バラバラの願い 2
???「前回のあらすじ!
怒った!
以上!」
黒人「いやいや短すぎだろ!真面目にやれよ!給料下がるぞ!」
???「何で私に向かって怒るの!なんで私の給料が下げられるの!何故だ!」
黒人「坊やだからさ」
レアール「・・・」
今回はちょっと描写が難しいので三人称でやります。
大臣に王暗殺の罪を擦りつけられた少年、志田黒人。
彼は世界を、人間という存在を恨んでいた。
それは、彼の過去が影響していた。
彼はとても強力な、そして沢山の悪意を受けて育った。
だからズレてしまった。
壊れることは彼自身が許さなかったから。
それはズレとして現れた。
外面は普通に見えるかもしれない。
だが、彼が本当の意味で心を許す相手はそうそう現れることはないだろう。
何故ならば、彼すらも知らない心の奥底では未だに復讐の炎は消えてはいないのだから。
3歳の頃。
彼は普段怒っている両親も、きっと自分の力だけで立ち上がって、歩く姿を見れば褒めてくれるはず。
そう信じて疑わず、必死に練習した。
そう。全ては両親の愛情を受けたかったから。
そして彼は両親に歩く姿を見せた。
だが、そんな努力をした彼に帰ってきたのは、罵倒、そして暴力。
彼は考えた。
幼い身ながらも、必死に考えて考えて、毎日を努力し続けた。
どうしたら両親は喜ぶのか、どうすれば自分は怒られないのか。
そうして親から常に悪意を注がれ続け、彼は小学校へと入った。
そこで待っていたのは、いじめであった。
両親にひたすら罵倒され、暴力を振るわれ続けた彼は、少しだけ歪んでしまっており、そのせいで気味悪がられ、いじめをうけたのだ。
頭が良かった彼はすぐに先生に相談したが、帰ってきたのは自分で解決しろ、の一言だった。
どの先生に言ってもそれは同じで、彼は本能的に悟ってしまったのだ。
世界は何処までも残酷で、人間というのは悪意を撒き散らす害悪なのだと。
それからいじめは更にエスカレートしていき、しまいには教師までもいじめに加担した。
彼の絶望はどんどんと、酷くなっていったのだ。
やがて、壁を作る事により、黒人は一見、普通に見えるようになった。
(俺は一体何を思い出しているんだ。あれか?もうす ぐ死ぬからって、走馬灯かなんななのか? 消えたはずの小学校の頃の記憶もあるし……)
現在黒人は、手足を縛られて固定され、魔法封じの首輪をつけられて、今にも落ちて首を落とさんとする銀色の輝きの下にいた。
王は演説していた。
自身の欲求を発散出来る機会だったから。
自ら処刑人になることを選択した。
「皆の者よく聞け!こやつは儂の命を狙って暗殺者を仕掛けてきた!しかもだ!それだけに留まらず、料理に毒を入れたり、常に儂を付けねらっていた!」
(クックック……愉快だ。まさか儂の命を狙っているのがあのクズでないと、普通の冤罪だと知ったらどういう顔をするだろうか……)
王は、サナム・ドヴェルという男はクズであった。
人を蔑み、踏み躙るのを何よりも喜んでいた。
「だからこれは!見せしめなのだ!儂に逆らえばこうなるという!」
この男の願いは、他者の破滅。それと、自身の快楽。
レアール・カラニフェンは疑問に思っていた。
何故クロトが捕まったのかを。
(あの兵士がクロトを捕まえに来た時に言っていた言葉。あれはどう考えてもおかしい。とてもちぐはぐで、少しつつかれればボロを出しかねん程に。
だとすればきっとどこかの貴族が差し向けた暗殺を擦りつけられたのだろう。)
(この感情は何なのだろうか。私は、彼に何かを期待していたのかもしれない。それで彼では駄目だと、落胆しているのやもしれぬ。)
(不思議な男だった。あの時に発したあの憎悪が深く、深く篭ったあの言葉は、きっと幼少期から受け続けてきた理不尽へのせめてもの叛逆だったのだろう。)
(なんとも不思議な気分だ。ここであの男が死ぬことに安堵している自分と、死ぬことに止めさせたいと感じている自分がいる。)
(今まで、たった一度だけしか、感じたことのない想いだ。これは、この想いはきっと……)
レアールの願いは、強者、そして、愛。
恵はずっと、考えていた。
(私は、どうしようもない人間だ。彼が嫌いになるのも当たり前。聖女だなんてクラスにあるけど、その本質は彼の嫌う人間と同じ、人を蹴落として喜ぶ生物なんだ。)
(彼は私を助けてくれたと言うのに。なのに私は裏切った。私は最低だ。でも、だからこそ、私はそこから抜け出したい。)
(彼に嫌われたくない。彼には笑っていてほしいから。だから私は願う。彼の幸せを。どうしようもないと分かっていても、それでも、奇跡にすがるしか無かったのだから。)
恵の願いは救い。他者を救いたいと、願う。
黒人は思った。
もうここで終わりなのかと。
(俺は、ここで死ぬのか。それも良いのかもしれない。だって死んでしまえば楽になれるのだから。)
そこまで考えていた黒人だったが、不意に、とある記憶が蘇った。
それは、幼少期の記憶。黒人が変わる原因となった、異能力を手にするきっかけの出来事。
でも、それはきっかけに過ぎない。
本当に異能力を手にした時ではない。
これは、封印された記憶のほんの一部分。
黒人は泣いていた。
ただ、公園のベンチの上で膝を抱え、頭を抱き、泣いていた。
そんな彼に近付く1人の少女がいた。
桃色の髪をした、人形のように華奢で、今にも折れてしまいそうな手足をしていた。
「何を泣いているの?」
「僕は……もう嫌になったんだ。」
「何が嫌になったの?」
「僕はきっと世界に嫌われている。全てに嫌われている。 両親は僕が何をしても邪魔にしか思わないし、他の皆は僕をいじめ続ける。先生だって皆の味方をする。きっと僕はいらない人間なんだ。」
「そんなことは無いんじゃないか?」
「君に何が分かるんだ?僕のことを何も知らない癖に!」
何も知らない少女に対して八つ当たりをしてしまう程、黒人の心はボロボロだった。
「分かるよ。だって私は、君が苦しんでいることを知っているから。君が泣いていることを知っているから」
「それは分かってるに入らないよ……僕は決心したんだ。ここで死ぬって。死んだら楽になれるから……」
「へぇー死ぬんだ?逃げるんだ?」
「一体何を……」
困惑している黒人を放置し、少女は続ける。
「君はさ、死ぬってことが本当に救いだとでも思ってるの?そんなことは無いんだよ。死ぬっていうのはただ、虚しいだけ。君がそんなことをしても何も変わらないし変えられない」
「・・・」
「でもね、私は一つ言いたいことがある。困った時は誰かが助けてくれるなんて思うのはおかしいよ。
世界はそんなに甘く出来てない。だから、変えるには、変わるには力を手に入れなければいけない。
自分で、自分一人ででも何とか出来る力を。これだけは覚えておいてね」
そして少女は続ける。
変わる原因となったその言葉を。
「ただ助けを待っているだけの人には、誰も何もしてくれない。」
その言葉は、黒人の心に深く入り込み、逃げ続けていた心を捉える。
「そうだ。僕はただ逃げていただけか。死ぬのだって今を見ていない証拠。ははは。笑っちゃうよ。僕は人間が嫌いなのに僕を助けるのも人間なんてね。ふふふ。僕は決めたよ。変わる。いや、変わってみせる」
「本当に変われる?」
「あぁ。少なくとも、君が僕だと分からないぐらいにはね。」
「そう。よかった。」
安心したかのような表情をして、少女は続けた。
「じゃあ、私に、変わったあなたを見せてね?」
「勿論。僕の名前は、僕の名前はーーー」
そこでノイズが走る。しかし、その言葉だけは届かせるという意思を感じさせた。
「僕の名前は幽冥黒人だよ。」
「私の名前は、ーーーー」
しかし、その言葉を聞くことは出来なかった。
それでも、黒人は思い出した。
(そうだったな。なんでこんなに大事な記憶を忘れていたんだろう。俺は、ただじゃ死んでやらねぇぞ?)
黒人の願いは、生、そしてーーー
そこには、様々な願いが集った。
そしてそれは、奇跡を呼び起こす。
バラバラで、一貫性のない願いは、一つに纏まる。
〜〜〜〜〜
"契約を行うか?"
(突然、俺の脳内に言葉が響く。
そして俺は、こう答える。)
"あぁ。死にたくねぇからな。契約ぐらいなら、幾らでもしてやるさ。"
"よかろう。今ここに、願いの火は灯る"
<契約が行われました。異能 【呪印】を獲得しました。>
<願いが叶いました。異能【原点回帰】を獲得しました。>
それは本来ならば、交わることのない願い。
他者の破滅や救いの願い強者を求める願い、そしてある種の愛。生にすがる願いに、そしてーーー。
全てが混ざり、矛盾した異能力が生まれた。
それは、歪んでしまってもなお、愛を持ち、救いを持った救世主。
そして黒人は語る。自身に思いもよらぬ変化をもたらすその言葉を。
「てめぇら全員!覚えておけよ!俺がこの程度で死ぬと思うな!!」
そうして、刃は落とされた。
呆気なく首は転がって、空を眺める。
何も言わずに。
ーーその日、処刑場にいた全ての人間が、悪夢を見た。と語る。どんな内容かは覚えていないが、この世の物とは思えない程の恐怖だけが、染み付いたのだった。ーー
〜〜〜〜〜
処刑があった日の真夜中。
処刑場に近づいて行く一つの影があった。
「うひひひひ。こんだけ怨念があればきっと最強の化け物が作れるぞ……」
その影の正体は、黒人のクラスメイトである、高崎啓司だった。
啓司は、昔からよくいじめられており、復讐の機会を狙っていた。
相手は学校に通っている生徒全員。
啓司はいじめられ続け、歪みに歪み、相手が関係無くても、同じ学校と言う理由だけで復讐の対象と見ていた。
そんな彼が手に入れたスキルは、[死霊合成]。
効果は、あらゆる物と死霊を融合させるという物だった。
その効果を見て、死霊同士を合成させ続けて最強の化け物を作り出そうと画策していた。
「あひゃひゃひゃ!ついについに復讐が出来るんだ!」
そして彼は死霊合成を発動させる。
その先は地獄しかないというのに。
彼が発動すると同時に、辺りには全てを飲み込まんとする暗黒、そして対照的なとても明るい、全てを照らそうとする光。
その相反する二つの力は混じり合った。
しばらくして辺りが落ち着いてくると、そこには1人の人物が、いや、化け物が立っていた。
髪の毛の色は赤や黒黄色青緑白紫などの、様々な色が混じり合っていて、目の色は右が緑で左が黒。
肌の色は、継ぎ接ぎなどはないのにもかかわらず、明らかに元から色が違うと思われる色をしていた。
病的なまでに真っ白なところもあれば、やや黒いところもあったり。
そして、頭の上には、銀色に輝く二つの狼の耳。
更には真っ黒な尻尾まで生えていた。
だが、その目だけは生気を完全に失っており、意思を感じさせなかった。
そして、それは口を開いた。
「ここは一体何処なんだ?」
それの中には、沢山の悪意が燃え盛っていた。
無理矢理合成され、一つに纏められた怒りがそれの内側にはあったのだ。
「うひひひひひっやった!やったぞ!僕は遂に成功させたんだ!」
だが、この少年がそれに気付くことは無かった。
例えば気付いていたとしても、無駄だっただろうが。
「お前は一体誰だ?」
「僕は高崎啓司、お前の名前はなんだ?」
「俺に、名前か……そんなものは存在しないな」
それは会話を続ける。
会話することによって、何かを取り戻せそうだったから。
必死に、無尽蔵に湧いてくる殺意を抑え込んでいた。
しかし、完全に抑えきることは出来ず回りに溢れ出してしまっていた。
それでも、啓司は気付かない。
復讐出来ることに喜び、回りが見えていないのだから。
そしてそれは、どこで手に入れたか分からない、所有という力を使い、死霊合成を所有した。
「取り敢えず、お前はもう用済みだ。」
「は?一体何を……」
それの腕が啓司の胸を穿つ。
啓司は理解していなかったのだ。
死霊が素直に従うはずなど無いのに。
「俺は……誰なんだ」
化け物は呟く。
自分を取り戻す為に。