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君に気持ちを伝えるまで  作者: かの
2/2

誕生日から冬休み前まで

 原因は全く分からない。しかしメールは来ていないと言われてしまっては、確認の仕様もなく、解決方法もなかった。

 この時はもう必死だった。焦りと不安が無意識のうちに体を疲れさせていた。なにせ夏休みに入ってしまったのだ、これではもう連絡の取りようがない。そして迫っていたのが、青木の誕生日だった。



―――8月3日、青木の誕生日。どうやっても、何をしてでも“おめでとう”を言いたかった。この日のことは、緊張しすぎていたので、確実に思い出せることが通話時間が1時間ちょっとだったことだけである。


 スマートフォンの画面に表示されているのは青木の電話番号。さぁ、かけよう。でも今、都合悪かったらどうしよう。留守電になったらどうしよう。いや、意外と暇しててすぐ出てくれるかもしれないし。こんなのを何百回も繰り返し考えている。もう仕方ない、10回コールして出なかったら切ろう。留守電になる前に切ってしまおう。

 発信ボタンを押してから震え続ける手。あれは何回目のコールだったか、プツンと小さな音がして、確かに電話が繋がった。しかし反応がない。電話は繋がっているはずである。つい先ほどまでコールの音が響いていた脳内がまっさらになった。


「あの、青木、だよね」


「おーい」


「聞こえてる?」


「電話、繋がってるよね?」


「聞こえてないの?」


「ねぇ」


「返事してくれー」


「おーい」


「聞こえてますかー」


何か聞こえる。耳をすますと、明らかに笑いをこらえる声。


「笑ってんの?」

「いや、笑ってねぇし。」


今まで聞いたことがない、否定の意志がはっきりと感じられるような声だ。演技が上手いもんだ。


「笑ってたよね?」

「笑ってねぇよ。」

「いや、絶対笑ってた。」

「だから笑ってねぇって。てか、なに?いきなり電話すんなよ。驚いたわ。」

「ご、ごめん。今日、青木の誕生日だから、おめでとう。」


 言った。言えた。言えた。言えた。頭が熱い。指先も熱い。足の先まで熱い。体中が、体中を巡る血が沸騰している。勝手にペラペラ回る口に思考がついていかない。何を言って、何を言われたのか。口から出る言葉が止まらない。止まってくれない。このすべてが私だけに向けられた言葉なのだ。


 夏休み明け、青木に会うのが照れ臭かった。それもあって、それから学校では1度も話さなかった。そして相変わらずメールは届かない。とはいっても電話するのは恥ずかしいし、嫌だった。

 自分の部活も大会が近づいており、心に余裕は無くなり、部活以外のことを考える機会が全くなかった。



―――9月4日、大事な大事な大会の当日。無事に次の舞台に駒を進め、歓喜と安堵にまみれていた。そんなときに、不意打ちだった。あいつは本当にずるいんだ。


 部活の大会後の帰りの車の中で、感謝と喜びの報告を文字に起こしていた。やっとの思いで身内に連絡し終わったところにメールが1通届いた。私は、ついさっきメールを送った親戚のおじさんからの返信だと思い、メールボックスを開けた。


『全国出場おめでとう!』


 青木からだった。どこから伝わったのか、なぜもう知っているのか。その短い言葉を目にした瞬間、私は反射的に電話をかけていた。

 大会が終わった直後ということもあり、頭が追いつかなかったが、とりあえずメールのお礼と大会について話した。「全国大会ってどこでやるの?」と聞かれたので場所を言うと、「じゃあ、お土産待ってるわ~」と冗談口で言った。


「あのさ、実は今、自転車乗ってるんだよね。」

「え、そうだったの!ごめんね長電話しちゃって。」

「いや、大丈夫なんだけど、雨も降ってるからそろそろ切っていい?」

「分かった、じゃあね、今日はありがとう!」

「おう、お疲れ、じゃあ。」


 雨の中、自転車に乗りながら電話してくれていたなんて。途中で、話が終わったときに電話を切ってもよかったのに。思えば、少し電波が悪いなと感じるときが度々あったし、声が聞こえづらくて私が聞き返したとき、大声になってたし。「ごめん、聞きづらい?」って言われたときに気づけばよかったな。

 でも本当に嬉しかった。ネットか何かで結果を知って、わざわざ私に連絡をくれて。青木に認識されていたことがなにより喜ばしかった。



―――11月8日、学校の帰りに駅で青木と会う。全国大会が終わって10日ほど経っていたが、あっちも1人だったので、ちょうど良かった。やっと大会のおみやげを渡せると思って嬉しくなったのを覚えている。


 大会が終わって、帰りに空港で買ったご当地キーホルダー。青木の教室に行くことも考えたが、勇気が出なくて渡せていなかったおみやげ。よかった、これで渡せる。


「ね、青木!」

「あぁ、なに。」


少しトゲがある言い方だった。いつもより眠そうだし、どうも今日は機嫌が良くないっぽい。


「これ、前に言ってた大会のおみやげ!」

「いらねぇ…」

「え、どういうこと、おみやげ欲しいって言ってたじゃん。」

「言ってない、いらないから。」


そう言い捨ててホームに行ってしまった。


 そのあとは、何も考えられなかった。いや、考えていた。なにか気に障ることを言ったか、記憶にある限り会話を振り返った。嫌われるようなことはしていないと思っていた。大会のあの日から、連絡は取っていなかったし、会って話もしていない。なのに、どうして。


 それ以降、青木と連絡を取ることはなくなった。なにより怖かった。おみやげ待ってるって言ってたのに。拒絶されることが、こんなに怖いなんて知らなかった。




―――12月20日、青木と同じ部活に所属している男子とメールをしていた。彼から、青木のことが好きなのか聞かれる。青木がその友達に私が頻繫にメールを送っていたことを話していたらしい。そして、最も聞きたくなかった言葉を耳にすることとなった。


『お前って青木のこと好きなの?』

『え、なんでそう思ったの』

『青木がお前からよくメール来るって言ってたから』

『本人が言ってたの?』

『それ以外に誰がいるんだよ、だから、青木のこと好きだからじゃないかって言ったよ』

『は?何勝手に言ってんの、意味わかんない』

『俺は予想を言っただけ。てか、あいつ彼女いるけど。』

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