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されど田中は邪に笑う

世界に復讐する旅に出て数日後…メタル湖で目的のブツの一つである鏡鱗を手に入れた田中一行は次なる目的地のイージス山脈の山頂を目指していた。


「ご飯の時間だぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


その旅の道中の山道、日も暮れ、辺りが暗くなった頃、田中がそう叫んでせかせかと火の用意を始めていた。


スライムを貪る邪悪なサバトを食事であると自分を騙し騙し生きてきた田中一行だが、先日、雪によってそんな幻覚から目を覚まし、食べることの喜びを再認識した彼女らは食事という至福の時間を楽しみに生きるようになっていたのだ。


元々はパーティの火力不足によって安定して取れる食材がスライムしかなかったためにスライムを主食としていたのだが、レベル36もあるウィザードである雪の加入によって人が食してもおかしくないものくらいは安定して獲れるようになっていたため、毎日それなりのものを食べられるようにはなっていたのだ。


とは言っても、今日取れた収穫はロングワームと呼ばれる長さ2メートル程の大きさの巨大なムカデであり、火に炙られている今もなおピクピクと無数にはびこる足を動かすそれはとてもじゃないが食欲をそそるような光景では無かった。


だが、それでも田中達にとってスライムよりマシなものは全てご馳走であり、見た目が気持ち悪い程度の問題は彼女らにとってはもはや微笑ましいくらいの可愛らしい問題に過ぎなかった。


そういうわけで田中とユーキとシン(雪の魔法で蘇った)は巨大なムカデを美味しそうに貪っていた。


この数日で随分とこのパーティに適応したつもりだったが、微笑ましくムカデを貪るその姿に雪はただ一人ドン引きしていた。


「海老みたいでうまいな、これ」


「今度は天ぷらで食ってみたいな」


そんな感想を漏らす田中とユーキを遥か彼方の遠方を見つめるな瞳を向けていた雪にシンが尋ねた。


「雪は食べないの?美味しいよ」


「い、いや、いいや。ダイエット中だから…」


「ゲームの世界でもダイエットとは酔狂だな」


こうしてギリギリで食事と呼べる至福の時間は過ぎていくのであった。








「ふぇ〜、食った食った…」


塵一つ残さず巨大なムカデを平らげた一同は満足そうにそう言って火のそばで横になった。


そうしてしばらく黙って食事の余韻に浸っていると、なにか考え事をしているのか、体育座りのまま火を見つめて全く動かない雪が不意に口を開いた。


「ねぇ、田中。…この前のことなんだけどさ」


「…この前のこと?」


「その…現実世界の身体はもう死んでるってやつ…」


気軽に触れていいことかも分からない雪は躊躇いがちにそう口にした。


「なんだよ、まだなにか文句あるのか?」


「文句ってわけじゃないけど…あの時不安じゃないかって私に聞かれた時に言ってたよね?。『そうならないために、こうして復讐してるんだ』って…」


「だからなんだよ?文句あるのか?」


「いや、だから文句じゃなくてさ…メルも似たようなことを言ってたんだよ」


「メルって、私をぶっ殺してきたあのメタルゴブリンのことか?」


「そう。メルも言ってたんだ。『この怒りをどこかにぶつけるしか出来ないの!!。だって…そうしなきゃ私は…正気じゃいられないんだ』って…。メタルゴブリンとして生まれてきた彼女は田中の言う通り、確かに殺されるために作られた存在なのかもしれない。だけどそんな運命は悲し過ぎるから、あなたへの怒りで心を満たしてごまかして、なんとか正気を保ってるの。…あなたはどう?不安をごまかすために復讐してるんじゃないの?」


「…だったらなに?悪い?」


「いや、悪くなんかないよ。でも、メルに殺されて当然なんて言ったのは許せない。誰かが作ったクソみたいな設定をメルにも押し付けようとするあなたの行いは許せない。あなただって…あなたが理不尽な目にあっているのは当然の運命だって言われたら嫌でしょ?」


そんな雪の言葉に、田中は返す言葉がなく黙りこくってしまった。


そしてしばらくして口を開き、仕方なしといった風にこう言った。


「…じゃあ、どうしろって言うんだよ」


例え自分の行いが過ちであったとしても、すでに起こってしまった取り返しのつかない過ちなど償いようのないことくらいは田中でも知っていた。


そして雪もどうしようもないことを知っていたから、困ったように黙り込んでしまった。


「そろそろ仮眠を取ろう。田中が言うには目的地である反響する空には日の出時じゃなきゃ行けないんだろ?。今のうちに休んでおこう」


とりあえずは目の前の課題をなんとかするためにユーキがそう言って話を切り上げさせ、一同はこれからの戦いに備えて仮眠を取り始めた。


だけど、雪の言葉が胸に引っかかる田中はどういうわけか、うまく寝付けないでいた。









もう星と月の輝きしか見えない真っ暗な深夜に、一行は目を覚まし、山頂を目指して歩き始めた。


雪の魔法で辺りを照らしてはいるものの、それでも足元は薄暗く、気を付けなければうっかり踏み外して落ちてもおかしくない険しい山道を4人は歩いていた。


だが、敵は暗闇だけではなく、巨大なワシのモンスターが幾度となくパーティの前に立ちはだかった。


消耗を避けるべく、一同は逃げに徹してはいたが、素早く動き回るモンスターから無傷で逃げ出すことはできず、ダメージを幾度となくくらい、シンが犠牲となった。


だが、シンが棺桶になったことにより、田中の棺桶ガードが発動し、パーティの防御力は跳ね上がり、なんとか危機を突破することが出来た。


しかし、山頂間際に、田中達の前に先程まで襲って来ていたモンスターとは比べ物にならないほどの巨大なワシのモンスターが立ちはだかった。


「…もうすぐ日の出だ、あまり時間はない」


田中は少しずつ白ける空を見上げ、そう呟いた。


「だからって、まさかこのモンスターを倒せだなんて言わないよな?」


ユーキはアイロの特製の剣を構えてそんなことを尋ねた。


「でも、遠回りする余裕はもうないよ」


MPの底が見えてきた雪も目の前のモンスターに警戒しながらそう言った。


「じゃあもう戦うしかないな…行くぞ!!野郎ども!!」


田中の号令の下、3人は鋭い爪を振り下ろす巨大なモンスターに牙を向けた。










火力のある雪の魔法と田中の棺桶ガードが功を奏し、モンスターを退け、一行は命からがら日が昇る前にイージス山脈の山頂へとたどり着いた。


「なんとか…たどり着いた…」


辺り一面を雲海が覆う天空の孤島で彼らは心地よい風に吹かれながら、太陽が姿をあらわすその時を待った。


「…ユーキ、私は間違っているのだろうか?」


心が奪われそうになる程広大に広がる雲の海を前に、ふと田中がそんなことをユーキに尋ねた。


「間違ってるって…なにがだよ?」


田中の口からまさか自分を省みるような言葉が出てくるとは思わなかったユーキは、そんな田中に驚きつつも、田中がなんの話をしているかを尋ねた。


「あのメタルゴブリンを殺されるために生まれた存在だって決めつけたことがだ」


昨晩の雪の言葉に思うことがあったのか、そう語る田中は少し俯いていた。


「間違っているかはよくわかんないな。実際田中の言う通り、ああいうボーナスキャラは殺してなんぼなところがあるからな…」


やがて、待ちに待ったその時が訪れ、目も開けられないほど眩しい日の出がその姿を現した。


それと同時に雪は予め田中から説明されていた通り、先日手に入れた鏡鱗を雲の海に向かって投げ込んだ。


投げ込まれた鏡鱗は朝日を浴びて煌きながら雲の海に沈むかと思いきや、空中でピタリと止まり、日の出の光を反射し、田中達が立っている山頂の天空の孤島とは別の雲海に浮かぶ孤島へ向けて一筋の光を指した。


鏡鱗から反射された光を浴びた天空の孤島はまた別の方向へ一筋の光を放ち、別の孤島へと光の筋を伸ばした。


何度かそれが繰り返された後、光の筋は天空で円を描くように一周回って再び空に漂う鏡鱗へと戻ってきた。


それと同時に光の筋で出来た円に五芒星が刻まれ、巨大な魔法陣となった。


そんな光景を目の前にしながらユーキは田中に言った。


「だけど例えそういう運命であったとしても、それに従わなきゃいけないだなんて思わない」


やがて天空に形成された巨大な魔法陣の中心から光の柱が天へと伸び、その柱の頂点から流れ星のようにいくつもの輝きのかけらが降り注いだ。


どこまでも広がる白い海に降り注ぐ星の雨の景色は現実では決して目の当たりに出来ない神秘的なものであり、その輝きは見るものを魅了した。


そんな景色を前にユーキは田中に言った。


「だって…運命に翻弄されて美味しいものが食べられなかったり、こんな凄え景色が見れないなんて、俺なら絶対嫌だからな!!」


そして星の雨は鏡鱗を投げ込んだ雪へと降り注ぎ、彼女に新しい魔法を与えた。


雪は『ダブルマジック』を習得した。


やがて日が完全に昇ると、光の魔法陣は消え去り、穏やかな白い海だけがそこに残った。


「なぁ、ユーキ、私はどうすればいいと思う?」


「さぁな、出来ることなんて無いけど…悪いと思うなら、とりあえず謝っとけよ。そんでその後…そんなクソッタレな運命ごとぶっ壊してやれ」


「…それもそうだな」


ユーキにそんなことを言われた田中はそう言って静かに目を閉じ、密かに決意を固めた。


そして雲海を背に二人の方へ振り返り、太陽を背にし、影のさした顔にいつもの邪悪な笑みを浮かべ、口を開いた。


「くっくっく、これで準備は完了した。随分と時間がかかってしまったが…それじゃあそろそろ始めようじゃないか…このクソゲーすぎる世界への復讐を!!」


そんな田中の言葉にユーキと雪は苦笑いを浮かべながら頷いた。


「それで、まずはどうするんだ?」


そんなユーキの質問に、田中はニヤリと笑ってこう答えた。


「そんなの決まってるだろ?。まずは…全滅だ」


こうして、全滅から始まる世界への復讐劇がいよいよ始まろうとしていたとさ。





おまけ


補助魔法『ダブルマジック』

次に発動する魔法を二回分にする魔法。


対バハムート(だけじゃないけど…)のための必殺技のために使うのだが…使い方分かりますか?。

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