待ちください。こちらの方はメイドさんではありません。シャルロット様の……ご、ご友人です」
クロードさんからロビンさんと呼ばれた男性は、真っすぐに下した金色の髪は長いのに、少しもうねりが無くて、サラサラと綺麗に輝いている。
腕には程よい筋肉が付いていて、細マッチョっていうのかな? 長身なのに、スリムで、凄く格好良い……体格は。
ただ、なんていうか、その……どうして、それだけ優れた容姿なのに、変に厚化粧をして、中途半端な何とも言えない顔になっているの?
そのまま細マッチョイケメンで良いと思うんだけどな。
いやまぁ、どんな服を着るとか、どんなお化粧をするとか、もちろん個人の自由なんだけど、惜しいなぁって思ってしまう。
「あら、シャルロットちゃんのお友達だったのねぇん。ごめんなさぁい」
そう言って、ロビンさんが口では謝りつつも、どこの馬の骨だと言わんばかりの鋭い眼光で、値踏みするかのように私の事を見てくる。
うぅ……何、この人。何なのー!?
『リディア。ウチの力を使って、こっそり倒しちゃおうよ』
(待って。この人が誰かも分かってないし、王宮内でそんな事しちゃダメだよ)
蛇に睨まれたカエルみたいに固まりながらエミリーと会話していると、
「じゃあ、またねぇん」
私に見飽きたのか、どこかへ姿を消してしまった。
「あ、あの。今の人ってどういう人なんですか?」
「あー、あの人はロビンさんって言って、騎士隊の隊長の一人なんだよ」
「そ、そうなんですか」
あの人が騎士……しかも隊長。あ、あれ? この国って大丈夫なのかな?
つい、そんな事を思ってしまったけど、あの人だけがかなり特殊な人で、国としては大丈夫ですから! と、私の心を読んだかのように、クロードさんからフォローされてしまった。




