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君に気持ちを伝えるまで  作者: かの
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出会いから1度目の夏休みまで

 君のおかげでたくさんのことを感じました。出会えてよかった、でも、もう忘れようと思います。これが最後、君のことを語るのは終わりにしよう。私は前に進みます。

 この話は、実際に体験した、本当にあった話です。人生で1番、気持ちが揺れ動いた日々を書き残しておこうと思います。

―――7月2日、青木と出会った。

 チャックが完全に締まったジャージの上を頭から被って、弱い敵キャラのような図体で私の前に現れた。だから第一印象も何も、会話はおろか、顔すら見ていない。学校指定のジャージだったおかげで苗字だけを認識したのは覚えている。


 初めての学校祭まであと1週間ちょっと。中学の学校祭……というか文化祭は、各クラス合唱を発表するくらいしかなかったから、飲食物の出店とか、ゲストにアーティストを呼んでライブとか、いきなり規模が大きくなりすぎてワクワクを越えてドキドキする。学校祭の準備時間は休み時間の延長。準備が進んでいる実感は全く無いが、この雰囲気が高校生の学校祭の醍醐味という感じだ。

 放課後の空いた時間があれば教室へ行き、一応、先生が見に来ても作業してると思われるようにくっつけた机に壁新聞用の大きな紙を広げておき、その周りでお菓子パーティー。ザ・高校生な良い時間…。

 この日も部活が終わってから、少しだけでもクラスに顔を出そうとドアを開けると、中にはクラスメイトの男子1人とジャージを被った誰かが1人。直感的に関わらないでおくべきと判断し、そことはある程度距離を取って壁新聞を広げた。

 次の日の学校祭準備時間、昨日の放課後に残っていたクラスメイトと喋りながら作業をしていたから、ジャージの人について聞いてみた。


「あいつは乗る駅が同じで、一緒に学校来てるんだ。面白いよ。」

「中学が同じだったの?」

「いや、違うけど。あ、ほら。」


クラスメイトが廊下を歩いていた人に声をかけると、眠そうな顔でこちらにやって来た。どうやら昨日のジャージ人間の正体はこいつらしい。


「確か、青木…くん?」

「え、何で俺の名前知ってんの」

「昨日うちのクラスに居たよね、ジャージの名前見たから」


 納得した様子で「あー、なるほど」と言いながら向かいの席に腰掛ける。そのあと2時間くらい喋っていたが、全く飽きず、笑いが止まらなかった。それから学校で会ったら少し話したり、学校祭の準備時間には青木が私たちのクラスに来るようになった。

 学校祭が週末に迫ったある日、帰りの駅に青木がいた。友達と青木に声をかけ、電車が来るまで3人で話していると、友達が青木に連絡先を聞いたので、私もそれに便乗した。友達は、“連絡先を聞く”というか、ラインを交換しただけのようだった。私はSNSが使えず電話番号のみだったので、本人に電話帳登録をしてもらった。

 友達が帰る方面の電車が前の駅を出たのを知らせるアナウンスが改札口に響く。私は逆の方面だったが、友達と一緒にホームへ行くため、青木と別れ、改札を抜けた。

 薄暗く寂れた、午後6時を過ぎれば無人駅と化すような駅のホームで1人電車を待っていると、青木のことを思い出した。メール、送ってみようか。電車を待つ間は何せ暇なのだ。とりあえず一言だけ、『おーい』と送った。花の女子高生とは思えぬ、何とも愛想のないメールだ。

 返信はすぐに来た。『お茶』。………“おーい”だから“お茶”、ということか。普通、なに?とかじゃないのかなぁ。今までに会ったことの無いタイプの人間のようだ。

 それからメールでのやり取りは続いた、というか続けた。



―――7月13日、学校祭当日。

 私のクラスと青木のクラスの出店の場所が偶然にも隣で、かなり嬉しかった。今思えば、このときにはもう好きになっていたのかもしれない。


「青木、クラT書いて!」


 高校生の学校祭には定番らしい、クラスTシャツ。私のクラスのTシャツは赤の無地、後ろに学校名がプリントされた、シンプルなデザインだ。このTシャツにメッセージを書き合うのが恒例行事のようで、もちろん、青木にもお願いした。


「おー、分かった。じゃ、後ろ向いて。」


どうせなら前側の裾あたりに書いてくれたら、書いているところも見れたのにと思ったが、メッセージを読むのは帰ってTシャツを脱ぐときの楽しみにしよう。


「はい、書いた。俺のも書いてよ。」

「おっけー。」


 私が書きやすいようにTシャツを伸ばしていてくれる。喋っていて楽しいとか、当たり障りのないメッセージを書いてしまったが、油性ペンだし、もうどうしようもない。

 青木は係の仕事があり、学校祭2日目は会えなかった。仕方ない。それなりに楽しんで、初めての学校祭は幕を閉じた。



―――7月17日。帰る方面が同じで、一緒に帰る。

 自然に振る舞うことに必死で、どんな会話をしたかほとんど覚えていない。ただ、SNSのアイコンにプリクラを使うのは好きじゃないと言っていたのは記憶している。


 学校祭も終わって部活が忙しくなりはじめ、真夏が迫っていて太陽の出ている時間が長くなっているとはいえ、私が学校を出る頃は昼間の明るさとは対象的に暗くなっていた。駅にも同じ部活の人ばかりで、部室と変わらないような雰囲気だ。学校祭の期間が特別だっただけらしい。改札前も混んでいるし、電車が来るまで時間はあるが、ホームに行くことにしよう。

 改札口付近とは別世界かと思うくらい、清閑な空間が広がっていた。そんな中、駅名が書かれた看板の前に誰かがいる。青木っぽい。


「あ、やっぱり青木だ。」

「やっぱりってどういうこと。」

「暗くて遠くからじゃ、誰か分からなかった。」

「部活?」

「うん、部活終わり。青木は?」

「図書館で勉強してた。」

「え、偉いね。テストまだ先なのに…。」


 青木は「だろ?」と言って軽く笑った。それからどれくらいの時間が経ったのか、私の感覚では1時間くらい話をしていたと思うが、実際はもっと短い時間だろう。せいぜい20分程度と思われる。なにせ普通列車を待っているだけである。電車が到着する時間が迫る中、青木は不意にスマホを取り出した。


「やべ、もう充電なくなる。家に連絡しようと思ったのに。」

「ゼロパーセント?どんだけ学校で使ったのさ。」


私がわざとらしく呆れたように言うと、充電してくるのを忘れただけで使っていないと反論された。


「あのさ、公衆電話でかけてくるからカバン持っててくれない?」


そう言うと改札の方へ走っていってしまった。まあ、カバン持つぐらい大したことじゃないが、しかし重い。一体何が入るとここまで重くなるのか…。カバンのチャックが空いていたので、少しだけ覗いてみたが、重さの正体らしいものは発見できず。そもそも暗いからよく見えなかった。


「さーんきゅー。」


すると、ちょうど電車がホームに来た。スローペースの各駅停車、そのおかげで少しでも一緒に座っていられる。本当は途中の駅で乗り換えれば早く帰ることができるが、そんな選択肢はとっくに頭から消えていた。


 そうして1週間ほどが経ち、突然、青木とメールのやりとりが出来なくなった。直接確認しても「メールは届いていない」の一点張りで、次第に自分の部活も忙しさを増し、高校生活はじめての夏休みに突入した。

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