一:消失(12)
「沼市司・・・と」
鈴は自身のノートパソコンを起動させ、キーボードをたたく。
「こんなの調べて、何になる・・・」
画面に目を戻しながら独り言をつぶやくが、画面の文字を見て続きの言葉が出なかった。
「なっ・・・」
驚きにそれ以上言葉が続かない。
『七歳の少年行方不明。職務質問中に男逃走』
という見出しから始まる記事。沼田司という人物が、まさか、こんな人物だとは思わなかった鈴は、画面に首付けになった。
『笠置市愛栄町で緒方雄二君(7)が行方不明になった事件で、市内の国道で沼市司(48)を職務質問中、突然叫びだし担当していた警察がひるんだ隙に車を発進させ、逃走した。男は、矢鷺市方面に向かったという。警察は、男を重要参考人とし、現在捜索中だという』
彼は、こんな人物を探していたのだろうか?
鈴は驚きのあまり頭の中で高速に思いがよぎった。
それに、この事件が、環子さんたちを解放する手立てになるのだろうか?
そんな疑問が鈴の頭をよぎる。
けれど、鈴は自分自身の思いに大きく首を振った。
今は、永遠君を信じるしかない。
鈴はそう思い、さらに検索を続けた。
「さて・・・」
鈴が帰宅した語学研究同好会室。永遠が一人、過去の資料をあさりながら考え事をしていた。
「松田雄一・・・水谷環子・・・過去・・・百円玉・・・子供・・・父親・・・」
ぶつぶつと呟きながら、屋代が過去に警察署から拝借してきた資料をわしゃわしゃとかき集める。
「この条件に合う事件・・・事件・・・事件・・・」
手がそばにあった鈴のハンカチをつかんだ。
「・・・」
永遠は、鈴に今までとは違う雰囲気を感じていた。
それは、彼女が千里眼の持ち主だったからだ―――――。
永遠自身、その理由で納得している。
けれど、それだけではないということもわかっていた。
千里眼を持っていなくても、どこか、違った。千里眼のことに気づく前から、思っていた。
今までの依頼人や、触れ合ってきた数少ない人、それに、屋代とも違う鈴。
永遠が、今までに自分の能力の話をしたのは、屋代だけだった。ほかの人に話したって、気味悪がられるだけ。それはわかっている。
なのに、いとも簡単に鈴に告げてしまった。
「何でだろうな・・・」
その答えは、まだ、出ていない。