一:消失(10)
「ご・・・ごめんなさい・・・」
鈴は涙が止まった後、顔を真っ赤にして謝った。
「別にかまわない。僕だって、君に身の上を語ってしまったからな。それより、あんまり目をこすると、腫れるぞ?ま、もともと腫れたような顔だけどな」
「・・・一言多いんですよ!」
永遠の台詞に、鈴はむっとして答えた。
初めてだ。こんなに素直な言葉が出たのは。
「事実だろ」
永遠は苦笑いをして鈴を見た。
「それより、あの事件の犯人を探らないと、水谷環子という女性がなぜあんなふうにうなされているかを解明出来そうにはないな。これは、ちょっと料金の追加をしてもらわなきゃいけない」
「そんな事聞いてませんけど」
鈴が冷たい目をして永遠を見る。
「さっき思いついたんだから、しょうがないだろう」
永遠がしらっとした表情で答えた。
「その代わり、追加した料金分ちゃんと解明してくださいよね、大智さん」
「・・・その、大智さんってのと敬語は止めてくれないか?同年代の人間からそんな風に言われても、いまいちしっくり来ない」
鼻の頭を掻きながら永遠がいう。
「じゃあ、なんて呼べば?」
「名前でいい」
鈴はちょっと考えてから、
「永遠・・・君?」
といった。
永遠が満足したようにうなずく。
「ねぇ、今までの依頼人も、こんな風にため口で話してたの?」
「あぁ、最初からため口で話し掛けてきた奴も後万といる。君は礼儀がいいくらいだ。最も、周りの奴らが礼儀知らずなだけだと思うがな」
・・・また一言多い。
鈴は溜息をついた。
その時、永遠の携帯電話が鳴る。
「はい、何ですか?あぁ、例の件、調べてもらえたんですか―――――あぁ、やはり、となると―――――はい、では、引き続きお願いしますよ?」
短い会話を済ませ、永遠は電話を切る。
「誰?」
「屋代さん」
鈴の質問に、実に的確な答えが返ってきた。
それから永遠が考え込むように机に屈み込んでしまったので、鈴も黙る。
無言の間、時間だけが過ぎていった。