一:消失(11)
「ねぇ、永遠君?」
外が徐々に暗くなりかけ、鈴はたまらず声をかけた。
「・・・あれ?君、まだいたのか?」
永遠が少し遅れて返事をする。
「だって、永遠君が何も言わないから・・・」
「何も言わなくたって、時間がたったら普通帰るだろう?」
「勝手に帰るほうがおかしい!」
鈴が噛み付くと、永遠はしらっとした顔で返した。
「今までの客は、勝手に帰るのが普通だったけど?」
そりゃ、今までの依頼人がおかしいのよ!
さすがにそこまでは言えず、鈴は黙って帰る準備をし始める。
「君、パソコンは使えるのか?」
「え?」
永遠が不意に声をかけた。
「パソコン」
「使えるけど・・・」
「ネットはつながってるか?」
その質問に鈴はうなずく。
「調べてもらいたいことがある」
「調べること?」
「“沼市司”という男の情報を些細なことでもなんでもいいんだ、集めてくれ」
「沼市・・・?」
怪訝な顔の鈴にかまわず、永遠は勝手に話を進める。
「じゃあ、頼むよ」
鈴はしぶしぶという表情でうなずいた。
「じゃあ、また明日きます」
「あぁ」
語学研究室の扉がゆっくりと閉まった。
「ったく、永遠の奴厄介なこと押し付けやがって・・・」
屋代はタバコを咥えたまま資料室をあさっていた。
「ここは喫煙禁止だぞ」
「んあ?」
扉の方を見ると山壁がたっている。
同い年にもかかわらず、司令官にまで登りつめたエリートだ。
「一体何を調べているんだ?」
「お前には関係ないだろう」
「俺は、ひとえにもお前の上司だ。上司には、部下のやっていることを把握する義務がある」
「過去の事件を調べてるだけだろ」
屋代は山壁を鬱陶しそうにみる。
「なぜ、そんなものを調べる必要がある?」
「知るか」
「知るか、だと?」
山壁の表情が険しくなる。
「頼まれただけなんでね、知りたければ大智永遠に聞きな」
「あの、高校生か・・・」
「おっと、口ではそうも言いながら、前の事件であいつに依頼したそうじゃないか。結局、あいつの推理力が必要なんだろう?」
にやりと屋代が笑った。
「・・・余計なことに、首を突っ込みすぎるな」
山壁は吐き捨てるように言うと、資料室を出る。
「けっ・・・いけすかねぇ野郎だ」
屋代がタバコを携帯灰皿に押し付けた。
結局、あいつも永遠のことを利用価値のある機械としか思っていないんだ。
舌打ちをして、再び永遠に言われた資料を探し始める。
「あの子は・・・」
屋代の手が再び止まる。
思い出したのは、鈴の姿だった。
「あの子は・・・永遠のことをわかってくれるのか・・・」
屋代の頭の中で、永遠と鈴の姿が重なる。
「あの子も、訳ありそうだったな・・・」
タバコを取り出して、ライターで火をつけた。
美味そうに咥え、息を吐き出す。
「まぁ、大丈夫だろう」
屋代は資料を探し始めた。