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作者: 神田

考えていた、否、考え続けている。

死とは何か。

終わりとは何か。

命とは何なのか。


物心ついた時から絶えず思考し続けた。

身近な者が亡くなった時、飼っていたカブトムシが死んでしまった時、釣った魚が藻掻くのを押さえ付けて殺した時。

皆一様に動かなくなる。

人も、虫も、魚も、何もかも平等に。


錬金術師達の求めた賢者の石は、不老不死の薬を作る為に必要だと言われている。

では不死とは何か?

死が動かなくなる事であるならばどれだけ時が経とうと動き続けられる、それが不死という事なのか?


否。

そもそもの定義が間違っているのだ。

死とは肉体的な滅びでは無く、考える事を止めてしまった時、それが死なのではないか?

仮に身体は生き長らえていたとしても、自我も無くただ生命維持活動をしているだけ。

それでは物、機械と何ら変わらぬではないか。


恐らく死というものはもっと身近にあり、そして、一般的な定義でいう生者の中にもあるものなのだろう。

私は死にたくない。

が、考えれば考える程、死はより身近なものとなり、振り払う事のできぬ恐怖となる。

だが同時に、身近なものになればなるほど理解は深まる。


私の先輩に、恋人を病で亡くした人がいた。

彼は毎日亡くなった恋人の写真の前に、一人分の食事を作っていた。

初めは何をしているのか分からなかったが、今なら分かる気がするのだ。


彼が考えている、つまり彼の意識に彼女がいるならば。

彼の観測する世界の中では彼女は間違いなく生きているのだ。

器は確かに壊れたかもしれない。

が、中身、本質は生きているのだ。

彼の意識下に存在する彼女は紛れもなく生者で、今も昔と変わらず彼と話をしているのであろう。


人は既に不死の技術を持っていたのだ。

だが誰もそれに気付かずに死を恐れ、いつか来る滅びを怯えて待つ。

なんという事か。

私は違う、私は滅びぬ。

例え器が朽ちようと私の意識は終わらぬ。

不死である。


もう一つ気付いた事がある。

人は皆空想し、各々の世界を頭の中で作り上げる。

それぞれにとってその世界は本物であり、その世界に生きるものもまた本物であるのだ。


よく、強く思えばその通りになる、というなんともオカルティックな話がある。

あれは決して現実的に影響を及ぼすものではないかもしれない、まぁ気持ち的には上向きになる可能性は上がるかもしれないが。

だが脳内に自分だけの世界、理想通りになれる世界を作る事は可能なのではないか?


それからというもの私は常に思考し続けた。

ひたすらに理想の世界を目指し、思考し、そして作り上げた。

全てが理想通りの世界。


だが何たる事か。

私の世界の人々はいつしか争いを始めたのだ。

自らの権力を求め、他者を蹴落とし、それはまさに混沌であった。


そうか、そうなのか。

かの有名なアインシュタインは世界の果てを見て、人は愚かだと言う意味を込め、あの舌を出した写真を残したという。

彼は既に知っていたのだ。

人が不死である事も、世界の作り方も、その果てに何が起こるのかも。


もう後戻りはできぬ。

私の中に作られたこの【本物】の世界は既に無かった事にはできないのだ。

こうして私は、自らの愚かさ、無知を恥じながら、身体が朽ちようと終わる事の無い絶望と共に生き続ける事となってしまったのだった。


これを読んでいる方へ。

どうか貴方はこうならないでほしい。

自分が無欲である、優秀であるなんて思わないでほしい。

人は愚かな生き物である。

行き着く先は必ず争いに満ち、誰もが苦しむ世界となるのだ。

どうか、どうか貴方はそうならないでほしい。

有限だからこそ生命は尊いものなのだから。

ありがとうございました。

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