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5.不意の再会③

 ルルフレアと不意の再会を果たし、成り行きで友人となった次の日。


 俺達は風呂場での約束通り、昼過ぎに冒険者組合で待ち合わせし、前世で言う喫茶店の様な店へと入った俺達は、適当に飲み物を注文した後、昨日の会話の続きを話始めた。


「それで、私が竜を探してる理由だけど……」


 飲み物を一口飲み、ルルフレアは早速本題へと入った。

 もう少し砕けた感じで雑談等を交えつつ等と考えていたのだが、開口一番で真剣な面持ちで話始めたのでそんな雰囲気では無くなってしまった。

 まぁ、見るからに真面目そうな彼女だ。

 いくら友達になったと言っても昨日の夜になったばかりで、打ち解けるにはまだ時間はかかるだろう。

 口で親友だと言った所で、付き合いの浅さは明らかだ。

 まぁ今回の話で、余り知らない彼女の事を知る事は出来るだろう。

 しかし、彼女が自分の話をすると言うのに、俺はしないのではフェアじゃない気がする。

 まぁ、俺の秘密なんて高が知れてるだろう。

 一国のお姫様という立場を度外視して傍目に見れば、反抗期の家出少女か?

 彼女の話が終わったら、俺も自分の話をしようかと考えつつ、彼女の話に耳を傾けるのだった。


 まず彼女が竜を探す理由としては、その竜の力の源とも言われる「竜玉」を手に入れる事。

 現在、絶滅視されている事や、最後の竜とされる個体が目撃されてから150年以上が経過している事を考えると、古い文献等に記されているとは言え、その話は伝説や、御伽噺の域を出ない。

 曰く、「竜玉」は竜によって姿を変える。

 各地に残る書物によって見解も異なっていて、一番有力とされるのは竜の絶対的力の象徴となる武器と見られている。

 姿を変えるという記録が残っている事からも解るように、竜によって持っている竜玉が違う。

 それは鎧であったり、剣、槍、弓、その名の通りの宝玉だったと言う書物も残っている。

 竜と言われて想像する姿を思い浮かべると、そんな武器をどうやって使うんだという話になってくるのだが、俺が前世の知識で想像する竜と、この世界での竜は少し違う様だ。

 その目撃例、実在した竜の目撃者やその事を記した書物によると、竜は姿を変えるという話だ。

 見る者によって姿を変える存在で、その者が望む姿に見えると言われていたり、或いは望まない姿に見えるとか。

 見目麗しい美女や美丈夫、美しい獣の姿かと思えば、醜悪な化物の姿だったりと、多種多様を極め、竜とされる生き物には、性別が無く、雌雄同体、両性具有、精神生命体等、様々な憶測が溢れている。

 その事から、各地に広がる竜にまつわる逸話を神話化し、竜を神格化して祀っているいる地域や国もある。


 確かに伝わる姿形は様々だが、一番多い目撃例としては、前世での知識で思い浮かべるあの姿だろう。

 竜の子孫と言われているリザードマン等のリザード種や、竜人族の姿を見て解る通り、あの姿がスタンダードではある様だ。

 しかし、その他にも竜の血が入っていると言われている魔物が多種いる事から、御伽噺の域を出ない話ではあるが、竜は全ての生き物の祖先であるとも言われている。

 その話によると、竜は全ての生き物との異種交配が可能なのだそうだ。


 その話を信じ、竜を崇めている筆頭とされているのが、竜人族の国である竜王国ヴォルトだ。


 ルルフレアは、そこの国のパープルの家系。

 俺の能天気な脳はすっかり忘れていたが、ルルフレアの話を聞いて、許嫁候補にそこの男が居た事を思い出した。

 パープルの名は王家の血筋である事の証。

 すっかり忘れていた事を反省しよう。

 うん、オーケー、反省した。


 しかし、まさか彼女もお姫様と呼ばれる程の地位を持っているとは思わなかった。

 ひょっとして彼女も俺と同じで、結婚が嫌だったんじゃ無いかと愚考したのだが、どうやら違うようだ。

 ルルフレアは少し顔を伏せて告げる。


「私は……、一族の出来損ないだ」

「え?それは、どういう意味?」

「私には、3人兄妹が居る。私だけ腹違いなんだ……、まぁそれに関しては別に思う所は無い。身分は天地程違うが、父は母を愛していたし、私も両親を愛している。母は竜騎士で、任務中に命を落としたが、父が私を引き取ってくれた」


 俺は身の上話をするルルフレアに、相槌を打つでも無く耳を傾ける。

 顔を伏せ続けているルルフレアから目を離さず、唯々話を聞いていた。


「まぁ父は良くしてくれたが、他の家族、親類は良い顔はしなかった。何処にでもある話ではあるが……、竜人族は実力さえあれば認められる。その一心で私は母の形見であるこれを振るい続けた……」


 そう言ってルルフレアは横に立てかけていたハルバードをギュッと握りしめ、言葉を続ける。


「でも無駄だった……。幼いながらに可笑しいとは思っていたんだ。『竜鱗』の発現が、進まない事に……」

「りゅうりん?竜の鱗?」


 伏せた顔を上げ、悲し気な瞳を見せる。

 何時もの無表情な顔は何処かへと消え失せていた。


 彼女の話によると、『竜鱗』とは竜人の固有能力であり、竜人の象徴ともされる物だそうだ。


 どれほど武に優れようと、それが無ければ竜騎士とは認められない。

 竜人は生まれながらに、大なり小なり竜の鱗をその体に持っている。

 そしてその鱗は、成長と共に増え、個人差はあるが、ほぼ全身近くまで回る人もいる。

 もし全身まで回れば、竜の力を振るう竜の勇者として地位や名誉等、望む全てを手に入れるだろう。

 まぁ全身を竜の鱗で覆ったとされるのは初代国王を筆頭に、数える程しかいないそうだが。


 そして、『竜鱗』は遅くても成人を迎える15歳までに成長を終える。

 体を覆う鱗の広さは個人差はあれど、最低でも四肢の内一本程度は確実だ。

 腕一本、足一本、どこか一か所でも鱗が発現しさえすれば、竜騎士にはなれる。

 まぁ皆が皆竜騎士になりたい訳では勿論ないし、騎士だけで国が回るはずもないのは当たり前だ。

 しかし、唯のパン屋、宿屋に、それこそスラム街にいる者にだって、『竜鱗』はある。

 それは正に竜人である事の証の様な物なのだ。

 どれ程武に優れていてもそれだけでは竜騎士とは認めらない。

 逆に、極端な話ではあるが、武に優れていなくても、『竜鱗』があれば竜騎士として認められるのだ。


 そして、ルルフレアにも勿論生まれながらに竜の鱗は持っていた。

 しかし、その胸の中央にポツンとある小さい紫色の鱗は、体が成長してもそれ以上増える事は無かった。

 その場で鎧を外し、その鱗を見せようとしたのを必死で止めたのは言うまでもない。

 店内という場所もそうだが、その鱗がある場所も考慮してほしい所だ。


 師匠といい彼女といい、元男の俺の方が恥じらいというか、羞恥心があるって問題じゃないか?

 まぁ、それは置いといて。


 それから彼女の話が元に戻る。

 竜、『竜玉』を求める理由だ。

 竜の力の源とされるそれだが、御伽噺や伝説の類で、それの力を分け与えられたという話があるのだ。

 その力を分け与えられた者は、竜の力が全身に巡り、その堅牢な鱗で体を覆われ、強大な力を得ると言われている。

 それを手に入れれば彼女は竜騎士になる事が出来る処か、竜の勇者にさえなれるかも知れない。

 彼女はその御伽噺にすがり、家を出た。


 自らの夢である竜騎士になる為、竜騎士筆頭の父と、竜騎士最強と謳われた亡き母に恥じぬ自分になる為に。


 初めは家名も捨てようかと思っていたそうだが、15の成人を迎えたその日に家を出ると言った時、父がそれを許さなかった。

 帰る場所として待っていると、父だけは言ってくれたそうだ。


 本当に、愛されている、いい父親の様だ。


 その話を聞いた後、俺は少し考える。

 生い立ちまで遡る深い身の上話を、俺に話した彼女の信頼に応えるには、俺も自分の話をするべきだろう。

 昨日出来たばかりの友達だが、友情に時間は関係無い。


 彼女が信頼して俺に話したのなら、俺も彼女を信頼するのが筋って物だ。


「家を出てから一年余りが過ぎたけど、一向に竜は見つからない。……少しばかり早すぎるとは思うけど、ほんの少しだけ心が折れかけていたかも……。話をする友達も居なかった事もあるけど、この話をしたのはエミリーが初めて」

「そっか。まぁこれからは私がいるから大丈夫でしょ?私も竜を探したくなった」

「え?でもエミリーにはエミリーのやる事が……」

「んー、私の今の目標は師匠と肩を並べる事ぐらいかな。特に目的があるでも無いし、友達として、ルルを手伝いたくなった」

「そ、そう言ってくれるのは、嬉しいけど……」

「竜相手に一人で挑むつもり?まぁ、竜の噂が本当なら、戦闘は避けられるかもしれないけど」


 竜は噂では俺達と同等か、もしくはそれ以上の知能を持っているとされている。

 話し合いが可能であるなら、戦闘は避けられるかもしれないが、必ずとは言い切れない。

 御伽噺と同様に、力を認められる為に戦闘を強いられる可能性も無い訳ではないのだ。


 楽しそうだと言う気持ちも無い訳ではないが、友達になったからには、力になりたいという気持ちが大きい。

 それにやっぱり楽しそうだし。

 何より俺は彼女の事を気に入った。


「確かに少し、不安はある。……エミリーが迷惑ではないなら、頼もうかな」

「迷惑な訳ないよ。あー、そうだ、パーティー組むなら師匠にも紹介しないと……」


 師匠には用事があると言って宿屋を出て来たのだが、午前中の質問攻めを回避するのにどれだけの時間を費やした事か……。

 何とか説得して宿屋に残ってもらったが、付いてくると言って聞かなかったのだ。


 まぁ、それはさて置き。

 師匠の事はまた後で考えよう。

 今はこっちの事だ。


「じゃぁ、私も自分の事を話して置くよ」

「昨日言い辛そうにしていた事?それなら無理に話さなくても……」

「いや、ルルも話してくれたし……、それに、友達なら話して置きたいから」

「ん、わかった。聞こう」


 うん。

 俺の言葉に神妙に頷き、居直って真剣な表情で俺を見つめてくるルルフレアに少し戸惑う。

 家出したっていう話なんだけど、理由が理由だけに少しカッコ悪い様な気もする。

 真剣に聞かれると少し躊躇うというかなんというか。


 ……ちょっと脚色しようか?


 等と馬鹿な考えが過るが、ありのままを話そう。


 笑いあり、涙あり、魔王の娘の山有り谷有りの家出道中。


 一大スペクタクル巨編を!!


 誇大広告だって?

 バカなっ!

 ありのままを話しますよ?ホントだよ?



 こうして、ルルフレアに続いて、次は俺の話をし始めるのだった。


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