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7.旅は道連れ②

 ゴトゴトと揺れる荷馬車の中、何とか乗せてもらう事が出来た俺は、質問攻めに合っていた。


「へぇ……、じゃぁ王都から商業都市まで一人で行くつもりだったのか?」

「えぇ、王都で幼少から修行をしていたんですが、それも一段落ついたので……」

「それで武者修行の旅に?この時代に古風ですねぇ。あ、っと、シルヴィアさんも武者修行されているんでしたね、すいません」


 アルドの言葉に俺が言葉を返し、間に入ってきたサミアが少し失言とばかりに、俺の隣に座っている前世で言う剣道着の様な服装に身を包む少女、シルヴィアに向けて頭を下げた。


 シルヴィアは、「いえ、お気になさらず」とサミアへ微笑みを浮かべている。

 そんなシルヴィアを横目にチラリと見る。

 本当に穏やかそうで、優しそうな少女だ。

 常に笑顔で、落ち着いた雰囲気に、和風とも言える服装が良く似合っている。


 傍らに立てかけている白い柄をもつ奇麗な刀に、少し興味が沸くが、見せて欲しいと頼める程親しくはない。

 チラチラと刀と自分とを交互に眺めていた俺に気づいたシルヴィアが、今度は俺に向かって微笑みを浮かべた。


「それで武者修行、とは師事されていた方の方針なのですか?」

「え?あー……、いえ、まぁそんな所ですかね……」


 俺の少し煮え切らない回答に微笑みを浮かべながら首を傾げるシルヴィアに、俺はセバスに黙って出て来た事を思い出して少し落ち込む。

 そんな俺に、シルヴィアがポンポンと頭を優しく叩いた。


「まぁ、人それぞれ、旅に出るには何かしらの理由はあるでしょう。無理に問う事はしませんよ。それに……」

「それに!冒険者の間で、過去を無理に詮索するのはタブーだからねっ!!」


 まだ言葉を続けるシルヴィアの間に、割って入る様に俺のもう一方の隣から声が発せられる。

 エルフのユーリンだ。


 会話に割って入られたシルヴィアは、微笑みを浮かべながら、俺の顔越しにユーリンへ殺気とも取れる様な気配を立ち昇らせる。


 笑顔を浮かべたままという所に、寒気を覚える。


「ユーリンさん?今、私が、エミリーさんと話をしているのですが?」

「えー?もう終わったのかと思った。どっちにしてもこれでもう言いたいことは終わったでしょ?さぁエミリーちゃん!今度はお姉さんとお喋りするんだ!!」

「え?」

「なんですか?いつの間にあなたがお姉さんになったんですか?」

「お姉さんはお姉さんだよ!エミリーちゃんがそう呼んでくれたんだもんねー!」

「え?あぁ、はい。そう、ですね?」


 いや、あんたが呼べと言ったんだ、とは何故か言えなかった。

 その言を聞いたシルヴィアが、何故かショックを受けた様に固まり、ワナワナと体が震えだす。

 まさかこんな所でずっと絶やさなかった笑顔を消し、泣きそうな顔を浮かべるとは思わなかった。


「何故です!なぜ私がお姉さんじゃないんですかっ!?」

「え?あ、はい!?」

「ふふん、残念だったね。シルヴィアさん。エミリーちゃんのお姉さんは、何を隠そうこの、私だ!!」


 妙に溜めた言い回しに、ドヤァ!と言った感じで、少しウザイ程のドヤ顔を浮かべながら、勝ち誇ったようにその控えめな胸を張るユーリンに、もうシルヴィアの殺気は駄々漏れである。

 なぜこんなことに?

 刃傷沙汰は勘弁してください。

 そもそもなぜこの二人は俺を間にして喧嘩しているんだろうか。


 「解りました……、ならば私は、母となりましょう!さぁ!エミリーさん!私をお母さんと!呼んでください!」

 「はい!?」

 「さぁ!さぁ!さぁ!」


 困惑の一言に尽きる。

 俺はあなたから生まれた覚えは無いですよ?

 イメージがどんどん崩れてるよシルヴィアさん。


 それにしてもグイグイ来るな!この人!



 未だ俺を挟んでやいのやいのと喧嘩をする二人に、俺はされるがまま、諦めの境地、無我の境地である。


 ぐいっと俺の肩を掴んで無理矢理に自分の方を向けようとするユーリンに、対抗するように俺の手を取り、自分の方に引っ張るシルヴィア。


 華奢な見た目と裏腹に、二人共力が強いって!

 痛い痛い痛い!


 そんな光景を眺めながら苦笑いを浮かべるアルドとサミアに、我関せずと端っこで目を瞑っているちみっこい鎧少女ルルフレアへ助けを求めるが、救いの手が差し伸べられる事は無かった。


 しばらくそんなやり取りをした後、休憩に止まったところでご飯をご馳走になる。

 少し遅いが昼ご飯だ。


 夜から何も食べていなかったからありがたい。

 そもそも、一番初めに携帯食料に目が行くだろうに、準備をしたあの頃の俺を叱ってやりたいよ全く。


 黙々と野菜等を挟んだバケットサンドを頬張り、その様を何故かシルヴィアとユーリンに微笑ましそうに眺められるという状況に耐えながら、数分で完食する。


 各々で食休みを取っているみんなを眺めながら、少し疑問に思ったことを聞いてみる事にした。


「あのー、ちょっと聞いてもいいですか?」

「ん?なあに?私で解る事なら何でも聞いて?」


 そう柔らかい笑顔を浮かべて、サミアが答えた。


「シルヴィアさん以外は、皆さん冒険者ですよね。王都から商業都市までの護衛にしては、人数が多すぎませんか?」

「あぁ……、そのことね。今の時期に一人で旅してるからもしかしてと思ったけど、やっぱり知らなかったのね」

「何かあるんですか?この人数が居るのに、少しでも戦力が居た方が安心できるという事で相乗りさせてもらいましたけど……」


 俺の疑問に、サミアは少し姿勢を正して続けた。


「えっと、旅をする行商人や、冒険者の間では有名な話なんだけどね。風の月を終えて少し暖かくなってきた地の月のはじめになると、この地域である魔物の行動が活発になるのよ」

「へぇ、知らなかったです」


 因みに、この世界では前世と同様に、四季の様な物がある。

 地の月、水の月、火の月、風の月と4つに分類される季節は、そのまま、呼び方が違うだけで春夏秋冬と気候的には似通っている。

 しかし、明確に暦があるわけではなく、大まかな気候の変化がそう呼ばれているだけらしいのだが。


 まぁそれはさて置き、話の続きだ。


「それで、どんな魔物何ですか?」

「ゴブリンイーターと呼ばれてるわ」

「ゴブリンイーター、ですか?ゴブリンの、捕食者?」


 何だか想像できないモンスターだ。


 曰く、巨人であるとか、曰く顔がデカいだとか、獣の姿をしている、だとか、目撃証言が全く一致しない不確かなモンスターであるらしい。

 しかし、その目撃証言の中で唯一の共通点としては、兎に角デカイ事は確からしい。


 寒い季節を終えて少し暖かくなってきた今の時期になると、そのゴブリンイーターは行動を活発化させるらしい。

 冬眠から覚めたばかりの空腹を満たす為というのが、原因と考えられている。


 そいつがどこかしこで暴れ回り、巣を追われたゴブリンが人里の近くで多く目撃される様になるというのがこの騒動の前兆だ。

 それからさらに時間が経つと、バラバラに逃げていたゴブリンが合流し、徒党を組み、その場で旅人を襲う様になるんだとか。

 その為、この時期では「ゴブリンを1匹見たら10匹は居ると思え」という前世のゴキブリの様な話になっているという訳だ。

 1匹1匹の力は大したことが無いが、数とは暴力だ。

 それこそ、過去に実際にあった話によると、大きな巣で暮らしていたゴブリンがゴブリンイーターに襲われ、そのゴブリン達が一斉に外に溢れだした。

 そして、そのあふれ出したゴブリンが外で固まった事で、100匹を超えるゴブリンの群れが数ヵ所で目撃され、数多くの被害者が出たらしい。

 まぁ、食物連鎖の様な物で、繁殖力が異様に高く、数が増えまくるゴブリンを間引くための自然の摂理なのかもしれない。


 しかし、こっちにしては全くはた迷惑な話だ。


 好物がゴブリンなんて、物好きもいいとこである。


 どんな奴なのか、その姿を見てみたい気分がふつふつと沸いてくる。


 そんな事を考えてしまった俺が悪いのだろうか。


 まさかそれがフラグだったとは、この時の俺には知る由も無かったのだった。


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