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18.冒険組合へ

 さて、朝食を終えた俺と師匠の二人は、一度部屋を引き払い、街へと出た。


 俺は一歩外に出て、辺りをキョロキョロと見回す。


 行き交う人々の中には、様々な種族が見て取れた。

 魔族の国である為、魔族は当たり前だ。

 町人と思われる人々の殆どは魔族だろう。

 しかし、商業都市として栄えているこの街は、行商人や旅人、冒険者、旅行客、様々な人が集まってくる。

 そして、店を構えている商人の面々も本当に多種多様な種族が揃っているらしい。

 今こうして行きかう人達を見るだけでも、魔族に、エルフに、人族、ドワーフ、獣人、ほんとうに多種多様だ。

 獣人やエルフ等は、その殆どが鎧を着ていたり、武装した人ばかりなので、恐らく冒険者や旅人だろうか。



 まぁ、あまり宿屋の前で立ち止まっている訳にも行かないので、俺は師匠と共に、並んで街を歩き出した。

 行先は昨日の約束がある為、冒険者組合のリムール支部だ。


 

 歩きながら、その街並みを、またキョロキョロと見回す。

 石造りや木造の家屋に、石畳で舗装された道。

 それはまぁ、王都でも似たような造りだったが、俺は王都の街も余り歩いた事が無い。

 確か3回程、買い物に出たぐらいだろうか。

 その後は何度か、家出ルートを探る為に出たが、それは真夜中だった為に余り印象には残っていなかった。


 その為もあってか、目に見える全ての物が新鮮に映った。

 今の俺を傍目に見ると、酷く落ち着きがない様に見えるだろう。

 少し恥ずかしいという気持ちもあるにはあるが、某探偵では無いが、見た目は子供だ。

 中身はまぁ……、いや、俺は少年の心を大事にしているのだ。うん。

 不自然には映らないだろうと、高を括って開き直るとしよう。


 隣の師匠を見ると、何故か俺を見ていた。

 俺の方が背が低い為に、斜め下を見ているような恰好なのだが、それで普通に歩いているとは器用な人だ。

 少し周りに気が行っていた為に、見ている事には今気づいたのだが、ひょっとしてずっと俺を見ていたのだろうか……。いや、まさかな。

 偶々俺を見た時に俺と視線が合っただけだろう。


 そう思い、それ以上気にしない事にしてまた俺は視線を前へと向けた。

 そこで師匠が、前方にある建物を指さした。


「あれが冒険者組合ですね。看板が出ていると言っていたので、あれで間違いないでしょう。」

「あー、本当ですね。思ったより大きいですね……」


 その建物は二階建てで、そこ等の建物の中では一番大きいサイズだった。

 通常の民家の約2倍程といった所だろうか。

 造りは木造で、ドアの上に大きな看板が掛けられていた。


 まだここから少し離れているが、朝もまだ早い事もあってか、人の出入りは余りない様だ。

 時折その建物から出てくる人がチラホラいるぐらいだろうか。

 その誰もが、冒険者と言う感じではなく、普通の町人風の人から商人と思しき人も見て取れた。

 後から聞いた話によると、冒険者組合に朝出入りしているのは、大体が依頼主だという事だ。

 朝の内に依頼を持ち込み、その新しく受理された依頼を、大体昼過ぎぐらいに冒険者達が覗きに来るらしい。

 昼を過ぎれば、それこそ組合が閉まるギリギリの時間まで、組合の中は冒険者達で賑わっている。


 そして、俺達はゆっくりとした足取りでその建物まで近づき、ドアの前で一人、恐らく依頼人と思しき男性と、入れ違う様にその中へと足を進めた。


 カランカランッとドアの上部に取り付けられているカネが音を立てて、建物の中に入ったことを告げる。

 中は小奇麗な感じで統一されていて、入って左側がカウンター席と、並べられた丸机とその上に挙げられた木製の椅子が並ぶ酒場だ。

 昼にはランチ程度だが、軽食を食べる事も出来るらしい。

 そして右側には、何処か待合室を彷彿とさせる様な長椅子が数脚並び、その奥にあるのは受付で、その後ろには二階へと上がる階段、そしてその階段の下の奥には一つの部屋が見える。


 俺と師匠は、中を少し見回しながらゆっくりと受付と思しき場所へと歩を進めた。


 受付の女性は、品の良さそうな、黒を基調とした服を身に纏っている。

 座っているので、上半身しか見えないが、クラシカルなメイド服によく似ているだろうか。

 長袖で、襟元は白く、赤いリボンが付いている。

 胸元には、盾の形の中に、一枚の羽根の絵が描かれたピンバッジの様な物を付けている。

 少し赤みが掛かった茶色い髪は、後ろで束ねており、茶色い瞳をした若い女性。

 耳が丸いので恐らく人族だろう。

 美人、というよりは、可愛い感じの人だろうか。

 その顔に浮かぶ営業スマイルの印象が強く残る人だ。


 そんな俺達をニコヤカな表情で見つめている受付の女性の前まで辿り着いた所で、向こうから先に声が掛かった。


「おはようございます。どう言ったご用件でしょう。ご依頼ですか?」

「あ、おはようございます。えっと、依頼ではないんですが、ここで待ち合わせをしていまして……」

「待ち合わせ、ですか。お名前をお伺いしても?」

「私はシルヴィアと申します」

「私は、エミリーです。ギルバートさん、という冒険者の方に朝此方に来る様に言われているのですが」


 そう告げると、その女性は傍に置いてあったメモの様な物を手に取り、目を通した後、またニコリと微笑みを浮かべた。


「シルヴィア様と、エミリー様、ですね。伺っております。ギルバートさんは先に来られて二階の部屋でお待ちですので、ご案内します」

「よろしくお願いします」

「お願いします」


 少し小首を傾げる展開だが、どういう事だろうか。


 普通に今いるこの、1階で会うと思っていたのだが……。


 不思議に思いながらも、取り合えず付いていくしかない。


 そして、案内されて辿り着いた部屋の、ドアの上部につけられている表札を見ると、支部長と書かれていた。

 またまた不思議に思いつつ、そんな俺達の事等特に気にするでも無く、女性はそのドアをノックする。


「支部長、お二人をお連れしました」

「あー、はいはい。どうぞ、入ってくださいなー」


 中から聞こえた男性の声に従い、女性がドアを開けて「どうぞ」とまた営業スマイルを浮かべるのを横目に見ながら中へと入る。


 中に居たのは、昨日会ったギルバートと、その奥にある重厚な机の椅子に腰かけた一人の男性だった。

 ギルバードは入って少し進んだ所にある、ソファーに腰かけていて、その前にある木製机の上には布袋が置かれていた。


「それでは、失礼致します」

「えぇ、ご苦労さまー。あ、リナちゃん、暫くここには人通さないでね。接客中だからー」

「ちゃん付けは止めて下さい、支部長。……畏まりました。」

「はいはいー」


 そう告げると、リナと呼ばれた女性はドアを静かに閉め、その後ろ姿に、軽い感じで奥に座った男性がヒラヒラと手を振って見送った。

 それからすぐ、ギルバートがドアの前で立っている俺達へ向かって片手をひょいと挙げる。


「よう!お二人さん。どうだい?昨日はよく休めたかね?」

「おはようございます、ギルバートさん。そうですね……、疲れは取れましたね。おかげ様で」

「おはようございます。昨日はどうも、無理を聞いて頂いてありがとうございます」

「いや、何、かまねぇよ。っと、支部長、先にこっちの話を終えちまってもいいかい?」

「えぇ、どうぞー。私は待ってますから」


 そう言ってまた、ヒラヒラと手を振る男。

 歳の頃は、ギルバートと同じぐらいだろうか。

 薄い緑の髪を無造作に後ろに流し、モノクルを付けている。

 その瞳は緑色で、喋ると時折チラチラと除く犬歯は鋭く大きく発達している。

 妙に時折、語尾を伸ばす癖のある、軽薄そうな印象を受ける男性だ。

 その発達した犬歯から察すると、恐らく吸血族だろうか。

 しかし、肌の色が青白いという特徴が無く、人族や魔族と変わらない肌色なので、ハーフやクォーター等の混血だろう。


 俺達はギルバートさんとその男に促されるまま、室内に足を進め、ギルバートの対面に置かれたソファーへ腰かけた。


「と、それじゃぁ。昨日頼まれた依頼に付いてだ。あの後、確かにゴブリンイーターの死体を確認して、回収した。解体技術も無いっていう話だったんで、昨日確認した通り、それもこっちでさせてもらった。」

「はい」

「うん。それでだ。とりあえず、かなり成長した個体だったんで、取れた素材はそれなりに多かった。ただ、毛皮の方は、少し損傷が酷かったんで、少量だな。あとの牙やら爪やらは丸ごと回収出来た。……まぁ、確かお二人さんは、こういう話は素人だって話だったな。余り詳しく話しても解らねえか?」

「そうですね、相場等も解りませんし、そういう知識も余り……」

「私も、余り……」

「そうか。じゃぁまぁ簡潔に、で構わないか?」

「はい、いずれは知りたい事ではありますが、今でなくて構いません。」

「私も構いません。それに、ギルバートさんの事は信用していますので」

「えらく買い被られたもんだが……、まぁ、そう言う事なら簡潔に行こう。素材の総額が、金貨30枚、奇麗に全部取れれば50はいっただろうが、まぁそれも今はいいか……、それで、俺達の報酬が、金貨6枚ってとこか。解体の料金は、まぁ今回はサービスだ。ニコラスが解体は得意でな。半分趣味みたいなもんだが、外注じゃないんだ。費用はかかってないしな。まぁ以上で、締めて金貨24枚だ。確認してくれ」


 そう言って、机の上に置かれた布袋を、此方へと押し出した。

 師匠がその袋を取り、懐へと仕舞ったのを見て、ギルバートが確認しなくてもいいのかと問うが、師匠は微笑みを浮かべて「かまいません」と一言。

 まぁ俺も彼の事は信用してもいいと感じているので、文句は無かった。


「それじゃー、そろそろこっちの話をしてもいいかなー?」

「あー、支部長、俺は退室した方がいいか?」

「いえいえ!かまいませんよー。貴方が私を紹介して下さいな。お二人には信用されていらっしゃるようですしー」

「まぁ、そう言うなら……。二人共、事前に話もせずに申し訳ないんだが、支部長にどうしても頼まれてな。彼は、冒険者組合のリムール支部長で……」

「ダムリール・エル・ニクスです。お見知りおきを」

「初めまして、エミリーです」

「シルヴィアと申します」

「エミリーさんは、先程いずれと、仰っていましたが、冒険者になりたいんですかー?」

「え?あぁー、はい。この街にも、そのために来たので……」

「そうですかー、貴女みたいなかわいい子は歓迎ですよー」

「はぁ……、そうですか?」

「えぇ、勿論ー。シルヴィアさんの様な美しい女性も、是非うちに入っていただきたいですねー」


 そう軽そうに告げるダムリールに、シルヴィアは何も言わず、ニコリとした微笑みを返す。

 その様子を見ていたギルバートが、呆れた様に間に割って入った。


「……支部長、本題に行って下さい」

「おっとっとー。そうだったね。まぁ、単刀直入に言うと、お二人に力を貸してほしいんだよねー」

「はぁ、それは、どういう話なのでしょう?」

「うんうん。お二人は目撃してるんで、知ってるとは思うんだけど、ゴブリンの群れがこの街から少し離れた所にいるんだよねー」

「はい、それは承知していますが……」

「正直言って、戦力に不安があるんですよ。今この街で集められる戦力は、総勢で50と言った所でしょうか」


 その言葉を聞いて、師匠が少し考える素振りをした後、口を開く。

 俺はこういう場には慣れていないし、余り会話に入れない。

 師匠が殆ど会話を受け持ってくれているので、任せてもいいだろう。

 気になる所以外では、特に口を挟まず、聞くことに徹しよう。


「見た限りで、ゴブリンの数は、100は軽く超えていたでしょうが……、其方にそれだけの人数がいらっしゃるなら、ゴブリン程度は容易いのでは?」

「んー、まぁ確かに、それならば問題ないでしょう。ただ……、どうも100程度では収まらないようでしてー。先行して付近を視察している者の情報なのですが、どうやら貴女方が目撃したのはほんの一部だったのでしょう」

「成程……、それで数はどれぐらいなのですか?」

 

 問いかける師匠に、ダムリールは少し視線を上に向けた後、また此方へ向けて告げる。


「そうですねー。軽く見積もって500……、未だ辺りから合流を続けている情報も入ってきているので、最大で後100程度は増えるかもしれません。」

「中々の数ですね……。まぁ以前の大軍勢と呼ばれた時の数に比べれば少ないですが」

「そうなんですよー。まぁ、どれだけ集まっても所詮はゴブリンですからねー。あまりその数についての心配は無いのですが……、問題は時期が悪い事ですかね。まぁこの時期だから起こった事でもあるのですがー」

「ゴブリンイーターですか……」


 そう呟く師匠に、ダムリールは軽く頷いた。


「お話が早くて助かります。そうです。貴方達には、実際にゴブリンイーターを倒しているという事を見込んで、お頼みしたいんですよー」

「いる事が確認されたんですか?」

「えぇ、確認されたのは、全部で2体です。今支部で集められる人員では、1体を倒すのが精一杯でしょう。今この街にいらっしゃる方でゴブリンイーターとまともに戦えるのは、Aランクのソロ冒険者が一人と、後はBランクのパーティーが4つ程でしょうか。此方が受け持つ一体は、Aランクの方と、Bランクパーティー2つに協力してもらって、やっとですかねー。残りのBランクの方々と下位の冒険者の方々には、ゴブリン達を請け負ってもらわなければいけませんし、その戦場にゴブリンイーターが割り込めば、折角集まっているのに、また散ってしまって、もういたちごっこですよー。もう一方に手が回らないのですー」

「それで、私達に?」

「はい。お願いできませんかー?予定は明日、出発は朝です。勿論報酬は弾みますよ?」


 と、いう事だった。

 俺達二人はお互いに少し顔を見合わせた後、特に断る理由も無いのでその話を受ける事となった。

 その後、更に詳しい作戦の内容と、報酬などの話を詰めた後、本日は解散となった。


 報酬の方は、金貨30枚に、そのゴブリンイーターを倒す事が出来たら、その素材などの一切の権利。

 そして、俺と師匠の二人が冒険者になりたいという話を聞いて、今回の作戦が成功した暁には、試験を免除してくれるという事だった。

 報酬の相場ははっきりいって全く解らないが、仮にゴブリンイーターの脅威度がランク5だとすると、適正より少し高いぐらいだとギルバートさんが言っていたので、そうなのだろう。

 因みに、売られている物の物価等を目安に、大凡の価値ではあるが、日本円に換算して、銅貨が1枚100円、銀貨が1000円、金貨が10000円、と言った所だろうか。

 更にその上に白金貨があるが、これは一般人でお目にかかる事は滅多にない。

 その価値は、金貨が100枚分で、1000000円と相当だ。

 一般人の買い物で使うはずもない。

 まぁ、価値の高い武器防具や、魔道具などになると、その額を超える物も数多くあるが、わざわざ白金貨で払う様な冒険者はまずいないだろう。

 わざわざ両替するのも面倒だ。

 一種の金持ちのステータスの様な位置付けなのだ。


 まぁそれはさて置き、予想外に見入りが大きかったのは嬉しい事だった。

 少し不安のあった資金面も、暫くは解消されたと言っていいだろう。


 ゴブリンイーターの素材を売ったお金なので、全部師匠のお金だと言ったのだが、何故か師匠が頑なに二人のお金だと譲ろうとしなかった。

 まぁこれから一緒に冒険者になって同じパーティーとしてやっていく訳だし、師匠と弟子という関係だ。

 その辺りについては議論しても仕方がない事だろう。

 そして、これから得る事になるであろう報酬は、全て二人の共有財産という事で、話が付いた。

 今はまだ師匠の力が強すぎて、功労の大部分はしばらく師匠のほうに傾くだろうし、師匠がそうしたいと譲らないので俺に文句は無かった。


 俺には今の所、特に欲しい物も無く、師匠も自分が持っている装備で大体満足しているので、金を使う予定が、日々の食事等や宿代などしかないというのも大きいだろう。

 お互いに、もし欲しい物が出来たら相談するという事だ。


 因みに、サイフの管理は全部師匠に丸投げだ。

 俺は手持ちを師匠に渡し、急に入用になった時の為に金貨1枚と銀貨10枚だけ持つ。


 師匠には悪いが、俺は気持ちが小市民なのだ。

 あんまり大量にお金を持ち歩きたくないという気持ちが強い。


 そんなわけで、サイフを預けると、師匠は何故かニマニマとしていた。


「くふふっ、何だかお母さんの様ですね。……呼んでみますか?」


 いや、呼びませんよ?


「いえ、お母さんとは少し違いますか……。はっ!こ、これは……」


 なんだ?どうした?


「夫婦の様ではないですか!?」

「はい!?」

「夫婦となると……、どう呼びますか?」


 おやぁ?俺達二人は何時の間に結婚したんだろう。

 記憶に無いなぁ……。


「母さん?あなた?それともおまえですか?どれもしっくり来ませんね……、まだ子供が居ないのに母さんと言うのも変ですし、あ、名前で呼べばいいんですね!さぁ!シルヴィアと呼んでください!」

「……いや、師匠は、師匠ですから……」

「っ!?……エミリーはマニアックですね……、結婚しても私を師匠と呼ぶのですか……」


 この人話が通じねぇ!


 さぁ、もう行きますよ。

 いい加減元の世界に返ってきてください師匠。

 いくらファンタジーな世界でも、同性で子供は生まれませんよ?


 こうして、中々向こうの世界からお戻りになられない師匠の手を引き、明日の作戦の為の準備へと向かう俺達であった。

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