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13.セバスは愛想が尽きたので退職します

ここで少し時間が戻り、視点が変わります。


少しでも読んで頂いている方に楽しんで頂けるように精進しますので、よろしくです。

「それでは、魔王様、全て私、セバスにお任せを。見事無事に、お嬢様を城へ連れ帰ってみせましょう。」


 そう言って私は、芝居がかった様に、恭しく頭を垂れた。

 心の中で、茶番だと茶化しながら。


「頼んだぞ!」そう言って偉そうに踏ん反り返っている魔王を見る。

 心の内がバレない様に、笑みを浮かべ、適当に相槌をついておいた。


 そのだらしのない腹に、弛んだ顔。

 魔族を統べる王としての威厳など、私には微塵も感じられない。

 偉大であった先代から受け継いだのは、その金色の魔眼だけ。


 その折角受け継いだ魔眼も、この堕落した現魔王には宝の持ち腐れだ。

 使いこなす器も無く、努力さえしなかった。いや、端から使う意志すら無かったのだろう。


 未だに何事かを私に話しかけてきているが、全く耳には入ってこなかった。

 いい縁談がどうのだとか、パーティーがどうのだとか、私にとってはどうでもいいことだ。


 速やかに、穏便にこの場をやり過ごすべく、微笑みを浮かべて魔王の言葉を右から左に受け流し、30分程経った所でようやく一段落ついた様だ。

 意味のない長話に辟易としつつ、「それでは、私はこれで」ともう一度恭しく頭を垂れ、踵を返そうとした所で声がかかる。

 魔王の妃であるミナリーだ。


 昔は漆黒の宝石と謳われたその美貌も、今では最早、見る影もない。

 隣に座る魔王と同様に、私腹を肥やして堕落した存在だ。

 彼女を見て一言感想を言うとしたら、装飾過多、その一言に尽きる。 


 まだ何かあるのかと内心溜息を吐きながら、私を呼び止めた妃の次の言葉を待つ。

 そして散々勿体ぶって出て来たのは、娘を心配している振りが見え見えの、安っぽいだけの言葉だった。

 まるで前もって考えて用意されていたかの様な空々しい台詞に、ご丁寧に泣き真似まで添えられた時には殺意を通り越して呆れてしまった。


 こいつ等がお嬢様の事を心配等していない事は、解りきっている。

 こいつ等が心配しているのは、決まりかけていた縁談先からの資金援助、賄賂や後ろ盾だ。


 この国の財政難等には端から興味は無いが、その幅寄せに私の可愛いお嬢様を使おうとは許し難い。

 

 もうやめて下さい!私の忠誠値はとっくにゼロですよ!

 


「心配せず、私にお任せください」未だ続きそうな三文芝居に、これ以上耐える自信が無いので、そう言って早々に退室する事にする。

 私はこれから忙しいのだ。


「頼んだぞ!」「頼みましたよ!」と、更に催促の言葉が私の背中越しに投げかけられるが、最早相手にしていられない。


 退室した私は、逸る気持ちと走りたい衝動を抑えながら、早足で城の廊下を歩く。

 そして、ようやく自室へと辿どりつき、駆け込むように部屋へと入り込んだ。


 それと同時に用意を開始する。


 まずは歩きながら、身に纏った燕尾服や下着などを全て脱ぎ捨てる。

 床にそのまま脱ぎ散らしながら、そのまま部屋に備え付けられたクローゼットへと向かい、勢いよくその扉を開けた。

 その中に掛けられている同じ作りをした何着もの燕尾服を掻き分け、奥に置かれた一着の服と、愛刀を取り出す。


 服と愛刀を傍に置き、クローゼットのドアに取り付けられた鏡を見る。


「年恰好は、こんなものですかね……」


 自分の顔と体をマジマジと見つめ、少し後ろを向いてみたり、横を向いてみたりを繰り返す。


 茶色いストレートのロングヘアーに、黒い瞳の少女の姿が鏡には映っている。

 歳は大体、16から18程と言った所だろうか。

 年恰好は、大雑把に調整するのは簡単なのだが、微調整は難しい。


 余りお嬢様と歳が離れすぎるのはいけない。

 セバスとしても、それなりにいい関係を築けたと自負はしているが、そこからの先が無い。

 この先どう足掻いてもその先、主従の関係という壁を越える事は、不可能だっただろう。

 私もお嬢様には遠慮してしまうし、お嬢様も私に遠慮してしまう。

 それに、どうもお嬢様は傅かれる事が、余り好きではない様子だった。


 その点この姿ならばどうだろう。

 仲良くなる分には、それこそ同年代と言う手もあるにはあったが、どうしても私はお嬢様には頼って欲しいのだ。

 世話を焼きたいし、可愛がりたい。

 その気持ちが強い。

 なので、少し年上ぐらいがベストだろう。


 そんな事を考えつつ、自分の姿に大体満足した私は、傍に置いてあった服を手に取り、袖を通した。


 過去、それこそ先代魔王様と出会う前に愛用していた服だが、取っておいて良かった。

 最早思い出に浸る為だけに存在したそれに、もう一度袖を通す事になるとは思っても見なかったが。


「そう言えば、貴方と初めて出会った時も、この服を着ていましたね……」


 誰に言うでも無く、鏡に映る自分の姿を見ながら、ポツリと独り言を呟いた。

 今思えばあれは、恐らく一目惚れという物だったのでは無いだろうか。

 まぁそんな事、あの人相手には、恥ずかしくて口が裂けても言えそうにないが。

 ガラにも無くそんな事を考えた後、ふと鏡を見ると、そこには自分の自嘲気味な笑みが映っていた。

 あぁ、そうでしたね……。例え言いたくても、最早それを言う相手は、貴方は既に居ないのだ……。

 

 その点、お嬢様相手になら、恥ずかし気も無く言えそうな気がする。

 自分の素直な気持ちを。

 お嬢様に会えたら、言ってみるのもいいかもしれませんね。

 そんな事を思う。


 気づくとさっきまでの自嘲気味な笑みは消え、自然に微笑む私の顔が鏡に映っていた。


 そして、目を瞑り、夜が明けた早朝に外で見たお嬢様の姿を思い浮かべる。

 その姿は、あの時のあの人と同じ、黒獣の装備を身に纏っていた。

 それを見た時、あの装備が未だに残っていた事に少しだけ驚いた。


 本当にお嬢様は、倉庫へ忍び込むのがお好きらしい。


「あの時と同じように……、今度はお嬢様、貴女と出会いに行きましょう」


 そう呟き、愛刀「薄氷(うすらい)」を手に取る。

 一度鞘から抜き放ち、変わらないその美しい刃紋を少し眺めた後、鞘へと納めて腰へと差した。


 上から黒いローブを纏い、(お嬢様の部屋に残っていた物をこっそりと拝借して来た)髪を束ねる為の白い紐を使って、長い髪を一つに纏める。

 稽古の時に、よくお嬢様がしていた髪型だ。


「さて、行きますか。今までお世話になりました。」


 そう言ってペコリと部屋に向かってお辞儀する。



 私、セバスは、愛想が尽きたので、退職します。


 名前も、昔名乗っていた名に戻しますか。


 今日から私の名は、シルヴィアだ。


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