女神から異世界に行ってスローライフ送るよう言われたんだが
女神「あなたには、異世界に行っていただきます。そこで念願のスローライフを満喫してください」
目を開けたら、なんか学校の保健室みたいな部屋にいた。ちょうどベッドに寝ているところから上半身を起こしたみたいな感じだ。
ベッド脇の椅子に腰掛けているような感じで、白衣のおば…お姉さんがこっちを向いている。ニコニコと笑っているが、今、一瞬、背中に氷柱突っ込まれたような気がしたぞ。こりゃ、年と胸…うぐっ…の話題は厳禁だな。よくわかった。
それはそうと、今この…え~っと、女の人…はなんて言った? 異世界でスローライフ?
俺「あの…異世界ってどういうことですか?」
そもそも、俺はなんでこんなところにいる?
病室ってより保健室って感じだし、俺は32だし教師じゃないし、とっくの昔に学校との縁は切れているんだが。
女神「事故があって、異世界の生物があなたの住む世界に紛れ込みました。あちらの世界で“ビール”と呼ばれている小さな生物で、生物の体内で体液を吸い、代わりに麻痺毒を分泌する生物です。
今、ビールはあなたの体内に棲息しています。あなたの感覚で言うと、毒が体内に回っている状態です。
本来なら大した毒性はないのですが、こちらの世界の生物ではないので、駆除は不可能なのです」
毒!?
俺「その毒が回ると、俺はどうなるんですか? 死ぬんですか?」
女神「ああ、いいですね。
“死ぬんDeathか”ですか。死ぬとDeathをかけたわけですね」
いや、そんなうまいこと言ったみたいに言われても。
この保険医みたいな人は、女神とかの類らしい。
俺の体に入ったビールってやつは、異世界では蚊みたいな存在でしかないが、地球じゃ天敵もいないし免疫も解毒薬もないから、世界を滅ぼしかねないとかなんとか。なんで外来種問題みたいになってんだよ。これ異世界云々って話だったよな。
結局、俺が助かるには、向こうの世界に行くしかないんだそうだ。
女神「あなたには、実質選択権はありません。
ビールの駆除が最優先目的ですから。
あなたが選べるのは、あなたごとビールを消滅させるか、ビールごとあちらの世界に行くか、その2つだけです」
だとさ。
どっちにしても、俺の死体はでっち上げてくれるから、行方不明にはならないんだそうだ。
脇にビールの空き缶を並べて、急性アルコール中毒死を演出してくれるらしい。どんだけダジャレ好きなんだよ。
ちなみに、異世界に行くなら、ビールの毒に対する耐性をくれるから、生き延びられるらしい。
こっちで耐性くれればいいのにって言ったら、それじゃビールが繁殖するのを抑えられないからダメなんだとさ。
死にたくはないから、異世界一択だよな。
女神「本来なら、耐性と最低限の衣食住だけ与えて送るところなのですが、先ほどの褒美に、あなたの念願だったスローライフの役に立つ技能と武器も差し上げましょう」
確かに俺は田舎に引っ込んでスローライフするのが夢だったけどよ。
まさか異世界に行ってスローライフすることになるとは思わなかったな。
なんでも、これから行く異世界は剣と魔法の世界だそうだ。
俺はこっちの人間だから、魔法の素質を与えることはできないって言われちまった。一応、俺は魔法使いと言われる32歳なんだが。30過ぎたら魔法使いってのは、都市伝説だったらしい。
魔法は無理だが、戦う力はもらえた。呼べば手の中に現れる武器とそれを使いこなせる技量をくれるんだと。俺は狩人として自活する道を選んだ。
“先ほどの褒美”ってのは、「死ぬんDeath」のことらしい。だから、どんだけダジャレ好きなんだよ。
ほかには、向こうで困らない程度の会話や読み書き、常識と、最低限の着替え、あと、村外れの空き家に住み着いたよそ者って立場にしてくれるらしい。家には炊事道具もあるそうだ。
食い物は、ちょっと村を出て森に出れば、兎でも鳥でも獲り放題。俺はジビエもできるから、これで衣食住、完璧だ。
女神「それでは、スローライフを満喫してください」
こうして、俺は異世界で第2の人生を送っている。
日々の食い物を得るという点で、狩人になったのはいい選択だった。
森で仕留めた獲物を捌いて、野菜なんかと交換する。こっちじゃ物々交換が普通だから、食う物には困らない。農業だと、土地はいるし、収穫まで時間が掛かるしで、大変だからな。
女神?からもらった武器は、槍だった。
使おうと思うと右手に現れるし、いらなくなったらすぐに消せる。投げて獲物に刺さっても、だ。でかい獲物には何回も投げて弱らせられるから、すごい便利だ。
弓矢に比べて威力高めだし、百発百中の技能も与えられているみたいだしで、大助かりなんだが。
ただなあ…。
あの女神、絶対、スローライフとかけてただろ。
どこまでダジャレ好きなんだよ。って、今度会ったら言ってやりたい。
はい、というわけで、スローライフです。
どこかで「なろうのスローライフものは、本当にスローライフを送る気ないだろう」という意見を読んで、「うんうん、そうだねぇ」と思いつつ、本当のスローライフとして、狩猟生活と物々交換なら、なんとかなるかな?」と思ったのが、これを書いたきっかけでした。
クスッと笑っていただければ幸いです。