2.鉱業都市ナグリア
リムールを旅立って4日程が経過した。
中間地点とも言える街までは馬車で2日の距離で、丁度そこまで向かう荷馬車があったので相乗りさせてもらう事が出来た。
その街で一晩休み、翌朝には直ぐに出発。
そして今日、魔王国フレイムの国境付近に位置する街、工業都市ナグリアへと到着した。
ここから国境沿いに北上すると、目的地である中央都市ハイエンドへと辿り着く。
俺と師匠の予定では、ここで暫く滞在してからハイエンドへと向かう予定だ。
俺としても、ここまでくれば暫くは安全だろうと思われる。
ここまでは殆どの時間を移動に費やす様な強行だった為に、疲れもあるし、いい休憩だ。
それと、もう一つ、ここに滞在するのには理由がある。
この街の鉱業都市という名前の通り、この街は巨大な鉱山に面しており、鍛冶等が盛んだ。
そして、街に面した鉱山に鉱物の採取が行われている坑道があるのだが、その坑道は、ダンジョンと呼ばれる迷宮になっていて、探索が終わり、安全が確保された場所が採掘所になっている。
かなりの広さを誇っているダンジョンらしく、今現在採掘がおこなわれているのは全体の半分にも満たない程度だろうという話で、残る半分は未調査のダンジョンという訳だ。
この事により、冒険者が多く集まる場所でもあるのだ。
基本的に、ここでの依頼の多くは、採掘現場の護衛が多い。
ダンジョンの未到達場所の探索は危険が多いが、その分希少な宝等が手付かずで残っている為、冒険者が許可を取って潜っているのだが、思う様に調査は進んでいないそうだ。
基本的にダンジョンは組合の管理とされている。
国の領地内にある物なのだが、昔は危険等が多い為に発見された場所は立ち入り禁止になる場合が多かった。
冒険者組合が出来てからは、放っておくよりも管理を任せて探索させたほうが、国の利益になる事が多い為、そう決まったのだ。
管理は任されているが、国の領地である事には変わりが無い。
その為、そのダンジョンで取れる資源は基本的に国の物となり、それ以外、例えばダンジョン内の魔物を倒した素材や、中で手に入れたアイテムや武器防具等は基本的に冒険者に権利がある。
組合は、そのダンジョンで取れる資源の数パーセントが年間管理費として懐に入るという訳だ。
まぁそんな訳で、ちょっとダンジョンに潜ろうかと師匠と相談している。
修行もかねてだが、一つ欲しい物があるのだ。
この街は鍛冶が盛んという事なので、作って欲しいというのが正解か。
武器は今ある物で現在は満足している為に必要ないのだが、俺は最近、炎魔武技をメインに使っている為、手足を守る防具が欲しい。
短剣等も使う為に、余り指等の動きを阻害しない様なタイプが好ましいので、ガントレットや籠手と呼ばれるタイプになるだろう。
ここのダンジョンでは、武器や防具にするのに適した魔物が数多くいるとの事で、それを狙おうと言う訳だ。
そして、今しがた街へと到着した俺達は、連れ立って外門を潜り、街を見渡す。
リムールより少し小さいが、この街も良く発展している様だ。
人通りも多く、活気で溢れていた。
街の特色としては、木造建築が少なく、建造物の殆どが石造りだという点だろうか。
道の舗装も行き渡っている様だ。
そして街の一番奥には鉱山が聳え立っている。
俺と師匠はとりあえず宿屋を探し、ごく一般的と思われる所に決めた。
今日はもう日が暮れ始めている為、宿屋で休み、明日から行動を開始する予定だ。
部屋を借り、いつも通りの二人部屋に入ってベットに座り、一息付く。
「はぁー。つきましたねー」
「そうですね。ここまで歩き詰めでしたから、疲れたでしょう」
「確かに疲れました。……でも、リムールについたばかりの時に比べれば全然マシですよ」
話ながら、コート等を脱ぎ、皮鎧も外す。
少し軽くなった体をほぐす様に、肩をクルクルと回し、思い切り伸びをした後、ベットに仰向けに寝転がった。
予想よりいいベットだったようで、ボフッと音を立てて体が少し沈み込んだ。
「はぁ~、柔らかいベット……」
「……私はベットになりたい」
「いきなり意味が解らないです」
ポツリと意味不明な事を呟く師匠だったが、今に始まった事ではないので特に気にせず、目を瞑る。
このまま寝れそうだ。
「エミリー、眠いのですか?」
「んー、まだ平気です……、たぶん」
「そうですか……、一緒に寝ますか?」
「寝ません」
「っ!?……そんな、私の事が……」
「嫌いじゃないです。もうその手には乗りません。大体ベット2つあるじゃないですかー」
「……ちっ」
ええー。
舌打ちしたよ、この人。
ちょっと怖いが同じ過ちを犯すわけには行かない。
緊張してぐっすり眠れないんだよ!
「解りました。不本意ですが、諦めます」
不本意なのか。
「もっと疲れさせるべきでしたか……」
「え?」
「いえ!何でもありませんよ。エミリー稽古付けてあげましょうか?」
「今日はもうやったじゃないですか!」
「いえ、少し足りなかったような気がしたので」
「……勘弁して下さい。明日にしてください」
不穏な気配を感じるので辞退させて頂く。
必要以上にボロボロにされそうだ。
「そうですか……、もう日も暮れますし、仕方ありませんね……」
「はい……、またお願いします」
すごい残念そうにチラチラ見てきているが、ここは無視だ。
と、ここで、師匠が何かを思い出したかのように、ポンと手を叩いた。
何事かと師匠を見ると、ベットから立ち上がり、寝転がっている俺へと近づいてくる。
そして、覗き込む様に俺の顔の傍へと自分の顔を近づけて来た。
近い近い近い。
「……近いです」
「エミリー!ここの宿屋のお風呂は他とは少し違うという話でしたよ!」
「……そう、言ってましたね。近いです」
「入りますよね?」
聞いてないね。近いんだって!顔が!
「……そりゃぁ、入りますよ。後で……」
「そうですか。後で、ですね……、くふふっ……」
「あの、師匠」
「さて!エミリー、ご飯でも食べに行きますか!」
そう言うと、師匠はスッと顔を放して体を起こし、スタスタとドアの方へと向かっていく。
俺も後に続くべく、体を起こして立ち上がり、その師匠の後ろ姿へ向かって言葉を告げる。
「1人で!入りますからね!背中は流さなくても大丈夫ですよ!?」
「今日は何を食べましょうか。エミリーは何がいいですか?」
「いや、何でもいいですけど……、それより聞いてました?」
「何でもですか……、それは主婦が聞くとキレる台詞の上位にランクインする言葉ですよ?」
えー。聞いてないよ!何処調べだよ!
「それより解りましたよね?一人で入りますよ?」
「もー、エミリーはそればっかりですね。ほら、早くご飯食べに行きますよ!」
もー、じゃないよ!
絶対聞いてないなこの人。
俺はいつも以上に警戒する事を心に誓い、夕飯へと向かう。
明日は冒険者組合に行ってからダンジョンの下見に行く予定だ。
それから準備等もしなければいけない。
忙しくなりそうだ。
疲れを取らなければ行けないのだが、ゆっくりと休む事ができるかどうか怪しい。
内心溜息を漏らす俺であった。




