表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/38

10.ナグリア坑道④

 俺達三人は揃って扉の中へと足を踏み入れた。


 そこに広がっていたのは、洞窟内というには少し整備が行き届きすぎていると感じる程の、奇麗に切り取られたかのような正方形の部屋。

 そして、その部屋の丁度真ん中付近に作られた簡素な台座へと3人の視線が集まる。


 怪しい物はその台座を置いて他には無く、キョロキョロと辺りを見回してみるが、声の主の姿は見つける事が出来ない。

 俺達は先程扉の前でもそうした様に、お互いの顔を見合わせて首を傾げた。


 まぁ怪しい所はあるのだから進んでみるしか道は無いだろう。

 声の人も入ってこいって言っていた事だし、突然怒られると言う事も無い、はずだ。


 そう結論を出した俺は台座へと歩を進め、後ろの二人は慌てた様子で俺の後ろに続いた。


 キョロキョロと辺りを見回しながら真っ直ぐ台座へと向かって進む。

 どうやら罠の類は完全に無いと言っても良さそうだ。


 そして、台座までの距離が近づくにつれて、その姿が段々とハッキリと認識する事が出来た。

 台座の上にまるで祀られているように鎮座しているそれは、水晶玉に似通った物、宝玉というやつだろうか?


 あと数歩で辿り着くと言う所でまた声が響く。


「お主らか、先程扉の前で喚いておったのは」

「ん?え、ひょっとして、ひょっとしなくても玉が喋ってる?」

「ほう……」

「……」


 台座へと続く階段付近まで歩を進めた所で俺達三人は足を止め、俺は急に輝きを放ちだした水晶玉を興味深そうに見つめる。

 インテリジェンスアイテム?それとも何か特殊な魔物か?っていうか小さき者共って言ってたけど、こいつのほうが小さいよね?まぁそれは良いか。

 俺はワクワクとした気持ちを抑えきれず、横に居る二人の少女に勝ち誇った様な笑みを浮かべる。


「ほらぁー!だから言ったじゃないですか!宝箱では無かったですけど、これ絶対ボスか、もしくはお宝に違いないですよ!」

「あぁ……、ドヤ顔エミリー、カワイイ……」

「よしよし、よかったね、エミリー」


 いや、俺は決してそんな反応を望んで勝ち誇った訳じゃない……。

 師匠は恍惚とした表情で俺を見つめ、ルルフレアは母の様な優しい表情で俺の頭を撫でている。

 俺は望む結果を得られなかった事にちょっと不貞腐れつつ、また目の前の水晶玉へと視線を戻した。


「……あれ?……さっきこれが喋りましたよね?」


 暫く待っても反応が無い事に首を傾げていると、何だか不機嫌そうな声でまた水晶が言葉を発する。


「……もう喋ってもいいのか?」


 俺は一応謝罪をしつつ、ドウゾと手を添えて会話を促した。


「え、あ、すいません。どうぞどうぞ」

「コホンッ……。それで、何用でここまでやってきたのだ?」

「ん?ここに来た理由ですか……、素材を集めるのと、修行ですかね?」

「ほう、素材とな。それに修行か……、なるほどのう」


 まるでふむふむと首を振っている姿が幻視出来る様な物言いで水晶玉は告げる。

 そしてそれと同時に何か値踏みをしているかの様な視線を感じる。

 なんだか予想外に世間話みたいになっているが、結局こいつは何なのだろうか?

 聞かなければ教えてくれ無さそうな予感があったので、取り合えず聞いてみよう。


「ところで水晶玉さんはここで何してるんですか?」

「ん?……ふふふっ、そうかそうか、まぁ気になるであろうなぁ。ふふふ、知りたいか?」

「……えぇ」

「まぁ、お主等がどうしても、と、言うのであれば、言ってやらんことも無いがのう……。どうしようかのう……」


 まるでチラッチラッと此方を伺っている様な、そんな姿を幻視してしまうような物言いに、少し、ほんの少しだが、イラッとする。

 チラリと横目に師匠を見ると、表情は何時もの様に微笑みを浮かべているが、どうも背中から立ち上る殺気を隠せていない。

 そしてルルフレアを見る。

 無表情で水晶玉を見つめているが、その額には薄く青筋が浮かんでいた。

 俺達はお互いに顔を見合わせ、師匠がクイッと顎を水晶玉へ向けてしゃくって見せたのに対し、俺達二人はコクリッと元気よく頷いた。

 ヤっていい?どうぞっ!正しくそんな感じだ。


 そしてツカツカと階段を登る師匠の後ろ姿を見守り、水晶玉へ向けて手を合わせる。

 南無。



「たかが水晶玉(ガラクタ)如きが大仰な……、斬りますよ?」


 微笑みを浮かべたまま、スラリとその美しい刀身を持つ刀を抜き放つ師匠を前に、水晶玉がブルリと身震いしたのは幻視でないだろう。


「ちょっ、まっ……、冗談じゃ!ほんのおふざけじゃっ!やめてっ、刀を添えないでっ!!」

「……ちっ、それで、竜玉の出来損ないがここで何をしているのです?エミリーが尋ねているのですから、さっさと簡潔に述べなさい」


 ん?

 あれぇ、師匠今なんて言った?竜玉の出来損ない?え、聞くまでも無く解ってたの?

 まぁいいや。取り合ず話を聞こう。


「う、む。其方の美しい方は解っておるようじゃが、儂は竜玉を元に作られた模造品、この地を封印する為に作られ、ここに祀られたのじゃ。……もう何時からここにおるのかも解らぬが、数えるのも億劫な年月なのは間違いないのう」

「へぇ、竜玉の模造品(レプリカ)ね……」

「竜玉!……でも、模造品(レプリカ)、か……」


 一瞬ルルフレアの瞳が輝くが、直ぐに沈下したように沈んでしまう。

 まぁ竜玉を探して冒険者になったのだ。目の前に近い物を見つける事が出来たが、やはり模造品(レプリカ)ではそこまでの力は無いのだろうか。

 余程怖かったのか、師匠を相手に美しい方等というおべんちゃらを使って居る所を見てもやはりその力はまがい物の域を出ないのかもしれない。

 まぁ、美しいと言うのは同意するけどね。


「それにしても封印とはどういう事です?そこまでの物がここにある、もしくは居る様な気配はありませんが……」


 水晶玉の封印という単語に師匠が食いついた。俺も確かに気になる事だ。

 師匠の疑問に対する水晶玉からの答えを待つ。


「……大陸食いがここに封じられておるのじゃ。遥か昔に国処かその大陸ごと食いつくしたという化物よ……。まぁ餌がそれ程ない事もあって今ではすっかり小型化しておるが、それでも強大な力を持っておる事は間違いない」

「ほう……」


 目を細めて笑う師匠に、あんぐりと口を開けて呆けているルルフレア。

 俺は、何が何やらクエスチョンマークしか浮かばない。

 三者三様のリアクションを見せる中、水晶玉は説明を続ける。


 遥か昔、一人の英雄と一匹の竜が国を大陸ごと飲み込んだ化物を相手に戦いを挑んだ。

 死闘の末、この地に追い詰めたが、その大陸のような巨体と強大な生命力を前に、トドメを刺す事は出来なかった。

 そこで、英雄と竜は、竜玉の複製品(レプリカ)を作り、この地に大陸食いを封印する事にしたのだ。

 長い年月をかけてその桁外れの力をそぎ落とし、いつか遠い未来にトドメを刺す事を託す為に。

 しかしこの話には少し疑問が浮かぶ。

 そこまでの力を持った化物を封印するのに、いくら強大な力を持った竜とは言え、その複製品如きで封印など出来る物なのだろうか。

 その疑問を解消する答えは、水晶玉の次の台詞で氷解する。


「儂がその英雄じゃ。竜が作った竜玉の複製品(レプリカ)に儂の全てを注ぎ込んだのじゃ。まぁ人格まで写ってしまったのは少し予想外じゃったがのう……」


 人身御供。

 それがその疑問の答えだった。

 竜と一緒にとは言え、たった一人と一匹で挑んだその片割れの力を全て注いだと言うのであれば、納得は出来る答えだろうか。

 まぁそれはさて置き、どうやらこの御伽噺はそれなりに有名であるようで、ルルフレアも大陸食いの話を知っていた為にあの有様であったらしい。

 今はもう普段通りの無表情に戻ってはいるが内心は落ち着きがないのか少し目が泳いでいた。

 まぁ今いるこの場所にそんな伝説級の化物が潜んでいると聞かされれば落ち着かないのは当たり前だろう。

 ん?俺?俺はまぁ、何故か普段通りの精神状態です。

 荒唐無稽、現実味が無さ過ぎて現実感が無いとも言う。


 しかし、この水晶玉、実はすごい奴だったのか。

 救国どころか、下手をすれば全人類を救ったほどの英雄じゃないか?

 しかし、威厳は最早既にないな……。師匠に脅されてすごい簡単に屈服したし……。

 まぁ師匠相手なら仕方がないと思えるのだから、俺の師匠は偉大だ。


「それで、そこの美しい方、その力を見込んでお願いがある」

「お断りします」

「えぇっ!?そ、そこをなんとかっ!」

「師匠、話だけでも聞いてあげてください。何だか可哀想になってきました」

「エミリーがそう言うならっ!……聞きましょう。言いなさい」


 師匠はどこに居ても師匠だなぁ。

 そんな感想を抱く俺であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ