一:消失(17)
後日、永遠と鈴は二人でもう一度廃墟を訪れた。
「・・・」
大きな建物が、空を覆うようにそびえたっている。
「・・・あの二人は、いるか?」
永遠が廃墟を見上げたまま鈴に尋ねた。
鈴は少し考えるように目を閉じた後、
「ううん」
と、首を横に振った。
「そっか・・・」
おそらく、あの日、鈴と永遠が訪れたことによって、沼市は焦りを感じたんだろう。
緒方雄二は、あの誘拐事件の後、沼市と顔を合わせていることがわかった。
沼市はこの場所を探されるのを恐れ、約束の場所を変えたようだ。
「沼市司さんって、本当にいい人だと思うよ」
「何で?」
「だって、私だったら自分の娘が死んじゃったら、すっごいショック受けてたぶん狂っちゃうから。それを、他人の子まで守ろうとするなんて、私はできないな」
「・・・」
不意の鈴の言葉に、永遠は何も言わなかった。
「帰るか」
そして、踵を返して歩き始める。
「あ、まって」
鈴は永遠の背中を追いかけた。
「本当にいい人、だったのかな」
「え?」
「もし僕が殺されたら、他人の心配よりも自分のことを嘆き悲しんでほしいと思う」
「そんなもんかな」
「あくまでたぶんだけどな。だから、道中有理という少女がどう思ったのか、なんてわからない」
「ふぅん」
二人の会話は、そこで途切れた。
「ねぇ、また語学研究同好会に行ってもいい?」
鈴が永遠に問う。
「・・・次来る時は、厄介な事件を持ち込まないでくれ」
「はーい」
そう言って鈴は小さく笑った。