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バハムートを巡って…

「ありがとぅ…ずっと昔から外の世界に憧れてたの…」


マサラの町で魔法屋を営むNPCであるエリーは目の前にどこまでも広がる壮大な草原に立ち、田中達にそうお礼を告げた。


「くっくっく…いいんだよ。役割も仕事も忘れてみんな好きに生きれば良いんだよ」


このクソゲーすぎる世界に復讐すべくNPCを冒険へと陥れる田中の瞳は黒く淀み、薄気味悪い笑みを浮かべ、悪魔のように囁いていた。


あれから数週間、田中達は鍛冶屋のアイロに続き、酒場の主人や魔法屋のエリーなど次々とNPCを冒険へと陥れ、着々とゲームを壊していた。


そしてエリーを冒険へと引きずり込んだあと、田中が町から出た際に発生した状態異常を直すために一行は教会にデスルーラしていた。


「…ちっ」


吐くほど聞いた教会で復活した際の神父さんの有難い言葉はもはやただの舌打ちと化していた。


「あ〜…神父なんてやめて冒険にでも行きたいわぁ〜」


田中達を復活させることに日々を費やしている神父さんはこれ見よがしにだるそうにそんな愚痴を吐き出した。


「神父さんよ、残念ながらアンタは最後だ」


そんな神父さんに田中は偉そうにそんな言葉を吐き捨てた。


その後、3人はこれからのことを話し合い始めた。


「鍛冶屋に酒場に魔法屋も冒険に引きずり込んだし…これでこの町のゲーム性はだいぶ崩壊させられたな」


「くっくっく…馬鹿な奴らだ。ユーキがちょろっと誘ったら簡単に乗りやがる。英雄様々だな。この調子でいけば1ヶ月以内にこの町のNPCを全員冒険者に陥れられそうだ」


NPCを冒険へと誘惑する悪魔と化した田中はこのゲームが始まってからかつてないほど予定が順調にいってる為か、その顔は最近ずっと暗黒笑みを浮かべている。


果たしてこれで本当に復讐を果たせているのかはともかく、今までなにもかも上手くいかなかった田中にとって、これほど上手くいくNPCの冒険者化は楽しいものだった。


「さぁ、今日も馬鹿なNPCを騙して冒険に連れ出すぞ!!」


高々にそう宣言し、田中が腕を高く掲げた。


そう、今の田中はこのゲームが始まって以来の絶好調、全てのものがうまくいきすぎて笑いが止まらないほど順調なのだ。


…だが、しかし…あの田中に限ってそんなものが長続きするはずもなく…。


「いたいた、ユーキ」


そう馴れ馴れしくユーキを呼ぶ声に振り返ると、そこには田中の魔の手にかかって真っ先に冒険者にされたはずの鍛冶屋のアイロであった。


「…あれ?なんでアイロがここに?。冒険に出たはずじゃあ…」


「それが聞いてよ、ユーキ。冒険に出かけたのはいいんだけどさ…途中で竜王バハムートに襲われたのよ」


「バハムートに!?」


ハバムートといえば大抵のゲームではかなりの強敵として立ちはだかる竜の中の竜。そんな敵に襲われたと言うアイロにユーキはたいそう驚いていた。


「まぁ、最初に襲われた時はなぜかバハムートはすでに手負いだったから、一度は倒すことが出来たんだけど…」


「マジか…バハムートに勝ったのか…。バハムートより強い鍛治職人とはこれいかに…」


ちなみにバハムートのレベルは85、アイロのレベルは80である。


「でも数日後にバハムートが蘇ってまた襲いに来たのよ。流石に二度目は勝ち目がなくて命からがらに逃げ帰って来たわけ」


アイロはため息混じりにそう語った。


「…そんなしょっちゅう襲われるものなのか?。俺たちは一回も会ったことないけど…」


まだ冒険者となって日も浅いのに、バハムートなどというファンタジーを絵に描いたような敵に出会えたアイロに最近スライムくらいとしか戦ってないユーキは多少の嫉妬を覚えながらも、そんな疑問を口にした。


「どうやら冒険者を積極的に襲ってるらしいわ。私もまたバハムートに襲われたら今度は本当に全滅しかねないし、しばらくはマサラで大人しくしてるわ。何かあったら鍛冶屋に来てちょうだい」


それだけ告げてアイロは教会から去って行った。


「バハムートが冒険者を襲っている?…どういうことなんだ?」


そんなユーキの疑問に田中が答えた。


「バハムートは何かの拍子にエリアから出たNPCを元の場所に戻す役割があるからな…冒険に出たNPCはことごとくバハムートにやられるだろうな」


「おいおい、それじゃあせっかくNPCを冒険に連れ出しても元に戻っちゃうってわけか?。それじゃあ意味無いんじゃないのか?」


「そうだな。レベルが80もあるアイロならもしかしたらと思ってたが…やはりNPCを冒険者化するにはバハムートをどうにかするしかないか…」


「どうにかするって…俺たちで倒せるような相手なのか?」


クズとザコとゴミしかいないこの上ない底辺に居座る田中パーティに当然まともにバハムートを倒す戦力は無い。


「しかも話を聞いてる限り、バハムートは他のNPC同様、倒してもリポップするんじゃねえか?それじゃあどうしようもないだろ」


ユーキは諦め気味にそんなことを口にした。


「だよね、バハムートってどんなのか知らないけど、少なくともスライムよりは強いんでしょ?。じゃあ僕達じゃ勝てないよ」


ゲームのことをよく知らないシンでさえそれが無理ゲーであることを察していた。…っていうか80話にもなって強さがスライム程度というのは…。


「まったく…トカゲの王程度にどうしようもないなど…本当に情けないパーティだ」


かつてはバハムートを子供扱いしていたが田中に全てを奪われ、田中の影となった魔王が悲しそうにそう呟いた。頂点から底辺まで引きずり落とされた魔王さんのプライドはもうズタボロである。


「うーん…そうだなぁ…」


田中もこれといって策がないのか、悩ましげにそう呟いた。


「じゃあどうしようもないですし、諦めてまたお花屋さんでアルバイトでもしましょうよ」


八方塞がりな状況の一同に妖精のナビィがそんな提案をぶつけた。


「アホか、私は世界に復讐して奴らにギャフンと言わせてやるんだ」


「プレイヤー風情がゲームそのものをどうこうできるわけないじゃないですか?そんなのもわからないんですか?」


そう言ってナビィはくすくすと田中を嘲笑してみせた。


「バカヤロー、やってみなきゃわかんないだろ。…っていうか、え?。なんでナビィがここにいるの?」


「なんでって…いちゃいけませんか?」


ユーキの疑問にナビィは何食わぬ顔でそう答えた。


「いやいや、だってお前あのエリア外の謎の場所で俺たちに何したと思ってるんだよ?」


ユーキはサーバーをダウンさせた際に侵入した田中の生まれ育った町にそっくりな場所でナビィに遭遇したことを言及した。


「なにしたって…ただあなた達を正常なエリアに飛ばしただけじゃないですか?。あなた達だけでどうやってあそこから出るつもりだったんですか?どうせ全滅くらいしか能がないあなた達はデスルーラくらいしか方法がないでしょ?。私は全滅だなんて最低の結末からあなた達を助けてあげただけですよ?」


ナビィはなんの悪びれる様子もなくそう答えた。…まぁ、言ってることは正論だが、田中達にとって全滅は家が隣同士の腐れ縁の幼馴染よりも馴染み深い存在なわけで…。『カーテン開けたら着替え中の全滅の姿が見えちゃった』どころの付き合いではなく、もはや『全滅なら俺の隣で寝てるが?』くらいの親密度の訳で…。


それでも一応はナビィの言っていることは正論な訳で、ユーキが返す言葉に詰まっていると、般若のように怒った田中がナビィに詰め寄り、声を荒げて叫んだ。


「ナビィ!!お前私の身体がすでに死んでたって知ってたろ!?あんだけ一緒にいたのにどうして言わなかった!?。どうせ身体もない私を見てその腹の中で嘲笑っていたんだろ!?」


「いやいや、聞かれなかったから答えなかっただけですよ」


「黙れ!!この鬼畜妖精!!。どうせお前も私の敵なんだろ!?今に見てろ!!絶対お前らの思い通りになんかさせないからな!!。私が全部ぶっ壊してやるからな!!」


「ふふふ…あんな事実を聞かされたくせに元気そうで何よりです」


怒りに燃える田中をナビィは微笑ましく眺めていた。


そんなナビィにユーキはふと思った疑問を口にした。


「なぁ、ナビィ。お前は本当に俺たちの敵なのか?それとも味方なのか?」


あの例の謎の場所から飛ばされる際、最後に見せたナビィの悲しそうな声がユーキの脳裏をよぎった。


そんなユーキにナビィは悪戯に笑いながらこう答えた。


「なに言ってるんですか?私は私の味方ですよ?」


その後、ナビィはパタパタと小さな羽を羽ばたかせ、空に舞い上がりながらこう告げた。


「じゃあ、私もやることがあるんで、この辺で失礼しますね。まぁ、これからもたまにあなた達の挫折する様を見に行きますので、せいぜい足掻いてください」


そして、ナビィは空の彼方へと消えていった。


「いつかお前をオークの巣にぶち込んでエロ同人みたいにしてやるからなぁぁぁぁぁ!!!!!鬼畜妖精ぃぃぃぃぃ!!!!!」


田中は空に向かって負け犬の遠吠えをあげた。


「それで、結局どうするの?」


ナビィが去った後、シンが二人にそう尋ねた。


「結局バハムートとやらはどうしようもないんでしょ?。じゃあどうしようもないよね?」


そんなシンの質問に二人が黙っているのを見て、シンは開き直ってこんなことを口にした。


「じゃあひとまずは自由行動ってことでいいかな?。僕も久し振りに妹探しをしたいし…」


「…妹探し?」


そんなシンに一同は『こいつ何言ってるんだ?』という疑問の眼差しを向けた。


「…え?なにそのリアクション?。一応僕は妹を探すためにこのゲームに来たんだよ?忘れたの?」


「…あぁ、そういえばそんな目的だったっけ?。すまん、完全に忘れてた」


真顔でそう語るユーキ。


「私はてっきり私の盾になるためにシンは存在しているのかと…」


迫真の表情でそう語る田中。


「あぁ、そっか…。いや、いいんだ、悪いのは僕だから…」


そんな二人の反応を見て思う所があるのか、なぜがシンは申し訳なさそうに謝罪した。


「…っていうか、本当にシンに妹っているのか?。元々二次元妹なんじゃないのか?」


「いやいや、いるよ!。…記憶にはないけど、いたのは確かだよ」


「それなんだよなぁ…ここまで来ると本当にいるのか怪しくなってくるよなぁ」


「私も蓋を開けてみればなんかすでに死んでたし、シンが妹って言い張る奴もただのデータでもおかしくないな」


「い、いるよ!!絶対にいるよ!!」


シンの妹の存在に怪しむ二人にシンは珍しく強気に突っかかってきた。


「自分に向かって『シンお兄ちゃん』って呼びながら僕に助けを求める妹の姿がぼんやりだけどちゃんと記憶にはあるんだ!!偽物だなんて言わせないよ!!」


「あぁ、はいはい、わかったわかった」


「今だって妹はきっとこの世界に一人で不安がってるはずなんだ!!昔から妹からはなにかと頼りにされてたし…だから兄である僕がちゃんと見つけて守ってやらなきゃいけないんだ!!頼れるお兄ちゃんでいなきゃいけないんだ!!」


「わかったわかった、分かったからそんな詰め寄るなって…」


そう熱く語りながらユーキに詰め寄るシン。


そんなシンに言い寄られて面倒に感じたユーキはとあるアイテムを取り出し、こう言った。


「ほーら、シンの大好きなスライムのかけらですよー」


そしてユーキはスライムのかけらを床に放り投げた。


「わーい!!シュライムさんだぁ!!!!」


ジュワーという何かを溶かす音を立てながら地面にベチャつくスライムにシンはすぐさま駆け寄り、犬のように一心不乱に舐め回し始めた。


そんな様子を側から見て、ユーキは一言呟いた。


「これ、妹が見たらどう思うのかな…」


もちろんユーキもスライムさんは抱かれてもいいと思えるほどの大好物だが、流石にギリギリ人としてのプライドが残っているのか、犬のように地面に落ちたスライムを喜んで食べるシンに若干引いていた。


そんな最中、とある人物が田中達に駆け寄り、声をかけてきた。


「あ、あの…逆さメイドさん!!」


田中に声をかけた人物はユキであった。


「お前は確か…あのメタルゴブリンと一緒にいた…」


「ユキです。実はあなたにお願いがあるんです!」


ユキは焦っているのか、その声には落ち着きがなかった。


そして頭を深く下げて田中にお願いをした。


「どうかマオ達を助けてください!!」


「…どういうことだ?」


ユーキが割って入ってユキに尋ねた。


「実はマオ達はバハムートに狙われているんです!!。一度バハムートに襲われて、私は死んでここに戻ってきてはぐれちゃって…探す手がかりもないからこの街で強い人を探してたんです!!。それで逆さメイドさんはあの魔王からマオを救ってくれた人だから…もしかしたらまた今度もって思って…」


「バハムートに狙われてるって…ああ、そうか、あのゴブリンリーダー達も元はボスのNPCなんだっけ?。そりゃあ好き勝手やってたら狙われるか…」


ユーキはそう分析した後、田中が思い出したかのように口を開いた。


「ああ!そうだ!思い出した!。どこかで会ったことあるなと思ったら…魔王城だ!」


「魔王城?」


「ほら、こいつ魔王城で魔王やってた奴だよ」


田中はユキを指差しながらユーキにそう説明した。


「魔王城で?…ああ!言われてみれば確かに!」


田中に言われてユーキも思い出したのか、魔王城で出会った偽物の魔王にそっくりなことに気が付いた。(忘れた人は57話を再読しよう!)


「実はあれはマオの影武者をしていて…今はその話はいいんです!どうかマオ達を助けてください!」


そう言って再びユキは頭を下げた。


しかし、ユキの話など御構い無しに田中はマイペースに尋ねた。


「あんた、プレイヤーだよな?」


「…そうですけど?」


「そういうことか…通りであの時…」


田中は一人で納得したようにそう呟いた。


一人で勝手に納得している田中に申し訳なさそうにユキは再三にわたって尋ねた。


「それであの…マオ達を助ける話は…」


「え?ヤダよ」


田中はそう言ってマオのお願いを一蹴した。


「なんで私があんな奴ら助けなきゃいけないんだ?。あのメタルゴブリンに至っては私を二度も殺した奴だぜ?。むしろ死んで森に帰ってくれた方が都合がいいだろ」


なんの悪びれる様子もなく飄々と田中はそんなことを口にした。


「そ、そんな…」


血も涙もお金もINTもない田中の言葉にユキは一瞬怖気付いたが、すぐさま田中へと踵を返して口を開いた。


「…あなたがメルのお母さんを殺したっていう話は本当なんですか?」


「ホントだよ」


「話に聞けば何度も何度も殺したとか…」


「あぁ、バグを利用して百回くらい殺したかな?。お陰でレベル99まで上げれたんだよ」


悪気もなくいけしゃあしゃあとそう語る田中に怒りで震えるユキにとどめを刺すように田中が続けざまにこんなことを口にした。


「まぁ、でも…何の役にも立たなかったけどな」


「ふざけないで!!」


あれほど仲間を苦しめた元凶に何の悪びれる様子も見られないことにユキは怒り、突然怒鳴りだした。


「あなたのせいでメルはあんなにも苦しんでいるんだよ!?それなのにどうしてなにも感じないの!?あなたには罪悪感っていうものがないの!?」


真に迫るものを感じるユキの言葉に田中はただ一言、不思議そうにこう返した。


「…なんで?」


その言葉に思わずユキは固まってしまった。


そんなユキを尻目に田中は話し始めた。


「私はただモンスターを狩っただけだ。しかも相手はボーナスモンスターだぞ?。狩らない方がおかしいだろ?」


「あなた…メルが好きでモンスターなんかやってると思ってるの?」


信じられないものを見るかのように田中を見ながらユキは困惑気味にそんな言葉を口にした。


そんな二人を見ていたユーキは頭を抑え、一つため息を吐いた後、ユキに聞こえないように田中と作戦会議を始めた。


「田中、よく考えてみろ。ここであのメタルゴブリンに恩を売るのも悪くねえ筈だ」


「どういうことだ?」


「奴らを助けたら流石にあのメタルゴブリンも手を引いてくれるだろ。おまけに奴らは必中のルビーを持ってるんだ、お礼にくれるかもしれないだろ?」


「うーん…クリアが目的でなくなった今、そこまで欲しいわけでは…」


「それに…お前の目的である復讐のためにもバハムートは邪魔になるんだろ?。どっちにしろなんとかする必要はあるだろ?」


「うーん…確かにどのみちどうにかする必要はあるが…」


「なによりも、あのゴブリンリーダー達だってNPCだ。奴らがモンスターするよりも冒険者のままにしておいた方がゲーム性は狂うはずだ」


「なるほどな…ふむ、それなら助けてやってもいいな」


上から目線でそう言って、田中は結論を出した。


「問題はどうやってバハムートを無力化するかだが…」


田中は少し悩ましげに考えた後、ちらりとユキを一瞥した。


「そういえば…ユキはいろんな魔法が使えるよな?」


田中は魔王城で魔王としてユキと対峙した時を思い出しながらそう尋ねた。


「え、ええ…ウィザードだからそれなりには…。でも、バハムートを倒すような魔法は…」


「…これはいけそうだな」


結論の出た田中は改めてユキと向き合い、こんな提案した。


「わかった。バハムートをなんとかしてやろう。だが、条件がある」


「条件?」


「私のパーティに入り、私に協力しろ」


「もちろん、バハムートをなんとかするためには協力は惜しまないよ」


「そうじゃない。バハムートを倒すまでじゃなくて…私の目的を達成するまでだ」


「…あなたの目的?」


「そうだ、私と共に…この世界に復讐するのだ」


そう言って田中は禍々しく笑ってみせた。


そんな汚れた笑みを目にし、一体どんなヤバいことをさせられるのかとユキがたじろいでいるとユーキが口を開いた。


「まぁ、世界に復讐するって言っても、今やってるのはNPCを冒険者にしてるだけだがな」


「NPCを…冒険者に?」


「そうだ。不憫だとは思わないか?生まれながらに与えられた役割に縛られるのは。だから俺たちはそんな呪縛からNPCを解放してやろうとしてるんだよ」


「そういうことか…わかった、それなら喜んで協力するよ」


嘘をついているわけではないが、詐欺にも等しいユーキの言い分にユキも納得したのか快く引き受けた。


「それじゃあ、早速パーティを組む?」


ユキはそう言ってメニューを開いてパーティを組む準備をしようとした。


「いや、パーティを組むと言っても行動を共にするだけだ」


本当はINTが足らずメニューが操作出来ないためパーティを組みたくても組めないのだが…田中はそう言ってやんわりとごまかした。


「わかった。…何がともあれ、行動を共にするなら改めて自己紹介させてもらうわ。私はユキ、職業はウィザード。これからよろしくね」


「田中だ」


「俺はユーキ。そんで持ってこっちがシンだ」


ユーキはそう言って今もなお地べたに這いずりながらスライムさんを意地汚く舐め回すシンを紹介した。


ユーキに言われてようやくシンの存在を認識したユキは地べたに這いずって犬のようにスライムにむしゃぶりつくその姿にドン引きした後、シンの顔を見ると一瞬固まり、2,3回瞬きをした後、恐る恐るこう尋ねた。


「…シンお兄ちゃん?」


そんなユキの言葉を耳にしたシンはようやくスライムから注意が逸れ、ユキと目を合わせた。


「やっぱり…シンお兄ちゃんだよね?」


予期せぬ再会に一同が固まる中、頰にスライムをつけ、今もなお地面に四つん這いになってピクピクと蠢くスライムの前に佇むシンに、ユキが哀れむような瞳を向け、冷めた声でこう尋ねた。


「…なにやってんの?」


こうして、二人は感動の再会を果たしたとさ。





おまけ


前々から感じてたけど…ユーキとユキって紛らわしい…紛らわしくない?。…今からでもユキを改名しようかなぁ…でも結構話進んでるからめんどくさいんだよなぁ。とりあえずユーキとユキが紛らわしいのでこれからユキは雪と表記します。

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