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まあ……。
そのお顔だと、どうやらご存じではなかったようね。
もっとも、無理もないことでしょう。
私があなたの、そのことを聞いたのはまだあなたが小さな頃のことでしたから。
お母様は大層心配していました。
何故かというと、お母様自身がそうだからなの。
霊感があることで昔は苦労なさったのよ。
どうしてこのようなお話をするのか、ということね。
それはね……。
専門学校のその友人が私とお母様を会わせようとした理由だからなのですよ。
今、あなたのお母様は霊感があることで苦労をなさったと言いました。
ええ、そう。
友人は、お母様のその能力を利用したかったらしいの。
それがわかったのはもう少しあとのことだから、今は話を戻しましょう。
初対面のあとも、何度かお母様と会うことがありました。
もちろん、友人も一緒です。
私もお母様も、彼女に気をつかっていたことを先ほど言いましたね。
言い換えれば、それは同情でしかなかったと言えます。
私自身も友人が多いとは言えませんでした。
それでも、専門学校では楽しく過ごしていました。
お互いに好きな芸能人や歌手の話をしたり、趣味の話をしたり……ね。
友人はその輪の中に入ろうとはしませんでした。
私がいなければ、彼女はクラスで一人だったでしょう。
皆が無視をしていたわけではありません。
ともかく付き合いづらかったのです。
いつしか私も、勉強を教えることとお母様へ小説を見せるようにノートを渡すことくらいしか学校の中では話そうとはしなくなっていました。
彼女はね……。
悲しいことに私の小説には興味がなかったのよ。
それでも、彼女が新撰組の話をするときだけは生き生きとしていました。
そして私も、次第に興味を持つようになったの。
もしかしたら、彼女の話を聞くこと自体が彼女に対して同情していたのかもしれないわね。
いつも一人だったから。
でも、それも一年ほどでした。
進学が近づく頃、私は担任の教師から進言されたことがありました。
二年になるよりも、学校の事務として就職しないか、と。
昔から家族に悩み事や相談をすることがほとんどなかったと、話していたことを覚えていますか?
私は、その時はさすがに両親に相談してみました。
……答えですか?
……好きにしなさい。
それだけです。
自分の将来のことです。
親が口出すことではないということだったのでしょう。
……ああ、あなたが憤ることではありませんよ。
私はありがたい言葉だったと思っています。
何故かというと、私には将来の構図がはっきりとしていなかったから。
上の学年に上がるということは、もう一年学費が必要です。
まして、私はアルバイトなどしていませんでした。
両親は、進学するにしても学費は用意していてくれていたのです。
ですから、進学でも就職でも、私の自由に、心配はいらない、と言っていたのだと思います。
私は就職することを選びました。
理由は、お話ししたように、将来の構図がなかったということ。
二年の学習を終えて卒業したとしても、ならそのあとをどうしたらいいのか……。
まったく考えていなかったのです。
それなら進言どおりに就職すれば、卒業後の就職先に苦労はない。
そんな打算があったことは否定できません。
そしてなにより、同じ学校に就職するとはいえ、これで友人と距離をおいて、直接お母様と会うことができるようになると考えました。