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9.ナグリア坑道③

 野営場所にて一夜を過ごし、目が覚めて翌日。

 坑道内という事で、正確な時間等は測りかねるが、午前中である事は間違いないと言えるぐらいには俺を含めて、皆の体内時計は狂ってはいない筈だ。


 まぁ、多少起きるのが遅かった所で誰に叱られる物でもないのだが、まぁそれはさて置き。


 俺達はそれぞれの寝袋をアイテムボックスへと片付け、朝食の準備へと取り掛かった。


 朝食の担当は師匠だ。


 まぁ担当とは言っても、夕食時に食べたシチューの様に手の込んだ物を作る訳では無い。

 野菜と干し肉をパンにはさんだサンドウィッチ、前世で言うバケットサンドの様な物だ。


 俺達はそれぞれ黙々と朝食を取り、野営地を引き払ってさっそく探索を再開した。


 因みに昨日、俺と師匠の師弟コンビの戦いはやはり師匠の力量が勝り過ぎていて正直、俺いらなくね?な感じになったのは言うまでもない。

 まぁ相手が弱いというのも問題だろう。

 せめて師匠の攻撃を2、3発程度は耐えてくれるぐらいの魔物でないと、無理に師匠が手加減しないと俺の出番が無いのだ。

 解りきっていた事だろうに、ルルフレアに何故か対抗心の様な物を持っているのでしょうがない。

 早々に、ひたすらに無念そうな師匠をなんとか説得し、再度ルルフレアと組むことを了承してもらったのだった。


 閑話休題。


 午前中に再開された探索は概ね順調に進んだ。


 途中遭遇する魔物は、先日と変わり無く、ジャイアントバットとロックリザード等だ。

 時折リザードマンやスネーク種等も登場したが、どれもこれもランク3止まりの魔物ばかりだったので、特に苦戦も無く撃退する事が出来た。


 そして、暫くは魔物と遭遇する事も無く坑道内を進み、少し開けた場所へと出た。

 今までの道とは違い、円状に開けた広間の様な印象だ。


 そして、その奥には坑道には明らかに不似合いとも言える、扉が目に入った。


 もしかすると最奥まで辿り着いたんじゃないかとそんな考えが頭を過るが、どうも早すぎる到着に疑問が浮かぶ。

 俺達三人は顔を見合わせた後、開けた空洞内へとゆっくりと歩を進めた。


「もしかして、ここが最奥なんですかね?」

「……どうだろう。探索が終わってるのが半分程度と見られていた事を考えると、早すぎる気がするけど……」

「確かに、探索済みの場所を抜けてからここまででは、良くても三分の一程度だと思いますが……」

「あ、じゃぁもしかして、あの扉の奥には宝箱が!」


 俺はワクワクとした気持ちを抑えることが出来ず、声を弾ませてそんな事を口走る。

 今までの道程で宝箱等は全くの皆無だった。

 もう一度言う。全くの皆無だった!

 ダンジョンと言えば宝箱だろうと、内心期待していただけに肩透かし感が半端では無かったのだが、ここにきてその気持ちがぶり返して来た。


「宝箱……、ですか……」

「うーん……、期待は出来ないかな?」

「え?なんで二人共そんなに冷めてるの?宝箱だよ?」


 喜々とした俺の言葉に対して返ってきたのは、あからさまに俺の期待感を萎えさせる二人の冷めた反応だった。


「過去の遺跡や迷宮の様なタイプでは無く、このナグリア坑道は自然発生のダンジョンですからね。そういうタイプのダンジョンには比較的宝箱の様な物は少ないんですよ。もしあったとしても、十中八九はミミック種等の罠でしょうね」

「……私自身が実際に探索したのは2、3か所ぐらいだけど、どこも自然発生のダンジョンで似たような感じだった」

「……成程、そうですか……」


 あぁ、残念だよ。

 俺はあからさまに残念そうな溜息を吐いた。

 ワクワクを返せ!ダンジョン詐欺だ!


 まぁ、そもそも、前世でやったゲームのRPGでこういう洞窟内にある宝箱って一体誰が置いたんだよ、っていう突っ込みを覚えた事はあるが、そこはお約束という事でこのリアルファンタジーな世界でもちゃんと設置しといてくれないと困るよ。



 まぁしょうがないのかと早々に希望を捨てて。

 改めて、なら、あの扉は何だろう。


 三人で首を傾げつつ、不自然な空洞内という事で罠等を警戒しながら進むが、どれ程歩を進めようと周りは静かな物だ。


 定番の落とし穴等にも遭遇する事無く、何事も無く歩を進めた俺達は、あっという間に巨大な扉の前まで辿り着いた。


 茶色い岩肌とは一線を画す赤みを帯びた石造りの巨大な扉。

 不可思議な文様などが彫られているが、それ等に意味があるのかどうかは知りようが無い。


 特に魔法的な物も感じない事を鑑みると、ひょっとしなくてもただの扉だろうか。


「あ、もしかしてダンジョンの主的な奴がこの扉の奥で待ち構えている、とかじゃないですか?」


 定番的な物を思いついたので口に出してみる。


 二人の顔を交互に見ると、どうやら俺の考えには懐疑的な様で、首を傾げていた。


 なんだよ、俺のダンジョンあるあるはこの世界では通用しないとでも言うのか?


 俺の言葉に誰も口を開かないまま、俺達三人は扉の前で立ち止まり、その巨大な扉を上から下まで舐める様に見渡す。


 やはり魔法的な物は無い。

 罠も仕掛けられていないだろう。

 ペタペタと扉を触ってみるが、質感も石のそれだ。

 取り合えず、押してみるかと思い至った俺は、触っていた手に少し力を込めてみる。

 すると、少し動かすことが出来た。


「簡単に開きそうなんですけど、開けてみてもいいですか?」

「……罠の類も無さそうですし、開けても問題は無いようですが」

「……この文様、どこかで見たような気がするけど……」


ルルが首を傾げてこの文様を思い出そうとしているが、どうやら思い出せない様だ。

基本的に彼女は思い出せそうで思い出せないというキャラ?と俺の中では認識しているので、特に気にせず扉を取り合えず開けてみる事にする。

俺が手に力を込め、開けようとした所でギュッと何故か師匠に俺は抱きしめられていた。

意味が解らない。


「……師匠、これでは扉が開けられないのですが?」

「え?いえ、何か不可視の罠があると行けないのでエミリーを守ろうかと……」

「……ありがとう、ございます?」

「師匠として、弟子の安全を守るのは当然の事です」

「……むぅ」


扉に手をかけ、その後ろから師匠に抱きしめられているという意味の解らない図を、ジト目という表現がしっくりと来るような表情でルルフレアが睨んでいるのが横目に見える。


さっきまで首を傾げてウンウン唸っていたルルフレアだったが、もう扉の文様の事は思考の彼方へと飛んでいき、今現在の意味不明の光景しか目に入っていないようだった。


そして、ルルフレアは口を膨らませたままにゆっくりと俺の側面へと周り、少し腰を屈めて俺を後ろから抱きしめている師匠の体の間を抜けて腰へと手をまわし、抱きついてくる。


脇腹の辺りにルルフレアの顔が辺り、少し乱れている様な息遣いが当たり、くすぐったさが襲い掛かってきた。


何この状況。

混乱するとは今の状況以外の状況で使うべきでは無いと断言できるほどに俺は狼狽する。


「……小娘、私のエミリーから離れた方が身のためですよ?」

「……誰が貴女のですかっ。そっちこそ、エミリーの事は親友である私が守るので、貴女がその扉を開けて私達の代わりに罠を受けて下さい」

「貴女が開けるべきでしょう!見て解る通り、私とエミリーは手が離せないのです!そもそも罠の盾になると言うなら貴女が適任でしょう!装備と私達のパーティー構成を見なさい!立派な鎧があるでしょうっ!」

「ぐっ……、じゃぁ脱ぐ」

「こらこらこらこら!二人共落ち着いて下さい!何ですかこの状況!?」

「だってエミリー!この小娘がっ!」

「そもそも、シルヴィアさんが!」

「どっちでもいいから、二人共取り合えず離れて下さい!……ルルはダンジョンのど真ん中で鎧を脱ぎ始めるなっ!」


俺に抱き着いているにも関わらず、器用に鎧を脱ぎ始めていたルルフレアを慌てて止める。

どんな特殊スキルだ。

そして良い匂いとか意味の解らない事を二人して呟きながら顔を擦りつけるのは止めて頂きたい。

師匠の頭の方はともかく、ルルフレアの脇腹の方はくすぐったすぎる。

そもそも昨日風呂に入ってない上に、唯でさえダンジョン内を歩き、戦闘まで行っているのだ。

汗をかいていない訳が無い。

水の魔法で多少は体等は拭いているが汗臭い事は確実だ。

そう考えれば考える程俺は羞恥心という物に襲われて自分の首を絞める。

顔が赤く火照っていくのを自覚し、身じろぎを繰り返す中、二人が小声でつぶやいた。


「……シルヴィアさんが先に離れたら私も離れる」

「……ルルフレアが先に離れたら私も離れましょう」

「……」


拉致が開かないとはこの事か……。

未だ睨み合っている二人に俺は天井を見上げて呆然とする。

この窮地を俺は脱する事が出来るのだろうか。

……うん。二人が飽きるまで待つしかない。

そう結論を出した俺が現実逃避しようとした所で、目の前の少しだけ開いている扉の向こうから何者かの声が響いてきた。


「……そこの小さき者共、ええ加減にせい。入るなら入ってくるがよかろう、煩くてかなわんわ!」


突然の声に俺達三人は顔を見合わせ、全く同じタイミングで手を放すという器用な真似をした二人に妙な関心を覚える。

そして、ようやく拘束を解かれた俺は、扉にかけていた手に思い切り力を込め、謎の声の主が居るであろうその扉を開け放つのだった。



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