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プロローグ

 煌びやかな装飾。豪華な食事。如何にも社交場然とした無駄に広いホールに、多くの着飾った老若男女。流れる音楽に合わせて踊る紳士淑女。

 そんな場違い感が半端が無い場所で、兎に角俺は目立たないように気配を殺し、壁際で一人、別世界を眺めている。

 そんな壁の花である俺に、一人近づいてくる燕尾服姿の初老の男性が目に入る。

 小さく舌打ちし、更に気配を消すが、既にロックオンされているようで、俺から目を離さずに人の群れを避けるという器用な真似をしながらゆっくりと此方へ向かってくる。

 体躯はスラリとした細身で、白い髪のオールバックに奇麗に整えられた顎鬚が良く似合っている。

 姿勢が良く、洗練された奇麗な身のこなしは見るものに感慨の溜息を起こさせる。

 その彫りの深い顔はさぞ若い頃はイケメンだっただろうと思わせるが、現在は歳を重ねた事で滲み出ている余裕に温和そうな笑顔を浮かべている。

 周りの着飾った女性たちの視線が彼へと集まるのは必然であった。

 そしてゆっくりと俺の目の前へと歩み寄り、胸に手を当てて頭を下げた。


 何もない壁に急に頭を下げた事に周りには少し間抜けに映ったかもしれないが、彼の陰に隠れた俺を見つけて納得いった表情を浮かべている人も数人見て取れた。

 本当に、勘弁してほしい。


「お嬢様、社交場に来てスキルを用い、気配を消すのは止めていただけますか?」

「え?何のこと?あ、ほら、私って影が薄いから……」

「御冗談を……、ここにいらっしゃっている何方にも負けず、輝いていらっしゃいますよ」

「……、それはどうも……」


 お世辞を受け、俺は自分の姿を見る。

 仕立てのいい漆黒のドレスに、胸元には赤い宝石のネックレスが輝いている。

 遠い目をする。恐らく俺の目は今死んでいるだろう。

 肩口が開いている為に寒いし。何が悲しくてこんな格好をしなければいけないのか。

 俺は深い深い溜息を吐いた。


「おや、お疲れですか?」

「……少し」

「左様でございますか……、しかしまだ時間が早いですね」

「あぁ、大丈夫。まだ暫くは我慢するよ。ありがとうセバス」


 俺の言葉にセバスは柔らかい笑みを浮かべた。

 彼はセバスという名前で、俺が生まれた時から傍にいる世話係だ。

 父親の信頼も厚く、厳しくもあり、優しくもある頼れる男である。

 余り父と接点が無い俺としては、彼の方が父親みたいに思える時がある程だ。


「それで、ご挨拶の方はどうでございましたか?」

「……別に、普通だったよ」

「普通……、とはどの様な……、いえ、では、もうお決めになられましたか?」

「…………」

「竜人族の皇子はどうです?」

「いけ好かない」

「そうですか……、では、彼は確かエルフの貴族でしたかな?」

「目付きが嫌だ」

「……巨人族の王族では?堕天族の方に、吸血鬼族、獣人族の王族の……」

「でかい、やる気無さそう、色が白い、毛深い」

「…………」

「…………」

「お嬢様……、選ぶ気は……」

「無いっ!!」

「左様ですか。まぁ、仕方ありませんね。私はお嬢様の決定に従いますが、ご両親はなんとおっしゃられるか……」



 何を言っているのかと思うだろう。

 これには深ーい事情があるのだ。

 いや、話すと長いんだよほんと。

 まぁ順を追って説明しよう。


 まず俺、現在の名前はエミリー・クリストフ・ゴールド。12歳になったばかりだ。

 何を隠そう転生者である。

 前世ではしがないフリーターだったのだが、25歳という若さでありふれた事故死を迎えた。

 そして何故か転生という奇跡に遭遇し、気が付くと赤ん坊だったというありふれた小説の様な展開という訳だ。

 まぁその転生という展開には文句は無い。

 死んだと思ったら第二の人生が始まったのだ。感謝こそすれ恨むことなんて何もない。

 性別が変わったことも甘んじて受け入れよう。

 未使用で終わった息子の冥福を祈るぐらいの余裕はあるよ。いやほんと。悲しくなんてない!


 ふぅ、それはさて置き。


 まず俺の生まれた場所についてだが、見事に異世界でした。

 魔族に人族が共存する異世界。名をミッドガルド。

 ロマンだよね。魔法に剣にモンスターに冒険ね。


 次に俺の生まれについてだが、これが問題も問題、大問題だ。

 俺は、現魔王の娘として生まれたのだ。

 魔王と聞いた時は内心焦ったのを覚えている。

 勇者が攻めてくるんじゃないかと気が気では無かったのだ。

 だがそれは杞憂だった。魔族と人族には見た目の違いはあれど、敵対する事は無いようだった。

 大昔はあったみたいだが、それも魔族対人族というよりは国同士の諍いだったようだ。現在は国同士の関係も比較的に良好らしい。

 因みに魔族と魔獣は、基本的に別物だ。モンスターはいるけど、魔族は関係ない。野性の獣みたいな物だ。


 ならば何が問題なのかと言うと……。

 俺は12歳という若さで、既に許嫁を決められようとしているのだった。

 まずはじめに話が持ち上がったのは10歳の時。

 様々な種族の貴族やら王族やらが集まる社交場でそんな話が持ち上がった。

 父も母も乗り気であり、よく聞く政治絡みの政略結婚がそこにはあった。

 確かに地位が高く、立場も王族であり貴族である事を考えれば、政治の道具となる事に文句を言うのは間違っているという人がいるだろう。

 だがいざ、それが自分の身に降りかかったとしたら?

 客観的に見て、しょうがないと、諦めろと言うのは簡単だ。

 だが俺は否だ。断固として否!

 おっさんに嫁ぐなんてゾッとする。いけ好かないボンボンに触られると鳥肌が立つ。

 そしてあれだ、結婚、だぞ?結婚っていうとあれだ。そういう事をするんだぞ?想像したくも無いが想像してしまう。もう立ち眩みがしたね。一瞬気絶した。俺には無理だ。

 そんな事になったら俺は未使用でこの世をさった息子に合わせる顔が無いだろう。

 ん?関係ないって?ははは、まぁそれはいい。


 取り合えず俺は政略結婚なんて、断じて否だ。

 道具としてしか俺を見ていない両親に至っては既に愛想は尽きている。


 セバスは良くしてくれたし、色々と教えてくれた師匠でもある。

 俺の事を考えてくれているのは、この国で恐らくセバス唯一人だろう。

 別れるのは辛いがもうしょうがない。

 これ以上この国にいたらいつかは無理矢理にでも結婚させられてしまう。


 俺はチラリと俺の隣にいるセバスを見る。

 視線に気づいたセバスは俺の顔を見てニコリと微笑む。


「どうかされましたか?」

「ん、いや、何でもない」

「左様ですか?飲み物でも取ってまいりましょうか?」

「うーん、じゃぁお願いしようかな……」

「畏まりました。少々お待ちください」

「……ありがとう、セバス」


 感情のこもり過ぎた俺の言葉にセバスは驚いた様に少し目を見開き、直ぐにまた温和な笑みを浮かべ、飲み物を取りに向かう。

 その後ろ姿を眺めながらもう一度、俺は心の中で感謝する。


 さて、俺はもう決意した。

 決行は約一年後の13歳の誕生日だ。

 この国での成人は早く、15歳である。

 それまでこの国に居る事は出来ない。成人すると同時に結婚なんて言うのは貴族やら王族にとっては日常茶飯事だ。


 早い方がいいがすぐにという訳には行かない。

 準備も色々としなければならないのだ。

 万全を期して俺は計画を進めるのだ。


 俺は頭の中でシュミレーションを繰り返す。

 煌びやかな、夢も希望も無い豪奢な社交場で、スキル『隠形』を用いて気配を殺し、壁の花に徹する。


 魔王の娘は、結婚したくないので、家出する!!




拙い文章ではありますが、楽しんで頂ければ幸いです。

ぼちぼちと進めていきたいと思っております。


読んで頂いた方に感謝をorz

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