10.師匠と弟子
ゴブリンイーターを倒した後、シルヴィアに弟子入りする事が決まった。
そして現在、商業都市リムールへと向けて、俺達二人は並んで街道を歩いていた。
「そう言えば、師匠は、魔法は使えるんですか?」
「魔法ですか?……そうですねぇ。使おうと思えば使えますが……、この体では無理ですね」
「ん?体、ですか」
「あっ、いえ、魔法は余り得意ではないですね。こっちは得意なのですが」
体がどうのと良く解らないが、どうやら魔法は余り得意ではないらしい。
そして、腰に差した刀を少し上げて、これが得意だという。
まぁその言葉に関しては、ほんの少しとは言え、その腕を魅せてもらったので疑う余地は微塵も無い。
しかし、弟子にして貰ったのは嬉しいのだが、二人の戦闘スタイルが全くと言っていい程被っていないという事に、遅ればせながら気が付いた。
セバスに稽古を付けてもらっていたとは言っても、実の所、セバスの戦闘スタイルとも全く違う。
セバスは、俺が怪我をしない様に相手をしていた為、極力攻撃する事を避けていた。
ほぼ受けに徹するセバス相手に、俺が試行錯誤して挑んでいたという感じだろうか。
正直俺は、今のスタイルが一番戦いやすくて、気に入っている。
左右に短剣を持ち替えつつ、時たま攻撃に使いはするが、基本受ける事を主体とした短剣術。
短剣で牽制し、受け流しつつ、体術と魔法でダメージを与えるという戦法だ。
俺は体が小さいので、ショートソードや、ロングソード等は、正直言って振るい難かった。
まぁ少し成長したのでショートソードならばなんとかなるだろうが、幼少時からずっと短剣を振るって来たので今更感もある。
それに俺は何よりも、先代魔王が残したとされる『炎魔武技』を極める事に重きを置いている。
最初はセバスを驚かせようと、倉庫で見つけた書物を引っ張り出して来て練習したのだが、これが中々どうして、驚くほど自分にしっくりと来たのだ。
初めて俺がこれを使った時の、セバスの驚いた顔を思い出すと、今でも笑える。
そして、何より、カッコイイのだ。ここ重要ね?カッコよさは大事だよね?
未だ初級とされる物しか使いこなせてはいないが、追々全てを使えるようになるのが今の目標だ。
と、言う訳で、俺は正直戦闘スタイルを変えるつもりは一切無い。
どれ程刀という浪漫武器に後ろ髪を引かれようともだ。
未練なんてない。本当だ。
……まぁ少しは教えてもらおうかな?折角だし?
まぁそれは置いといて。
俺が一人で考え込んでいるのを見て、少しソワソワしだしている師匠をこれ以上放っておくわけにはいかない。
「師匠、ええっと、弟子にしてもらっておいてなんですけど……、私は今の戦闘スタイルは貫きたいんですが……」
「あぁ!成程、その事で考え込んでいたのですね。……そう、ですね。」
そう言うと師匠は少し考える様な素振りを見せた後、続けた。
「私も、自分の技を強要する気はありません。自分に合った戦法を伸ばす事が、一番いいでしょう。」
「はい」
「修行は、組手をメインに組みましょう。アドバイスなら幾らでもできますし、その他にも色々と教える事はあります。体術も得意ですよ?私は」
「ならそれで!お願いします!」
まぁそうなるよね。
セバス相手にも、技を教わるというよりは組手メインでアドバイスを貰っていた感じだった。
今まで続けて来たことを、そのまま、これからもやっていけるのだ。
全く知らない事を一から始めるよりも、随分と気が楽という物だ。
と、これからの指導の方針も決まった所で、これだけは言っておかないと。
まぁこの人に取って俺は、偶然の出会いから弟子入りしてきた旅の小娘でしかなく、俺の出生等も勿論知らない訳なので、俺に対する遠慮などある筈も無い。
この心配は杞憂かもしれないが……。
「あの、師匠」
「はい?何ですか?」
「師匠は、私との組手を全力でやってくれますか?」
「はい?……えぇ、勿論、真剣に、全力でお相手しますよ?」
何をいきなり言い出したのか、よく解らないというニュアンスが師匠からは伝わってくる。
確かにそうだ。自分でもどう言えばいいのか良く解らないのだ。
凄く失礼な事を言ってる気がする。
この気持ちは、なんと言えば伝わるのか……。
「ええっと……、その、もし私が組手で怪我をしそうだとか、えっと……」
「うん?えーっと……、よく解りませんが、きちんと怪我はさせない様に、気を付けて―――。」
「それじゃだめですっ!!」
「はい?」
物凄い剣幕で迫る俺に、困惑気味の師匠。
当たり前だとは解っているが、伝わらないのがもどかしい。
ええい、もうストレートに言うしかない。
「ちょっとやそっとの怪我なんて平気ですっ!!」
「はぁ……」
「私を、全力で、叩きのめして下さいっ!!」
「っ!!!?」
ドヤッ、これで伝わるだろう!
俺の言葉に、何故か師匠は雷に撃たれたかのようなショックを受けて固まっている。
暫くの間、口を開いて目を見開き、固まっていた師匠は、ようやくハッとしたかと思うと何やらブツブツと口に手を当てて何か喋っていた。
耳を傾けてみると、「……まさか、私の、エミリーが?」とか、「いえ、そう……、Mだったとは……」とか呟いている。
何だよ、Mって。
いつから俺は師匠のものになったのだろうか。
疑問が次々と浮かぶが、突っ込んだら負けな気がする。
一通りブツブツと呟いた後、何かを決意した様な、真剣な表情をした師匠がそこには居た。
「……解りました。私はエミリーの全てを受け入れます!」
「え?……はい」
「私は今日からSになります!何もかも、全て私に任せなさい!」
おやぁ?
Sってあれでしょ、師匠のSかな?
正解でしょ?
それ以外に今話している事でSって単語は出てこないよね。
心配しなくても、今日から貴女は私の師匠ですよ。
「全力で、任せてください!エミリー!!」
「はい……、よろしくお願いしまーす」
ほら、Sさん、そろそろ行きますよ。
早く行かないと日が暮れてしまいますからね。
リムールの街が俺達を待っている!




