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27.お疲れ会

 続いちゃったよ。


 ドンドンッ!!


 部屋の外から乱暴なノックの音が響く。

 迷惑ですよ師匠、やめてください。


「エミリー、もう大丈夫ですか?手伝いましょうかー?」

「……もうちょっとですから待ってくださいっ!!」

「そもそもなぜ私は部屋を追い出されたのですかっ!?異議を申し立てます!!」

「入ってきたら絶対に着ません!!」

「待ちます!1年でも!!」


 1年て……、じゃぁ1年後にまた持ってきてくれます?だめですか、そうですか。


「ぐっ……、いいだろう……、着て、やろうじゃないか……」


 師匠め、こんな罰ゲームを思いつくとは……。

 どうあってもこの後のお疲れ会で俺を笑い者にしたいようだ。


 俺も男だ!今は女だけど!

 覚悟を決めろ!


 ガチャリとドアを開けると、そこには部屋の前でウロウロしている師匠がいた。

 開くと此方に気付き、俺を見て固まっている様だ。

 笑わば笑え!

 ……動きが無い。


「あの……、師匠?」

「はっ!余りの可愛さに見惚れていました……」


 そんな馬鹿なっ!


 え、待って、何故スカートの裾を握るのかな。師匠?


「ちょっ、ちょちょっ!!ちょっと待って!」

「いえ!これは必要な事です!!ちゃんと履いてるのかどうか!」

「履きましたっ!履きましたからっ!」

「師匠として!これは師匠としてですから!!」


 スカートを片手で必死で押え、もう片方の手で師匠を放そうと押すがビクともしない。

 このやろう!力強えって!!

 師匠としてパンツ見るってなんでだよ!!どんな師匠だよ!!

 あんたの中の師匠像は一体どうなってんだ!


「師匠!人に見られますからっ!!」

「っ!?それはいけません!!」

「な、なら……」


 おや、部屋に入ってきたぞこの人。

 後ろ手にドアを閉めて……。


「いやー!!破れる!破れますっ!」

「なら手を放してください!!いえ、寧ろエミリーがスカートを持って捲ってくれればいいじゃないですか!!……あ、鼻血がっ……」

「イヤァァァァッ!!」


 はい。

 俺は今街を歩いてます。

 え?今から、ほら、お疲れ会に呼ばれてるからね。そこに向かってるんですよ。

 スカート短けぇよこれ、なんだよこれ。


「はぁ……。あの光景だけで私はあと100年は生きられそうです」

「そうですか。……私は寿命が縮まった気がします」


 あの後何があったかはもう俺の記憶にはない。

 思い出させないでください。

 しかし、黒歴史は現在進行形でもあるのだ。

 結局あの恰好のまま外を歩いている。

 何か視線が痛いのは気のせいだろうか。

 自意識過剰か……。


 城に居た時はスカートが多かったが、基本的にロングスカートで足は隠れていたのだ。

 流石にこれは、フリフリでスカートが短すぎる。

 恥ずかしいなんてモノじゃない。


 そして、少し歩いた所で、待ち合わせの店へと辿り着いた。

 普通の木造建築で、作りは周りとそう大差ないが、上げられた看板から、ここが飲食店である事が解る。

 その他に違う所と言えばその出入口であるウェスタンドアだろう。

 俺と師匠はそのドアをくぐり、店内へと入る。

 カウンター席と、丸机が並ぶ店内を見回すと、見知った顔を見つけて其方へと歩いて行った。


「すいません、少し遅れました!」

「すいません、準備に手間取りまして……」

「おう!きた……か?え?エミリーちゃんか?」


 丸机は椅子が全部で4脚あり、その机に座っていたのはアルドとギルバートとニコラスにサミアの4人だ。

 声を掛けられて振り返ったギルバートが俺の姿を見て目を見開いている。


 何と言うか、場違い感が半端ない。

 俺だけがなんか気合いれて、おめかしして来たみたいじゃないか?

 火が出そうなほど恥ずかしい。


「随分とまぁ……、見違えたぜ」

「はぁ……、師匠に着せられました……」

「ははっ、そうか。心配しなくても似合ってるぞ」

「ほんと、見違ますね。可愛いですよ、エミリーちゃん」

「ほんとそうっすねー。イメージ変わるっすね!」


 4人ともが好き勝手に言っている。

 顔が笑ってるんだよっ。


「いや、似合いませんよ……。罰ゲームですよ?これ……」

「は?罰ゲームって……、なんでまた」

「可愛いと思うけどなぁ……」

「ま、まぁ、そっちが空いてるから座ってくれ。飲み物は、適当でいいか?」

「エミリーちゃんってまだ15きてないでしょ?それはまずいですよ!ギルバートさん!」

「おう?そうなのか?俺は12の時には飲んでたぞ?」

「「「それはあんただけだ!!」」」

「お、おう。ならミルクか、なにかジュースでも……」


 三人の声が重なった所で、俺は指さされた隣の丸机の席に腰かけた。

 師匠もそれに続き、隣へと腰かける。

 腰かけた俺達を見て、アルドが此方を振り返り、声を掛けて来た。


「今日はギルバートさんが奢ってくれるらしいから、好きなもん食べな、エミリーちゃん!」

「あぁ!?誰がそんな事言ったアルド!!」

「ほんとですか!?」

「あ?いや……、まぁ……、ちっ、しゃぁねぇ!エミリーちゃんとシルヴィアさんだけだぞ!お前らは自分で払えよ!」


 そう告げたギルバートの言葉に、所々から「えぇ~」「そんな殺生なー」「サイフ忘れたー」等と声が上がった。

 おい、こら、サイフ忘れた奴、すぐに取ってこい。会計どうすんだ!


 そして次々と料理が運ばれてくる。

 肉料理、魚料理、スープ、と色々な物が机に並んだ所で、元気な声が店内に響いてきた。


「ごーめーん!!遅れちゃったー!!」

「お、やっと来たか」

「遅いですよ!ユーちゃん!」


 聞き覚えのある声に俺は入り口の方へと振り向くと、そこにはエルフ少女、ユーリンの姿があった。

 ニコニコとした笑顔で此方へと近づいてくる。

 声を掛けようとした所で目が合い、何故かその場で足を止めて固まる。

 そして、次の瞬間には、此方へとすごい勢いで駆けてきた。

 店内は走ってはいけませんよ!世界共通の常識ですよ!


「エミリーちゃん!?」

「はぁ、お疲れ様です。お姉さん」

「っ!?」

「ん?」


 何故かワナワナと震えているのだが、一体どうなっているのか。

 あ、その飲み物こっちじゃないっすかねー?こっちこっち。

 あ、どうも。

 はぁ、うめぇなこれ。


「可愛いっ!!これお持ち帰りでお願いしますっ!!」

「は!?」


 うちの店はテイクアウト禁止ですっ!!


「ユーリンさん、ここの席は満席ですよ?他へどうぞ?」

「あらぁ、シルヴィアさん居たんですか?私は目が悪くなったのかなー?全然見えなかったよー。エミリーちゃん以外誰も座ってないかと思った」

「おやおや、それは行けませんね。ここにはいい治療師が居るそうなので、すぐに行かれた方がいいのでは?あ、中級ポーション差し上げましょうか?」

「ぐっ……、じゃぁ、エミリーちゃんに聞くからいいもん!いいよね!?ね!?」

「え?あぁ……、はい、どうぞ」

「ぐっ……」

「ふふんっ」


 勝ち誇った様に笑みを浮かべ、俺を師匠と挟んで隣へと腰かけるユーリンに、師匠の顔には微笑みを浮かべたまま青筋が浮かんでいた。

 また始まった。

 本当に仲が悪いなこの二人は。


 あ、店員のお姉さん、そのジュースこっち!

 はぁほんとうめぇこれ。なんのジュースだろう。


「エミリーちゃん、今日は一段と可愛いねー。どうしたのー?」

「え?いや、師匠に着せられたんですよ。罰ゲームです」

「私がエミリーの為に、エミリーの事を妄想、じゃない、思って!選んだ服です!自信作です!」

「へぇ……、うん。ほぉ~……」


 そう力説する師匠を見て、ユーリンはジロジロと俺の姿を眺めている。

 そして静かに立ち上がり、俺の目の前にスッと手が差し出された。

 え?何?

 と、焦るが、次の瞬間、反対側の師匠の手もスッと差し出され……。

 ガシッ!!と固い握手が俺の目の前で交わされた。

 え?君たち仲良いの!?


「まぁ、敵ながらあっぱれ、と称賛を送らせてもらうわ……。悔しいけど」

「ふふっ……、この良さが解るとは、貴女もなかなか見る目だけはあるようですね」


 えぇー。なにこれー。なんでこんなライバルみたいな感じで盛り上がってるのー?


「因みに下着も私が選びました!良く似合ってましたよ。流石私です!」

「はぁ!?」

「なっ!?」


 少し辺りがざわついたのは気のせいだろうか。

 というかいきなり何を言い出すのだこの人は。


「似合ってたって……、まさかとは思うけど……、見たの?」

「えぇ、もちろん!師匠として当然です!!」

「なっ!?なんですって!?」


 今度はあからさまにざわついてますから!


「ずるい!私も見たいっ!見せてっ!!」

「あ、こら!それはダメです!師匠の特権ですから!!」

「イヤァァァッ!!」


 そう言ってユーリンはその場でしゃがみ、あろうことか俺のスカートを持ち上げようとして来た。

 俺はそれを手で押さえて必死で抵抗する。


 何でお前らそんなにパンツ見たいんだよ!!オヤジかっ!!


 取り合えず、ユーリンは師匠に引き剥がされて事無きを得た。

 あぁ、もう飲まなきゃやってられないよ。

 あ、それ俺の!!こっち!

 はぁうめぇ。まじで何だろうこれ。

 なんかどっかで飲んだことある様な気がするなぁ。

 何か混ぜてあるねこれは。

 果汁のジュースに何かを。

 うん、ミックスだね。

 うーん。


「だいたい、ですねー」

「ん?どうしたのエミリーちゃん」

「エミリー?どうしました?」


 そうだ。

 そもそも俺にこんな服を着せた師匠が悪いのだ。

 事あるごとに俺の事を揶揄って、たのしんでいるのだ!


「ししょうはおれをからかってそんなにたのしいんですか!?」

「え、エミリー?」

「エミリーちゃん?」

「おねーさんもおねーさんですよ!!おれをからかって!ししょうとけんかして!!なんですか!いったい!」

「おい!どうなってる!?」

「どうしよう!エミリーちゃんが俺っ娘になっちゃった!!」

「そこ!?」

「俺っ娘……ありですね!」

「コラお前ら!固い握手交わしてる場合じゃねぇっ!!」

「ちょ、誰ですかこれ頼んだの!?ジュースじゃないですよ!」

「何を馬鹿な!俺はちゃんとジュースを頼んだぞ!!」

「ならこれは何ですか!?」

「おれにはこんなのにあわないんですよ!もうぬぎます!」

「エミリーちゃんご乱心!!」

「今なら持って帰れる!!」

「させません!!」

「刀を振り回すなーーーー!!」



 うーん。

 気が付いたら宿屋のベットで寝ていたのだが、途中から記憶が無い。

 隣で師匠が寝ているのだが何故だろう。


 頭が痛い。

 もう一度寝よう。


 お疲れさまでした。


 俺達の冒険はまだ、始まったばかりだ。


取り合えず、序章は終わりです。


読んでくださっている方に感謝をorz

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