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話は変わりますが、あなたは歴史の中で新撰組、というのを知っていますか?
……そうね。
今はテレビでも結構やっていますね。
でも、興味がなければ知識はその程度でしょう。
……いいえ。関係のない話ではありません。
むしろ、最初のきっかけがその新撰組だったのですよ。
あの頃の私もそうでした。
学校で習う歴史でもほんの少し、新撰組の名前は出てきたのかもしれませんが、あなたと同じでまったく興味がありませんでした。
専門学校の友人の話から続けましょうね。
私が彼女に勉強を教え、私のつたない小説に興味を持ってくれたことで次第に仲良くなっていきました。
そして、彼女が私の小説をあなたのお母様に読ませてもいいか、と許可を求めてきたとき、私は喜んだものです。
もちろん、恥ずかしさはありました。
ですが、やはり読んでくれる人がいるというのは嬉しいものです。
友人を介してでしたが、お母様は私の小説を気に入ってくれたようで、感想を述べてくれました。
私も書く意欲が湧いてきて、おかしな関係でしたが、その友人を仲立ちにして私とお母様は近しくなっていったのです。
……なぜ、直接会わなかったのか? ですか?
そうですね。
同じように小説を趣味にしていたのですから、なにも友人を介さなくてもよかったことでしょう。
あとになってわかったことですが、その友人は高校時代もやはり、友達はほとんどいなかったようです。
あなたのお母様とは親しかった。
そして、専門学校での唯一の友達は私……。
おわかりになりましたか?
そう。
彼女にしてみれば、私とお母様が会ってしまえばもう、自分は必要がない、と思い込んでしまっていたようです。
ええ。実際、そうなってしまいました。
ですが、それはまだ先のことです。
何度も何度も、友人を介して小説を読ませ、感想をもらう、そんな日々が続いていたある日、私は奇妙な夢を見ました。
最初にお話ししましたね。
私は同じ夢を見ていた時期がありました。
久しぶりの感覚でしたよ。
息苦しいほどの圧迫感でした。
ただ、違っていたのは私以外の人がいたことです。
私の前と後ろに、私を挟んで背中合わせで立っていたのです。
どちらも私より背の高い男性でした。
顔はわかりません。
二人は、刀を構えていました。
そこではじめて、私は自分が何者かに狙われていることを感じたのです。
ええ、夢の話です。
けれど、夢の中では現実としか感じられません。
二人は私の頭上で会話をしていました。
『油断するなよ、サノ』
『おまえこそ。絶対にこいつを守れ。ハジメのためだ。わかってるな、シンパチ』
今でもはっきりと覚えています。
私たちを取り囲んで、なにかよくないものがこっちに向いているというのに、二人はどこか面白がっているような声をしていました。
私は、ただ怖かった……。
次の日、私はその夢の話を友人に打ち明けました。
その時にはもう怖いという感じもなかったし、ただこういう夢を見た、と軽い気持ちで話したのです。
話を聞いたときの友人の表情は私を驚かせたと同時に、戸惑ったものです。
彼女は言いました。
新撰組を知っているか? と。
そうです。
彼女は、先ほど私があなたに聞いたことを私に聞いてきたのです。
私の答えはあなたと同じでした。
知らない、と言うと、彼女はますます驚いたようでした。
私は、まったく知らなかったのです。
今でこそ情報が充実していますから、近藤勇、土方歳三、そして沖田総司という三人の名前くらいは知っている人も多いでしょう。
ですが、その三人の名すら、当時は知らなかったのです。
彼女は、私の夢の中に出てきた三つの名前はいずれも新撰組の人だ、と教えてくれました。
ただ、その当時はほどんど知っている人はいなかっただろう、というほど小説やドラマなどには出てこなかった名だったそうです。
新撰組自体を知らないどころか、有名な人たちすら知らなかったのに、何故、三人の名前を知っていたのか……。
彼女はそれがとても不思議なことだったようです。
それから何日かして、初めて彼女は、あなたのお母様と会ってみないか、と言ってきたのですよ。