一話 わ~い、異世界転生だ~!!(棒読み)
この作品のタイトルはまだ仮なので、いずれ変更があるかもしれないので……ご了承ください。
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生まれ変わりとは一体何なのだろう?
死んで尚、その答えには行き着かず、虚無のどん底に引き摺られながら意識だけが遠のく。
落ちていくのは感じるが、何故か感覚がない。
脳裏では俺が歩んで来た人生を走馬灯のように再生される。
ちっぽけな人生。
まだ十数年しか生きていないのに、何を偉そうに人生を語っているって話になる。
馬鹿馬鹿しい、愚の骨頂、阿呆か俺は。
まあ、そんな俺でも今になってはどうでもいい事だ。
何せ、死んでいるのだから。
何も残らず、何も与えず、誰の記憶にも定着されず、ただただ消えていくだけの存在。
あ~あ、マジでかったるい、もし生まれ変わったら、また人生をやり直すのかな?マジで面倒臭せぇ。
このまま虚無に引き摺られ込まれて、今度こそ何もせずに怠惰で過ごせる事ができますように、そう願う自分が確かにいる。
――そう、確かにそう思っていたのだが……
「マジかよ……」
目を開けると光が瞼を通じて眩しく感じる。
そして、視界が良好し、慣れ親しんだものばかりに囲まれていた。
「おいおい、ここに来て夢オチかよ」
返せ、俺が語った全てを。
夢の中で絶えなく話した人生とは何か、今後でどう過ごしたいのかを。
その全てがそれこそ夢のような俺の理想郷。
そうなる筈だったのに、こんな展開はあり得ないわ~。
まあ、生きているのだから、今日の所は学校に行く準備にでも……
パジャマのボタンを外し、制服に着替える。
「はぁ~、マジでだるい」
大きなため息と共に吐き出ているのは、今日使う筈の気力だ。
朝食は、食パンとベーコンエッグ、牛乳一杯。
たんぱく質と炭水化物だけの食事なのだが、これでも精一杯努力して作った朝食だ。
朝食を平らげ、食器を全てシンクにぶちまける。
洗うのは学校から帰ってからでもいいだろ。
鞄の用意と靴を履き、玄関のドアを開ける。
「行って来ま~す」
――って誰もいないんだった。
一人暮らし?
いやいや、立派に両親の脛を齧って高校生活を送っている。
だが、不況とかで両親共々働きに出掛けている。
帰りも遅く家に過ごしている時間は圧倒的に俺の方が多い。
だから一人暮らしみたいな生活を送っている。
「はぁ~、学校か……マジで面倒臭いな~」
愚痴は毎日絶やす事はない。
毎朝、起きる時も『朝か、だるっ』などと愚痴っているものさ。
言わば愚痴る事は俺に取っての日課になっていると言っても過言ではない。
そんで持って、俺の学校生活はというと……
「おはよう、片桐君、今日も相変わらず眠そうだね」
「あ~あ、そうだね、今日も一日だるいわ~」
そういえばまだ自己紹介がまだだったね。
俺は片桐直人、これでも高校二年生だ。
「あっ、忘れてた。おはよう、三条さん」
目の前にいる茶髪で胸が殆どない――通称『板ぱい』の名前は、三条利奈、高校入学してから何故かいつも同じ教室にいる、俺の唯一の友達と言っていい人だ。
「イッテェェーー、何すんだよー!!」
いきなり三条に頭を殴られた。
「いや、何か失礼な事考えていたと思ったから、つい」
相変わらず勘が鋭い。
「でもさ、片桐君はいつも授業中寝ているのに試験ではいつも満点取っているよね。何、ずるでもしているの?」
「人聞きの悪い事を言うな……寝てても聞こえているんだよ。ほら、あれあるじゃん……え~っとなんだっけ、あの寝ている間に学ぶやつ――」
「睡眠学習?」
「そう、それ」
勉強は復習程度しかしていない。
どうやら世の中には特殊な体質を持っている人間がいるようだ。
そして、俺が持っている睡眠学習とやらは、俺の性格を考えれば打って付けの代物だ。
これで、寝てても大丈夫。学校でも成績は全てだ。良い点さえ取り続けさえすれば先生方でも俺に注意する事はできない。
だから俺は、公認を得て堂々と授業中に寝られるという訳だ。
もし、この体質がなかったら、今頃家で引き篭もっていた事だろう。
本当にありがたいや。
まあ、将来このままではいけないだろうが、せめて高校にいる間だけはこの贅沢を存分に味わわして貰おう。
――しかし、これはどういう事だ?
予想外は常に付き纏われる。
同日の晩。
確かにベッドに寝ていた筈だ。
なのにどういう事なのだ?
現状が全く読み取れない。
いや、把握し切れないといった方が正しい。
凡人にはこの状況を理解するのは困難だ。
今一度考え直そう。
状況を、今俺が置かれている立ち位置を。
まずは俺の服装から。
高校生にもなって未だに泡模様の水色のパジャマを着ているが、まあ、もう既に中学一年生から成長が止まっており、まだ使えるという事でそのままにしている大変付き合いのながい夜の相棒なのだが――言い方がちょっとあれだな。
正直に言って、新しいのを買うのが面倒なだけなのだが。
ともあれ、次は今いる場所について語ろう。
今立っている場所は何故か草原、遥か先には町らしき建造物の集合体が見受けられる。
しかし、意外にも空が近く感じる。
それは、雲が目と鼻の先にある所為なのだろう。
だが、と俺は今、何を言いたいのかというと……何故、家のベッドに、寝ていた人が、今、草原何かに寝転がっている訳だ!!
「新手の誘拐先か、それとも誰かによる嫌がらせか?」
普段あまり喋らない性質だが、それを狙った犯人め、大成功だよ!!
本気で俺を怒らせたな、マジで。
でも、周りには何も、誰もない。
ただただ草原が広がるのみ。
強いって言えば、後方に森が見えるのだが、さて、ここでクイズだ。
パジャマ一つ、金もねぇ金になる物もねぇ状態で向かうなら何処に行く?
町に行っても何かできる訳もないが安全な場所を確保できる所を探すか、だがお腹が空き飢え死にする可能性がある。
またや、森に行って、金になる物、その他に食い物を探す事ができる。
しかし、危険は常に潜んでいると言ってもいい。
さあ、この究極の二択の前に平々凡々の無一文もいい所の人一人、出す答えは勿論――
「しかし、これは一体何語何だ?」
見知らぬ土地に見知らぬ言葉、見知らぬ人々《?》と言っても良いものなのかは未だに検討がつかない。
何せ、ここに住む人は、必ずしも俺が知っている人ではないのだ。
ファンタジーでしか聞いた事のない、所謂、亜人というやつだ。
だから、この町に入った時にも酷く驚かされたものだ。
鱗の肌にトカゲの頭や尻尾……コスプレにしては妙にリアルというか、作り物ではないのはすぐに解った。
その他にも猫耳や尻尾を持った亜人や、猿公が服を着て歩いていたり、またや、全身毛だらけの牙と爪付きの狼男だったり、それまた龍人だったり耳の長いエルフだったり、兎に角、普通の人はいるのにはいるが、均等に分かれているかのように全種が混じって暮らしている。
ここで気づかないやつは馬鹿もいい所だが、そういうやつはまずいないだろう。
ここが、漫画や小説によく出てくる『異世界』という事だ。
「これが噂に聞く、異世界転生なのか?」
ボーっと立ち尽くして、自分の状況を半分以上理解した上での反応だ。
誰が何の目的で俺をこの世界に呼び寄せたのか、またや神様が存在するのなら悪戯ついでに異世界に運んで来たのか、まあ考えられる要素は沢山――あるよな?
だが、まず文句を言いたいのは。
「ここに来るのが判っていれば、色々と準備できていたのに!!」
あんまりだよ。
人生でおそらく最初で最後の異世界転生。
その準備も何もできずに無一文のまましかもこんなだらしない格好で送られるとは、何て酷い仕打ちだ!!
そして、一番気に食わないのは、お約束の超能力や不思議な力、魔法が俺には一切ないって事だ。
「何、最近そういうのが流行ってて、俺には平凡なまま送り付けたのか、神様さんよ~。これじゃあ、何もできないまま、死に絶えるだけじゃんか!?」
初期装備がパジャマオンリーって何の冗談だこれ!!
言葉も通じず、交渉をやるにも持ち物はゼロ。
これでどう生きろと。
森に行く、選択肢もあるが……武器を持たずに入るのは自殺行為に等しい。
誰がそんな簡単に命を粗末にできるっていう話だ。
けど――
やるしかないのか?
今の状況を覆すには。
二時間歩きっぱなし、その上、この格好だ。
目立たない訳がない。
ファンタジーな世界でも、ここはおそらく中世ヨーロッパ時代の服装に似ている。
まだ、電化製品みたいな物は存在しないからして、時代の特定はそんなに難しくない。
だが、やはりこの視線の集まり、マジで鬱陶しい。
早く、金目の物でも探し出して、服を買いてぇ。
そして、この異常なまでの視線の集まりをどうにかしてぇ。
――ぐっぐぅぅ~~
「はぁ~、今度はこれだよ」
最後に食べたのは昨日の晩御飯。
日が昇っている今、おそらくもう既に、十二時間以上は経っている。
そりゃ、小腹も空く。
「どうしよ~、本当に」
打つ手なし。
やはり、今の状況をどうにかするには――
■■■■
見た事もねぇ~、変な木の実だ。
形は林檎ににているけど、さて、お味は如何に。
お願い、毒が入っていませんように。
祈りながら、紫色の果実にがぶり付く。
「んっ!美味しい~~!!」
何々、このほんのりとした甘さ、齧った瞬間に溢れ出る果汁の量、シャキシャキといい歯応えの果実は?!
今まで食べた果物の中で一番美味しいじゃんか!?
見た目に怖気ずに食べて良かった。
しかも、この木にはまだまだ、あの果実が沢山ある。
食べ放題という訳だ。
ラッキーだ、俺は。
これを大量に運んで町に売り出せば――うへへ、忽ち大金持ちに。
何たる幸運しかも、この森の約十平方メートルに存在する木全てにこの果実がわんさか。
「何故、誰もこの果実に手を出さないんだろう?」
こんなに美味しい話、誰も気づいていない筈ないのに。
「森の入り口にあった看板が何か関係しているのかな?」
――森の入り口……そこには、一つの看板が地面に刺されてあった。
しかし、見た事のない文字だから、そう気にする事なく森の中に入った。
食欲を優先してしまったという訳だ。
そして、大正解。
こんなにも美味しい果実に出会えたのだから。
俺は、無我夢中に腹を満たす事だけを考えていた。
だからかもな、気づかなかったのは。
後ろから迫り来る脅威に。
どんだけ鈍感なんだよという話だ。
「グワォン!!」
後ろから右肩に強烈な痛みが込み上がった。
「イッテェーーー!!」
何だ何だ、何が起きた?!
ポタポタと地面に落ちる、赤い液体。
「えっ、何これ!?」
それが、俺の身体から滲み出ている血だとすぐにわかった。
痛み、赤い液体――それは自ずと判って来るものだ。
しかし、何故、急に痛みが走ったのか、それが気掛かりだ。
確か、さっき、痛みを感じる寸前、獣のような声が聞こえた、気がしたが……
「グルルルル」
今も尚、聞こえている。
右肩の肉が何かに締め付けられるような感触と尖った何かに刺されている感触が同時にしていた。
つまり、それは――
狼みたいなのに噛まれているって事ぉぉ!!
現状はかなりマズい。
逃げようにも、噛まれ続けていたら、痛みで身体が固まり、周囲に目を配ったら案の定、狼は一匹ではなく群れで行動していた。
「囲まれた」
逃げ場なんてどこにも存在しない。
今、思い返して見れば、あの看板に描かれていた変な絵――あれがまさか、狼を書こうとしていたのか?
字も読めない今、その絵だけでは伝わらなかった。
「本当にド下手な絵だったよ、全く。ついてないな~」
未だに狼の牙は遠慮ってものを知らず、俺の肩にがぶりついている。
――ここで、俺の命は消えるのか?
何もできぬまま、何の為にここに来た事さえ判らず、終わってしまう。
一生に一度あるかないかの異世界転生。
「本当、どうしようもなく、つまらなかったよ、神様」
目を閉じ、他の狼達が近づき、もう片方の腕、脚、腹部、胸に噛み付かれ、訪れる死をただただ待った。
痛みに耐えながらも、待ち続けた。
これで、あの時の夢の続きが見られるのだろうか?
虚無のどん底に落ちて、何もない空間の中で生きる理想郷に……