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全ての過去は未来への布石である

「…なんだ?貴様らは?」


バハムートはどこからともなく現れたそのプレイヤー達に問いただした。


「私は…逆さメイドっていうものだ、その名を永遠に刻み込んで死ね」


そう言って田中は親指を下に向けた。


「ほう、面白い。ならば見せてみるがよい、お前らの力を!!」


空を再び暗雲が包み込み、稲光が走る空を背に、バハムートは田中達に牙を剥いた。


並の冒険者ならば恐怖で動けなくなるほどのバハムートの威圧感が辺りを包み込んだ。


「さぁ、来い!!プレイヤーども!!」


「行くぞ!!バハムート!!」


そしてバハムートが戦闘態勢に入るのと同時に、ユーキが突然となりにいたシンをタコ殴りにして、棺桶にしてみせた。


突然の仲間割れにバハムートがぽかんとしていると、今度はユーキが自殺用の呪文である『バイズ』を数回唱え、自殺してみせた。


戦闘が始まるや否や敵の戦力が勝手に半分になったのを見せつけられ、流石のバハムートも困惑を隠しきれなかった。


「…え?なに?。なにやってんの?」


呆気にとられたバハムートは思わずそんなことを尋ねてしまった。


「気にするな、これがウチのパーティの基本戦術なんでな」


戦闘開始と同時に自滅するというものを基本と言い張る田中に周りが困惑する中、田中は目の前に横たわる二つの棺桶に携え、ダブル棺桶ガードを装備した。


「さぁ、これが私たちの最終形態だ」


奇抜なメイド服の着こなしに両手の棺桶…小学生の夏休みの宿題の自由工作で作った出来の悪いアンバランスな自作ロボのようなシルエットに周りはただただ戦慄していた。


「とっとと、準備を始めろ、雪」


「う、うん、分かった」


呆気にとられる雪は田中はそう言われて呪文を唱え始めた。


「さぁ、来い!!バハムート!!」


「な…舐めてんのか!!貴様らぁぁぁぁぁ!!!!!」


何一つとして理解出来ない行動にバハムートは舐められていると感じ、怒り狂い渾身のドラゴンフレアを田中へお見舞いした。


触れる全てを消し去るほどの威力を誇るドラゴンフレア…しかし、最強の盾である棺桶の前には無力であった。


「ば…バカな…ドラゴンフレアを防がれた…」


「おら、どうした?。そんなもんか?このトカゲ」


「ぐっ…黙れぇぇぇぇ!!!!!」


バハムートはドラゴンフレアを何度も何度も田中へ向けて放つが、棺桶にヒビ一つ入れることさえ叶わなかった。


「はっはっはっは!!無駄無駄無駄無駄ぁ!!!」


どんなにバハムートがあがこうが…いかにバハムートが強敵であろうが…その棺桶の前にはバハムートもスライムと等しく無力。全くと言っていいほど戦闘に勝てていないので忘れているかも知れないが、少なくとも守りの部分では田中達は最強の部類に入るパーティなのであった。


「はぁ…はぁ…クソゥ!!クソぅ!!」


ビクともしない棺桶を前に流石のバハムートも苦戦を強いられていた。


「凄い…凄いよ!!逆さメイドさん!!」


「あのドラゴンフレアを幾度となく受け止めるなんて…」


その戦いっぷりにゴブリーとマオは感心している中、満身創痍のメルは怒りに堪えながら母の仇を見つめることしかできなかった。


田中達の防御性能は最強…しかし、盾だけでは戦いには勝てない。


どうにかバハムートをどうにかできる攻撃が必要な状況。


「…でも、いくら強いからってバハムートは倒してもまた蘇る」




おまけにバハムートは倒してもまたリポップして蘇る。


今回は何とかなっても、常にその影に脅かされることになる。そんないたちごっこにならないようにバハムートを無力化する必要がある。


果たしてあの逆さメイドさんでもそこまでのことが出来るのか…そんな不安を抱えながらゴブリー達が戦いの行く末を見守っていると、雪が田中に声をかけた。


「…準備出来たよ」


「オーケー、やっちゃってくれ」


「わかった」


田中の指示を受けると雪は詠唱を始めた。


「やまびこの歌声よ、我が声を復唱し給え、『ダブルマジック』!!」


そしてすかさずつぎの呪文を唱え始めた。


「我は汝、汝は我、二つの交差する魂よ、あるはずなき姿に宿れ!!『ダムチェンジ』!!一度目の対象を田中へ!二度目をバハムートへ!」


次の呪文を二回分の魔法にする『ダブルマジック』に対象と自分のステータス異常を交換する魔法『ダムチェンジ』が一度の発動で二回分の発動が可能となり、一度目の『ダムチェンジ』によって田中と雪のステータス異常が入れ替わり、二度目の『ダムチェンジ』によってバハムートと雪のステータス異常が入れ替わった。


「ダムチェンジ!?」


「ダメ!!バハムートに状態異常は効かない!!」


そんなゴブリーとマオの声をよそに、二回のダムチェンジが発動した。


おそらくはダムチェンジにより何かしらの状態異常をバハムートへ付与した…だけど、バハムートに状態異常は効かない。


だが、そんなマオの心配をよそに、『ダムチェンジ』の後、バハムートの動きがピタリと止まってしまり、そのまま地面へと墜落した。


そして地面へと落ちたバハムートは固まったかのようにピクリとも動かなくなった。


「…どうやら、成功したみたいだな」


思惑通りになった田中はそう言ってニヤリと笑った。


「…一体、何がどうなったの?」


マオは事の顛末を田中に尋ねた。


そんなマオに田中は暗黒笑みを浮かべながら自慢げにこう答えた。


「くっくっく、こいつにとある状態異常を付与してやったのさ」


「とある状態異常を付与?。だけどバハムートは全ての状態異常に耐性があるはず…」


「そう、普通の状態異常ならバハムートには効かない。だが、開発陣も想定していないがために誰にも状態異常耐性がない状態異常が一つある」


「誰にも状態異常耐性がない状態異常?」


そんなことを訪ねるマオに田中はドヤ顔で答えた。


「それはズバリ…メニュー禁止の状態異常!!」


そう、田中がダムチェンジによってバハムートに付与した状態異常は、以前たまたまふとした時に町を出た時に田中が装備している奴隷の指輪の効果により付与されたメニュー禁止の状態異常なのである。


NPCにはメニューが無いため、NPCがこの状態異常にかかると処理するものがなくて処理できなくなり、フリーズしてしまう。そういったバグが見られるため開発によって消されたはずの状態異常なのだが、このゲームはデバックが不十分すぎたため、奴隷の指輪によって付与される状態異常の乱数テーブルから取り除くのを忘れてしまったのだ。


NPC相手なら即フリーズさせる文字通り一撃必殺の最強のバグ技…。


しかしこの状態異常を相手に付与するとなると奴隷の指輪によって自身に付与した後、『ダムチェンジ』で状態異常を入れ替えることくらいでしか付与させることは出来ないのだが、メニュー禁止の状態異常によってメニューを開けなくなるため、そもそもメニュー禁止にかかったままではメニューを操作できず、『ダムチェンジ』が唱えられない。


そのため、普通の方法では相手に付与させることができなかったのだ。田中達もそのためにこの必殺技をお蔵入りさせていたのだが…ここに『ダブルマジック』という魔法を加えると、話が変わってくる。


『ダブルマジック』は次に唱える呪文を二回分にする呪文なのだが、重要なのは一回目と二回目に発動する呪文の対象を別々に選択できる点と、一回目と二回目の魔法の発動の間にメニューを操作する必要がない点だ。


つまりはどういうことかというと、一回目で誰かから状態異常を受け取り、二回目で別の誰かにその受け取った状態異常を途中でメニューを操作することなく付与させられるということだ。


そしてメニュー禁止の状態異常にかかってる田中に一回目のダムチェンジを使い、二回目のダムチェンジをバハムートに使えばどうなるか…ここまで書けば事の顛末が分かるであろう。


つまりは田中にかかったメニュー禁止の状態異常を雪を経由させてバハムートに無理やり付与させたのである。


そう、これこそが田中達のNPCならどんな相手でも永遠に凍りつかせる最狂技…文字通り必ず相手を殺す必殺技…その名も『エターナルフォースブリザード』。


そしてこれこそ、長きにわたって奴隷の指輪による状態異常に苦しめられてきた田中達だからこそ…そもそもメニューが操作出来ずに装備を外せない田中だったからこそ…乱数調整のために気が狂うほど歩き回り常に歩数を数える癖がついてしまった田中だからこそ…なによりもそれでも諦めずに、どれだけ醜くとも冒険を続けた田中だからこそたどり着いた究極の必殺技なのだ。


そう、今日この日があるから、今までの全ての苦労は無駄ではなくなったのだ!!。今日この日、田中達は全ての努力が報われたのだ!!。


これまでの全ての過去は、未来への布石となったのだ!!。


「どうやら上手くいったみたいだな」


雪の魔法によって蘇ったユーキが動かなくなったバハムートを見ながらそう言った後、その目にうっすらと涙を浮かべた。


それと同時にシンも田中も、これまでの屈辱が報われたこの時に涙を流した。


そして周りに構わずえんえんと泣き出し、3人は肩を抱き合った。


「よがっだぁぁぁ!!!!よがっだよぉぉぉぉ!!!!今まで頑張ってきてほんどうによがっだよぉぉぉぉ!!!!!!」


「よく頑張った…本当によく頑張ったな。偉い…いや、偉いなんて言葉じゃ生温いくらいだ!!」


「よく分かんないけど、よく分かんないけど…よがっだよぉぉぉぉ!!!!」


田中とユーキとシンは各々の胸の内をぶちまけ、喜びを分かち合っていた。


ここまで本当に…本当に長かった…。


思えばこれまでの旅路…辛いことは沢山あった。…っていうか、辛いことしかなかった。


だけど彼らはそれでも諦めずに旅を続けた。例え折れても再び立ち上がって何度でも前へ進み続けた。


そんな彼らの膨大な努力の一部が…ようやく報われたのだ。


ここまで本当に…本当に長かった…。


作者的には30話くらいで終わるだろとか思ってたけど…本当に長かった…。


普通なら心が根から修復不可能なレベルで折れて、諦めてしまうはずなのに、それでもここまでやり遂げた彼らには作者からも素直に拍手を送りたい。


おめでとう、田中、ユーキ、シン。


君たちは本当によく頑張った。今は思う存分、その喜びをその身に噛み締めてくれ。


おめでとう、おめでとう、本当におめでとう。


今一度、盛大なる拍手を彼らに…888888888!!!!!!


88888888!!!!!!


8888888!!!!!


888888!!!!


88888!!!


8888!!


888!


88…













さて、作者からのサービスタイムは終了だ。


束の間の喜びは謳歌できたか?この世への未練は断ち切れたか?一生分の嬉し涙は流せたか?。


お前らの地獄への冒険はまだまだこれからだぜ?。


話を元に戻して…肩を抱き合ってワンワンと泣く三人に一人の影が忍び寄る。


「お母さんを殺しておいて…なに嬉しそうに泣いてるの?」


殺意を込めた瞳を向けたメルが田中の前に立ちはだかった。


「私達を助けたつもりかもしれないけど…これで罪を償ったつもり?。こんなんじゃダメだよ…全然消えてくれないの、お母さんを失った喪失が消えてくれないの。…ちゃんと責任取ってくれる?」


悲壮感に満ちた声でそう尋ねるメルに、田中は一言、たった一言悪びれる様子もなくこう答えた。


「いや、無理」


「…え?」


「死んで間もない時期なら蘇らせる術はあったけど、もう新しいメタルゴブリンがリスポーンされちゃったらもう無理だよ。お前のお母さんは蘇らない、諦めろ」


そんな慈悲も反省もかけらも感じない返答にメルは激怒した。


「ふ…ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


そしてメルは田中へ向かって駆け出し、殺意を込めた拳を田中へ向けた。


後悔も反省も罪悪感も一ミリも感じさせない田中へ向けられる慈悲はなく、容赦なくメルが田中へ攻撃しようとしたその時…。


「だけど…ごめんなさい」


そう言って、田中は目の前まで迫ったメルへ向けて、深々と頭を下げた。


思いもよらぬ行動に出た田中に驚き、戸惑い、メルは思わず寸前のところで田中への攻撃をピタリと止めてしまった。


「…あの田中が…頭を下げた…だと?」


目の前で繰り広げられる非現実的な光景…ファンタジーの世界にしか存在しないような奇跡的で歴史的な光景にユーキとシンはこれまでの人生の中で一番の驚愕したリアクションを取っていた。


そんな二人を他所に、頭を下げるという思わぬ行動に出て無防備なままな田中にメルがこんな質問をした。


「…なにそれ?そんなんで許されるとでも思ってんの?。許せるわけないじゃん!!お母さんの命が、その軽い頭一つで償えるわけがないじゃん!!」


「そりゃそうだ。だから別に私はお前の母親を殺したことに謝ってるんじゃない。お前に『殺されて当然の存在だ』って言ったことを謝ってるんだよ」


「…どうして今更そんなことを謝るの?」


「『殺されて当然の存在』だなんて所詮は誰かに押し付けられた設定だ。だからそんなこと気にせず自由に生きて欲しい、好きに生きて欲しい…そう思ったから。私の言ったことは間違ってたから謝ってるんだ」


一見、メルを思っての言葉のようにも思えるが、本当はこの言葉はメルと重ねた自分を思っての言葉…自分への謝罪なのだ。


「…なにそれ?じゃあ好きにやらせて貰うよ!!あなたを殺しまくってあげるよ!!」


メルはそう言って悲壮感に満ちた笑顔を浮かべた。


「どうあがこうが、所詮あなたはお母さんを殺した悪党なんだよ!?。悪党ならもっと悪党らしくしなよ!!お母さんを殺したことを楽しそうに語りなよ!!罪悪感のかけらもなく返り討ちにしてみせなよ!!ボロボロになって醜く許しを乞いなよ!!」


彼女は悲痛な胸の内をぶちまけるかのように叫び続けた。


「『母親と同じところに送ってやる』って嬉しそうに語りなよ!!慈悲のかけらもなく快楽のために私を殺そうとしてみせなよ!!お母さんの死に様を面白おかしく語りなよ!!悪党のくせに平謝りなんかしないでよ!!悪党ならもっと悪党らしく振る舞いなよ!!…そうじゃなきゃ…そうじゃなきゃ…」


そして体を震わせ、涙を流してこう言った。


「そうじゃなきゃ私…どうしていいか分かんないよ…」


憤りに、憎しみに、怒りに身を任せて田中を殺そうとしていた身体は目の前で無防備なまま頭を下げ続ける田中にとどめを刺してはくれず、どうしようもなくなってメルはその場に膝から崩れ落ちるように倒れた。


だけどそれは怒りや憎しみが消えたわけではなく、目の前でただ平謝りし続ける田中へその恨み辛みをぶつけられないだけ…憎悪と罪悪感に板挟みされて、メルの心は酷く疲弊していた。


「もう…分かんないよ…どうしたらいいのか…」


そう言って天を仰いでただただ泣き崩れるメルをゴブリーとマオと雪が優しく抱きしめて受け止めた。


「分かんないなら一緒に探そう」


そうマオは優しく囁いた。


「大丈夫だよ、生きていればきっと見つけられるから」


そう雪は優しく囁いた。


「冒険をしよう、今ここにないものを見つけるために…」


そうゴブリーは優しく囁いた。


メルはそんな三人の手を取り、ただただ涙を流し続けた。


そんな光景を田中はぼんやりと見つめていた。


「…どうかしたか?田中。柄にもなく罪悪感でも感じたか?」


田中にユーキはそう問いかけた。


「罪悪感?この私が?。…そんなバカな、たしかに私はメタルゴブリンを殺したが、それは私のせいじゃない。メタルゴブリンを殺されるように仕組んだ…このクソゲーのせいだ」


「…まぁ、一理あるな」


「さて、用事は済んだことだし…帰るか」


田中がそう言って立ち去ろうとしたその時…メルが声をかけてきた。


「待って!!」


そんなメルの声に立ち止まると、メルは首にかけたセブンスジュエル、知識のサファイアを取り出し、田中に手渡した。


「…いいのか?」


思わぬメルの行動に田中は思わずそんなことを尋ねてしまった。


「元々そういう話だったし、それに…あなたが持っていた方がきっとファイとアイも安心して一緒にいられる。私はあなたを許さないけど…アイやファイを私のワガママに巻き込むわけにはいかないから…」


そう言ってメルがゴブリーの方を見ると、ゴブリーは頷き、首にぶら下げていた必中のルビーを取り出し、田中に託した。


「僕らの仲間を…アイとファイをよろしくお願いします」


そう言ってゴブリーは深々と頭を下げた。


「…わかった、貰っとく」


そう言って田中は二つのセブンスジュエルをマジマジと見つめた。


「それって例の必中のルビーだろ!?良かったじゃねえか!!田中!!」


「そう…なんだけどな」


ユーキの言葉に反して、田中の反応はぎこちないものだった。


「どうしたんだよ?田中」


「…おかしいな。前は喉から手が出るほど欲しかったのに…今はそんな嬉しくない」


そんなことをぼやく田中にゴブリーが話しかけてきた。


「それでその…セブンスジュエルの見返りってわけじゃないんだけど…僕から一つお願いがあるんだけど…聞いてくれますか?」


「…まぁ、聞くだけならいいぞ」


「実はその…」


ゴブリーは申し訳なさそうに、遠慮気味に田中に向かったこんなお願いをした。


「バハムートを助けてやって欲しいんです!!」


「…バハムートを!?」


「なに言ってんの!?ゴブリー!!」


ゴブリーのお願いにメルやマオが騒ぎ出した。


そりゃそうだ、先程まで殺されかけた相手を助けるなど、愚の骨頂である。


「理由を聞かせてもらおうか」


「バハムートだって、きっと僕たちのように冒険に憧れてて…彼女も僕達のように冒険者になれるんじゃないかって思ってて…」


「…なるほど、冒険者にね」


このクソゲーすぎる世界に復讐をするならばフリーズさせるよりも冒険者にさせた方がいいのではないかと田中は考えた。


「だけどバハムートは空の下がエリアだからいけるところが限られてて…だからきっと彼女は縛られてるんだ、この空に…」


ゴブリーはそう言って快晴の空を見上げ、繰り返すようにもう一度言った。


「この空がある限り、きっと彼女は檻の中の鳥でしかないんだ」


「…この空がある限り、か…」


そう呟いた田中も空を見上げた。


そして太陽を見つめ、こんなことを愚痴った。


「お天道様ってのは呑気だよな、ここにこんなに困ってる美少女がいるのに、何一つとして助けてくれやしない」


果たして田中の言う困ってる美少女とは誰のことを言ってるのか分からないが、田中はそう言って空にまで不平不満をぶつけた。


そして、ニヤリと暗黒笑みを浮かべてこう言った。


「ちょうどいい…ぶっ壊してやろう、あんな空」


「おいおい、正気かよ、田中」


そんな田中にユーキはそう言って横槍を入れた。


「なんだ?邪魔する気か?ユーキ」


「いや、まさか…面白そうだから思う存分やってやれ」


ユーキはそう言ってグーサインを出した。


ユーキの後押しをもらった田中は再び空を見上げ、自分の影となった魔王に声をかけた。


「おい魔王、手伝えよ。お前はなんでもいいからぶっ壊したいんだろ?」


「我に指図するでない。…だが、ここんとこストレスが溜まっててな…ストレス解消にはちょうどいい、力を貸してやろう」


そう言って魔王は田中の身体に入り込んだ。


すると田中の目は紅く染まり、ステータスが跳ね上がった。


「…ぶっ壊れちゃえ」


そして田中は空に向けて拳を強く押し出した。


レベル99、STR999、そして魔王の力により4倍となり、もはやSTRがERRORまで達したその一撃は神をも穿つ一撃。


その多大なる影響力で処理オチにより世界の時を緩やかにしながら、その攻撃の衝撃は肉眼でも見える形で空へと高く伸びていった。


やがて、座標の高さ限界まで衝撃が伸びると、衝撃は巨大な空の壁にぶち当たり、大きな音を立てて消滅した。


それと同時に、天に広がる空がガラスのようにひび割れだした。


「…なんだあれ?空にヒビが…」


ユーキがそんなことをつぶやくと、ひび割れはどんどん広がり、やがて空全体が一枚のガラス板であったかのように粉々に砕けて大地へと降り注いだ。


空が割れて落ちて来たのだ。


空の代わりに姿を現したのは…まるで世界を下から覗いたかのような広大な地底であった。


「…ねぇ、ゴブリー」


「なに?」


割れて降り注ぐ空に、未知のものへの好奇心を煽る空に漂う謎の地底…そんな非日常的な光景を目の当たりにしたメルが隣にいたゴブリーに涙混じりに尋ねた。


「冒険を続けてたら…いつか私でも、この苦しみを埋められるかな?」


「きっともっと凄いものに出会えるよ。だって…」


そしてゴブリーは両手を大きく広げてメルに叫んだ。


「だって…世界はこんなにも広いんだからさ!!」


こうして、世界に復讐を果たすべく、田中はとうとう空という籠までぶっ壊してしまったとさ。

おまけ


必中のルビー 別名『煉獄の怒り』

所有するだけで全ての攻撃がDEXを無視してヒットするセブンスジュエル。他にも炎耐性や炎属性攻撃を上昇させる効果もある。元はセブンスであるファイの身に宿っていたもの。


知識のサファイア 別名『時空の眠り』

所有するだけでINTが200上がるセブンスジュエル。他にも氷耐性や氷攻撃を上昇させる効果がある。元はセブンスであるアイの身に宿っていたもの。



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