24.ゴブリン掃討&ゴブリンイーター討伐⑤
師匠の言葉を聞くと同時に、俺はスキル『跳躍』を用いて地面を蹴る。
スキルによる跳躍は、普通に飛ぶよりも何倍もの高さを飛び上がる事が出来る。
まぁ何故飛んだかと言うと、前に居る棒立ちの冒険者達が邪魔だったからだ。
俺は前に居た冒険者を飛び越して、地面に着地すると同時に、『縮地』を発動させて駆ける。
俺はこのスキルの事が使い勝手が良いという以外の理由でも気に入っていた。
どう説明すればいいのか難しいが、この『縮地』を使用すると同時に、俺の体は更に思った通りに動く様になり、更に視界や思考さえクリアになるのだ。
スッキリとした気分、と言えばいいのだろうか。
流れる景色さえもはっきりと視認できる程にクリアな世界で、俺は自由に動き回る。
先程の師匠の攻撃で混乱し、どうするべきか迷っている様子のゴブリンの塊へと駆けていく。
その場所の総数は20か、多くても30ぐらいは居るだろうか。
ここで俺は、以前、というか昨日に稽古を付けてもらった時に師匠から言われた言葉を思い返し、実践でも練習してみようと思い至った。
そして俺は、短剣を腰へと戻し、準備として詠唱を開始するのだった。
昨日、ギムレットさんの店での買い物を終え、宿屋に荷物を置いた後で、初めての稽古を付けてもらう事になった。
取り合えず俺達は、開けた場所として、街を出て少し歩いた場所の草原へと足を運んだ。
そこで稽古をする前に師匠に言われたのだ。
確かに短剣を盾替わりに使用するのは、対人戦では有効だが、それは相手も刃物等を持っており、受け流すのにも便利だという理由で。
しかしながら、冒険者としてやっていくからには、相手は魔物が多くなる。
その全てがそうでは無いが、その殆どが俺よりも巨大な体を持っているだろう。
先のゴブリンイーター然り、巨大な体を持つ魔物も少なくは無い。
そんな中で、その巨大な腕や爪、足等を防御、攻撃、受け流すにしても、やはり短剣では心もとない。
なので、対人や小型の魔物との戦闘以外では、あまり短剣に頼る戦い方はおすすめ出来ないとの事だ。
まぁ最もな話だ。
それに関しては俺も文句は無かったので素直に従おうと思う。
そしてその後に続いた師匠の言葉に俺は目を見開いた。
何故ならば、師匠は俺の使う炎魔武技を知っていたのだ。
そしてそれを使う戦い方に、短剣術等無いと。
まぁ俺は使い方が書いてあった本を読んでこれを習得し、自分の戦い方の中で言いようによっては適当に使用していたのだ。
使っている人など見たことも無い。
これを用いた戦い方など、知りようが無かった。
しかし、師匠は知っているというのだ。
これを聞いたことで更に俺に否は無くなった。
弟子入り当初の希望であった戦い方を教えてくれると言うのだ。
そして俺は喜々としてその日の稽古に取り組む。
もし一本でも取れなかったら、師匠の言う事を何でも聞くという罰ゲームの様な、意味の解らない制約を付けられたにも拘わらず、俺はその時さしたる疑問も持たぬままに、まぁ緊張感があっていいかな?程度で許してしまうぐらいには浮かれていた。
なんだかこういう事が多い気がするのだが、この事を後悔する事になるのは、今のこの戦いが終わってからだ。
文字通りに後から悔いるから後悔と言うのだ。
後悔は先には立たない……。
まぁそれは置いといて、今はゴブリン相手に練習を開始する。
まず、詠唱を終えた俺は、その拳に炎を纏わせる。
と、同時に同じ詠唱を開始。
迫るゴブリンの横っ面を『縮地』を発動させたままで殴り飛ばす。
後方にぶっ飛んだゴブリンの体は燃えながら、後ろに居る数体のゴブリンを巻き込み、そして、即座に詠唱を終えた魔法を発動、殴った直後に、また炎を拳に纏っている。
これを繰り返す。
師匠に昨日教わった事は、局所的な使用では無く、断続的に炎装を続ける事を意識して行う事。
基本的に一連の攻撃が終わりを迎えるまで『縮地』を解かない事、これも断続的発動を心掛ける。
炎装を行った箇所を意識し、循環させる事。
大まかな物としてはこの3点だ。
拳に宿っている炎を、意識して肘へと移動。
右から迫るゴブリンの鳩尾へ向かって肘撃を放つ。
炎を纏う一撃は、細い衝撃となって体内を突き抜け、鳩尾から背中までを一直線焼かれたゴブリンは、口から煙を上げて仰向けに倒れた。
続いて左から飛びかかるゴブリンに、炎を纏わせた回し蹴りを空中に居るその体へと叩き込んだ。
錐もみしながら炎上して地面を転がっていく。
加速した思考と視覚の中で、殴る、蹴る、避ける、を次々と迫るゴブリンを相手に行った。
笑みが零れる。
楽しい。
これが本来の、炎魔武技だと確信する。
文字通り、炎を纏わせた武闘術。
しっくりと自分の体になじんでいくのを体感しながら、俺はその四肢を振るい続けるのだった。
暫くの時が流れ、迫るゴブリンが居なくなった事を確認し、少し休憩とばかりに『縮地』を続けるのを止めると、どうやら周りの戦いにも終わりが近づいているようだった。
師匠の攻撃によって最早数は100にも満たない様な数だったのだ。
少し周りを見回してみると、自分の近くには焼け焦げた死体が約20程転がっていた。
案外多く倒せた事に満足し、ふと正面に目をやると、どうやら一匹残っていたようだ。
その個体は、俺から視線を逸らさずに手に持った棍棒を正面に構えていた。
心なしかその体は震えている様だ。
少し笑みを零して俺は腕をスッと肩の高さまで上げ、掌を上にして手招きする。
「こいよ」
ポツリと呟くように言うと、そのゴブリンは棍棒を右手に振りかぶり、俺へと向かってくる。
先程戦っていた中で、炎の運用にある程度慣れた事もあり、戦いの中で断続的に詠唱を続ける事が癖になりつつあった。
それにより、一時的に戦闘を終えた今でも、その炎は体に纏っている。
当初一か所だけに纏っていた炎だったが、昨日の師匠との稽古と、実践の中でおこなって来た複数個所に炎を纏うという事に成功していた。
どれも一発放つと消えてしまう物なのだが、体内での炎の循環を覚えたので、四肢に纏う事によって4発ストックが可能となったのだ。
そしてすぐそばまで接近したゴブリンの棍棒が俺に振り下ろされる。
まず、振り下ろされたこん棒を炎を纏う掌底でいなし、と同時に棍棒が炎上、そして思い切り右足を踏み込む。
ドンッ!と衝撃が地面へと伝わり、炎を纏う震脚により、地面を波の様に薄い炎が円状に広がる。
そして肩をぶつける様にゴブリンの体へと向かって捻り、体の側面がゴブリンの体へ当たると同時に残る炎を解放する。
その炎の衝撃は、体外ではなく体内へと走り、ゴブリンの体を後方へ吹き飛ばしながら、内側からその体を燃やし尽くす。
そのゴブリンが地面へと仰向けに転がった時、その体に外的火傷は無く、奇麗な物だった。
ただ、その眼球は焼け爛れ、まだ熱が残っている様にグジュグジュとまるで沸騰しているかのような様を見せる。
そして更に、鼻と口、そして耳からは、黒い煙が昇っていた。
紅炎獄という炎魔武技の中級武技だ。
初級とされていた技は、文字だけでもある程度理解できたのだが、これはイマイチ想像が出来ていなかった。
一度流れを見せて貰えれば真似して可能だったのだが、見本が今までは無かったというのが大きい。
それを解消してくれたのが師匠だ。
どうやらただ知っているだけでは無く、その技もある程度知っているらしい。
炎を纏う事は出来ないが、技の流れを稽古で見せてくれたのだ。
勿論俺相手に実践で。
一瞬意識が飛んで体もぶっ飛びましたね。
因みに、俺が頼んだ事ではあるのだが、稽古では容赦なくボコボコにされました。
後で中級ポーション飲むぐらいにはボコボコだったと言っておこう。
いやぁ、今までに無い程に充実した稽古だった、うん、ホント。
あの人本当に嬉しそうな笑みを浮かべながら俺を攻撃するもんだから、軽くトラウマになりそう。
そう言えば罰ゲームって何だろうなぁ。何でも言う事聞くって言っちゃったなぁ。
え?一本?はっはっは。
何をおっしゃるやら。取れる訳ないじゃん!
少し溜息を零しつつ、本日のおさらい。
師匠はどこまでもすごい。
そして、ゴブリンは予想以上に弱い。
以上!
そしてふと、師匠が気になってそっちへと視線をやると、どうやらもう終わる寸前だったようで、残る一体のゴブリンイーターを斬り刻んだ所だった。
さて、これで俺と師匠はめでたく冒険者になる事が出来る。
当初の目的でもあったし、これで就職が決まったと言う事だ。
はっ、これって前世から考えても初めての就職じゃないか?
フリーターだったし。
ん?でも、冒険者ってちょっと派遣っぽいな。
まぁ、いいか。
こうして俺達の戦いは一先ず終わり、街への帰路へとつくのだった。




