表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/38

20.ゴブリン掃討&ゴブリンイーター討伐①

 ゴブリンイーター討伐の依頼を受け、一晩明けて翌日、本日は晴天なり。


 朝日が昇って少し経過した早朝に、俺と師匠は準備を終えて宿屋から出立し、待ち合わせ場所である、街の外門まで歩く。


 どうやら他の冒険者は既に集まっていた様で、俺達が最後だった。

 ゴブリン掃討を担当している冒険者たちは、少し前に既に出発している筈なので、ここにいるのはゴブリンイーター討伐パーティーの面々だ。


 様々な装備を身に纏った男女が合計で、9人。

 その内の二人は、昨日視察に出ていた人で、道案内と言う話だった。

 其々一人ずつが、途中まで討伐パーティーに付く。

 鎧に剣や槍、斧を持つ者や、ローブや軽鎧に、杖等を持った面々が居る中で、フードを目深に被った軽装の人物が二人見て取れる。

 恐らくあの二人がそうだろうか。


 近づいてくる俺達に気付いて、少しざわつくが、直ぐに止み、皆自分の準備に余念が無い様だ。

 俺達も、近くまで来た所で立ち止まり、出発を待つ事にする。

 皆ピリピリしている様子で、特に挨拶等は無く、俺達の様な若輩で、しかも女の子が合流したと言うのに絡んでくる様な輩は皆無だった。

 ひょっとすると、支部長から話が通っているのかもしれないが、ここに集まっているのは、Aランクの冒険者一人と残りはBランクという、それなりに実力がある面子だ。

 見た目で実力を判断する様な、低レベルは居ないと言う事かもしれない。

 まぁ向こうのパーティーと一緒に行動する訳でも無いのだ。

 向かう場所も離れているらしいので、仲良くする必要もないだろう。


 そんな中、唯一人、此方へ近づいてくる者が居た。


 そして、目の前へと来た人物は、ニコヤカな笑みを浮かべたまま、スッと手を差し出して来た。


「どうも、初めまして。アルフレッド・スツェルバーグ、と申します。一応あちらのパーティーの、指揮を取らせていただく事になっています。お見知り置きを……」


 金髪碧眼の、青い鎧を身に纏った、見紛う事無く、イケメンの優男だった。

 耳の形を見る限り、魔族だろう。

 指揮を取ると言う事は、この街でただ一人のAランク冒険者という事だ。

 そこまで強そうには見えないし、確実に師匠の方が強いだろうなぁと、そんな事を思いつつ、取り合えず、差し出された手を軽く握り、挨拶して置く。


「どうも、エミリーです」

「よろしく。エミリー、ちゃんでいいのかな?」

「はぁ……、よろしくお願いします」


 俺の事をちゃん付けし、ニコリと優しそうな微笑みを浮かべるが、作り笑い臭い。

 俺は言葉を返した後、直ぐに手を放した。

 別にイケメンが嫌いな訳ではないが、特に好きでもない。

 アルドも結構男前だし、ギルバートも渋い感じでカッコイイ。

 この二人は今の所、仲良くなれそうだと感じている程、好感を持っていると自覚しているが、コイツの事は俺には無理そうだ。

 その理由は、恐らく俺の許嫁候補で紹介された貴族やら王族連中等が、コイツによく似たタイプが多かったのが原因だろう。

 まぁ悪人では無いと思うが、いけ好かないのだから仕方ない。

 極論だが、人間関係は第一印象が全てだ。

 少し子供っぽいとは思うが、俺は挨拶を終えた後、余り目に入らない様に微妙に師匠の後方へと逃げる。


 その様子を見ていた師匠が、浮かべていた笑みを少し消した様な気がしたが、気のせいだろう。

 エルフ少女のユーリンは何故か別だが、その他の人に余り敵意等、そう言った物を向ける人では無いのだ。

 そしてユーリン相手にでも、浮かべた笑みだけは消えない。


 そして、師匠は微笑みを浮かべて、少し会釈をする。


「どうも、シルヴィアと申します。」

「よろしく。シルヴィアさん」


 アルフレッドは、そう言ってまた作り笑い臭い笑顔を浮かべて手を差し出した。

 しかし、その手を師匠は取ろうとせず、微笑みを浮かべたまま。

 数秒経過し、アルフレッドは所在なさそうに手を引っ込める。


 どうやら、師匠も余り好きなタイプでは無いのかもしれない。

 仲間意識の様な物が芽生えて、少し嬉しくなる。


「あ~っと……、それじゃぁ、僕はこれで……、ご武運を」

「えぇ、そちらも」


 少し気まずそうに、アルフレッドはその場を立ち去って行った。

 時折俺の方をチラチラと見ていた様だが、唯挨拶に来ただけか。

 師匠をナンパでもしに来たんじゃないのかアイツは。


「……余り好きではありませんか?」

「はい……、師匠こそ、珍しいですね?」

「そうですか?んー……、確かに余りこの様な態度は取りませんか……。しかし、エミリーがお気に召さない様なので、私も気に入りません」

「ええ?いや、無理に私の好き嫌いに合わせなくても……、まぁ、人との関係って、第一印象で躓くと、難しいですよね……」

「第一印象、ですか……。成程、エミリーはそれで、あの方をお気に召さなかったのですね」

「ん?」

「いえ、どうやら彼は今日挨拶に来る前に、既に脱落していたようですね」

「……?」


 何故、人の好き嫌いの判断基準が俺なのかは解らないが、そこはこの師匠の事だ。

 この人が何を考えているのか、俺にはさっぱり読めない。

 しかし、第一印象で嫌いだって言ってるのに、師匠は今日会う前に俺は既にアイツの事を嫌っていたと言っているみたいだが、どういう事だろうか。

 俺はアイツと初対面じゃないのか?

 うーむ、思い出せない。

 よく似たやつなら数人思い浮かぶが、どれもこれも似たり寄ったりで印象が薄いんだよなぁ。

 そもそも、あの頃の俺は結婚を迫られて嫌がっている時だ。

 そんな時に紹介されたり挨拶したりした男共の中で、好印象を持てる相手など居るはずもない。

 興味すら持たない様に徹底していたから、印象に残っている方が珍しい。

 少しの間思い出そうと努力してみたが、無理そうだったので諦めた。

 良く考えてみると、師匠とは一昨日出会ったばかりだ。

 俺が昔、貴族や王族相手に挨拶に回らされていた事等、知っている筈がない。

 恐らく、師匠が何か勘違いしているのだろうと、それ以上考えるのを放棄する。


 まぁそんなこんなで、時間が経過し、俺達は現地へと向けて出発するのだった。


 暫くは街道を一緒に進み、途中でそれぞれの目的地へ向けて別れた。


 街道を逸れて暫く進んだ所で、森の中へと入り、更に暫く進む。

 ある程度進んだ所で、道案内をしていた男が立ち止まり、進んでいた方角を指さした。


「ここから少し先に進めば、開けた場所に出ます。その辺りをどうやら縄張りにしているようで、余りそこから動きは無いようです。もう既に縄張りに入っているかも知れませんので、私ではここまでが限界です」

「そうですか。案内ありがとうございました。ここからはお任せ下さい」

「よろしくお願いします」


 そう言って、案内の男は元来た道を戻っていった。

 残された俺と師匠は、また森の奥へと向かって歩を進める。


 正直に言って、今回頼まれたゴブリンイーターの討伐は、師匠が居る時点で楽勝すぎる。

 俺は前回ゴブリンイーターに挑んだ事で、攻撃力が足りない事が解っている為、一緒に来る必要も無かったのだ。

 それを伝えて、俺はゴブリン掃討の方に付いていくと言ったのだが、それは師匠が許さなかった。


 私の戦いを見るだけでも修行だと、師匠に言われてしまうと弟子の俺に否の言葉は無い。

 それに、「すぐに終わりますので、後で一緒に行きましょう」との事だ。


 今回の事が終われば、師匠と俺は冒険者として登録される事になっている。

 師匠はそれで、実際にゴブリンイーターを倒す訳だから問題は無いにしても、俺はこのままでは何もせずに試験をパスする事になってしまう。

 それは何だかズルをしているようで、俺はイヤだ。

 実力差があり過ぎるのは、この人に弟子入りした時点で解っている。

 しかしだからと言って、甘えておんぶに抱っこで良い訳がない。

 今はまだ、この人を超えるなんて、言える程の自信は無いが、でもいずれ、この人の背中を守れるぐらいにはなって見せるという自負はある。

 その為にも、俺は俺で、冒険者に足る力を見せなければいけない。


 そう考える俺は、昨日、支部長と話をする中で、師匠とは別に、試験免除の条件を追加してもらったのだ。

 その条件が、ゴブリンを30匹以上殺す事。

 因みにこの条件を出したのは、支部長では無く、師匠だ。

 この条件を出した時、支部長は目を見開いて、もっと少なくてもいいと言っていた。

 最初は、師匠がゴブリンイーターを討伐に向かい、俺は最初からゴブリン掃討に参加すると思っていたのだが、師匠がそれを許さないと聞いての言葉だ。

 唯でさえ遅れて参加するにも関わらず、30匹という数では俺の分が悪すぎると判断したのだろう。

 ゴブリンイーターの討伐等、直ぐに終わらせると豪語する師匠は、少し不遜に思われても仕方ないのだが、それに関しては二人共特に言いたい事は無い様子だった。

 恐らく、師匠が一太刀で倒したゴブリンイーターの死体を見たギルバートにはその言葉に疑う余地が無い事を解っているし、その報告を受けているだろう支部長にも、師匠の力を疑うつもりは無いのだろう。

 この場合、疑っているのは、何方かと言うと、俺の実力の方だろう。


 正直言って、ゴブリン30匹を乱戦で倒せるとなると、それはもう見習いとされるEランクや、Dランクも超えている。

 俺の年齢、15歳の成人も迎えていない13歳という年齢は、基本的に見習いのEランクからスタートとされる事が多い。

 しかし、冒険者というのは実力社会であり、実力さえあれば勿論例外は認められているので、年齢に問題が有るわけではない。

 ただ必然的に、成人以下の平均的な実力が、どうしても見習いレベルで纏まっているという事だ。

 勿論、成人を迎えても見習いレベルと判断される事はあるが、こちらは平均してDランクスタートだろう。


 ここで、ゴブリンを相手とした時、面と向かって1対1とした時を考えると、いくら弱小とされる魔物でも、相手は野性の獣なのだ。

 更に、武器を扱う知能まであるとなると、Eランクでは恐らく1匹でも難しい。

 基本的に見習いなのだ。

 戦闘経験が無く、訓練もしていない事を考えれば当たり前と言える。

 そこで、Dランクになってくると、ある程度の訓練を行った初心者戦士と言った所だろうか。

 これならば、1匹、場合によっては2匹を同時に相手にしても勝てると言う所で、もしパーティーを組んでいるならば、そのパーティーのバランスと、相手にする個体のレベルにもよるが、ある程度の数を相手取っても大丈夫だろう。

 殲滅速度がある程度確保できるのならば、5匹から10匹、と言った所か。


 ここまででも解る通り、1人で30匹を倒すとなると、それはもう見習いでは無いし、まして、初心者であるはずもない。

 Cランクでようやく一人前で、パーティーならそれ以上でも可能だろうが、ソロでは難しい。

 上級とされるBランクとなって初めて、それぐらいは出来て当たり前という所だろう。


 まぁ勿論、これはあくまでも1パーティーか、もしくは1人で多数のゴブリンを相手にした時の場合であり、今回の様に乱戦、500を超えるゴブリン対50人の冒険者、となると、そのまま適用する事は出来ない。

 だが、それでもだ。

 ある程度、Cランク以上の実力が無ければ、その乱戦の中で30を超えるゴブリンを一人で殺すのは難しいという事は確かだ。

 俺も少し30は難しいんじゃないかなぁとは思っている。


 だが師匠がやれというのだから、やるしかない。


 正直、出遅れはそこまで気にしていない。


 何故ならば……、とそこまで考えた所で、正面へと目を向ける。


「グルゥァァァァッ!!」


 前方の森が開けた場所で、咆哮を上げるゴブリンイーターが目に入る。

 その視線は、体ごと上空へと向けられていて、釣られる様に俺も少し上へと向ける。


 そこに居たのは一人の少女。

 茶色いポニーテールの髪が上へ流れ、黒いローブと袴がはためいている。


 迫るゴブリンイーターを相手に、師匠は地面を蹴って上空へ、その巨躯の頭上よりも遥か上へと跳躍していた。


「ガアアアッ!!」


 降りてこいとばかりに声を荒げるゴブリンイーターに対し、師匠は特に何をするでも無く、腰に差した刀は抜かれてもおらず、右手を柄に添える様に置いたままだ。

 そして師匠は少しの滞空時間を伴い、ゴブリンイーターの頭上付近まで落下して来た所で、ゴブリンイーターのその長い腕にピクリッとした動きを感知する。

 空中にいる師匠へ向かって攻撃をするつもりだと、俺は漠然と感じとるが、その腕がそれ以上動く事は無かった。

 俺は、デジャヴに襲われる。

 またもや以前と同様に、ゴブリンイーターはその動きを止め、ピクリとも動かない。

 まるでそこだけが、時が止まったかのように。


 そしてフワリと、軽く、音すらもしない羽の様に着地した師匠を見る。

 着地点は、そのゴブリンイーターの広げた腕の中央、その巨大な顔の、正に目の前と言える場所だ。


 少し屈む様な恰好で着地した師匠の手は、添える様だった先程とは違い、しっかりとその柄が握られている。

 そして、そのしっかりと握られた刀の刃は、その殆どを鞘に納められているのだが、ほんの少しだけその美しい刃紋が顔を覗かせていた。

 次の瞬間、チンッ、と鍔鳴りの澄んだ音が辺りに響いた。

 その音を皮切りに、ゴブリンイーターの止まっていた時間が動き出す。

 その動きに合わせる様に、師匠は立ち上がり、俺が居る方へと向き直ってゆっくりと歩き出した。

 何時もの微笑みを、その美しい顔に浮かべて。


 ゴブリンイーターの体は上から下へと断ち切られ、悲鳴すら挙げる事無く、明らかにその命を散らせていた。

 緩やかに、流れる様に時間をかけて、ゆっくりとその体はジワジワと真ん中から開いていき、師匠がある程度離れた所で、完全にその体は真ん中から開き切り、大きな音を立てて後ろへと倒れた。

 広がる血溜に転がるその死体を見ると、前世で見たカエルの解剖を彷彿とさせる程、それに酷似していると感じるのは俺だけでは無いだろう。

 いや、この世界では恐らく俺だけかもしれないが……。

 唯一相違点を挙げるとすると、腹だけを裂かれたカエルに対して、此方は頭上から股までを真っ二つに裂かれている点だろうか。

 いや、良く見ると真っ二つではあるのだが、その裂かれた体の後ろ、どうやら背中の辺りが辛うじて皮一枚で繋がっている様だ。

 その体の内容物が真ん中に集まっているせいで、はっきりとは解らないが、所々に除く部分に、地面の草が無いのが証拠だろう。

 真っ二つに断たれているのではなく、文字通り、真ん中から左右に開かれていると言った方が正解か。


 まぁ刃が背中まで届かなかったのかもしれないが、それはもう俺の直ぐ傍までやってきていた師匠の言葉で明らかになる。


「昨日ギルバートさんが仰るには、皮が奇麗に剥げなかったとの事でしたので、剝ぎやすいようにしてみたのですが、これで良いのでしょうか?」


 うん、どうやら前回の斜めに真っ二つに斬ってしまったのを反省し、皮一枚が残る様に、斬ったらしい。

 俺とは次元が違いすぎて、その戦いぶりを見学しても全くと言っていい程参考にならない。


「さて、回収は後で誰かに頼みましょう。……お金が出来たら、高収納のアイテムボックスを買った方がいいですね」

「あ、そうですね。毎回頼むわけにも行きませんし……、でも高いんですよね」

「そうですねぇ……、まぁ、これから冒険者になるのです。頑張ってお金を貯めましょう!」

「はい!」


 まぁ、ここで話は戻るが、何故ならば、こうやって、直ぐにこっちが片付く事は、俺には解りきった事だったのだ。


「さて、ゴブリン掃討の方に向かいますか。」

「そうですね……、そろそろ始まっている頃でしょうか?」

「どうですかね……、予定よりも随分早く終わってしまったので、何とも言えませんが……」


 師匠の初めての討伐依頼は、3分かからずに完了した。

 カップラーメンよりもお手軽だねっ!


 さて、こうして俺達は、討伐依頼を完了し、ここから北へ向かった場所にあるゴブリン掃討作戦の地へと歩き出したのだった。


 やっぱり俺ってこっちに来た意味無かったよね?どう思う?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ