Shy*Wing*Sky
今、君に伝えたい事がある。
今伝えないと、多分長いこと伝えらんないから。
だからすぐ行くから。
「・・・待ってろよ」
12月後半、この寒空の中、少年はひたすら自転車を漕ぐ。
「寒----!!」
中学時代で一番ハジケル時期、中2の少年、朝倉翼。
一見ただのチャランポランだが、ただのチャランポランではない。
好成績、スポーツ万能、しかもサッカーや野球、水泳、卓球、長距離走など、さまざまな種目で大会で優勝している、スーパー少年なのだ。
おまけに高身長のイケメン。
女子が黙っているはずない。
毎日毎日懲りずに翼に媚びる女子。
毎日毎日お弁当を作ってあげる女子(学校給食があるというのに・・・)
たくさんの女子がさまざまな手段で翼をモノにしようとする。
まあ、幼稚園の頃からこんなんだったから、当の本人はもう慣れっこだが・・・。
こんなにモテるので、いろんな噂が流れる。
「もう20人以上と付き合ってる」だとか
「SМプレイが好き」だとか「本当は未来人なんだ」だとか。
・・・すべて嘘である。単なる噂である。
翼は、今までの人生でたった1度も女性と付き合ったことがないし、童貞だし、れっきとした現代人である。
ただ、1つだけ本当の噂がある。
「朝倉翼は、栗田空のことが好き」・・・・と。
この噂は割と新しいもので、翼本人がそれを耳にしたときは、もうホントびっくり仰天。
無理もない。自分が空のことを好きだとゆうことは、ずっと、自分の胸に秘めて、誰にも言ってなかったからだ。
言ってなかった、というより、言うに言えなかった。
なぜなら翼は今時流行りのシャイボーイ。
友達に相談したいのは山々なのだが、言えなかった。
では、何故バレたのか。
簡単なことだ。翼の行動がバレバレなのである。
授業中、後ろの席から彼女をガン見。空がちょこっと頭を動かすと、もの凄い勢いで目をそらす。
廊下ですれ違ったあと、3歩あるいて、ちらっと後ろを確認。もちろん空は振り返っていないが。
友達と話している時でも、横目で空の居場所を確認。話の内容が下ネタの場合、ボリュームを五十分の一倍する。
そんな翼のバレバレな行動を、普段から翼のことを見ている女子達が、見逃すわけがない。
噂になるわけだ。
女子達は「なんであんな子がいいのーッ!」
「いや〜〜!」
「ゥチの方が10倍可愛いのに・・・」
「諦めないわ!!」
「あンの糞アマがぁぁぁ!!」
・・・と、それぞれの不満を口にしていた。
確かに空は、他の女子と少し違っている。
翼を見てキャーキャー言わないし、むしろ見ない。
性格は、例えるなら、エ○ァ○ゲ○○ンの綾○レ○といったとこだろう。
こげ茶のロングヘアーに、透きとおった白い肌。目は二重でパッチリ。
容姿はア○カ似。
先ほど、「ゥチの方が10倍可愛い」と言った子の100倍可愛いだろう。
この美少女のことを幼稚園の頃から思い続けた、一途な美少年、翼。
今時流行りのシャイボーイなので、彼女にあまり話しかけることができないが、おそらく、毎日空と学校生活を送ることができ、幸せだったであろう。
少年のニヤケ顔が物語っている。
しかし、この幸せ顔の少年に転機が訪れた。
転校。
それも沖縄。ここ東京。
なぜって、
親が離婚。理由は父親の浮気。
だから、母がたの両親が住んでいる実家に帰る・・・とさ。
ありふれた話のような気もするが、少年にとってショックがすごく大きかった。
いや、父と別れたことじゃなくて、当分空に会えないこと。
・・・父とはもう会えないかもしれないのに・・・父よ、ご愁傷様です。
だいたい、学校が休みの土日だけでも精一杯だとゆうのに、何ヶ月も何ヶ月も空に会えないときたら・・・・・。
少年は悲しみに暮れた。枕をびっしょりにするほど泣いた。
非常に涙もろい少年である。
ちょうど、冬休みが始まったころだった。
そして気づけば、明日が出発日。
翼は悩んだ。悩みまくった。
朝6時に起きてずっと悩んでいた。
そして後悔しまくった。なんでもっと空と話さなかったんだろうって。
そして知った。
後悔しても無駄だってことを。だからこれからは悔いのないように生きようと。
少年は一歩成長したのである。
むろん、新たに決心をしても過去には戻れないが。
少年は空に自分の気持ちをつたえようと思った。
しかし、しつこいようだが、翼は今時流行りのシャイボーイである。
とても告るなんて行為はできない。
しかし!
ついさっき、「悔いのないように生きる」と決心したばかりだ。
ここで、諦めては、バリバリ悔いが残る。
シャイボーイでも、男は男だ。
・・・時刻は午後7時。
翼は急いで洗面所へ行き、顔を洗い、歯を磨き、ワックスをつけた。
そして自転車に飛び乗り、栗田家へ向かった。
朝倉家からは母親の怒声が聞こえる。
そりゃそうだ。明日の4時には出発で、母や兄弟たちはみんな忙しく支度をしている。
そんな中、翼は何も言わずに家を飛び出していったのだから、母がキレるのは妥当であろう。
栗田家までは、長い橋を越え、浅倉家からは結構遠いはずだが、あっという間に着いてしまった。
自転車を止め、栗田家の前で佇む少年。30分ほど、棒立ち状態だった。
かなり怪しい。
しかし、そんな告る前の、予想を遥かに超える極限の緊張の中でも、翼は言う事を整理していた。
あと、あともう少しで・・・ってところで、いきなりドアが開いた。
空だった。
予期せぬ出来事に固まる翼。さすがシャイボーイ。
『・・・さっきから何?朝倉君。』
「え、え、何って、、」
気付かれていた。まあ、2階の空の部屋から翼は丸見えだったということだ。
『何か用?』
さすが綾○レ○そっくりさん!
しかし、絶対に翼と目を合わせようとしない。
「お、俺明日、沖縄・・行くんだよね・・・」
翼も翼で、ずっと下を向いている。
『旅行?』
「いや、、俺、転校することになっちゃったんだよね。沖縄に・・・だから、、、」
・・・ずっと下を向いてしゃべっていた翼はハッとする。
地面に黒い斑点が、ポツポツとできてくる。
雨かな、と上を見上げるが、違かった。
『・・・転校、、するの・・?』
・・・あまりにもびっくりして、一瞬、時が止まった気がした。
だって、あの空が泣いているから。
『そんな・・・やだよ!!』
あの空が声を押し殺して、泣いているのだ。
「転校する」その一言で、一瞬にして空の人格が変わった。
綾○レ○は一体どこへやら・・・。今はただの駄々っ子だ。
『やだやだ!朝倉君のいない毎日なんて糞以下だよ!』
翼はただ呆然とするしかなかった。
あの空が、自らの口から・・・糞?
いやいや、そうじゃなくて、泣いてる・・・?
いや!!そうじゃなくて・・・俺のいない毎日なんて糞・・・?
「そ、空・・・それってもしかして・・」
『・・・す、好きなの!!』
空はわんわん泣き続ける。
その横で翼は足の先から頭まで、全身真っ赤にしてしゃがみ込んだ。
告白をしに来たのに告白されるとは・・・。
実はこの少女、栗田空もシャイガール。
そっけない態度をとっているが、それは全て照れ隠しのため。
だから自分の部屋の窓から翼が見えた時はもう大興奮!!
ゆでダコ状態になったと・・・。
翼のところへ行こうとしたが、このタコ顔では絶対行けない。
なぜなら彼女はシャイガール。
鏡の前で苦戦すること40分。
やっと作れたポーカーフェイス。
しかしその努力も水の泡。
今は真っ赤っかでぐちゃぐちゃな、ゆでダコをさらにゆでた状態。
顔は・・・猿?
美少女の欠片も残っていない。
『私、幼稚園の時から、ずっと朝倉君の事好きで、・・・でも私こんな性格だからしゃべれなくて。朝倉君も、なかなかしゃべりかけてくれないから、私に興味ないのかなって、ずっと思ってた。・・・でも、毎日朝倉君に会えて、声が聞ける。これだけで幸せだなって、思ってた。』
・・・まったく翼と同じである。すべて。
『でも今、後悔してる。・・・勇気を出して、もっといっぱいしゃべれば良かった。もっといっぱい、しゃべりたかった・・・!』
まったく同じであった。
ただ、ふたりともあと一歩が踏み出せないだけだった。
『・・・ねぇ、朝倉君?どうしてここに来たの?』
少女は鈍感であった。
告白されるなんて、みじんもおもっていなかった。
だからこそ、自分からしたのかもしれない。
「お、俺は、・・・えと、何しに来たんだっけ?」
あまりにびっくりするような事が起きまくって。翼の頭はパニくっていた。
確か俺、告りにきて・・・
そしたら空が泣いて?
幼稚園のころから俺が好きと。
もっと俺としゃべりたかった・・・?
空が俺に・・・告白?
「あぁッ!」
翼はものすごい勢いで立ち上がった。
「す、好きです!!俺も!幼稚園の頃からずっと・・・!」
やっと頭が正常に働いたのか。
「転校なんてしたくないけど、しょうがないから、俺と、長距離恋愛してくれませんか!」
空は、大きい目をさらに大きくした。
『よ、喜んで』
空の少し裏返ったような声は、翼の奥の奥まで届いた。
そして泣いた。なんともいえない感情が込み上げてくる中、栗田家の家族が窓からこちらを見続ける中泣いた。
涙もろいところもそっくりだった。
シャイで、シャイ過ぎる2人は、今、改めて向かい合う。
『最初からこうだったら良かったのにね。』
「確かに。俺ら二人揃ってシャイだったみたいだな。」
・・・・・・
・・・・・・
翼は気づく。ムード的に、、、キスをしなければいけないような空気になっていることを。
でも彼は・・・
「今度絶対こっち来いよ!待ってるからさ・・」
・・・キスは今度までお預け☆
なぜなら彼は、、、
『別に行ってあげても構わないけど?』
そして彼女も、、、シャイだから☆
そして、2人の長距離恋愛は始まるー・・・。
どちらともシャイなので、どちらが先に連絡をとるか悩みまくったとさ☆
シャイな2人に幸福あれ♪
★おしまぃ★