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それでもただ英雄であり続けることだけが…

「バカ野郎ぉぉぉぉぉ!!!!」


そんな叫びとともに田中へと手を伸ばすユーキ。


しかし、気がつけばユーキはいつのも教会へ送られ、ため息交じりの有難いお言葉を吐く神父さんを前にしていた。


「はぁー…タダ働きさせられた挙句に罵倒されるとは…神父なんてやってられねぇ…」


そんな神父さんの言葉でハッと我に帰り、デスルーラで帰ってきたことに気がついたユーキは慌てながら神父さんへフォローをいれた。


「い、いや、今のは神父さんに言ったわけじゃねえよ。神父さんは俺の家族なんだ。そんな悪口言うわけないだろ?」


「サラッと家族認定してんじゃねえよ!!」


2人がそんなやりとりをしていると、シンが間に割って来てユーキに尋ねた。


「…どうかしたの?ユーキ」


長きに渡って共に旅をしてきたことだけあってか、ユーキから違和感を読み取ったシンはユーキにそう尋ねた。


「別に…田中のやつがバカ過ぎて辛いだけだ」


「何があったの?ユーキ」


ユーキはシンへゲームが長引くとプレイヤーの身体に支障をきたすことと、クリアしたら田中の存在が危ういことを伝えた。


「…やっぱり、危なかったんだね、このゲーム」


「その口ぶりからすると知ってたのか?シン」


「いや、ただなんとなくそんな予感がしてただけ…」


身体のない田中と田中と同じく身体の弱い雪をどこかで重ね合わせていたシンは直感的にこのゲームの危険性を察していたのだ。


「今度こそ田中を説得してやる。…シン、手を貸してくれ」


ユーキはシンを連れて二人掛かりで田中を説得するように提案したが、シンは何も答えずに黙っていた。


「…おい、シン、聞いてるのか?」


「ユーキ、悪いけど僕は力にはなれない」


「どういうことだよ?このまま放っておけば田中が危ないんだぞ!?分かってんのか!?」


「分かってるさ!!でも…このままじゃ雪も危ないんだ!!」


元々身体の弱い雪はこのまま行くとこのゲームの最初の犠牲者になる可能性が高い。


そんな危惧をしたシンは雪の心配をしてそう叫んだ。


「お前…田中を見捨てる気かよ?」


「雪と天秤にかけなきゃいけないのなら…僕は迷わず雪を選ぶ」


シンは真っ直ぐにユーキの目を見ながらそう答えた。


仲間か…家族か…そんな二択をこれ以上迫るのは酷だと考えたユーキは悔しそうに歯を食いしばり、シンから背を向けて教会を後にした。


長い間田中と共に旅をしてきたシンが手を貸してくれない以上、田中を説得するにしても1人ですら必要がある。


だが…今の田中はどこか自暴自棄で手を付けられない状態だ。むやみに説得しに行っても次は出会っただけで問答無用でまたとんぼ返りさせられるかもしれない。


説得するにしても、どうにかして田中を無力化する必要がある。


だが、今の田中のステータスはかつてのようなハリボテで見せかけだけのものではない。全てのステータスがカンストし、攻撃するたびにHPが回復し、状態異常に耐性があり、ありとあらゆる魔法を無効する、おまけに魔王覚醒の隠し球まで持ってる…もはやここまで来ると一周回って笑えるくらいの強さだ。


「…どうすりゃいいんだよ」


バハムートの時のように『ダブルマジック』と『ダムチェンジ』でメニュー禁止の状態異常を付与するか?。俺だってフィー姉様からもらった奴隷の指輪はまだ手元に残ってる。自分をメニュー禁止の状態異常にするのは可能だ。それに状態異常に耐性があってもメニュー禁止なら効くはずだ。


…いや、ダメだ。魔法が効かないから『ダムチェンジ』が効かない。それにメニューが開けなくても田中は動けるし、攻撃もできる。この方法では結局無力化はできない。


かといって他に方法があるわけでもないし…。


…ダメだ、勝ち目がない。


かつては逆さメイドを無傷で退けたはずの英雄はマサラの街のど真ん中で1人、がっくりとうなだれた。


そんなユーキの元に、1人の騎士が現れ、声をかけてきた。


「おぉ、ここにいらっしゃいましたか、ユーキさん。国王がお呼びです!ご同行お願いできますか?」


「…国王が?。目を覚ましたのか?」


魔王との戦いで光魔法を駆使したために意識不明に陥っていた国王だが、騎士曰く、目を覚ましたとのこと。


魔王を退けたお礼がしたいとのことでユーキを城に呼び出したそうで、行くあてもないユーキはとりあえず国王に会いに行くことにした。







「余に残された時間は後わずかだ。ランよ…余に代わってマサラを頼んだぞ」


「…はい、父上」


国王ユーニグルドは寝室の大きなベッドに沢山の人に囲まれながら横になっていた。


国王を囲む人々がユーキが寝室に現れたのを目にすると、ユーキのために道を開けてくれた。


導かれるままベッドの側までやってきたユーキの目に入ったのは、今にも消え入りそうなほど弱り切った国王の姿であった。


「ユーキか…せっかく来てもらったのに、こんな様で申し訳ない」


「別にいいさ、あんま無理して話さなくてもいい」


吹けば消し飛びそうな国王の声を心配してユーキはそう声をかけた。


「話は聞いた…余に変わって魔王を退けてくれたそうだな…遅れながらに礼を言うぞ」


「俺はなんもしてないよ。全部田中のおかげだ」


「そうか…逆さメイドのおかげか…。彼女に礼を申したい、彼女は今どこに?」


「それが…悪いけど、今ここにはいないんだ」


「そうか…残念だ」


そう口にすると同時に国王は苦しそうに咳き込み、血を吐き出した。


周りに待機していた医者が慌てて駆け寄ろうとするが、国王が手でそれを制止した。


「よい。どうせ間もない命だ。それよりもユーキ…約束通り魔王を退けた礼として、田中の代わりに最高名誉勲章を受け取ってくれるか?」


以前、逆さメイドを倒した際に魔王を倒すまで受け取りを拒否していた最高名誉勲章の話を国王は持ち出した。


「これはマサラの歴史に名を残す大業を成し得た英雄にのみ与えられる栄光だ。…今度こそ受け取ってくれるか?」


国王はそう言って眩い輝きを放つ大きなダイヤモンドが埋め込まれた石版のようなものを取り出し、ユーキに差し出した。


誰もがその勲章はユーキに相応しいと考え、ユーキが受け取るのを黙って見守る中、ユーキは重たく閉ざされた口を開いた。


「…受け取れない。だって俺は…英雄なんかじゃないから…」


剣として使えるだけの携帯電話と、自殺用の魔法しか扱えず、たったレベル11しかない一介の底辺冒険者にすぎないユーキには、英雄の名などただの重みにしかならなかった。


そんなユーキの言葉に誰も何も言えないでいると、国王が声を振り絞り、周りにこんな声をかけた。


「済まない、ユーキと2人だけにしてくれないか?」


ロウソクの灯火のような寿命の国王を放っておくのは心配ではあったが、国王の最後の願いを聞届けるため、周りにした臣下や王子は黙って寝室から出て行った。


「聞かせてもらえるか?ユーキ。どうしてそなたが英雄ではないのかを…」


誰もいなくなったのを見計らって、国王は弱々しい声でそう尋ねた。


「当然だ。俺は英雄らしいことなんてしてない。逆さメイドを退けた時だって、攻撃が当たらないのを知ってただけだ。魔王が攻め込んで来た時もただ横で見てるだけしか出来なかった!。マサラに大量の魔物が攻め込んで来た時だって、俺はモンスターのただの一匹ですら倒していない!!。俺は今の今まで、何一つとして大したことを成し遂げていないんだ!!!」


ユーキは英雄などと呼ばれた重荷を投げ捨てるかのように国王に胸の内を激白した。


「いつだって俺は無力だ!!盗賊に襲われた行商人の1人も助けてやれない!!奴隷の街の時だって、身体を張ったって女の子の1人も守れやしない!!泣いてる女の子1人の涙すら拭やしない!!」


ユーキは盗賊に襲われた際に見捨てた行商人のアリルや庇おうとして即死したシンシア、そして別れ際に涙を見せた田中のことを思い出し、無力な自分を嘆いた。


「俺は特別なんかじゃない!!レベルだって11しかない!!剣だって通話ができるだけで何の役にも立ちやしない!!魔法だって自殺を捗らせるのが関の山だ!!こんな俺のどこが英雄なんだ!!俺は英雄なんかじゃない!!俺はただの、無力な底辺冒険者なんだよ…」


ユーキの悔しさに満ちた嘆きに、ユーニグルドはふっと笑って見せた。


「すまない。…昔の自分を思い出してしまった」


そして遠くを見るような瞳でユーキに語り始めた。


「余も昔は落ちこぼれでな…剣も魔法も才能がなかった。そんな余に残された可能性は努力しかなかったから、ただひたすらに努力して足掻いた。時に血反吐を吐くほどに、時に醜くしがみついて、時に涙を飲み込んで…足掻いて足掻いて足掻きまくった。…そして気がつけば、歴代最強の国王などと呼ばれるようになっていた」


感慨深く語るユーニグルドの言葉をユーキは黙って聞き入っていた。


「きっと、王族の血を受け継いで生まれた者としての責務が余をここまで導いてくれたのだろう。国王の器などではなくても、そうあり続けようとした努力が余をここまで育ててくれたのだ。だからユーキよ、そなたが英雄でありたいと望むなら、これを受け取ってくれ」


ユーニグルドはそう言ってユーキに再び最高名誉勲章を差し出した。


「例え無力でも、胸を張って歩き続けろ。例え才能がなくても泥臭く足掻き続けろ。例え英雄でなくても、英雄であろうとし続けろ。それが…それだけが英雄になれる術なのだから…」


そう言ってユーニグルドはユーキに最高名誉勲章を握らせた。


「今はただの重荷でも、いつかその栄誉にふさわしい存在になってくれ。…英雄に弱音など必要ない、周りを心配させてしまうからな。先程の英雄の失言は…余が墓まで持って行こう」


ユーニグルドは消え入りそうなほど弱々しい笑顔を浮かべ、笑ってみせた。


「国王…」


国王からのエールを受け取ったユーキは最高名誉勲章を見つめ、黙っていた。


「…少し、喋り過ぎた。…この世界を…頼むぞ…英雄…ユー…キ…」


そして国王は静かに…眠るように息を引き取った。


ユーキは残された最高名誉勲章をじっと見つめ、そして…ぎゅっと握りしめて立ち上がった。


そのまま国王の寝室から出たユーキが広間へ出ると、国王に外で待つように言われた王子のランや騎士団長のアルフィーナ達がユーキがやって来たのに気がつき、ユーキへと振り向いた。


そんな彼女らを前にユーキは胸を張って堂々と宣言した。


「国王ユーニグルドは死んだ」


ユーキから告げられた国王の死に一同が動じていると、ユーキがすかさず語り始めた。


「だけど、俺たちに立ち止まっている時間なんてない!。今もこうしている間にも、逆さメイドがこの世界を終わらせようと暗躍している!世界に終焉をもたらそうとしている!」


そんなユーキの言葉に場は騒ついた。


「今の逆さメイドは強い…どうしようもないくらいに強い。だから…俺1人じゃどうしようもない」


ユーキは悔しそうに拳を強く握りながらそんなことを口にした後、皆に向かってこう声をかけた。


「だから…俺に力を貸してくれ!!。そしてみんなの手で…世界に終焉をもたらすもの、逆さメイドを食い止めてやろう!!」


そう言ってユーキは拳を天高く掲げてみせた。


国王の死の直後にも関わらず、勇ましくその腕を掲げる英雄の姿に惹かれ、大きな掛け声とともにユーキに続いてその拳を天高く掲げた。


「行くぞ!!打倒…逆さメイドだ!!」


こうして、ユーキが真の英雄となるための冒険が幕を開けたのだった。

おまけ


セブンスジュエル、全能のダイヤモンド。別名『英雄の誇り』。


所持しているだけで隠れステータス『カリスマ』が100上がる。『カリスマ』が高いとNPCの好感度が良くなりやすくなる。

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