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2.コッソリ家出しよう

ブックマークしてくださった方、読んでくださっている方に感謝をorz


少しでも楽しんで頂けるように、精進したします!

 さてさて、皆が寝静まった深夜。俺は部屋を出た後、『隠形』と呼ばれる気配を希薄にするスキルを用いて長い廊下を早足で歩く。

 ここまで深い時間ともなると、見回り連中が手を抜いている事は調べがついている。ここ数ヵ月間は脱出経路を模索する事に重きを置き、長い時間を費やしてきたのだ。

 まず、俺の部屋から出るのは簡単だ。何故なら誰も寄り付かず、この付近には見回りも滅多に近寄らない。

 言っていて何だか少し悲しくなった。そんなに毛嫌いしなくてもいいと思う。


 それはさて置き、取り合えず、俺の部屋から出た後は、長い廊下を抜け、中庭に出る。

 ここも時間が遅くなると、広い中庭を、見回りが馬鹿正直に全体を見て回っているわけではないので、比較的安全だ。

 というか、どこの城でも同じなのかは解らないが、外に出ようとする者を余り警戒していない様だ。どちらかと言うと、侵入しようとする者を警戒している感じだ。

 それこそ城門や城壁、市街地と外を隔てる外壁付近には、寝ずに目を光らせている様な、まじめな兵士達が陣取っている。

しかし、基本的に城内の警戒は緩いのだ。


 まぁだからと言って脱出が簡単かと言うと、そんな事はないのだが……。

 だがしかし、要所要所で警戒すべき場所を乗り切れば、簡単だと言ってしまってもいいかもしれない。

 しかしそれは、その警戒すべき要所、場所を長い時間をかけて調べ上げたので言える事だ。

 初見での脱出となると、まず無理な話だろう。


 そんなこんなで無事に、城門前まで辿り着いた訳ですが、流石に城門から堂々と出るわけには行かない。

 そこで、城門から少し東に進んだ場所に、裏口よろしく、小さい出口が隠されているのであった!ドヤァ!!


 まぁ勢いでドヤ顔をしてしまったが、深夜のテンションと言う事で許してほしい。

 因みに、隠されているとは言っても、本当はそんな事は無い。

 何故なら、巨大な門を数人がかり閉めた後、どうしても城から出入りしなければならない時、もう一度門を開けるのか?という事だ。

 要するに、周知の事実として、この扉はあるのだ。

 まぁ勿論普段は鍵が掛かっているのだが、昼の内に開けておいた。

 抜かりは無い。


 こうして無事、こっそりと城を抜け出す事に成功した俺は、裏通りを選んで市街地をひた走る。

 ある程度町と外を隔てる壁へと近づいた所で、暗がりでしゃがみ込み、次の準備にうつる。

 アイテムボックスからロープを三束取り出し、それをすべて繋げる。これだけの長さがあれば届く筈だ。そして繋げて作った長いロープをグルグルと輪っか状にして肩に担ぎ、また走りだした。


 次は止まる事無く、一気に外壁の階段を上り、外壁の上まで後二段という所で止まり、顔をソーッと出して様子を伺う。

 ここから見える区画に人影は4つ。等間隔で離れた場所に立っている。

 俺が今いる階段を上り切って少し歩いた所に、仮の宿舎があり、そこで交代要員が休憩している。

 ほぼ予定通りの時間でここまで辿り着いたハズなので、もうそろそろ交代の時間のはずだ。と、そう思った矢先に宿舎のドアが開き、一人の兵士が目を擦りながら出て来る。

 そして彼は、一番手前で立っている兵士の所まで歩いていった。


「ふぁ……、さみぃーなぁ……。もうすぐ交代だ、他の奴ら呼んでくるから、あっちの人にも言っといて貰えるかい?」

「ん?あぁ、わかった。やっと交代か……、もう眠気が限界だよ」

「ははは、平和なご時世だしなぁ。警戒するのも馬鹿らしくなってくるよ……、おっと、これは失言かな」

「ははっ、違いない。まぁ、兎に角、今はさっさと眠りたいよ……。直ぐにあいつら呼んでくるから交代よろしく」

「おう。おつかれさん」


 そんな兵士の話を隠れて聞いた後、また少し顔を出す。

 宿舎に兵士が入るのとほぼ同時に、自分の持ち場を離れた兵士が、他の兵士の持ち場まで歩いて行く。

 よし、スタートだ。そう心の中で告げる。何度もここまで来てタイミングを計ったのだ。持ち場を離れて交代を告げに行き、他の兵士がここにやってくるまで、平均時間は40秒から1分弱。


 即座に階段から飛び出し、胸壁の凹部分に予め用意していたロープの輪っかを引っ掛け、ロープを外へと垂らす。ここまでで10秒。

 ロープを握り、躊躇う事無く外へと体を躍らせる。ゆっくりと降りている時間は無い。

 手の平をロングコートの裾で守り、滑る様に一気に下まで降りる。

 30秒。そして地面に飛ぶように降り立った後、垂れ下がるロープへ向けてパチンッと指を鳴らす。

 油を染み込ませていたロープは一瞬で燃え上がり、強い光を伴い、燃え尽き、消える。

 少し上がざわつくが、光ったのは本当に一瞬の事だ。しかし、闇が支配する中で、一瞬でも炎が上がれば目立つのはしょうがない。

 しかし、近くで観られたわけではないし、何が起こったかを示す証拠は既に燃え尽き、消えて無くなっている。

 少し派手だったが、報告や連絡に向かうにしても時間が掛かる事は明らかだ。

 しかもそれが俺に結びつくのかというと、そんな事は無い。結局俺の名前なんて出る事も無く朝を迎えるだろう。

 解ってから慌てたのでは後の祭り。ここまでくれば後はもう、出来る限り王都から離れるのみだ。


 そして俺は、ざわつく外壁の上には目もくれず、一目散に目の前に広がる森へと向かって駆け出すのだった。



 走る、走る、走る、走る。

 誰も追いかけてきているはずは無いが、誰かに追われている様な錯覚を覚え、唯々ひたすらに、一心不乱に森の中を駆け抜ける。

 少しでも遠くへ、手の届かぬ場所へ。逃げきれれば自由がそこにある。

 足を止めて休みたい衝動を抑え、気持ちの続く限り、息の続く限り、俺は走り続けた。

 


 どれだけの時間を走っていたのか定かでは無いが、後もう少しで森を抜けるところまでは辿り着いた。

 ふと空を見上げる。もうすぐ夜も明ける頃だろうか。


 それにしても、ここまで走り続けられるとなると、前世では有り得ない程の体力だ。前世の俺なら3キロ走り切れるかどうかも怪しい所だった。

 だがしかし、この魔族の体と言うのは基本スペックからして、常人より高く、さらにはある程度はセバスに鍛えてもらったのも大きいだろう。


 まぁどれだけ体力があろうとも、流石に夜通し全力で走り、しかも慣れない森の中を、木々の間を縫う様に走ったのだ。

 流石に息は切れ、体が重い。


「はぁ……はぁ……、ふぅ……・」


 俺は肩で息をしながら立ち止まり、近くの木を背にもたれ掛かり座り込んだ。

 少し休憩しなければ、流石にこれ以上走るのは無理だ。


 しかし、ここまでくれば大分距離と時間は稼げたはずだ。

 追手が掛かるとしても、俺の家出がバレてからだ。幸いにも俺の部屋に使用人は寄り付かない為、発見はどうしても遅れるだろう。

 最短での発見者は、どうしてもセバスになってしまうと思われる。

 朝の稽古をする為、いつも通りに俺を迎えに来たセバスに。


 どう、思うだろうか、彼は。

 家から逃げ出した俺を、どう思うのだろうか。

 軽蔑するだろうか。それとも呆れるだろうか。


 目を瞑り、そんな事を想い、自嘲気味に笑みを零した。


 もう恐らく会える事も無いのだ。そんな事を考えてもしょうがない。

 でも多分、いや、きっと彼は、俺の事を怒ってくれるだろうと思う。

 あの家で、俺の事を本気で心配してくれたのも、叱ってくれたのも、彼だけだったのだから。


 自分の願望ではあるが、それぐらい信じてもいいだろう。いつかもう一度会える事があるなら、セバスだけには謝罪の言葉でも考えておこう。



「さて、そろそろ行きますか」


 立ち上がり、お尻に付いた土を払った後、思い切り伸びをする。


「あ、そうだ」


 とここである事を思い出し、腰に刺した短剣を抜く。

 被っていたフードを脱ぎ、ポニーテールにしていた髪をほどいた。


 そして、手を使って肩付近で髪を一つに纏め、そこに短剣を添える。


「やっぱり長いと邪魔だし、少しは見た目も変えないとな……」


 添えた短剣を引くと、ブツッと言う音を伴い、予想していたよりも簡単に髪は切断された。


 頭を振ると、パラパラと黒髪が舞い、そして手に握っていた髪の束を地面へと捨てる。


 髪に手櫛を通し、長さを確認する。肩より少し上ぐらいの長さだろうか。ミディアムショートぐらいと言った所か。


 家名も捨てよう。貴族でもないのにミドルネームやらがあるのは不審がられる。名前だけでいい。

 今日から俺は唯のエミリーだ。



 そう決意を新たに、一歩を踏む出そうとした所で、邪魔者が入る。

 ほど近くの木の上に、そいつは不敵な笑みを浮かべて此方を見下ろしていたのだった。


「ようやく追いつきましたか……。さて、一緒に来てもらいますよ、お姫様」



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