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1.旅立ちの準備

 いつも通りの朝。

 俺は天蓋付きの豪華なベットからゆっくりと降り、欠伸を噛み殺しながら部屋の隅にある巨大なクローゼットへと向かう。


 時間的には朝日が昇って少し経ったぐらいだろうか。最早この時間に自然に目が覚める様になってしまった。

 何故かと言うと、朝になるとメイド達がやってきて服を着替えさせようとするからだ。

 最初は我慢していたのだが、どうやら俺は心の奥底まで小市民らしい。

 どれ程慣れようと努力しても、どうしても羞恥心が勝ってしまう。

 王族ともなれば、着替えをしてもらうのなど当たり前なのかもしれないが、俺には無理だった。

 自分で朝起きて、自分で着替えを済ませだした最初の内は、メイド達の酷い慌て様から、少し申し訳ない気持ちもあったのだが、どうしても譲ることが出来なかった。

 そして、メイド達と俺との壮絶な早起きバトルがあったりなかったりして、ようやく諦めて貰えたという訳だ。

 今では何でも自分でしようとする俺の部屋に、使用人はセバスを置いて他に出入りは皆無に等しい。

 そして現在、使用人から家族に至るまで、全員に俺は変わり者のレッテルを張られている。

 まぁそれから暫くして、家出を決意しているので、周りにどう思われていようが気にはしていないし、部屋に寄り付く者が少ないのは今となってはむしろ好都合とも言える。


 さて、巨大なクローゼットを開けると、そこに並ぶのは色取り取りのドレスにドレスにドレス。

 ドレスの群れを掻き分け、奥にひっそりと掛けられている数着の男性用の服の中から一組のシャツとズボンを取り出す。

 無地の白いシャツのボタンをゆっくりと留め、黒いズボンを履く。

 そして鏡の前に立ち、自分の姿を眺める。

 正直似合ってはいないのだが、ドレスよりはマシだ。


 ついでに寝癖を直した後、長い黒髪をポニーテールに一つに束ねた。

 これで長い髪も邪魔にはならない。

 そして不意に、自分の顔を鏡で眺める。

 目鼻立ちは整っているほうだろう。だが如何せん目付きが悪い。

 ツリ目気味な金色の瞳は、気が強そうな印象を受ける。いや、もう少し客観的に見て、童顔で少し丸顔な所を思うと、生意気そうと言うのが正解だろうか。

 耳は魔族の特徴として、エルフ程長くは無いが、先端が尖っている。


 まぁ、生まれた見た目にとやかく文句を言っても仕方がないだろう。別に普通なのだからそれで万々歳だ。


 と、ここでノックの音が室内に響いた。入室を促し、ドアをゆっくりと開けて入ってきたのは、いつも通り、セバスだった。


「おはようございます、お嬢様」

「おはよう、セバス」

「お嬢様……、またその様な恰好をなされて……」

「いや、この方が動きやすいんだよ。ドレス着て稽古なんて出来ないし」

「それは……、そうでございますが……」


 半ば呆れて、半ば諦めて、セバスが頭を振る。

 そんなセバスを気にも留めず、俺はセバスの横を抜け、部屋を出て廊下を少し歩いた後振り返り、未だ部屋のドア近くに立っているセバスに向けて声をかけた。


「ほらほら!今日もよろしくお願いしますよ!師匠!」

「……はぁ、畏まりました……」


 セバスは深い溜息を吐きながら俺の後に続き、二人でやってきたのは、手入れの行き届いた中庭の開けた場所だ。

 毎日の日課となっている朝の稽古の時間である。


 俺はいつも通り、セバスから短剣を模した木刀を受け取り、逆手に持って構える。

 一方、セバスはショートソードを模した木刀を右手に、正眼に構えている。


 お互いに向き合い、ジリジリと距離を詰める。


「さて、師匠。今日こそは一本取らせて貰いますよ」

「これは、大きく出ましたな。勝算がおありですかな?」

「さぁて、どうでしょう?」


 セバスの口元に笑みが浮かび、俺も釣られて笑みを零す。


 元魔族の戦士だったセバスに頼み込み、稽古をつけてもらい始めて5年が過ぎた。

 初めは興味本位だったのだが、段々とのめり込み、セバスも本格的に指導してくれるようになった。

 初めの内は、前世で余り褒められた事の無かった事もあってか、セバスに褒められて素直に嬉しかったのもあるだろうが、家出を決意してからは更に稽古に熱を入れる様になった。

 何故なら一人で国を飛び出すとなると、道中には危険が至る所に溢れているのがこの世界の常識だ。

 盗賊やら山賊に始まり、魔獣、モンスターが跋扈している世界なのだから、当たり前と言えば当たり前だ。


 それともう一つ、仕事に関しての不安だ。

 手に職と言ってもこの若さで専門職に就くのは正直言って難しい。

 若くして家を飛び出すとなると、もう定番の冒険者になる他に選択肢がほぼ無いだろうというのが俺の考えだ。

 幸い、冒険者ギルドという物があり、試験はあるが、身分や種族などを深く問わない職種であるらしい。

 その試験に受かる為にも、ある程度は強さがいる。

 そして今日は、俺的には強さの最終試験の様な物を兼ねている。

 是が非でも目標である一本を取って、締めとしたいものだ。


 俺は深く息を吐き、吸い込んで、止める。と同時に、スキル『縮地』を使って地面を思い切り蹴る。

 瞬間でトップスピードへと至り、正眼に構えたセバスへと迫る。

 正眼から上段へと移行するセバスを確認し、即座に側面へと回り込んだ。

 どうやらそれも読まれていた様で、流れるような動きでセバスは横へと向き、上段の構えから俺へと向かって木刀が振り下ろされた。

 本気ではない振り下ろしに、少し悔しさを覚えるが、彼我の力量差は明白だ。

 しかも相手が仕える家のご息女ともあれば、本気を出せという方が難しいだろう。


「ふっ、……うぉりゃっ!!」

「っ!?」


 俺は振り下ろされた木剣を、逆手に持った短剣を頭上に上げて受け流し、体を反転し後ろ回し蹴りを放つ。

 当たるかと思われた蹴りは、即座に後ろに飛んで距離を取ったセバスには当たらず、ブォンッと言う音を伴い、空を切る。


「いやはや……、お嬢様は真に、型にはまらぬお方ですね……」

「……誉め言葉かな?」

「えぇ、もちろん」


 セバスがニコリと微笑み、俺もまた笑みを零す。

 正眼に構えるセバスを見る。嫌になる程隙が無い。

 もう一度突っ込んでも決定打にはならないだろう事は明白だ。

 しかし、飛び込まなければまた、勝機は無い。なんとか、此方の攻撃を受けさせれば……。


 俺はもう一度先程と同じように正面から突っ込む。

 セバスは正眼に構えたまま、動きは無い。

 ここで長い間、彼に稽古を付けてもらった経験が告げる。

 攻撃する気はない。俺の攻撃を受けきるつもりだと。

 やはり、最後まで本気で相手はしてもらえなかった事に対し、悔しさと共に寂しさを覚える。

 怪我をするぐらい、どうってことないんだけどな。そんな事を思いながらセバスへと迫る。


 ある程度距離が縮まった所で、俺は更に加速し、左手に持ち替えた木剣を思い切り突き出す。

 それをセバスは余裕を持って受け流し、左側へと半身に躱そうとする。それと同時に、俺は走りながら準備を終えていた魔法を発動。

 振りかぶった俺の右拳に紅蓮の炎が宿る。


「おぉぉっ!炎拳(フレアナックル)!!」

「くっ!!」


 虚を突いた俺の拳を、セバスは驚く程の反応速度で木刀の腹で受け止める。

 これが真剣か、もしくは模擬刀であったならば、恐らく受けきられていただろう。だが、木刀で炎を受けきる事は出来ない。一瞬で燃え尽き、炭化して崩れる。

 セバスは最早柄だけとなった木刀を無造作に放り投げ、距離を取ろうとするが、それを許すわけにはいかない。

 振り下ろした拳の遠心力を利用し、流れる様にまた回し蹴りを放った。しかし、それも辛うじて腕で受けきられ、後ろへと飛んで勢いを殺すと同時に距離を取られる。


「ふぅ……、反則みたいな技使ったのに、それでもダメか……」

「いやいや……、驚きましたよ。本当に、強くなられましたな……。」


 卑怯とも呼べる手を使ったにも関わらず、ニコニコと笑みを浮かべるセバスに、俺は溜息を吐く。

 どれだけやっても、彼に本気を出させるのは今の俺では無理なのだと、改めて悟った。


「まだまだだよ。もっと精進しないと、ね」

「いえいえ、そのお歳でここまで戦えれば十分ですとも。焦らずとも、お嬢様の才気があれば、もっと高みへ登れます」

「そうかな……、まぁ、セバスにそう言われると、そんな気がしてくるから不思議だよ」


 ニコニコと笑みを崩さないセバスに、俺は苦笑いを浮かべるのだった。


 こうして最後の朝の稽古を終え、次の準備へと入る。

 最早やる事はやったのだ。強さの方は、これからも自分で研鑽を重ねるしかない。


 後はそう、旅支度だ!


 予定としては今日の深夜に家出する予定だ。

 それまでに一通りの荷物を組まなければならない。


 まず、城の倉庫から拝借してきた、アイテムボックス(小)。

 腰に提げる袋タイプの古い物なのだが、まだまだ使える。30種類のアイテムを収納できる魔道具だ。

 これに取り合えず物を詰めていく簡単なお仕事だ。

 まず、これまた倉庫から拝借してきた下級ポーション×5、寝袋×2、毒消しポーション×2、状態異常回復薬×1、ロープ×3を突っ込みます。

 続いて、替えの下着やら肌着を突っ込みます。後は、特注で作ってもらったお気に入りの寝間着。羽織って細い帯紐で縛るだけの黒い浴衣みたいな物だ。これも突っ込みます。

 最後に、今まで貯めていたお小遣い。金貨が3枚に、銀貨が20枚。正直心許ないが、暫くの間宿屋に泊まれるぐらいはあると思う。

 余り外に出たことが無い為に、物価などが詳しく解らないのが少し怖いのだが、まぁ直ぐに仕事を探す予定なので大丈夫だろう。


 準備を終えた後は、夜が更けるのを待つのみだ。


 そして深夜。俺はゆっくりとベットから起き上がる。早めに眠りについた為に深夜でも体調はバッチリだ。

 城から出た後は、市街地を抜け、外に出たら取り合えず近くにある森まで一気に走り抜ける。明日の朝までに出来るだけ王都から離れたい。


 俺は倉庫から持ち出した装備に着替える。

 黒いレザーパンツに、白いシャツの上に黒い魔獣の皮で作られた皮鎧を装備する。

 そして上から漆黒のフード付きのロングコートに袖を通す。全部古い物ではあるが、状態は良く、ある程度の防御力は期待できそうだ。


 そして腰に皮で作られたベルトを装備する。ポーションを刺して置ける様に右側にポケットが付いているので、ここに下級ポーションを刺して置く。


 そして最後、セバスから13歳の誕生日に送られた短剣を持ち上げ、一度鞘から抜き放つ。

 黒い柄に少し反りが入った赤みを帯びた刀身。シンプルな作りではあるが、安物ではない事は明らかだ。シンプルイズベストっていい言葉だと思う。

 これを左の腰に差して準備完了だ。



 ドアへとゆっくりと歩き、部屋に向かってペコリとお辞儀する。


「さて、行きますか。今までお世話になりました。」


 そう告げ、踵を返し、ゆっくりとドアを開け、スキル『隠形』を発動。



 これより、家出を開始します!



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