二:出現(1)
「雪だねぇ」
「スキー場に雪がなくてやっていけるわけないだろう」
ポツリとつぶやいた鈴の声に、永遠が冷たく言い放った。
「そんな言い方しなくてもいいじゃない・・・。滅多に見られない雪なんだからさ」
鈴が幼子のように頬をふくらませる。
「寒いだけだろう」
今日永遠と鈴の高校では修学旅行が行われていた。
3泊4日のスキー体験で全て終わらせてしまうという、簡単な旅行だ。
「ほら、行くぞ」
あの廃墟での事件以来、二人は文句を言い合いながらも、しょっちゅう一緒にいる。
自分は独りぼっちだと思っていた永遠と鈴にとって、同じような生い立ちを持ち、同じような力を持つお互いは、他の友達とは違う、かけがえのない存在だからだろう。
「あ、待って!」
鈴は先を進む永遠に追いつこうと足を速め、案の定スキー板をつけていることを忘れ、勢いよく前のめりに転んだ。
「・・・スキーしてて前のめりに転ぶ人珍しいぞ」
そう言いつつも、永遠は鈴の元に戻ってきて、手を差し伸べる。
「ごめん」
鈴は素直に頭を下げた。
今日は修学旅行初日だというのに、予定の講師がなだれでこられなくなり、という理由で、自由行動となっている。
7つのポイントに教員がいて、何か問題が起きたときはそこにたっている教員の誰かに連絡することだけ説明を受け、あっという間に自由行動となってしまった。
「ここあたり、誰もいないね」
鈴が少し目を閉じてつぶやく。
「誰もいないのか?」
「うん、みんなリフトのところに集まってる。こんな山奥の初心者コース、まぁ高校生になもなればいないと思ってたけど・・・。永遠君、そんなに上手いのに、上級者コース行かなくてもいいの?」
「別に、どこにいってもスキーしてるのには変わりないし、寒いだけだろう」
心配そうな鈴の言葉に、永遠はそっけなく答えた。
永遠は、運動音痴な鈴のために、一緒にスキー板を持ち、長い階段を上り、わざわざ初心者コースにやってきたのだ。
「あ、勘違いするなよ。僕は他の人間と喋るのが嫌なだけだ。別に、君のためを思ってきたわけじゃない」
「勘違いなんて、してませんよーだ」
雪より冷たい永遠の台詞に、鈴がべー、と舌を出す。
「とにかく、君には上達してもらわないとこっちが困る。宿に帰られなくなるだろう」
永遠の言葉にさらに毒が増した。
「あ、ちょっと待ってってば!」
転びかけた鈴の体を、永遠がすんでのところで支える。
「・・・早く上達しないとね・・・」
鈴が反省したようにつぶやいた。