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3.不意の再会①

 ナグリアに到着し、一晩明けて翌朝。


 俺と師匠の二人は冒険者組合のナグリア支部へと足を運んだ。


 取り合えず明日にダンジョンに入りたい旨を申請しに行ったのだが、少し問題があった。


 どうやらダンジョン内の魔物の活動が活発化しているらしく、一時的に立ち入り禁止になっているらしい。

 2日前に発掘作業現場に魔物が溢れだし、数人が重軽傷を負ったという話だ。

 組合の見解としては、ダンジョン深部で縄張り争いでも起こったのだろうという事で、落ち着くまでは入れないと言われてしまった。


 溢れだした魔物の鎮圧は、当初護衛に付いていた冒険者数名と、今日派遣された討伐隊によって沈静化も進んでいるらしいので、遅くても3日後には落ち着くとの事だ。

 まぁ仕方ないと諦めるしかないが、気合を入れていたのになんだか肩透かしを食らったような気分は否めない。


 その討伐隊にでも入れれば良かったのだが、昨日で既に募集は終わっていたのだ。

 仕方がないので、現在探索が終わっている部分や発掘現場となっている部分が記されたダンジョン内部の地図の写しを貰い、解禁されたときに備える事になった。


 一応入り口付近まで足を運んで少し見に行ってみたのだが、まぁ想像通りの洞窟っぽい感じだった。


 途中までは採掘現場としても機能している為に光源は確保されているが、未探索地まで進むとかなり暗いらしい。

 探索にはランプや松明が必須なのだが、俺は城に居た時、家出経路を探す為に、夜中にウロウロしていた折に『暗視』を身に付けたので必要ない。

 師匠にも確認として、大丈夫なのか聞いてみたら問題無いという事だったので、購入リストから外せそうだ。

 確認した時に逆に俺は大丈夫なのかと聞いてきたので、スキルがあると言うと、何故かあからさまに残念そうだった。

 暗闇に乗じて、どうのこうのとブツブツ言っていたので、恐らくまた俺を揶揄う算段でもあったのだろうと当たりを付けているが、嫌な予感しかしないのは言うまでもない。

 本当に、心の底から、『暗視』を身に着けていて良かったと、俺はあの時の自分に感謝した。


 まぁそれはさて置き、予定が狂った。


 一応ダンジョンに入るのに準備として店を回ったが、それでも時間が余ってしまうのは当たり前だ。

 何せ最大で後3日も暇になってしまったのだから。


 仕方がないので、今日は最近の日課としている師匠との組手をいつもより長時間行ったのだが、後で後悔したのは言うまでもない。


 日が暮れ始めた頃、俺はボロボロの体を引きずりながら宿屋へと帰るのだった……。


 そして、その日の深夜、俺は何時もの様に浴場へと向かう。


 もし前世であるならば、稽古後の擦り傷やら打撲やらが散々の状態で風呂に入れば、傷が染みる事は間違いないが、異世界のポーション様様で体の傷は奇麗さっぱり消えている。

 本当に有難い事だ。


 師匠に手加減する様に進言しようかと思う時もあるが、それは何だか負けの様な気がするので、思っていても絶対に言う訳にはいかない。


 さて、浴場に辿り着いた所で、俺は服を脱ぎ、ガラリッとドアを開けた。

 湯気が立ち込める浴場。

 床は磨き抜かれた大理石を思わせるような、石造り。

 巨大な浴槽も床の物と同じような石で出来ていた。 

 流石に深夜だけあって誰も居ない。


 キャッホイ!貸し切りだぜ!


 と、はしゃいでいたのは過去の俺だ。

 今の俺をあの頃の俺と一緒にしてもらっては困る。

 ん?その頃の俺を知らないって?

 まぁそれはさて置き。


 俺は、はしゃぎたい気持ちを落ち着けて、ゆっくりと体を洗い、いざ、湯船へ!


「はぁ~……、生き返る~……」


 広い湯船が気持ちいいね。

 この宿屋が普通の浴場と違うという話があったが、何やら週1の頻度で色々とやっているらしい。

 柑橘系の物を湯船に浮かべたり、前世で言う入浴剤みたいな物が入っていたりと色々だ。

 昨日入った時は柚子みたいな何かが浮いていたが、どういう効果があるのかは俺には解らないので湯があれば何でもいい!

 そして、今日は普通の風呂だった。

 昨日は師匠の乱入を許したが、今日は念入りに釘を刺して置いたので大丈夫だ。


 因みに、この世界にも石鹸の様な物があって泡立てて体等を洗うのだが、垢すりの様な物を使う文化が無い様で、素手で洗うのが主流だ。

 その為に、他人に背中を流されるという事になると、素手で洗われる為にひじょーにくすぐったい。

 それはもう、笑ってしまうぐらいにくすぐったい。

 慣れもあるのだろうが、俺は慣れる気がしないので全力で遠慮したい。のだが、師匠には通じない。

 力じゃ敵わないしな……。いや、身体能力全てで敵わないので逃げる事も出来ない。

 じゃぁ何時も念入りに釘を刺して防げばいいって?ははは。

 あの師匠だぜ?

 あの人、偶に言葉が通じなくなるんだよ!


 まぁ、それはさて置き、今日は昨日とは違ってゆっくりと入れるはずだ。


 さて……。


 泳ぐか!


 ん?さっき、はしゃがないって言ったって?

 何を仰るやら。

 人がそんな簡単に成長するわけないだろっ!

 広い風呂って言うのは泳ぐためにあるんだよ!!


 そして、平泳ぎかクロールかを悩みぬいた末、出来もしないバタフライに決めた所でガラガラッとドアが開いたのだ。

 また師匠かと身構えるが、どうやら違った様だ。


 俺の憩いの場へと侵入して来たのは、青味がかった灰色の髪に、切れ長の赤い瞳をした小さい少女だった。

 切れ長の瞳は少し目付きがきついが、生意気そうな印象を受ける俺とは違い、どこか凛々しさを思わせる端正な顔立ちをしている。

 背格好は俺より少し高い程度だろう。

 彼女は、湯船に浮かぶ俺をチラリと一瞥した後、特に声を掛けるでも無く、無言のままドアを閉めて中へと足を運んだ。

 そして黙々と体を洗い始める。


 間違いなく、見覚えがある人物。


 ルルフレア・パープルだった。


 水音だけが響く浴室に、二人きり……。


 やっべ。すごい気まずい。

 何この再会。

 直ぐに出て行ってもいいのだが、それは何だか感じが悪くないか?


 くそうっ。俺がもし男に転生していればこんな事にはならなかったはずだ。

 もしそうなら俺は男湯にいた。

 こんな気まずい再会は有り得ない。

 女に転生したばっかりに、こんなことになるとは!結婚話と言い、ひょっとして呪いじゃないのか!


 いやまて、もしそうなら家出してないな。

 師匠にも出会ってないかもしれないし、それは嫌だな。

 俺が男だったら、か。

 考えた事は余り無かったが、もしそうならどうなっていただろう。


 おっと、思考が逸れた。


 そんな事を考えている内に体を洗い終えたルルフレアは、ゆっくりと湯船に入ってきた。


 何故か、俺の隣に。


 確かに俺の隣は前世から空いてますけど!


 この広い空間で何故そこを選んだのか、問い詰めたい!


 俺の額から流れる汗は、熱い湯船に浸かっている事が手伝って目立たないが、凄い事になっている。


 そんな俺に、ルルフレアは特にこっちを向くでも無く、湯船に浸かり、正面を見たままで口を開いた。

 驚くほどに無表情だ。


「……こんばんわ」

「はぇ?……あぁ、こ、こんばんわ……」


 急な言葉に変な声が出たが、誤魔化せたはずだ。


「い、いい湯ですねー」

「……そうね」


 会話終わっちゃったよ。

 どうすんだよこれ。

 話題、話題、話題。


 って何で俺が気まずい雰囲気に耐えかねて話題を提供しようと必死になってるんだよ!付き合い始めたばかりのカップルかっ!

 誰かと付き合ったことなんて無いですけどっ!


 はぁ、よし落ち着け。

 まだ慌てる様な時間じゃないって、偉大な人が漫画で言ってた。


「……ねぇ」

「はぇっ!?」


 また変な声が出た。

 急に話しかけるから。

 何だ、どうした!

 急に声を掛けられ、ルルフレアの方に首を回すと、彼女も此方へと向いた。

 ……距離が近いって。


「私、貴女を見た事があるんだけど、どこだろう?」

「……ええっと、ほら、リムールに向かう荷馬車で……」

「それは、覚えてる」


 内心焦る。

 俺も彼女には見覚えがあるのだ。

 荷馬車で出会う以前にどこかで見ている筈。

 ルルフレアも荷馬車の事は覚えているそうなので、どうやら俺と同様に、それ以前の記憶に引っかかっているのだろう。

 これは、どう言えば。


「……そ、そうですか。じゃぁどこでしょうね……。あ、前世とか?ははは……」

「前世……」


 少し考え込む彼女。

 冗談を冷静に考えられると、どうしていいか解らなくなるのでやめてもらえます?


「前世はちょっと覚えが無い。……多分、数年前とか、それぐらいだと思うけど」

「そうですね……。前世は、無いですよね」


 すげぇ普通に返したな。ちゃんと考えたし。

 前世覚えてたらびっくりだよ。とんだ不思議ちゃんだよ。

 転生した俺じゃあるまいし……。え、俺もしかして不思議ちゃん?


 まぁそんな事よりもだ!


 彼女も俺に見覚えがあるとなると、俺が彼女に見覚えがあるという事も恐らく確かなんだろう。


 バレると困る、のかどうかを考えると、ちょっと不味いとは思うが実害があるかどうかは解らない。


 俺は彼女の為人を知らないのだ。


 俺の正体を知ったとして、彼女はそれを内密にしてくれるだろうか?

 それが解らない俺は少し考え込む。


 そんな黙り込む俺を特に訝しんだ風でも無く、無言で未だに凝視してくる彼女を横目に、頭を悩ます俺であった。



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