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勇者は定めに導かれるままに…

「ねぇ、いつまでついて来る気なの?」


「もちろん、メルが服を溶かさせてくれるまでだ」


森の中で服を溶かす芸術家と名乗るアシッドスライム一行に出会ったゴブリーはいつまでも後ろをつきまとうその一味に鬱陶しそうに問いかけるが、アシッドスライムはシレッとそう答えた。


「どうする?本当にどこまでもついて来そうだよ?」


「面倒だからどこかで撒いちゃおうか」


ゴブリーとマオがそんな話をしていると、メルが前方に見える洞窟を指差して提案した。


「見て、あそこにダンジョンがあるよ。…あそこに逃げて撒いちゃおうか?」


「…そうだね。そうしよう」


メルの提案をゴブリーが飲み込むのと同時に4人は一斉にダンジョンに向かって走り出した。


洞窟に入り、陰湿な暗闇が彼らを包み込むが、それでも彼らはその足を緩めずに奥へと突っ切る。


泥濘む足元や襲いかかるコウモリのモンスター、入り組んだ分かれ道が彼らの侵入を拒むが、それでも彼らは臆することなく先へと進む。


「流石にここまで来れば…大丈夫だよね?」


しばらく4人でダンジョンを駆け抜けた後、ゴブリーは立ち止まり、後ろを振り返りながらそう呟いた。


そして後ろから追いかけてくる気配がしないのを確認するとホッと一息吐き出して胸を撫で下ろした。


「そんなにメルの服を溶かされなくて安心したの?ゴブリー」


そんなゴブリーにマオは顔をニヤつかせながらそんなことを尋ねた。


「そ、そりゃあ仲間の服が溶かされそうになってるのを黙って見ておくわけにはいかないでしょ」


「本当にぃ?メルが相手だったからそこまで心配してたんじゃないのぉ?」


マオと共に雪も顔をニヤつかせながらゴブリーへと詰め寄って来た。


「ち、違うよ!!そんなのじゃないよ!!」


「またまたぁ、そんなこと言っちゃってぇ」


「だ、だからそんなのじゃないって!!」


「えぇ?『そんなの』ってどういうことなの?私達特に何も言ってないのに『そんなの』ってどういう意味なのぉ?」


マオと雪が2人がかりで慌てふためくゴブリーをからかっているとメルが話に割り込んで来た。


「もう、2人ともやめてあげてよ。ゴブリーは私を助けてくれただけなんだから…」


どこか顔を赤くしながらそう言うメル。


それを見たマオと雪の2人は今度はすかさずメルに詰め寄った。


「そんなこと言いながらメルゥ、本当はゴブリーに助けてもらって嬉しかったんでしょう?」


「本当はメルもゴブリーの想いに気がついてるんじゃないのぉ?気がつかないふりをしてしているだけじゃないのぉ?」


そんなグイグイと詰め寄ってくる2人にメルが困惑していると、4人の元へ一匹のモンスターがやってきた。


それは岩石に人の顔が埋め込まれたような見た目をしたモンスター、その名は『オマエラ』、特技は自身の命と引き換えに相手を爆殺する超自爆攻撃。


普段はおとなしく攻撃しても反撃しないが、非リアの爆発しろの叫びに呼応して爆発する習性がある。


そして一匹に続いて二匹追加され、三匹のオマエラが4人の前に立ちはだかった。


かつてこのモンスターのせいで死の淵に追いやられた記憶のあるゴブリー達は動きを止めて警戒しつつ、オマエラの顔色を伺うように覗き込んだ。


「マダ…ダイジョウブ」


「ゼンゼン…ユルセル」


「ツヅケテ、ドウゾ」


怒るでも笑うでもない顔を浮かべながらオマエラはそんなことを口にした。


それを聞いたマオと雪は言われた通り先ほどの続きをし始めた。


「ねえねえ、メルはどうなの?」


「好きなんじゃないの?ゴブリーのこと」


「えっと、それは…えっと…」


言い寄られて思わずメルは後退りをしつつ困惑していた。


「スナオニ…ナレヨ」


「コクハク…シロ」


「ソシテバクハツ…シロ」


いつの間にやらオマエラまでメルに詰め寄ろうとしていると、見かねたゴブリーがメルに助け舟を出そうと近寄って来た。


「ふ、2人とも、メルも困ってるからいい加減…」


その時、泥濘む洞窟に足元をすくわれ、ゴブリーはメルに向かって豪快に転倒した。


メルを巻き込んで豪快にこけたゴブリーはその際に手が何か柔らかいものに触れ、それが何かを確かめようと2、3回揉んで確かめた。


それと同時に自分がメルの胸を揉んでしまっていることに気が付き、恥ずかしそうに顔を真っ赤にするメルと目があった。


「い、いや!これはただの事故で!」


慌ててメルから退くゴブリー、そんな古典的なラッキースケベの一部始終を見せつけられたオマエラは苦虫を噛み潰したような苦悶の表情を浮かべた。


「ソレハ…ナイワ」


「サスガニ…ユルセナイ」


「オレニハ…ソンナコトオキナイノニ…」


まるで仕組まれたかのようなご都合展開に怒りと嫉妬でプルプルと震え出し、そして同時にこう呟いた。


「リアジュウ…バクハシロ」


そしてオマエラから放たれた閃光が洞窟の暗闇が照らし、爆炎が洞窟を駆け抜けた。


唐突な爆破であったが、マオとメルが防御魔法を展開し、ことなきを得た。


しかし、爆発は洞窟にダメージを与え、その衝撃で一部が崩れた。


「メル!危ない!」


メルの足元が崩落しつつあることに気がついたゴブリーはメルに駆け寄るが、崩落に間に合わず、ゴブリーごと崩落に巻き込まれた。


「ゴブリー!メル!」


マオが2人に手を伸ばして声をかけるが、その声に返事はなく、声は洞窟の闇へ溶けて消えてしまった。







「痛た…大丈夫?メル」


「…うん、大丈夫みたい」


崩落に巻き込まれたが、ことなきを得た2人が辺りを見渡すと、そこは不自然なほど綺麗な円形に広がった巨大な空間であった。


「ここは…どこだろう?」


「なんだか、マオと出会った場所を思い出すね」


メルがそんなことを口にしたその時、広場の中心から青い光の線が同心円状に広がり、空間を歪に照らした。


「こ…これはあの時と一緒だ!」


やがて、空間中に張り巡らされた青い線状の光によって空間が十分に照らされた頃、空間の中心から液体が湧き出し、徐々に人の形を作り出していった。


「ユウシャニ…シレンヲ…」


巨大な人形になったそれは錆びた機械のようにぎこちなく動き始め、徐々にスムーズに動くようになり、そしてゴブリンリーダー達に近づいていった。


「こいつ…あの時のやつと一緒だ!」


「だったら…今度は私の魔法で…」


メルが魔力を解放させようとしたが魔法は発動できず、代わりに小さな破裂音とともにわずかに煙が立ち上った。


「…そんな、魔法が使えない…」


「もしかして…ここじゃあ魔法が使えないのか?。…仕方がない、逃げよう!メル!」


ゴブリーの提案に素早く頷いたメルが逃げるために走り出そうとしたが、メルはこけてしまった。


「メル!?大丈夫!?」


「あ…足が…」


足が思うように動かなくて、思わず転倒してしまったメルが今一度脚を見てみると、足首が大きく腫れ上がっていた。


それに気がついたゴブリーが素早くメルに肩を貸し、逃げようとするが、人形に追いつかれ、すかさず人形が攻撃を仕掛けてきた。


避けられないことを悟り、ゴブリーが目を瞑ったが、攻撃はゴブリー達に届くことはなく、2人の前に立ちはだかる人物によって食い止められていた。


「…どうした?その程度か?」


ゴブリー達の窮地を救ったのは…ゴブリー達を追いかけて洞窟へとやってきたアシッドスライムであった。


「アシッドスライムさん!!」


「どうしてここに?」


「メルの声が私をここに導いてくれたの。…やはりあなたの服を溶かすのは私の天命なのね」


そんな会話をしていると、人形が再び攻撃を仕掛けようとその腕を大きく振りかぶった。


「私の目の黒いうちは一ミリたりとも、美少女を傷つけさせはしないわよ?」


アシッドスライムはそう叫ぶと、再びゴーレムの攻撃を真正面から受け止めた。


そしてゴーレムはすかさずアシッドスライムに何度も攻撃を仕掛けるが、アシッドスライムはその全てを仁王立ちを受け止めてみせた。


「アシッドスライムさん!!」


「安心して、こう見えて私は…セブンスなのよ。簡単にやられはしないわ」


アシッドスライムがそう口にすると、彼女の胸元に紫色に輝く宝石が浮き出てきた。


「セブンスジュエル、忍耐のアメシスト。別名『情熱の妄り』。…この程度の攻撃、刺激にもなりやしないわ」


ゴーレムの攻撃を諸共せずに受け止めるアシッドスライムに2人が驚いていると、ゴーレムが急にその動きをピタリと止めた。


「ふふ、ようやくコアを見つけたわ」


アシッドスライムから伸びる無数の触手がいつのまにかゴーレムの水の体へと侵入し、その触手のうちの一本がゴーレムの体の中にある赤い石を破壊した。


それと同時にゴーレムは形を保てずに崩れ去り、ただの水溜りとなってしまった。


「…ありがとう、助かったよ」


「礼には及ばないわ。そんなことよりもメルの服を溶かさせて欲しいわ」


「ごめん、それは無理」


アシッドスライムの変わらぬ執念をゴブリーが即答で断っていると、空間の中心から再び光が溢れ出し、光が集まって一つの杯を形成した。


「…これ一体…」


一同が突然現れた杯に戸惑っていると、そこにマオと雪がやってきた、


「おーい!2人とも無事ぃ!?」


「大丈夫。メルが足に怪我したくらい」


「それは良かった…って、なんでアシッドスライムがここに…」


「助けてもらったんだよ」


雪がゴブリーとそんな会話をしているとマオは目を大きく開いてゴブリーの手に持っていた杯を見つめた。


「それはもしかして…封印の聖杯?」


「封印の聖杯?」


「魔王の魂を封じ込める聖なる杯…まさか本当に存在していたなんて…」


「へぇ、そんなに凄いものだったんだ」


ゴブリーが感心していると、雪がこんなことを提案し始めた。


「とりあえず、いち早くこんな危険な洞窟から抜け出そう。話はそれからよ」


雪の提案に皆頷き、ゴブリ達とアシッドスライムは共に洞窟を後にした。


無事に薄暗い洞窟から抜け出し、清々しい風が流れる外に出て、一同は羽を伸ばしてリラックスした。


「…これからどうしようか?」


「メルの足のこともあるし…一旦マサラに帰ろうか」


「ごまんね、迷惑かけて」


「別にいいよ」


一行がそんな会話をしていると、ゴブリーはアシッドスライムに声をかけた。


「アシッドスライムさんはどうするの?」


「そうだな…親衛隊が洞窟で全滅したからね。迎えに行くためにも私もマサラに戻ろうと思うわ」


「だったらマサラまで一緒に行こう。そして…マサラで助けてくれたお礼がしたい」


「お礼?だったらメルの服を…」


「それはダメ。…だから、僕らなりに君にお礼をさせてほしい」


こうして、封印の聖杯を手に入れたゴブリー一行とセブンスのアシッドスライムはマサラに帰ることにしたとさ。

これでようやくセブンスジュエルが全部出て来た。

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