6.新しい仲間
俺の過去の話を聞いたルルフレアは、特に何か言うでもなく、少し考える素振りを見せた後、口を開いた。
貴族、王族としてはどうかと思うが、気持ちが解らない訳では無いとの事だ。
ルルフレアにも同じ様な経験があったそうで、父は反対していたが、他の親族達は竜騎士を諦めて何処かへ嫁がせる事をすすめたのだ。
反対した父と同様に、彼女もそれを良しとはしなかった。
婚姻話が進んでいく中、彼女は家を出る事を決め、父親に了承を経て冒険者になった。
俺はとの違いは、許可を得て家を出た事と、両親に愛されているという点だろうか。
両親に愛されているという点では少し羨ましいと感じる気持ちはあるが、俺にもセバスが居た。
ルルフレアの話を聞く中、その事を思い返して少し後悔が過る。
俺もセバスにだけは話をするべきだったかも知れない。
彼ならば家を出る事を許してくれたかもしれない。
それどころか、もしかすると一緒に……。
いや、もしもの事を考えても答えは無い。
もう既に俺は行動を起こしてしまっている。
後悔しても仕方がない。
これは希望的観測でしかないが、もし俺を追っている者が居るとすれば、それはセバスを置いて他に居ないと思う。
他の者にも結局は追われるだろうが、誰よりも先に俺を追ってくるのはセバスの筈だ。
そして、誰よりも早く俺を見つけるのも、きっとセバスだろう。
その時は、開口一番に謝罪する事を決め、この事はもう頭の片隅へと追いやる事にした。
まぁ結局、ルルフレアは大まかな流れや経緯は違えど、俺と大差無い境遇の様だ。
父親は恐らく探してはいないが、ひょっとしたら兄妹や親族は彼女の事を探しているかも知れない。
少しの親近感を覚えつつ、二人でゆっくりとお茶を飲んだ後、師匠に紹介する為に宿屋へと二人で戻るのだった。
二人で宿屋へと戻り、俺と師匠が泊まる部屋の前まで来た俺は一度大きく深呼吸をした後、部屋をノックする。
師匠はこの部屋で待っていると言っていたので、中に居るはずだ。
二度三度ノックをするが返事が無い。
ひょっとしたら出かけたのかもしれない。
そんな考えが過り、もう一度ノックをした後、ドアに手をかけた所で部屋の中から物音が聞こえ、同時に師匠の返事が返ってきた。
「エ、エミリーですか!?どうぞ!」
俺はその言葉を聞いてドアを開け、何やら慌てた様子で佇まいをなおす師匠に首を傾げる。
「師匠?どうかしたんですか?返事が遅かったから出かけたのかと……」
「え?いえいえ!居ましたよ!ここに!外に等一歩も出ていませんとも!」
「は、はぁ……、そう、ですか?」
「えぇ!もちろん!」
未だ慌てた様子の師匠に首を傾げつつ、ふと後ろに目をやると、開け放たれた窓がある。
……ここは3階だ。まさかな……。
そう考え、一瞬頭に過った考えを捨てた。
取り合えず、横に居る彼女が仲間に入る事を許してもらわないといけない。
「あのー、師匠、お話が……」
「え、えぇ、聞きましょうか。おや、隣に居るのは、ルルフレアさんではないですか」
「……どうも。ご無沙汰してます」
何だかわざとらしい物を師匠から感じるが気のせいだろう。
取り合えず俺達は部屋の中へと進み、ベットに腰かける。
何故、対面のベットに座らずに、二人共が俺を挟む様に同じベットに座るのか理解に苦しむが、まぁそれは良しとしよう。
良しとはするけど、話し難いな!
俺は左側に座る師匠の方を向いて、事の次第を説明した。
昨日彼女と俺が仲良くなった事、そして竜を探している事、俺がそれを手伝いたいという事を告げ、彼女とパーティーを組みたいと申し出る。
ルルフレアは口を挟まず、無表情のままで俺と師匠へと視線を向けている。
俺が説明を終えた後、師匠は暫し考え込んだ後、口を開いた。
「それは、まぁ、エミリーが決めた事ならば私は別に構いませんが……」
「ほんとですか?それなら彼女も仲間に……」
「それには、いくつかの条件があります!」
「……それは、何でしょう?」
真剣な表情でそう告げ、師匠はルルフレアへと視線を向ける。
ルルフレアはゴクリッと生唾を飲み込み、どんな事を言われるのかと身構えた。
暫くの間を置き、師匠が身構える俺達二人に対して口を開いた。
「まず、宿屋の部屋割りですが、私とエミリーが相部屋で、ルルフレアさんは個室ですね」
「ん?」
「……」
「私とエミリーは師匠と弟子という関係ですので、今後は二人だけで出掛けない事!お風呂も許可なく一緒に入らない事!覗くのもダメですよ!……まぁ許可など出しませんが」
「いや、ちょっと待ってください師匠」
「まぁこれが守れるならば、いいでしょう!」
おいこら、話を聞け。
覗くって言った?覗いてたの?昨日も?
師匠に許可を求める前に、本人に許可を取ってくれると非常に嬉しいんですけど?
まぁ、許可等出しませんがっ!
「……それは、約束できない。部屋の兼も異議がある」
「ほ、ほほう。異議、ですか……」
「えぇ、第一に、シルヴィアさんとエミリーは唯の師弟関係。私とエミリーは親友同士です」
「た、ただの……?」
いやいやいやいや、ちょっとお待ちよ、ルルフレアさん。
お風呂がどうのとか言う師匠の冗談だけでは無く、部屋にも異議があるだって?
別にそこはどっちでもいいんじゃないかなぁと、俺は思うのだがどうだろう。
「何か可笑しい事を言っていますか?師弟関係よりも親友同士の方が重いのは言うまでもない程明らかです。親友以上の関係なんて……、それこそ夫婦ぐらいしか無いのでは?」
「それは此方の台詞です!師弟関係以上の関係等、夫婦以外にはあり得ません!親友同士などと……、恋人にも劣る関係では無いですか!」
「……話になりませんね。とにかく!部屋は私とエミリーが相部屋です。……まぁお風呂の兼は貴女に許可を貰うまでも無く、親友同士なら一緒にお風呂に入るのは当然ですから、言うまでも無く却下ですね」
「ふざけた事をっ!師匠と弟子は背中を流し合う事が義務付けられているのですよ!」
「え?いやー、私は一人で入りたいかなー……、なんて」
何だその義務は!どこの国の法律だよ!
二人共俺の話を聞いてない。
師匠の思い描く師弟関係にも疑問があるが、ルルフレアの描いている親友関係にも疑問が出て来た。
親友同士が軽いとは言わないが、それ以上の関係が夫婦ぐらいしか無いとは初耳だ。
お互いの主張曰く、両方共、夫婦以下ではあるが、恋人や家族、兄弟等よりも遥か高みに居る様だ。
師匠を見ると、ユーリンとの喧嘩を思い出す程の剣幕だ。
まさかルルフレアとも仲違いするとはどうなってるんだ。
未だ言い合いを続ける二人には最早俺の言葉が届く事は無いだろう。
ユーリンとの言い合いでも同じだったのだ。
今回もきっとそうなる事は目に見えている。
もう好きにしてください。
恐らくパーティーは組めるだろう。
これは多分通過儀礼の様な物だ。
二人の間で折り合いが付くまで、喧嘩と言う名の話し合いを続けさせるしかない。
こうして俺は現実逃避し、ベットへと寝転がって耳を塞ぐのだった。
因みに、折り合いが付くまでに、夕飯を食べに行くまでの数時間を要した。
俺の意見?
この二人が聞くわけがないと悟った今、何も言うまい。
まさか相部屋を3人で借りるなんて事になるとは思いもしなかったが、俺には諦める以外に選択肢が無かった。
まぁ俺がソファーで寝るなり寝袋に寝るなりすればいいかと、思っていたのだが、それは二人に許されなかった。
どうやら日替わりで、二人のベットに一緒に寝る事で折り合いが付いたらしいのだ。
一刻も早く旅に出たい衝動を抑えながら、今日はルルフレアのベットで一緒に眠りにつく俺であった。




