一:消失(15)
「さて、知っているかどうか知らないが、世の中には『科学者ほどだましやすい』という言葉がある」
永遠が意味深にそう言った。
「もちろん、全ての科学者に当てはまるわけではないが、多くの科学者は、目に見えるものを現実として捕らえてしまいやすい。目に見えるものも大事だ。けれど、目に見えないものこそ、今回の事件をとく鍵だった」
鈴は、黙って永遠の話を聞いている。大外は、椅子に踏ん反りがえったまま、目を閉じていた。
「まず、今回は被害者として成り立っている松田雄一と水谷環子について解明していこうと思う」
そう言って永遠は、部屋の隅に置いてあったホワイトボードと専用のマーカーを取り出し、『松田雄一』『水谷環子』と書き込んだ。
「この二人は、過去にある失態を犯している。それは何か―――――?この問いの答えとなる鍵は、四つあった」
そう言いながら、永遠はホワイトボードに『道中有理』『緒方雄二』『沼市司』『道中秀夫』と書き込む。
「緒方雄二と沼市司の関係は、表面上は君も察しの通り、“被害者”と“加害者”だ。沼市司は、緒方雄二を誘拐したんだ。では、残りの二人の関係は何か?
まず、道中有理と道中秀雄。この二人は、親子の関係ではあるものの、実の親子関係ではない。しかも、今回の場合は“被害者”と“加害者”の関係でもある。秀夫は、有理を殺したんだ」
戦慄が走った。
親が子供を殺す。
いくら血縁関係が無かったとしても、そんなことが出来るだろうか?
大外は、信じられないというような表情をしていたが、鈴は心のどこかで納得していた。
実の娘、息子を気味悪がり、捨てる親だっているんだ。
血のつながりの無い、いわば赤の他人を殺すなど、今、日常で起きている殺人事件と同じではないのか?
そう思ってから、鈴は身震いした。
同じ。
そう考えてしまっている、自分が恐ろしかった。
頭を垂れ、気持ちを切り替えるように首を振る。
今は、事件に集中する。
そう重い、永遠の言葉を待った。
「では、この四人と松田、水谷の関係は何か?―――――二人は、片方の事件に関与していた」
悔しそうに永遠が唇をかむ。
「二人は、道中有理の殺しを、手伝ったんだ」