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妖精の国で待つ者

「ようやく到着したな…火山の街、ボルケノ」


ユーキは目の前にそびえ立つ火山を前にそんな言葉を漏らした。


以前来た時は結局街には入らなかったし、たどり着いても速攻でデスルーラで帰ったので特に何も思い入れはないが、以前はここに来るまであれほど苦労したというのに…アイロとバハムートという強力な仲間のおかげでこうもあっさりとたどり着いてしまうと、ユーキはなんだか悲しみがこみ上げて来てしまっていた。


半年にわたって自分達が旅して来た大冒険は誰かにとってはただのお使い程度にしか過ぎないと思うと、ユーキは瞳から薄っすらと涙をこぼしてしまった。


「…どうかしたの?ユーキ?」


「いや、なんでもない。ただのトラウマさ」


そうは言うが、この三人での新たな旅でユーキは事あるごとにそのトラウマが再発して涙を流していた。…トラウマが多過ぎる。


しかし、いつまでも傷口に塩を塗ってはいられない、やるべきことをやらねばならない。


「俺たちは迷いの森に行くけど…アイロは鉱石を探しにボルケノに来たんだろ?。じゃあ、ここでお別れだな」


「え?いや…えっと…何言ってるのさ!ここまで一緒に来たんだもん、最後まで付き合うよ!」


アイロは迷った挙句、そう強く言い訳をしてみせた。


「え?いや、でもこれ以上アイロの手を借りるのは悪いよ」


「良いから行くよ!!迷いの森に!!」


自分の意図を察してくれないユーキに憤慨しながらもアイロは我先に迷いの森へと歩き出した。


そんなアイロに同情するようにバハムートさんが声をかけて来た。


「相手が鈍感だと苦労するな」


「まったくよ」


ここ数日の旅路でアイロの想いを察したのか、二人はユーキに呆れながら森へと入っていった。







迷いの森は視界を遮る濃厚な霧に包まれ、1メートル先もまともに見えない状態であった。


「二人とも、はぐれるなよ。はぐれたら死ぬからな、俺が」


ユーキはそんな情けないセリフを何のためらいもなくさらりと吐き出した。…この数日の旅路で自分に出る幕はないと悟ったのだろう。


しかし、ユーキの言葉に返事はなかった。


「…あれ?二人とも?いないのか?」


ユーキが辺りをキョロキョロと見渡すが、霧の中にはそれらしき影は見当たらなかった。


「おーい!!アイロ!!バハムート!!」


ユーキは大きな声を出して二人に声をかけるが、返事はなかった。


「はぐれたか…死んだな、これは」


死に慣れすぎたユーキはもう二人とはぐれただけで死を悟っていた。


しかし、そんなユーキの予感を否定するかのごとく霧の中から一つの影が現れ、ユーキへと向かって来た。


「おぉ、アイロか?バハムートか?」


ユーキは再会できて助かったと考え、その影へと駆け足で近寄るが、近付くとその影はアイロやバハムートにしては大きいことに気がついた。


やがてユーキの目の前に現れたのは毒々しい液体を滴り落としながら牙の生えた花を揺蕩わせる巨大な歩く食人植物であった。


「あっ…死んだな、これは」


死に拒絶反応のないユーキが一目見た瞬間から死を悟っていると、食人植物が牙の生えたその花をユーキへと伸ばした。


ユーキがアッサリと喰われかけようとしたその瞬間、霧の中から颯爽と誰かが現れ、ユーキの手を引いて森の中を走り出した。


「普通こういう時逃げるなりの抵抗はするよね!?」


ユーキの手を引いて霧の中を駆け抜けるその人物は怒り気味にそんなことを尋ねた。


「いや、些細な抵抗は時間の無駄だから…って、誰かと思えば…リンクルか?」


ユーキを助け出したのはマサラのスラム街に住んでいた幸運のピンクパールというセブンスジュエルを片目に宿したセブンスの一人、リンクルであった。


そして彼女は以前ユーキ達がこの迷いの森に来た時に彼らに引導を渡した張本人である。


「妖精の国に来たんでしょ?案内するからついて来て」


食人植物を撒いたリンクルはユーキにそう言って森の中を歩き始めた。


「案内してくれるのはありがたいんだけど、連れとはぐれてて…」


「残念だけど、妖精の国に案内できるのはあなた一人だけ。あの2人には悪いけど、このまましばらく迷いの森を彷徨っててもらうわ」


「…俺1人だけ?」


「いいからついて来て」


ユーキがしばらくリンクルについて行くと、2人は木々で遮られた行き止まりにたどり着いた。


「…行き止まり?」


「ぱっと見はね」


リンクルはそう言って木の前に立ち、木に声をかけた。


「私よ、リンクルよ。ユーキを連れてきたから開けて」


そんなリンクルの声に応えるように木々が動き出し、道を開けた。


「さぁ、この先が妖精の国よ」


そう言ってリンクルはユーキに先に進むように促した。


「リンクルは来ないのか?」


「うん、私はここまで。あとは妖精が案内してくれるわ」


「妖精、か…」


しかし、ユーキは妖精という言葉に何か躊躇いを覚えた。


「どうかしたの?」


「いや、俺の知ってる妖精がなかなか曲者でな…妖精全員がそんなのだったらどうしようかと思って…」


「安心して、妖精は人間のことが好きだから…」


そして後押しするように笑いながらリンクルはこう付け加えた。


「特に、人間に悪戯するのが大好きでね…」


「いや、余計不安なんだけど…」


しかし、ここまで来て引くという選択肢はないユーキは意を決して妖精の国へと続く道を進んだ。





ユーキが道を進むとやがて霧が晴れ、妖精の国がその全貌を表した。


透き通った綺麗な水質の湖に囲まれた純白の大きなお城、そしてその背景には虹がかかっていた。


「…なんともメルヘンなところだ」


これまで見て来た景色とは一線を画すその景色にユーキが見とれていると、どこからともなく妖精達が集まり出した。


「珍しい、こんなところにオモチャ…じゃなくて人間がいるわ」


「オモチャ…じゃなくて人間が迷い込んでる」


「オモチャ…じゃなくて人間さん、一緒に野球でもして遊びましょ。…お前ボールな」


開幕早々自分を取り囲みオモチャ呼ばわりする妖精達にユーキは純粋に恐怖を感じていた。


しかし、1人の妖精がこんなことを言ってみんなをなだめた。


「ダメだよ。このオモチャは妖精王が呼んだオモチャだから、手を出したら怒られるよ」


もはやオモチャ扱いを隠す気の無いその一言に妖精達はつまらなそうに文句を垂れながら散開していった。


「妖精王はお城で待ってるよ、早く行って遊んであげて」


そう言い残して最後の一匹がどこかへ飛んで行ってしまった。


メルヘンな世界観の割には人間の扱いがエグい世界に戸惑いながらもユーキは湖にそびえ立つ城を目指した。


途中、すれ違う妖精達が自分を見ながら自分でどう遊ぼうかヒソヒソと話し合うのを素通りしながら、ユーキは城へとたどり着いた。


特に門番という門番も見当たらず、扉を開けることも出来ずにユーキが困っていると、扉が勝手に開き、ユーキを中へと招き入れた。


この先で何が待っているのかを覚悟しながらユーキが城へと入ると、中はひたすらにどこまでも続く一本道となっていた。


「…よくぞいらっしゃいました、人間」


その道の奥から上品な女性の声が聞こえて来た。


「さぁ、私の元へいらっしゃい」


どこかで聞いた覚えがあるような気がする正体のわからない怪しい声に導かれるまま、ユーキは一本道を歩き始めた。


やがて、妖精王の間と思われる空間に出たユーキの目の前に垂れ幕に隠れ、そのシルエットだけが姿を現した。


普通の大きさの女性に羽を生やしたようなそのシルエットだけが…。


一体妖精王とはどんな奴なのか…ユーキが固唾を飲んで行き先を見守っていると、妖精王が話しかけて来た。


「そう、構えなくても大丈夫ですよ。…私達の仲じゃないですか」


「…私達の仲?」


ユーキが妖精王の一言に引っ掛かりを覚えていると妖精王はクスリと笑って垂れ幕からその姿を現した。


透き通った羽と鋭く尖った長い耳を携えた妖艶で美しい女性の姿がそこにはあった。


「まだ分かりませんか?私ですよ、わ、た、し…」


先ほどの取り繕ったような上品な声とは違い、フランクなその声にユーキはピンと来た。


「お、お前…まさか…」


「ようやく気がつきましたか?相変わらず鈍感ですね。くたばり過ぎて脳まで腐ったかと思いましたよ。…まぁ、この姿で会うのは初めてですし、仕方ないですね」


そして薄っすら笑みを浮かべながら改めて自己紹介をした。


「一応、初めましてと言っておきましょう。私は妖精の主人、妖精王のナビィです」


「お前…ナビィなのか!?」


いつもの小生意気な小さな妖精の姿との違いにユーキは驚きを隠せなかった。


「一応、こっちが本当の姿ですよ。でも小さい方が何かと便利で可愛らしいので、普段はあの姿ですけどね」


ナビィはお茶目にそう答えた。


「そ、それで…どうして俺を妖精の国に呼んだんだ?」


色々聞きたいことはあるが、まずは本題を片付けるため、ユーキは単刀直入にそう尋ねた。


「それはですね…私の口からではなく、あいつから聞いてください」


ナビィは何が嫌そうな顔をしながらそう言った。


「…あいつ?」


「えぇ、一言で言うならば今このゲームの管理者となっている私のマスターを作った人物です」


そう語るナビィは怪訝な顔をしていた。


「つまり…ナビィのマスターのマスターってところか?」


「一応はそういうことなんですけど…だからと言って私はあいつに従ってる訳でもないですし…っていうか、嫌いですし…」


「…嫌いなのか?」


「えぇ、マスターの命令でこの城に居候させてやってるんですけど…どうも生理的に受け付けなくて…」


「そ、そうなのか…」


あの鬼畜ナビィにそこまで言わせる人物とは逆にどんな人物なのかとユーキは俄然興味が湧いてしまった。


「まぁ、なんにしても話はあいつから聞いてください」


そう言ってナビィはユーキをさらに奥へと案内した。


そしてこの城に似つかわしくない一般家庭で見られるような普通の扉を前にナビィが口を開いた。


「あいつはこの中にいます。どうぞ」


ナビィに促されてユーキはドアノブに手をかけ、そして一呼吸置いてからその扉を開けた。


扉を開けた先に待っていたのは…ゴミが散乱した汚らしい六畳一間の和室であった。


ポテチの袋、食べ終わったカップ麺の器、微妙に中身の残っているペットボトル…なんとも生活感と鼻に付く匂いが漂うこの部屋にはジャージを身にまとい、布団に寝転びながら漫画を読んでいる一人の青年がいた。


その青年は部屋に誰かが入って来たのを知るや否や慌てふためきながら叫び出した。


「バ!バカ!!部屋に入るときはノックをしろと…」


しかし、部屋に入って来た人物の顔を目にすると、急に静まり黙り出し、そしてニヤリと笑ってユーキに言い放った。


「お前が来るのを待ってたぜ、ユーキ」


「…お前は…誰だ?」


「俺か?俺のことは…そうだなぁ…」


そいつは少し黙って考えた後、こう答えた。


「俺のことはティーン…そう呼んでくれ」


そいつはそう言って、生意気そうな笑みを浮かべた。

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